02節モルタル塗り
15.2.1 適用範囲
(a) セメントモルタル塗りは現場打ちコンクリート下地、コンクリートブロック下地等の内外壁及び床等の面に、セメント・細骨材・水を主成分とし、これに混和材料等を加えて作ったセメントモルタルを、主として次の部位に塗る工事を適用の対象とする。
(1) 鉄筋コンクリート造の内外壁,床等のモルタル仕上げ及びタイル張り下地
(2) ブロック、れんが積み下地の壁モルタル仕上げ
(3) ラスシート、ワイヤラス下地等のモルタル仕上げ
(b) 作業の流れを図15.2.1に示す。
図15.2.1 モルタル塗り工事の作業の流れ
(c) 施工計画書の記載事項は,おおむね次のとおりである。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。
@ 工程表(施工箇所別の着工及び完了の時期)
A 施工業者名及び作業の管理組織
B 使用材料及び保管方法
C 練混ぜ場所及び練混ぜ方法
D 調合
E 下地処置の工法(屋外、屋内、下地材の吸水の著しい箇所等の別)
F 工法(施工箇所別)
G モルタル仕上げの種類(施工箇所別)
H 各工程の工程間隔時間(養生期間)及びその確認方法
I ひび割れ防止の方法
J 浮きの確認方法及び補修方法
K 養生方法(夏期の直射日光、通風、寒冷、施工後)
L 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者.品質記録文書の書式とその管理方法等
(d) 「標仕」では、セメント、砂、細骨材、混和材料等を建築現場で調合して使用するモルタルを対象としている。しかし、近年においては良質な天然骨材の入手が困難な状況もあり、天然骨材の品質低下やモルタルの品質確保の観点から、あらかじめこれらの原料を工場で調合した既調合モルタルが普及してきている。
なお、既調合モルタルのうち、10mm程度以下の塗厚を前提としたものは、JIS A 6916(建築用下地調塗材)に品質が規定されているので、特記等により既調合モルタルが採用された場合は参考にするとよい。
15.2.2 材 料
(a) セメントは、作業性が良く、塗り上げた面が良好で、収縮の少ないものがよい(6.3.1(a)参照)。一般に左官用としては、普通ポルトランドセメントを用いる。モルタルとして骨材を多く配合すれば収縮は小さくなるが、作業をしやすくするため富配合で使用されることが多い。このため収縮が大きくなりひび割れを生じやすく、外部では吸水膨張、温度変化による膨張収縮等によってひび割れ、はく離等を生じやすい。したがって、骨材を多く配合し、作業性改善のための各種の混和材料を配合して用いることが望ましい。また、長期間の保存又は湿気等により風化し始めて塊りのあるようなセメントは、強度が発現せず、強度不足等の原因となるので使用してはならない。
(b) 細骨材
(1) 砂
(i) 左官に用いる砂の粒度は、コンクリートの場合と同様に、重要な役割をもっており作業性、仕上り、硬化後のひび割れ等に大きく影響する。
原則として、川砂を用いることが望ましいが、山砂を用いる場合は、泥分・有機物の含有量に注意し、粒度は表15.2.1に示すようなものであることが望ましい。
表15.2.1 砂の標準粒度
(A) 砂の泥分、有機不純物等については 6.3.1(b)を参照する。
(2) 内壁下塗り用軽量モルタル(サンドモルタル)の細骨材
(@) 内壁下塗り用軽量モルタルの細骨材には、セメント混和用軽量発泡骨材が用いられる。(-社)日本建築学会「JASS 15 左官工事」では左官用軽量発泡骨材と称されているものであるが、発泡粒状の軽量骨材、混和剤及び繊維があらかじめ工場で調合されており、建築現場でセメントと混合し、水を加えて使用される。
