04節 陶磁器質タイル型枠先付け
11.4.1 適用範囲
(a) 作業の流れを図11.4.1に示す。
図11.4.1 陶磁器質タイル型枠先付け工法の作業の流れ
(b) 施工計画書
型枠先付け工法は.コンクリート躯体工事開始時にタイルを必要とするので、見本、見本焼き及び見本張りは躯体工事の2箇月程度前には決定されていなければならない。施工計画で検討すべき項目は次のような事柄である。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。
@ 工程表(見本決定、施工図完了、タイル及びタイルユニットの製造、材料搬入体工事工程、着工・完了、試験等の時期)
A タイルの製造工場名、施工業者名及び作業の管理組織
B タイル型枠先付けの種別
C タイルの種類、形状、寸法(裏あしの形状、高さ、緊張材取付け部のタイルの形状、乾式・湿式の別)
D タイル及びタイルユニットの試験、検査要領、合否の判定基準(タイルの寸法精度、品質及びタイルユニットの寸法精度)
E タイル及びタイルユニットの取付け順序及び方法
F まぐさ、窓台等の取付け方法
G 割付けの基準(基準線、目地寸法)
H 伸縮(調整、ひび割れ誘発)目地(位置、構成,施工法)
I タイル型枠先付け面のせき板、精度、検査基準
J 関連工事との取合い(建具、電気、機械等)
K タイルユニット取付け中及び取付け後の養生方法(コンクリート打込みまでの雨掛り)
L 目地モルタルの調合(桟木法の目地, タイル補修の張付けモルタル)
M コンクリート打込み方法(コンクリートの打込み、棒形振動機による締固め、型枠振動機による締固め)
N 外壁型枠の取外し時期及び方法(留付け材の取外しを含む)
O 外壁型枠取外し後の養生(上階コンクリート打込みによる汚れ防止)
P 先付けされたタイルの検査及び合否の判断基準(検査方法、タイル張替え基準)
Q タイル裏面のコンクリートの品質
R タイルの打診検査及び接着力試験方法(箇所、使用機器、試験体の作成方法)
S タイルの補修方法(時期、コンクリートの補修、張替え)
㉑ 水洗い
㉒ 発生材処理(裏打ち材等)
㉓ 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等
(c) タイル型枠先付け工法用部材の用語
(1) タイルシート
タイル表面に合成樹脂フィルム又はクラフト紙を台紙として接着剤等で張り付けて、ユニット化したシート(台紙が軟らかいものは合板の裏打ちを行う。) (11.4.3(a)(1)参照)
(2) 目地桝
硬質ゴム等を用いて、目地部分を桝目状に成形したタイル保持用の目地枠材(11.4.3(a)(2)参照)。
(3) タイルユニット
タイルシート又は目地枠材によって所定の形状及び寸法にユニット化された部材で、平ユニット、柱形ユニット等がある。
(4) 仮付けタイル
型枠緊張材が型枠を貫通する箇所に用いる発泡プラスチック製等の埋め板。脱型後にタイルを張り付けるモルタル厚さを含めた厚さとする。
(5) 仮目地材
タイルの目地部分に打ち込んだコンクリートが、所定の深さ以上にはみ出したり、セメントペーストがタイル表面を汚染しないように、タイルシートにあらかじめ取り付ける目地部充填材。
(d) 一般事項
タイル型枠先付け工法では、タイル面からコンクリートの充填状況を脱型後に確認するのが難しいという弱点がある。したがって、壁等の部材のタイル先付け面の反対側の面に断熱材、仕上材等を打ち込む工法は避けなければならない。
また、本工法は、建物の外壁タイル張り部分に全面的に採用されるほか、はく離した場合事故につながるような箇所に採用される場合もある。例えば、梁底、軒裏等の上げ裏となる部分、ひさしの出の小さい開口の上部の壁等である。この場合、先付け部分とあと張り部分の納まりに注意する必要がある。納まりの例を図11.4.2に示す。
図11.4.2 型枠先付けとあと張り部の納まり
(e) 仮設・養生
(1) 足場は、作業能率と仕上りに影響するので安全を確保したうえで、取付け位置や揚重設備等については十分検討する必要がある。
(2) 鉄骨等の溶接がある箇所では、タイルシートや目地桝等に直接溶接火花が当たらないように養生する。
(3) SRC造の柱・梁形等は、外型枠建込み後のタイル配列ができないので、足場上であらかじめタイルユニットを外型枠に配列固定できるように足場を組むことが必要である。
