07節 木製建具
16.7.1 適用範囲
(a) この節では、事務庁舎等での屋内の出入口に使用する木製建具を対象としている。
また、物入、書棚等の戸に木製フラッシュ戸を使用する場合は、これを準用できる。
(b) 近年の事務庁舎等では、防火性能を必要としない部位で、木製建具の使用が増加している。木製建具にはフラッシュ戸、かまち戸、ふすま、障子等があり、種類が多いため、「標仕」では一般的に重要な項目のみを規定し、その他は建具製作所の仕様によることとしている。
製作所の決定は、工事経歴、受注能力(作業人員、機械設備、管理体制)等により、その能力を調査することが必要である。
(c) 木製建具は、フラッシュ戸・ふすま・戸ぶすまのように内部材が外から見えない 建具と、かまち戸・ 障子のようにすべて化粧材からなる建具とに大別される。外周部材は、垂直方向の「かまち(縦かまち)」と水平方向の「かまち(上かまち、下かまち)」又は「桟(上桟、下桟)」とからなり、補強のために中間に入れる部材は、内部材が見えない建具では「中骨」といい、すべて化粧材からなる建具では「中桟」という(図16.7.1参照)。
図16.7.1 木製建具の部品名称
16.7.2 材 料
(a) 含水率
(1) 建具材は反り、ねじれ、狂い等寸法に変化が生じると、その機能が著しく損なわれるおそれがあることから、一般の木工事材料より厳しくしている。
(2) 人工乾燥と天然乾燥を区分しているのは、使用樹種と使用部位によって使い分けるためである。
(3) 天然乾燥による木材の乾燥期間は、平衡含水率は12〜19%程度で、初期の含水率、気象条件、板厚、樹種等によって異なるが厚さ25〜 30mmのもので2〜6箇月以上が必要である。
(4) 人工乾燥による木材は、平衡含水率より2〜3%低めに乾燥した方が狂いは少ない。屋内における木材の平衡含水率は、10〜15%程度と考えられる。
(5) 集成材、単板積層材、合板、パーティクルボードは、製造工程上十分乾燥しているのでA種と見なすことができる。
(b) フラッシュ戸
(1) かまち及び桟は、近年木材の集成技術やフラッシュ戸の表面材の接着技術が向上していること及びむく材のコストが高騰していることから、集成材を使用することが一般的である。ただし、使用している集成材は同一樹種を集成したものとは限らない。近年、杉の間伐材も加工・集成技術の向上に伴い使用されている。
また、単板積層材(LVLともいい、厚さ3mm程度の薄板を繊維方向を合わせて積層した材料)も使用されている。
造作用集成材及び造作用単板積層材の品質は、建具製作所の仕様によることとなっているが、ホルムアルデヒドの放散量等は、JASで品質基準が定められており、表面材の合板に準じてF☆☆☆☆のもの、非ホルムアルデヒド系接着剤使用のもの、非ホルムアルデヒド系接着剤及びホルムアルデヒドを放散しない塗料使用のものとすることが望ましい。
(2) 定規縁、化粧縁、額縁及びがらり等には、狂いの少ない十分乾燥したむく材を使用する。樹種は、かまち等の集成材等と同じものとしている。
(3) 表面材の合板で、水掛りの箇所(便所、洗面所、浴室、厨房等)は、耐水性のある1類とする。
また、普通合板の板面の品質は、「合板の日本農林規格」の「普通合板の規格」に表16.7.1の3種が規定されている。「標仕」のC-Dとは、表面材の品質がC、裏面材の品質がDであることを示している。これらは、針築樹を表面材としている普通合板の中で、市場性があるもののうちでより品質が良いものである。
普通合板のホルムアルデヒドの放散量等は、JASで品質基準が定められており、「標仕」では、特記がなければF☆☆☆☆のもの及び非ホルムアルデヒド系接着剤使用のものとすることとしている。
なお、放散量の表示や確認方法等については、19章10節を参照されたい。
表16.7.1 普通合板の板面品質(JAS)
(4) 「標仕」では、心材に使用するペーパーコアは樹脂浸透のものとしているが、市販品には、ペーパーコアに樹脂を浸透していないものもあるので注意する。
(5) ガラス押縁に使用するねじ、釘の材質は、黄銅製では強度不足のため、ステンレス製としている。
(c) かまち戸
近年は、木目を見せるクリヤラッカー(CL)仕上げ、又はオイルステイン塗りクリャラッカー(OSCL)仕上げのかまち戸が一般的である。樹種は、チーク材とかオーク材のほか、種類が多いため、「標仕」では特記としている。鏡板も、かまちと同種の板を用いた合板(厚さ9mm程度)を使用することが多いため特記となる。
