3節 溶接、ろう付けその他
14.3.1 一般事項
(a) 「標仕」14.3.1(a)でステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金の溶接を、原則として工場溶接と定めているのは、これらの製品は、そのほとんどが、工場において完成品となるものであるためである。
(b) 溶接、ろう付けに際しては、被溶接材に加えられる高熱によって生じやすいひずみを防ぎ、溶接を正確に、かつ、確実に行えるようにするために、種々の治具を用いる必要がある。
14.3.2 鉄鋼の溶接
鉄鋼の溶接については、「標仕」には7章を準用するように定めているが、金属工事で扱うものには、簡易なものから相当に重要なものまで含まれるので、幅をもたせる意味で準ずることにしている。したがって、強度上重要と思われるものについては、鉄骨工事の仕様をそのまま適用する必要がある。
14.3.3 アルミニウム及びアルミニウム合金の溶接並びにろう付け
(a) アルミニウムの溶接の概要
(1) アルミニウムの溶接は.溶接形態から融接・圧接、ろう付けに大分類できる。このうち、融接の一種である不活性ガス(イナートガス)溶接、圧接の一種であるスポット溶接(スタッド溶接)、ろう接の一種であるろう付け等が、建材において広く使われる。
(2) アルミニウムの溶接性は悪くない。材料的特性から不適切な溶接による欠陥として、割れ、ブローホール、融合不良.ひずみ等が挙げられる。溶接に関する標準として、JIS Z 3604(アルミニウムのイナートガスアーク溶接作業標準)及び JIS Z 3040(溶接施工方法の確認試験方法)がある。
(3) 耐食処理としての陽極酸化皮膜は、溶接、ろう付けに妨げとなるため、接合後に皮膜処理を行うか、又は皮膜を取り除いたうえ接合する。
(4) 参考として、(-社)軽金属溶接協会では、JIS Z 3811(アルミニウム溶接技術検定における試験方法及び判定基準)により、アルミニウム溶接の資格認定制度を設けている。
(b) 主な溶接、ろう付け方法の概要
(1) 不活性ガス(イナートガス)溶接
アルミ建具、カーテンウォール等の製作で広く使われる溶接である。アルゴン、ヘリウム等のイナート(不活性)ガス雰囲気中で発生させたアークで加熱し溶接する方法であって、テイグ(TIG)溶接とミグ(MIG)溶接の2種類がある。
表面の見え掛りの重要な部分の溶接には仕上りのきれいなティグ溶接を用い、裏面の取付け部分ではミグ溶接を用いるのが一般的である。
(2) スタッド溶接
建築パネル類の取付けボルトを溶接する方法である。抵抗溶接の一種でスタッド先端と母材との間にアークを発生させ、加圧して溶接を行う。
(3) ろう付け
ブレージングとも呼ばれる溶接方法で、一般に450℃以上の融点をもつ金属又は合金を溶加材として用い、溶加材のみを溶融し、母材間隙に毛管現象を利用して流入させ、ぬれ現象で母材同士を接合する方法である。溶加材としては、アルミニウムーシリコン系合金を用いる。装飾金属に用いることが多い。
なお、450℃未満の低い融点をもつ溶加材を使用する場合は、はんだ付けと称す。
14.3.4 ステンレスの溶接及びろう付け
(a) ステンレスの溶接についての概要
(1) 溶接に際しては、その特質を損ねてはならないので、ステンレス協会規格 SAS 801(ステンレス鋼溶接施工基準)を制定し、材科、工法について詳細に定めている。
(2) ステンレスの溶接方法には、一般に被覆アーク溶接、不活性ガスアーク溶接(TIG. MIG等)、電気抵抗溶接(スポット、シーム等)がある。
(3) 建築では、オーステナイト系のSUS 304 (14.1.5(c)参照)のステンレスを多く使用している。このステンレスには次のような性質がある。
(i) 溶接による焼入れ硬化がなく、低湿脆化もないので溶接性は比較的良好である。
(ii) 溶接熱により組織的変化が生じ、溶接割れや溶接変形並びに耐食性が低下する場合があるため、溶接部の温度上昇を抑えるなど、入熱や溶接条件には十分に注意する。
(iii) 溶接によりクロムが酸化しやすく、クロム量が著しく減少した場合は耐食性が低下する。それを防止するには、酸化皮膜からなる変色部をステンレスのペーパーやプラシにて除去するか、酸洗いにより除去するなど、適切なあと処理を施さなければならない。
(iv) 熱膨張係数が炭素鋼に比べて大きく、熱伝導度が低いので、熱集中が大きくひずみの発生が多い。そのため、アーク溶接では電流調節、溶接速度により出来上りが非常に異なってくる。
(v) 不活性ガスには、アルゴンガスの使用が多いが、不純物が多いと次のような欠陥が生じゃすいので、純度99.5%以上のものを使用する必要がある。
@ ビードの内部及び外部に気泡を生じる。
A ビードに褐色のスケールを生じる。
B ビード下にひび割れを生じやすい。
(b) ステンレスのろう付け
(1) ステンレスのろう付けは、ステンレスの溶接と同じく、ステンレス協会規格SAS 801に材料工法について詳細に定められている。
(2) ステンレスのろう付けは、次の2つに分けられる。
(i) 軟ろう付け
はんだを用いたはんだ付けのことをいう。薄板は450℃以下の低温で簡単に付けられるが、強度が小さい。
(ii) 硬ろう付け
溶融温度450℃以上の銀ろう等を用いたろう付け。
(3) ステンレスのろう付けは、板厚0.3〜2.0mm程度のものが多いがそれ以上のものも可能である。
(4) ろうと母材の材質が違い、接合部が目立つので表面に表さないようにする。
(5) 継手の強度は、一般に重ね代の大きい程強くなる。
(6) 軟ろう付けの場合、強度を必要とするときは、はぎ合せ(小はぜ)にするが、スポット溶接を併用することが望ましい。
(7) SUS 304のステンレスは、熱膨張係数が大きいので、材料の膨張する量を計算しておく必要がある。
銀ろうの場合、0.05〜0.13mmが適当である。
(8) 銀及び銅を含んだろうを使用した場合は、硝酸で酸洗いしてはならない。継手部を清掃にするときは、エメリーペーパー又は非金属の粒子を使って研磨する必要がある。また、ステンレスの粉末以外の金属粉末でショットプラストを行うと、錆や腐食の原因となるので注意しなければならない。