セメント混和用軽量発泡骨材には、一般に内部用、外部用と称するものがあり、スチレン樹脂発泡粒は内部用でその他の軽量骨材は外部用として使い分けられていた時期もあったが、外部用のスチレン樹脂発泡粒も十分な実績があることから、単純に軽量骨材の種類によって内部用と外部用とを区分することは困難とされている。
参考として、セメント混和用軽量発泡骨材の組成例を表15.2.2に示す。
表15.2.2 セメント混和用軽量発泡骨材の組成例
(A) 内壁下塗り用軽量モルタル塗りの施工フロー図を図15.2.2に示す。
図15.2.2 内壁下塗り用軽量モルタル塗りの施工フロー図
(iii) 内壁下塗り用軽量モルタルの適用に当って防火材料の指定がある場合は、国土交通大臣認定を受けた軽量モルタルを使用しなくてはならない。参考として、NPO法人湿式仕上技術センターが認定を受けている不燃材料の条件を表15.2.3に示す。
表15.2 3 軽量セメントモルタルの認定条件
(iv) セメント混和用軽量発泡骨材を用いた軽量モルタルは、民間工事において外壁の下地調整にも使用されているが、公共工事での実績が不十分なことから「標仕」では適用外としている。ただし、JASS 15及び(-社)日本建築学会「JASS 19 陶磁器質タイル張り工事」では、特記により適用可とされており、日本建築学会品質基準 JASS 15 M-104(下地調整用軽量セメントモルタルの品質規準)にその品質が示されている。
なお、JASS 15 M-104は、日本建築仕上学会の外部用軽量モルタル性能評価委貝会で、平成6年度から9年度にわたって実施された研究の成果「外部用軽量モルタルの性能評価試験および品質基準(案)」並びに製造所の団体である日本建築仕上材工業会の団体規格「NSKS-009 セメント混和用軽量発泡骨材」を参考として、2007年のJASS 15改定に当たって新たに定められたものである。
セメント混和用軽量発泡骨材を用いた下地調整用モルタルは、通常のセメントモルタル(砂モルタルともいう。)に比べると、軽くて施工性が良いため広く普及している。容積吸水率はほぼ等しいかむしろ小さい傾向にある。また、コンクリートの圧縮ひずみに対する追従性が高い特性から、壁面の中で拘束がなく自由に伸縮する部位への適用が好ましいとされている。
しかし、内部用の骨材を外部に使用したり、製造所の指定する量のポリマーディスバージョンを混入しないで使用するなど、使用方法が間違っていると所要の性能が得られず、はく落の一因ともなるため、JASSでは仕様書に基づいて正しく使用することが前提とされている。
(c) 水は、水道水又はJIS A 5308(レディーミクストコンクリート)附属書C(規定)[レディーミクストコンクリートの練混ぜに用いる水]による水の品質規定に適合するものを用いる。表15.2.4に水の品質規定を示す。
表15.2.4 上水道水以外の水の品質(JIS A 5308 : 2011)
(d) 混和材料
(1) 「標仕」15.2.2(e)(1)に記載されている混和材は、「標仕」表15.2.3の上塗りに入れる混和材で内壁用の材料である。その混入量は一般的にセメントに対する容積比で左官用消石灰及びドロマイトプラスターの場合10%程度以下までとされている。ドロマイトプラスターは上塗り用を用いる。
(2) 混和材料を使用する主な目的は、次のとおりであるが、効果を上げるには調合等の管理が重要である。
(i) 作業性の改善
(ii) 性質の改良(ひび割れ、はく離等の防止)
(iii) 保水性の向上
(iv) 仕上り面の改善
(v) 使用水量の減少
(vi) 凍害の防止
(3) 寒冷時に施工する場合は、気象と養生条件を考慮し、混和剤を使用する必要がある。
(i) 使用水量を減少させるためには、AE剤、AE減水剤等を使用する。
