07節 せっこうプラスター塗り
15.7.1 適用範囲
(a) せっこうプラスターはヨーロッパにおいて古くから塗り壁材料として利用されてきた。わが国では、しつくい、土塗り、ドロマイトプラスター等が普及していたことから、本格的にせっこうプラスターが普及し始めたのは比較的新しく、昭和20年代の後半といわれている。現在、せっこうプラスターと呼ばれるものには、現場調合プラスター、既調合プラスターの2種類がある。
「標仕」では、材料及び用途からみて、次の2種類のせっこうプラスターによる塗り工事を対象としている。
(i) 現場調合によるせっこうプラスター塗り工事
JIS A 6904(せっこうプラスター)に規定される現場調合プラスターに、骨材と必要があればすさ類等を現場で調合し、水で練って一般的なプラスター塗りとするもの。
(ii) 既調合プラスターによる塗り工事
現場調合プラスター、骨材、すさ類、その他の混和材料をあらかじめ工場で調合し、現場では水のみを加えて練ることにより、直ちに塗り材料としてのせっこうプラスターが得られるようにしたもの。
従来は、現場調合によるせっこうプラスター塗り工事が一般的であったが、調合の均ー化、現場練りの省力化、品質安定性等から既調合プラスターの使用が増えている。例えば、現場では取り扱いにくい骨材をあらかじめ混入した骨材入りプラスターをはじめとして、平滑なコンクリート下地面、あるいは吸水性の大きいALCパネル下地等の薄塗り仕上げのような特定の施工対象・工法に対応するものなど多種のものが製造販売されている。また、接着性や保水性を向上させるために、骨材のほかに合成樹脂系混和剤を混入するものもある。
(b) 作業の流れを図15.7.1に示す。
図15.7.1 せっこうプラスター塗り工事(コンクリート類の下地の場合)の作業の流れ
(c) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。
@ 工程表(施工箇所別の着工及び完了の時期)
A 施工業者名及び作業の管理組織
B 使用材料及び保管方法
C 練混ぜ場所及び練混ぜ方法
D 調合
E 下地処置の工法(屋内、下地材の吸水の著しい箇所等の別に)
F 工法(施工箇所別)及びその管理方法等
G 各工程の工程間隔時間(養生期間)及びその確認方法
H ひび割れ防止の方法
I 浮きの確認方法及び補修方法
J 養生方法(夏期の直射日光、通風、寒冷、施工後)
K 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等
(d) 一般事項
(1) せっこうプラスターの性質
(i) せっこうプラスターの硬化性
@ せっこうプラスターは、自硬性セメントであり、主成分は焼せっこうである。焼せっこうは、半水せっこう(CaSO4・ 1/2H2O)を主成分としたもので水と練り混ぜると、水和反応を起こし、結晶水を得て2水せっこう(CaSO4・2H2O)になる。次に、結晶水以外の余剰水が発散して硬化が完了する。
結晶水として、混練水の20%(質量百分率)程度が必要であるとされている。
A JISによる凝結時間は始発が1時間以上であり、終結が8時間以内(上塗り用)である。「標仕」では、加水後の使用時間の限度として、下塗り及び中塗りでは加水後2時間以上、上塗りでは1.5時間以上経過したものを使用してはならないとしている。
B プラスター中の半水せっこうが風化すると異常に速い凝結や凝結の際の異常膨張を起こす場合が多い。
C 硬化したせっこうでも、少量ながら水に溶解する性質があり、長期間水に触れていると著しく強度が低下する。
(ii) せっこうプラスターは、硬化が早く比較的強度もあり、針状結晶によって硬化するため収縮ひび割れが生じにくい。
(2) せっこうプラスターは.次の場所での使用を避ける。
(i) 浴室.厨房等常時、水や水蒸気に触れるおそれのある場所
(ii) 地下室、倉庫等の多湿で、通気不良の場所
(3) せっこうラスボード下地に直接アルカリ性のプラスターを塗ると、ボードの表て紙がアルカリに侵されてはく離するので、アルカリ性以外のプラスターを用いなければならない。