なお、「標仕」でいうかまち戸とは、むく材又は練付け材のかまちゃ桟に鏡板(額縁付きガラスも含む。)を取り付けたものを想定しており、フラッシュ戸の中央を抜き、鏡板(額縁付きガラスも含む。)を付ける戸はフラッシュ戸に含める。
(d) ふすま
(1) ふすまの種別は、 I型とII型の2種類がある。
(2) 周囲骨、中骨にスプルースが使われることがあるが、やにに注意する。
(3) 近年、 I型では、下張り工程の合理化のため、骨しばり用の茶ちり紙と、べた張り用の黒紙又は紫紙とを製紙工程ですき合わせた紙も多く使用されている。
(4) 上張りの種類は、価格に大きく影響するので特記することとしている。
なお、新鳥の子は、茶うらとか上新鳥と呼ぶこともある。また、雲花(うんか)紙とは、ダークグリーン地に真綿を散らしたような模様のある洋紙である。
(5) 防虫処理は、減圧容器に木材を入れ、ほう砂・ほう酸を木材に含浸(含浸量 木材1m3当たり1.2kg)する方法であるが、現在、南洋材の防虫処理は産出国で行い、国内での処理は行っていないのが実状である。
(e) 戸ぶすま
(1) 戸ぶすまは、フラッシュ戸の表面と周囲とをふすまと同様に仕上げたものであり、フラッシュ戸及びふすまに使用する材料と同じとしている。
(2) 表面の合板は、普通合板が一般的であり、厚さ2.5mm以上としている。
(f) 紙張り障子
(1) 障子紙の代名詞として美濃紙と特記されることがあるが、手すき和紙に限定して解釈しなくてよい。
(2) レーヨンパルプ紙とは、一般にビニル紙と呼ばれるものである。
(3) 引手の材質には、桑等の木製と真鍮(黄銅)等の金属製、合成樹脂製のものがある。
(4) 腰板付き障子は、腰板が高価なため近年は少ない。
(g) 接着剤
「標仕」では、接着剤はJIS A 5549(造作用接着剤)又はJIS A 6922(壁紙施工用及び建具用でん粉系接着剤)で接着する材料に適したものとされており、ホルムアルデヒドの放散量は、特記がなければF☆☆☆☆のものを使用することとしている。
なお、放散量の表示や確認方法等については、19章10節を参照されたい。
16.7.3 形状及び仕上げ
(a) フラッシュ戸
(1) 「標仕」表16.7.5の見込み寸法30mmのフラッシュ戸は、物入、書棚等の戸を想定している。
(2) 表面材の厚さは、圧着技術が進歩しているため「標仕」表16.7.6が一般的である。ただし、大きな荷重がかかることが予想される場合は、特記で合板を厚くする必要がある。
(3) 表裏で表面材の種類を変えると温湿度の差で反りや狂いが生じやすいので注意する。
(4) 特殊加工化粧合板は、ポリエステル化粧合板等が製造されている。メラミン系は化粧板と称する厚さ1.2mmのメラミン板のみが製造されており、メラミン化粧合板は近年製造されていない。
(b) その他の建具
「標仕」に示すその他の建具の見込み寸法は、一般的な値である。
なお、ふすまの見込み寸法は、どぶ縁(引手側の縦かまち)の寸法による。
16.7.4工 法
(a) フラッシュ戸
(1) 標誰的なものとしては、主に幅950mm × 高さ2,100mm程度のものを想定している。
(2) 工法は、心材別に中骨式とペーパーコア式に分類される。現在製造されているフラッシュ戸は、中骨式の方がペーパーコア式より多い。それぞれの工法の特長は次のとおりである。
(i) 中骨式の工法(図16.7.2(イ))
従来工法を機械化製作しやすく改良し、中骨を横方向のみとして、かつ、中間2箇所の中骨を分増し(見付け幅を太くすること)しない方法である。
(ii) ペーパーコア式の工法(図16.7.2(ロ))
中骨の数を減じ、その代わりにペーパーコアを挟み込む工法である。
図16.7.2 フラッシュ戸の工法
(3) 圧着技術が進歩しているため、いずれの工法でも、上下かまちと縦かまち及びかまちと中骨の取合い部のステープル留めは組立時の仮固定の意味合いが強く、戸としての剛性は接着剤により確保している。したがって、中骨とかまちとの取合い部の欠き込みは行わない。
(4) いずれの工法でも、錠前当たりの部分には高さ300mm以上の補強を施す。
また、ドアクローザーの取付けねじが,上かまちを外れるおそれがある場合は、上かまちに増し骨する。