(ii) 凍害の防止には、塩化物を含まない凍結防止剤等の使用を検討する。
安易に凍結防止剤を使用すると、モルタルの収縮が大きくなり、ひび割れや浮きの発生につながるので十分に注意する必要がある。
(4) 保水剤
(i) 保水剤は混和剤の一種で、モルタルの初期乾燥収縮によるひび割れの防止、接着力の安定化、作業性の向上を目的として使用されるもので、メチルセルロース(MC)等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール(PVA)等があるが、メチルセルロースが一般的に使用されている。図15.2.3に、保水剤入りモルタルの保水性の一例を示す。
図15.2.3 保水剤入りモルタルの保水性
(ii) 混入量は、一般的にセメント質量に対して0.1〜0.15%程度で、夏期には 0.2%程度である。
(5) ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントペースト用の混和剤は、JIS A 6203(セメント混和用ポリマーディスパージョン及び再乳化形粉末樹脂)の規格に適合するものを用いる。信頼できる試験成績書及び製造所の仕様を確認して承諾する。
JIS A 6203の抜粋を次に示す。
3. 定 義
この規格で用いる主な用語の定義は、次による。
a) セメント混和用ポリマー
セメントモルタル及びコンクリートの改質を目的にそれらに混和して用いるセメント混和用ポリマーディスバージョン及び再乳化形粉末樹脂の総称。
b) ポリマーセメントモルタル
結合材にセメントとセメント混和用ポリマーを用いたモルタル。
c) ポリマーセメントコンクリート
結合材にセメントとセメント混和用ポリマーを用いたコンクリート。
d) ポリマーセメント比
ポリマーセメントモルタル及びコンクリートにおけるセメントに対するセメント混和用ポリマーディスパージョン及び再乳化形粉末樹脂の全固形分の質量比。
e) 全固形分
セメント混和用ポリマーディスパージョンにおいては不揮発分、セメント混和用再乳化形粉末樹脂においては揮発分以外の成分。
4. 種 類
セメント混和用ポリマーの種類は、その形態及び主な化学組成によって、次のように区分する。
a) セメント混和用ポリマーディスパージョン
セメント混利用ポリマーディスパージョン(以下、ディスパージョンという。)は、水の中にポリマーの微粒子が分散している系。次の2種類に区分する。
1) セメント混和用ゴムラテックス
セメント混和用ゴムラテックスは、合成ゴム系、天然ゴム系、ゴムアスファルト系などのゴムラテックスに安定剤、消泡剤などを加えて、よく分散させ均質にしたもの。以下、ゴムラテックスという。
2) セメント混和用樹脂エマルション
セメント混和用樹脂エマルションは、エチレン酢酸ビニル系、アクリル酸エステル系、樹脂アスファルト系などの樹脂エマルションに安定剤、消泡剤などを加えて、よく分散させ均質にしたもの。以下、樹脂エマルションという。
b) セメント混和用再乳化形粉末樹脂
セメント混利用再乳化形粉末樹脂(以下、粉末樹脂という。)は、ゴムラテックス及び樹脂エマルションに安定剤などを加えたものを乾燥して得られる、再乳化可能な粉末状樹脂。
5. 品 質
ディスパージョン及び粉末樹脂の品質は、表1による。
表1 品 質
JIS A 6203 : 2008
(6) 内壁下塗り用軽量モルタル及び既調合モルタルに用いる混和剤は、製造所の指定するものを用いることとし、品質及び仕様を確認して承諾する。