(4) 著しい降雨の場合やコンクリート打込み間隔が長い場合には、シート養生を行い、雨水によるタイルの脱落及び日射による粘着剤やフィルム材の変質・劣化を防止することが必要である。
11.4.2 材 料
(a) タイルの種類及び品質は11.2.2(a)によるほか、主に外壁に用いられるので、耐凍害性を有するタイルを使用しなければならない。
(b) タイル型枠先付け工法では、型枠に固定されることで、あと張り工法のように不陸や通りの調整ができないため、偶角部に用いる役物タイルの角度にばらつきがあると、見ばえが悪くなるので「標仕」では、角度の許容差をJIS A 5209の規定より小さくして ± 1° 以内としている。
また、隅角部に用いる役物タイルの形状は、角度の不ぞろいを目立たなくするため、等辺(図11.4.3(イ))でなく不等辺(図11.4.3(ロ))にするのがよい。
図11.4.3 隅角部に用いる役物タイルの形状
(c) タイルの試験張り、見本焼きは 11.2.2(e)によるほか、スケジュールについて次の点に注意が必要である。
陶磁器質タイル先付け工法の場合には、躯体工事開始時にタイルを必要とするので、目地桝法及び桟木法では躯体工事開始の2箇月程度前、シート加工の期間を要するタイルシート法では3箇月程度前にタイルが決定されていなければならない。見本焼き及び試験張りのスケジュールは、これを考慮して決定する必要がある。
(d) 陶磁器質タイル型枠先付けのタイルユニット等
(1) タイルユニット
(i) タイルユニットの寸法や品質等の性能に問題があると、取付け作業の困難、コンクリート打込みによるタイルの割れや埋没の発生、型枠取外し後の裏打ち材の除去作業等に影響し、ひいては仕上りの出来ばえが悪くなるので十分な性能が必要である。
なお、タイルユニットには次のような性能が要求される。
@ 型枠への配列固定が容易にできる。
A セメントペーストが漏れない。
B 裏打ち材、台紙、目地桝がはがしやすい。
C 型枠取付け後、雨水に対する養生を必要としない。
D 現場で加工できる。
E 目地及びジョイント部の仕上りが良い。
F 寸法精度が良い。
G 型枠の締付け、コンクリートの締固め及び側圧でタイルがはく落しない。また、割れない。
H 廃材(裏打ちシート等)が少ない。
(ii) タイルシートによるタイルユニットのタイルの割付け寸法、ユニットの寸法及び許容差、対角線長の差、目地深さの標準を表11.4.1に示す。
表11.4.1 タイルシートによるユニットの寸法、許容差等
(iii) 目地桝によるタイルユニット(アルミ専用型枠の場合を除く。)の目地枠の形状、タイルの割付け寸法、ユニットの寸法及び寸法許容差、対角線長の差、桝目の内法寸法の許容差、ベース厚さ並びに目地深さの標準を表11.4.2に示す。
表11.4.2 目地桝によるユニットの寸法.許容差等
(iv) タイルユニットの寸法の測定位置を図11.4.4に、目地枠材の桝目及びベース厚さの測定位置を図11.4.5に示す。
図11.4.4 タイルのユニット寸法の測定位置
図11.4.5 目地枠材の桝目及びベース厚さの測定位置
(v) タイルシートのはく離性については、製造所の実績表により確認する。
(2) 型枠に用いるせき板には、コンクリート型枠用合板や金属製タイル先付け用パネル(図11.4.8(ロ)参照)がある。
(3) 型枠緊張材を目地部分に通す場合には、コンクリート中に残る金物のかぶり厚さが確保できるように専用のものを用いる。型枠緊張材及びその取付け方法の例を図11.4.6に示す。
図11.4.6 型枠緊張材を目地部分に通す場合の例
(4) その他の材料
(i) 伸縮調整目地の目地材は、取り外す際にタイルをはがすことがないように、材質は発泡プラスチック等を用いる。
(ii) タイルユニットの取付けは、ステープル又は専用のゴム付きの頭なし釘を用いる。
11.4.3 タイル型枠先付けの種類
(a) タイル型枠先付けには、型枠にタイル又はタイルユニットを取り付ける工法によって次の3種類に大別される。
(1) タイルシート法
タイルシートを型枠内面に仮付けしてコンクリートを打ち込む方法である(図11.4.7参照)。
図11.4.7 タイルシート法
(2) 目地桝法
目地桝を型枠に取り付け、タイルをはめ込みコンクリートを打ち込む方法である。釘打ちによりゴム等の目地桝を型枠に固定したのち、タイルを目地桝に取り付ける方法(図11.4.8参照)。