(5) 化粧縁は、フラッシュ戸の側面を保護するためのものであり、表面材を接着したのち、幅、高さ、曲がり具合等を修正し、縦かまちに接着剤で取り付ける。
上・下かまちには、化粧縁を取り付けないのが一般的である。化粧縁の隅の納まりを図16.7.3に示す。
図16.7.3 化粧縁の隅の納まり
(6) 開き戸の定規縁は、通称「とんぼ」と呼んでいるT形部材あるいは合じゃくり形部材を図16.7.4のように接着剤で取り付ける。
図16.7.4 定規縁の例
(7) 空気穴は、近年コールドプレス機の採用によって不要となり設けないフラッシュ戸も多い。しかし、ホットプレス機を使用する場合は、フラッシュ戸内の空気の膨張による膨らみを防止するため、すべての水平部材(上・下かまち及び横骨)に図16.7.5のように3mm角程度の穴をあける。
図16.7.5 空気穴の詳細
(8) 引戸の召合せかまちの定規縁で、いんろう付きとする場合は特記による。その例を図16.7.6に示す。
図16.7.6 召合せかまちのいんろう付きの例
(b) かまち戸
(1) ほぞの形式の例を、図16.7.7に示す。
図16.7.7 ほぞの形式の例
(2) かまち及び桟の取合いの例を図16.7.8に示す。
図16.7.8 かまち及び桟の取合いの例
(3) レールは、V形、U形又は甲丸レールを使用するのが一般的である。
(c) ふすま
(1) 通常使用されている標準的な大きさのものについて示している。
なお、「標仕」表16.7.9中の周囲骨と中骨の寸法は、見付け幅 × 見込み幅で表示している。
(2) 工法は、 T 型とU型とに分類される。それぞれの工法の特長は次のとおりである。
(i) T 型工法
従来から行われている工法であり、周囲骨の隅をえり輪入れし、周囲骨間及び周囲骨と中骨との取合いは、釘打ちとなっている。そのほか、図16.7.9(イ)のように縦骨と横骨の取合いを相欠き、両組みとしている。
紙張りは、下張り3工程(骨しばり、べた張り、袋張り)と上張りの計4工程となっている。しかし、近年茶ちり紙(骨しばり用)と黒紙又は紫紙(べた張り用)を製紙工場ですき合わせた紙を使用して、3工程とすることも行われている。
T型工法での下張り紙の概略は、次のとおりである。
@ 茶ちり紙(骨しばり用):主として、やや厚手のダンボール又はクラフト紙(上質)を再生したもの
A 黒紙又は紫紙(べた張り用):茶ちり紙を染めたもの
B 袋紙(袋張り用):薄手のやや良質な茶ちり紙
(ii) II型工法
機械化製作のために開発された工法であり、一般にはチップボード型と呼ばれている。周囲骨の隅は火打ちを入れ接着剤とステープルで固定し、中骨と周囲骨の取合いはステープルで固定する。その他、図16.7.9(ロ) のように縦骨と横骨の組み方は、 I型工法と同じである。
紙張りは、下張り2工程(下張り、袋張り)と上張りの計3工程となっている。
II型工法での下張り紙の概略は、次のとおりである。
@ 耐水高圧紙(下張り用):厚手の再生紙(専用紙)
A袋紙(袋張り用): I 型工法に同じ。
図16.7.9 ふすまの工法
(3) 上張り紙は、四周の周囲骨より10mm程度はみ出す大きさとし、周辺10mm部分にのり付けし、周囲骨の側面に折り込んで張り付ける。
(4) 縦縁は、スクリュー釘又は折合い釘を用いて、下方から滑らせて縦周囲骨に固着する。 上下縁は上下周囲骨に釘打ち留めとする。
縁の仕上げとしては、うるし塗りは高価なため、近年極めてまれである。現在は、カシュ一樹脂塗料の2回途りが一般的である。このほか、近年白木仕上げも多く見られる。
(5) 召合せ部の重ね縁と出会い縁の例を図16.7.10に示す。
図16.7.10 召合せ部の例
(d) 戸ぶすま
両面で異なる材質の上張り(片面が洋室用のビニルクロスで、他面が和室用の紙張りの場合等)とした場合は、上張り施工時の吸水による伸びとその後の乾燥による収縮及び室内温湿度の影響等で反りが生じやすい。一般的には、ビニルクロスを張った側が凸になる傾向がある。
(e) 紙張り障子
最近の建物は、高気密、高断熱が進み木製品の含水率が大きく変化し、反りやすい環境となっている。反り対策として「標仕」表16.7.10のかまちの寸法(見込み寸法30mm、見付け寸法27mm)が主流である。高さが2,000mmを超える場合は、見付け寸法も30mmとすることが多い。
また、ほぞ組みは、かまち見付け寸法の1/2以上とする。