(7) 顔料は、耐アルカリ性のある無機質のものを主材料とし、太陽の直射や100℃程度の温度にあっても著しく変色せず、金物を錆びさせないものでなければならない。顔料は、無機顔料と有機顔料に分類され、無機顔料は発色成分が無機質で、一般に熱・光・アルカリ等に対して化学的に安定であり、隠ぺい力(下地や骨材の色を見えなくする能力)が大きいが、その色調は有機顔料に比べれば鮮明でない。有機顔料は色調が鮮明で着色力も大きいが、熱や光に対して耐久性がないものが多く、色あせしやすい。一般的に無機顔料が望ましいが、色によっては有機顔料を使わなければならない場合もあるので、製品の性能を確認のうえ選定する必要がある。
セメント、プラスター等の着色に使用できる顔料を表15.2.5に示す。
表15.2.5 使用できる顔料とその発色成分
(e) 吸水調整材
(1) 吸水調整材とは、モルタル塗りの下地となるコンクリート面等に直接塗布することで下地とモルタル界面に非常に薄い膜を形成して、モルタル中の水分の下地への吸水(ドライアウト)による付着力の低下を防ぐものである。
従来は、モルタル接着増強剤、あるいはモルタル接着剤と呼ばれていたため、たくさん塗れば付着力が増大するという誤った使い方をされていた。これは、塗り過ぎることにより下地とモルタルの界面の膜が厚くなり、塗り付けたモルタルがずれやすくなりモルタルの付着力を低下するおそれがある。
(2) 吸水調整材は、「標仕」表15.2.2の品質に適合するものを用いる。信頼できる試験の試験成績書及び製造所の仕様を確認して承諾する。
なお、(-社)公共建築協会の「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」(1.4.4 (e)参照)において、「標仕」の規定に基づき吸水調整材の評価基準を定め、評価を行っているので参考にするとよい。
(f) 下地調整塗材
(1) 下地調整塗材とは、壁タイル接着剤張りの求める下地精度を確保するため、躯体コンクリートの不陸の調整に用いるものである。
(2) 下地調整塗材は、JIS A 6916(建築用下地調整塗材)によるセメント系下地調整厚塗材2種(下地調整材CM-2)の規格適合品を用いることとし、製造所の仕様を確認して総塗厚10〜15mm程度を2回に分けて塗り付けることができるものを用いる。
JIS A 6916の抜粋を次に示す。
4. 種類及び呼び名
下地調整塗材の種類及び呼び名は、表1による
表1 種類及び呼び名
5. 品 質
下地調整塗材の品質は、7.によって試験し、表2の規定に適合しなければならない。(7.は省略)
表2 品 質
15.2.3 調合及び塗厚
(a) ポリマーセメントモルタルは、一般的に、内・外壁の下塗りに用いられる。混和剤(セメント混和用ポリマー)の混入量は、安定した接着性が得られるように、セメント質量の5%(全固形分換算)程度とする。ポリマーセメントモルタルの調合例を表15.2.6に示す。
表15.2.6 ポリマーセメントモルタルの調合例
(b) 平成2年建設省の「外壁タイル等落下物対策専門委貝会」で、外壁の診断及びタイル張り・モルタル仕上げ工法の問題点を洗い出すとともに、正しい診断方法やはく落事故の生じにくい適正な施工方法についての検討がなされた。1回のモルタル塗厚及び全塗厚についても「タイル外壁およびモルタル塗り外壁の剥落防止のための設計・施工上の留意事項」の中に規定されており「標仕」ではこの値を採用している。
塗厚が厚くなると、こて押えが効かなくなり、壁でははく落、ひび割れ等の発生の危険性が大きくなるので、通常床を除き1回の塗厚は、原則として7mm以下としている。
1回ごとの塗付け層の表面形状は、次に塗る材料の種類によって平滑さの要求度合が異なる。一般に、粗面度が大きいほど接着性が向上することから、平滑さの要求度合に応じて、できるだけ粗面になるような表面形状にするのがよい。
(c) 仕上げ厚又は全塗厚は、あまり厚くするとはく離するおそれがあるので、床を除き 25mm以下としている。