図11.4.8 目地桝法
(3) 桟木法
大形特殊タイルの取付け方法には、桟木法がある。これは、自重の大きい大形タイルを桟木に引っ掛け、特殊釘で仮止めしてコンクリートを打ち込む方法である(図11.4.9参照)。
図11.4.9 桟木法
(b) タイル型枠先付け各工法の材料、型枠の条件等を表11.4.3に示す。
表11.4.3 タイル型枠先付け各工法の材料、型枠の条件等
(c) タイル型枠先付け工法の種類は、「標仕」11.4.3では、特記するよう定められているが、種類は先付けするタイルの大きさ等により表11.4.3のようになる。
11.4.4 施 工
(a) 割付け
(1) 割付けは、原則として、陶磁器質タイル張り工法と同様である。ただし、躯体工事開始時にタイルを必要とするので、早期に割付けを決定する必要がある。
(2) タイルシート法及び目地桝法の場合は、標準ユニットを基本にし、標準ユニットが使用できないときは、役物ユニットを使用する。この場合、材料管理や作業管理が困難になるので、なるべくユニットの種類を少なくするように割り付ける。
このため設計の当初から、役物タイル及び役物ユニットを少なくするよう階高やスパン幅をできるだけ統一する必要がある。
(3) タイルユニットの割付けの一例を図11.4.10に示す。
図11.4.10 タイルユニットの割付け図(小ロタイルの例)
(b) 伸縮調整目地及びひび割れ誘発目地
(1) タイル型枠先付けの場合、目地の役割は特に重要である。
コンクリートの乾燥収縮によって起こるひび割れに対処するために設けるひび割れ誘発目地、建物の隅角部等の作業が困難なとき、又はタイルやタイルユニットの寸法精度、取付け精度等、施工の誤差を考慮して設ける目地を「標仕」では伸縮調整目地といっている。
(2) 伸縮調整目地は目地幅も大きく、また、細かく入れる必要があるので意匠上への影響が大きい。したがって、設計担当者と十分打ち合わせて決定する。
(3) 伸縮調整目地の大きさは、図11.1.5に示してあるが、作業性を考慮すれば幅25mm以上が望ましい。
(c} 小口以上の大きさのタイルをまぐさ又はひさし先端下部に用いる場合、何らかの不具合が生じてもタイルがはく落することのないよう、図11.2.5に示す引金物を取り付ける。しかし、型枠先付け工法の場合、コンクリート打込みにより、引金物が型枠面あるいはタイル裏面に密着しては目的を果たさないばかりか、かえってコンクリートの未充填部を作ることとなってしまう。したがって、コンクリート打込み前に引金物がコンクリート躯体の斜め上方向に、確実に定着できる手段を講ずることが必要である。
(d) 型 枠
(1) タイル先付け用の型枠には打放し仕上げと同程度の精度が要求される。
(2) 型枠は、仕上げ及び経済性を考え大型パネルとするのがよい。大型パネルを用いる場合転用ができないと不経済になるので、階高及びスパン幅等設計上の配慮が必要である。
(3) 型枠の精度を高めるには、特に次の点に注意する。
(i) 建込み精度の確保(コンクリート打込み中にも注意)
(ii) 型枠の剛性
(iii) 型枠接合部の精度(特にコンクリート打継ぎ部)
(ivl 隅角部の型枠の精度及び剛性
(v) 桟木の寸法の精度(両面かんな掛けを行い、せい寸法を一定にする)
(vi) セパレータの締付け程度(締付け過度に注意)
(4) 型枠の精度は、タイルの仕上りを考えれば、建入れ、通りの精度については 1/750、階高については ±5mm、壁厚については ±3mm以下が望ましい。
また、コンクリート打込み後も目標とする精度が保てるよう、支保工を十分に用い、コンクリートの打込み方法及びコンクリートの側圧による誤差をなくすようにしなければならない。
(5) この工法に用いる大型パネル及びその頂部と脚部の納まりの一例を図11.4.11に示す。
図11.4.11 大型パネルの詳細及びその頂部と脚部の納まり
(e) コンクリートの打込み及び養生
(1) コンクリートは、通常のRC造に用いられている設計甚準強度 21N/mm2、スランプ18cm程度のものであればよいが、(3) に示す締固め作業に困難を伴うような断面形状のSRC造等の場合、流動性のよいコンクリート等を検討するとよい。
(2) タイルを打ち込む壁の増打ちは、構造上必要な壁厚に20〜40mm程度増やしたものとされている。「標仕」11.4.4 (e)(3)(i)では、棒形振動機による締固めは、加振部がタイルに直接触れないように操作することが定められており、壁厚や配筋に対する設計上の配慮が必要である。