15.7.2 材 料
(a) せっこうプラスターの種類
(1) JIS A 6904(せっこうプラスター)は、その種類及び用途が表15.7.1のように分類されている。
表15.7.1 せっこうプラスターの種類
(2) せっこうプラスターには、(1)に示す種類があるが、その性質は、次のように異なるので、誤りのないようにしなければならない。
(i) 下塗り用既調合プラスターは、せっこうプラスターにあらかじめパーライト、バーミキュライト、川砂、けい砂、寒水石等の骨材、すさ類、合成樹脂系混和剤等を配合し,作業性を良くしたものである。使用に当たっては試験又は信頼できる資料により品質の確認ができるものとする。
モルタル、コンクリート、せっこうボード下地等の表面に塗ることを目的としているが、下地の乾燥によっては接着性があまり期待できないので「標仕」 15.2.5(a)(1)(iii)で規定しているように、下地面をくし引きし、これにくい込ませて塗るとよい。
(ii) 従来の混合プラスターの名称はなくなったが、現場で水だけを加えて薄く塗る上塗り用プラスターは、既調合プラスター(上塗り用)として存続している。
(iii) 現場調合プラスターは、焼せっこうを主原料とし、硬化遅延材を添加し、硬化時間を調整したものである。ほぼ中性で、ボード面に塗ると、硬化の際、針状結晶が生じこれがボードに食い込むのでよく接着する。
しかし、わずかなアルカリが混入しても硬化時間が著しく遅れ、針状結晶の生成が害され、硬化不良を起こしボード面への接着も非常に悪くなり、はく離の原因となる。
一般に、中性の材料に塗るのに適している。
(b) せっこうプラスターの製造年月日は、略号で表示されているので、その略号を材料搬人報告書に記入させる。また、略号の意味を施工計画書に記載させておき、搬入した材料が4箇月を経過しているものは使用しない。
(c) せっこうプラスターに種類の違うプラスター、セメント等を混合したり、新しい材料に練残しのせっこうプラスターを混合したりすると、硬化時間や強度に影響するので絶対に避けなければならない。
(d) 砂は表15.2.1によるのがよい。砂の不純物によっては、せっこうプラスターの硬化時間の変化、硬化不良、ふくれの現象〈ふけ〉を起こすことがある。
また、細かい砂は配合過多になりやすく、配合過多になると15.7.3(b)のような理由で、ひび割れ、はく離の原因となる。
(e) 水は、清浄なものとする。モルタル塗りを行ったこてやこて板を洗った水を使用することは、アルカリが混入するので絶対に避けなければならない。
15.7.3 調合及び塗厚
(a) せっこうプラスターの標準調合表及び塗厚を表15.7.2に示す。
なお、「標仕」表15.2.3の塗厚の標準値は、これを参考として一般な場合について示したものであり、「標仕」の標準値によりがたい場合は、必要に応じて「標仕」1.1.8による協議により、工種別施工計画書で検討すればよい。
表15.7.2 せっこうプラスター塗りの調合(容積比)及び塗厚(JASS 15(一部修正)より)
(b) せっこうプラスターの調合で砂を入れ過ぎると、次の現象が生じる。特に容積比で 1:2 を超えると影響がでる。
(1) 硬化時間が早くなる。
(2) 強度が低下する。
(3) 気泡が入りやすくなり、下地との接着面積が減少し、接着力が低下する。
(c) 塗装、吹付け、布張り等の下地となる上塗りに、寒水石粉を混入したものを用いるのは、表面硬度を増すためと、こて切れをよくして作業性を向上させるためである。
(d) 「標仕」に定められた塗厚を図示すると、図15.7.2のようになる。
図15.7.2 せっこうプラスター塗りの工法
15. 7.4 下地処理
(a) せっこうプラスター塗り工法の下地には、コンクリート下地、コンクリートブロック下地、れんが下地、防錆処理をしたラス下地、せっこうラスボード下地、せっこうボード下地、ALCパネル下地等がある。