(d) 内壁下塗り用軽量セメントモルタル(サンドモルタル)の調合はセメント混和用軽量発泡骨材の製造所の仕様によるが、一般的な調合例と標準塗厚を表15.2.7に示す。
表15.2.7 軽量セメントモルタルの調合例・標準塗厚
内壁下塗り用軽量セメントモルタル塗りは、こて圧が十分にかかり、ポリマーセメントののろが接着界面に十分に回り接着性を確保し、表面がくし目を引く代わりに、凹凸状になるように、標準塗厚を 5mmとしているので注意する必要がある。
なお、普通モルタルの下塗りでは金ぐし類で荒らし目をつけるが、軽量モルタルの場合は荒らし目をつけないので注意する。
(e) モルタルの練混ぜは、機械練りを原則とし、所要量のセメント・砂をミキサーで空練りし、これに無機質系の粉末混和材料等計量したものを加え空練りし、水を加えて均ーなモルタルとする。液状の混和材は、あらかじめ所要量を水で希釈して用いる。
(f) 水を加え練り混ぜたモルタルは、気温・水温及び混和材料の種類により凝結時間が異なるが、品質確保のため練混ぜ量は60分以内に使い切れる量とする。
(g) 建具枠回り、ガラスブロックの金属枠回りの充填モルタルに用いる防水剤、凍結防止剤は、塩化カルシウム系等のように金属の腐食を促進するものでないものを用いる。雨掛りの部分の防水性能を付与するために使用するものであり、成分、性能、実績等を考慮して検討する。凍結防止剤を使用すると、モルタルの収縮が大きくなり、ひび割れや浮きを生じやすくなるので十分に注意する必要がある。やむを得ず凍結防止剤を使用する場合は、防水剤を練り水に加えてモルタルを十分に固練りしたのちに、凍結防止剤を添加して再度混練りし、充填モルタルとする。
15.2.4 下地処理
(a) 補修をポリマーセメントペースト又はポリマーセメントモルタルで行う場合には、ポリマーの種類によって混入量、可使時間が異なるので、工事監理に当たっては製造所の工事仕様や施工容量書を確認しておくことが肝要である。
(b) 塗り面の下地コンクリートからの浮きの原因のうち、下地に関する原因には次のようなものがあるが、(1)及び(2)は、モルタル塗りを行う前に下地の清掃を行うことにより十分防止可能なものであるので、デッキブラシ等を用いて十分水を掛けながら洗い落とす。屋内のように十分な水洗いができない場合には、水湿しのうえデッキブラシ等を用いて清掃する方法も検討する。
(1) 下地表層の強度不足による表層破壊(硬化不良、レイタンス等)
(2) 下地の清掃不足による接着不良
(3) 下地面への吸水によるモルタルの硬化不良
(4) 施工時の養生不足による硬化不良(直射日光等による急速な乾燥、寒冷期の保湿、加熱等の不良)
(5) モルタルの塗厚の過大による収縮
(6) 長期にわたる下地の変形(躯体膨張、収縮、ひび割れ)
(c) 「標仕」では、目荒し工法として、高圧水洗処理を採用している。
(1) 高圧水洗処理は、一般には高圧水洗浄や超高圧水洗浄と呼ばれ、コンクリートの強度に応じて、用いられる水圧が異なる(図15.2.4参照)。Fc = 100N/mm2を超える高強度コンクリートには、100〜200Mpsの水圧が用いられている。
(2) 高圧水洗処理は、接着性の阻害要因を除去するとともに、コンクリート表面を粗面化してモルタルの接着面積を増加したり、投びょう効果を向上させたりすることが期待できる。(-社)建築研究新興協会の研究によって、コンクリート表面を高圧水で洗浄及び目荒しした場合の処理程度やコンクリートとモルタルとの接着性改善に関する定量的な成果が得られている。これらの研究成果を活用して、全国ビルリフォーム工事業協同組合では、高圧水洗によるコンクリート面の処理限度見本(図15.2.5参照)を作製したり、作業員の資格者制度を設けたりしている。また、高圧水の取扱いは危険を伴うため、安全な作業をするには上記のような有資格者を活用することが望ましい。