(3) 先付け工法の場合、コンクリートの締固めは、タイルの接着力を確保するため特に重要である。このため、「標仕」11.4.4(e)(3)ではコンクリートの輸送管1系統につき、型枠振動機2台以上を、「標仕」6.6.5(e)に定めている配置に追加することにしている。
なお、締固めは、6.6.5の注意事項を十分守らなければならない。また、先付け工法を意識しすぎて振動機による振動及びたたき締めを過度に行うとかえって悪い影響がある。
(4) 型枠取付け型振動機を用いる場合、内壁側の型枠に取り付けて、上部の梁、スラブは棒形振動機を使う併用方式がとられている。型枠取付け振動機による締固めの留意事項として次のような事項が挙げられ、事前に十分な施工計画の検討が必要である。
(i) コンクリートの打込み順序に合わせた振動機の配置計画の検討
@ 振動機の取付け間隔及び台数
A 振動機の盛替え順序
B 人貝の配置
C 電源の確保
(ii) 型枠からのセメントペースト漏れ防止
型枠の精度及び事前のチェック
(iii) 振動機の加振時間の検討
かけ過ぎの防止
(iv) 型枠緊張材(フォームタイ)の緩みに対する検討
@ 型枠の監視
A 改良形緊張材の使用
(v) タイル型枠先付け工法の種別の検討
型枠の振動によるタイルのはく離落下の防止
(vi) その他
(5) コンクリート打込み時に、下階のタイル壁面にセメントペーストが流出して、すでに施工された壁面を汚したときは、速やかに水洗いによりタイル壁面の清掃を行う。
また、必要に応じ、前もってポリエチレンシート等でタイル面を養生する。
(f) タイル取付け面の型枠の取外し
(1) タイル取付け面の型枠を取り外す場合、タイル表面に傷をつけないように注意して作業する必要がある。
(2) タイル面に粘着テープ、接着剤等が残った場合は汚れが残らないよう速やかに清掃する。また、セメントペーストがタイル表面に付着した場合も速やかに清掃する。
(3) タイル及びタイルユニット取付けに用いた釘、ステープル等の金属類が壁面に残った場合、錆により汚れが生じるので速やかに取り除かなければならない。
(4) 仮付けタイル部分は、仮付けタイルを取り外したのち、(h)(3) により張替えを行う。
この場合、仮付けタイルの厚さは張付けモルタルの厚さを含めたものを用いる。
(g) 材料保管等
(1) タイルユニット及び副骰材は、直射日光や雨水による材料の変質・劣化がおきる場合があるので、シート養生を行い保管する。
(2) タイルシートや目地桝はプラスチック製が多いので、火気には十分注意して保管する。
(h) タイル壁面の補修
(1) 先付け工法では、先付けされたタイルに不良箇所のないように施工すべきであるが、不良箇所が生じた場合は、将来はく離を起こさないよう、工法を十分検討し補修しなければならない。
(2) 施工不良の発生要因及び対策、判定方法、補修方法を表11.4.4に示す。
(3) タイルの張替えは、不良部分のタイルを取り、躯体部分をタイル裏面より10mm程度はつって行う。タイルの張付けは、躯体部分に5mm程度張付けモルタルを塗り付けタイル裏面にも張付けモルタルを5mm程度塗り付け、図11.4.12に示すようにタイル裏面に空隙を生じないよう張り付ける。
なお、はつり範囲が構造体部分にまで及ぶ補修の場合は、タイル張付けモルタルは、平成13年国土交通省告示第1372号に規定されているポリマーセメントモルタルを用いる。
図11.4.12 タイル張替え工法
(i) 試 験
打診試験及び引張接着試験の方法及び試験結果の判定は11.1.5 (b)及び(c)による。ただし、型枠先付け工法においては次の点が異なる。
(i) 接着力試験の試験体は、タイルの周辺をタイル裏面まで切断する。
(ii) 接着力試験結果の判定は、タイルの引張強度が1個でも0.6N/mm2未満のものがある場合は不合格とする。
打診検査によってはタイル裏面の軽微なじゃんかが検知されない場合がある。目視でタイル目地を詳細に調べることがじゃんかの発見に有効なので、打診検査の際、目視によるじゃんか検出を行うのが望ましい。
11.4.5 漬 掃
清掃については、11.2.8(b)を参照する。
表11.4.4 不良の発生要因等
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