(b) コンクリート下地、コンクリートブロック下地、れんが下地、ALCパネル下地及びセメントモルタル下地にせっこうプラスターを塗る場合、仕上塗材製造所から指定された吸水調整材を全面塗布し乾燥させる。上塗り材として内装薄塗材 E,C,L,W 又は内装厚塗材 E,C,Lを施工する場合は、下塗り又は中塗りが乾燥したのちに仕上塗材製造所から指定された吸水調整材を塗布し、乾燥させてから行う。
(c) コンクリート下地、コンクリートブロック下地、れんが下地、ラス下地には一般に直接せっこうプラスターを塗ることはまれで、主にセメントモルタルで下ごすり、下壁り、むら直しまで行い、くし目を入れ、2週間以上放置し、完全に乾燥させてせっこうプラスターの下塗りを施工する。
(d) せっこうラスボード下地及びせっこうボード下地の場合、直接下壁り及び中塗りをして上塗りをする。上塗りとして内装薄塗材 E,C, L,W又は内装厚塗材 E,C,Lを施工する場合は、下塗り又は中塗りが乾燥したのちに仕上塗材製造所から指定された吸水調整材を塗布し、乾燥させてから行う。
ALCパネル下地には、下地に対応するせっこうプラスターを塗る。下地の吸水止めをして保水性の向上した材料を用いるとよい。
(e) 「標仕」では、下地の処理方法として、水洗い及びポリマーセメントペースト〈のろ〉塗りが定められているが、せっこうプラスターの上に、仕上塗材の内装薄塗材 E,C,L,W,内装厚塗材E. C. Lを施工する場合は、仕上塗材製造所から指定された吸水調整材を塗布し、乾燥させてから行う。
15.7.5工法
(a) 下地モルタル塗りを行うのは、金ぐしによる荒らし目により、せっこうプラスター付着の足掛りをつくるためと、型枠緊張材の頭等鉄部の錆止めのためである。
(b) メタルラスは、たるみ・しわのないように張り付け、ラスが変形しない程度のこて圧で塗り付ける。
(c) 開口部周辺やボードの継手その他ひび割れのおそれのある箇所には、しゅろ毛・パーム・繊維類・防錆処理したメタルラス等を下塗りの中へ塗り込むか、又は下塗り面に散らして伏せ込む。下塗りの水引き具合を見て、くし目を付ける。
(d) 下地モルタル塗りが乾燥不十分のうちにせっこうプラスターを塗ると、硬化の遅いモルタルがまだ収縮途中の不安定な状態であるため、せっこうプラスターの硬化後、更に収縮を続け、接着面にずれを起こしはく離を生じやすい。また、モルタルのアルカリ分がせっこうプラスターに影響して硬化不良を起こしやすい。
(e) 下地の乾燥、あるいは直射日光や強風により、塗り付けたせっこうプラスターが急激に乾燥すると、硬化不良を起こすので注意する。
(f) 下地の処理方法は、仕上塗材製造所から指定された吸水調整材を壁面全面に塗布し、吸水調整材が乾燥したのちに次の塗付け作業を行う。
(g) 一度練り混ぜたものは急速に水和反応が進むので、セメントのように練直しをして使用することはできない。
(h) 中塗りは、下塗りの硬化状態を点検して施工する。下塗りが硬化不十分の場合は、硬化するのを待って中塗りを行う。
(i) 仕上げ塗りは、中塗りの硬化状態を見計らい、通常は翌日に吸水調整材を製造所の仕様により全面に塗布し,吸水調整材乾燥後下付けと上付けの2工程として、塗り重ねるのがよい。
(j) 注意事項
(1) 「標仕」15.7.5(a)に定められている通気の調整は、せっこうプラスターの性質上どうしても必要なことであり、これを完全に行わないとはく離を生じやすい。また、硬化後に余分な水分を述やかに乾燥させないと硬化が遅れ.黄変や白華現象を起こしやすい。
(2) 上塗り完了後、通風等により通気の調整を始めるのは、24時間程度経過してからがよい。
(3) 施工時の気温が2℃以下になると、凍害を起こすので作業を行ってはならない。なお、気温が低下するおそれのある場合は、養生を行い、5℃以上に保つようにする(15.1.4参照)。
(4) 現在薄塗りタイプの下塗り材が市販されており、「標仕」では規定されていないが、せっこうボード下地、コンクリート下地、れんが下地及びセメントモルタル下地にせっこうプラスター 3〜5mm下塗りしてから上塗りする工法が行われている。
-
no image
-
no image
-
no image