(3) 高圧水洗処理では、ノズルの形状等の違いにより目荒しの程度にばらつきがでること、コンクリート強度により用いる水圧が異なることから、必ず試験施工を行わせて目荒しの限度見本を作製させ、それを承諾したうえで、実施工を行わせることが、品質管理上重要である。
図15.2.4 高圧水洗処理による目荒し後のコンクリート表面状態(JASS 19より)
@下限見本 A上限見本
図15.2.5 コンクリート表面の処理限度見本
(d) コンクリート床面の場合、コンクリート打込み後なるべく早い時期に仕上げ工事を行うことが望ましいが、一般的には木工事、壁等の工程上の都合から長期間放置することが多い。モルタルの浮きを防止するために、粉塵等十分に清掃し、水洗いのうえ、ポリマーセメントペースト又は吸水調整材を塗布し、モルタル塗りを行う。
清掃が不十分な場合、ポリマーセメントペースト又は吸水調整材を塗布しても、モルタルの浮きの防止に効果がないので注意が必要である。
(e) 総塗厚が25mm以上になる場合は、ステンレス製アンカーピンを打ち込み、ステンレス製ラスを張るか、溶接金網、ネット等を取り付け、安全性を確保したうえでモルタルを塗り付ける。はく落防止工法の例を図15.2.6に示す。
最近、既存建築物の外壁改修工事において、ピンとネットを複合して用い、仕上げ層のはく落に対する安全性を確保できる改修構工法が数多く実施されている。
建設省では、平成7年度建設技術評価制度公募課題「外壁複合改修構工法の開発」で外壁複合改修構工法の評価を実施した。評価された工法の中には改修工事だけでなく、安全性を確保する工法として、新築工事に利用できる工法もあるので参考にするとよい。
図15.2.6 はく落防止工法の例
(f) 塗装合板、金属製型枠を用いたコンクリート下地は、平滑過ぎるため、モルタルとの有効な付着性能が得られにくいのでポリマーセメントペースト又は吸水調整材を塗布し、モルタル塗りを行う。
15.2.5工 法
(a) 下塗り前の注意事項
(1) 吸水調整材使用時の注意事項
(i) 吸水調整材は、製造所の指定する希釈倍率及び塗布量を厳守して使用する。
(ii) 吸水調整材塗布後、下塗りまでの間隔時間は施工時の気象条件によって異なるが、一般的には1時間以上とする。長時間放置するとほこり等が付着し、接着を阻害することがあるので、1日程度で下塗りをすることが望ましい。
(2) ポリマーセメントペースト使用時の注意事項
(i) ポリマーセメントペーストは、一度乾くとはく離しやすくなるので、塗ったのち直ちに下塗りモルタルを塗る必要がある。
(ii) ポリマーセメントペーストの塗厚が厚いことは好ましくない。一般的には1mm程度とされている。
(iii) ポリマーセメントペーストに保水剤を混入すると、保水性、作業性が向上する。混入量は15.2.2 (d)(4)を参考にし、粉体の保水剤を使用する場合は十分に空練りして用いる。
(b) 内壁下塗り用軽量セメントモルタル(サンドモルタル)施工の注意事項
(1) セメント混和用軽量発泡骨材製造所指定の吸水調整材を指定の仕様で全面塗ることを標準とする。
(2) 特に、内壁下塗り用軽量セメントモルタル施工後は、硬化乾燥状態に注意し、原則として施工日又は翌日に散水養生を行う。
(c) タイル張り下地モルタル等の均しモルタル施工の注意事項
(1) 下地調整塗材は、材料の組合せ及び吸水調整材の製造所の仕様を、確認して使用する。
(2) 有機系接着剤張りでは、金ごて1回押えとし、梨目程度の仕上りとすることが望ましい。
(3) 近年、タイルのはく離は、下地モルタルとコンクリート下地の間のはく離が多いため、平成25年版「標仕」ではモルタルの硬化後、全面にわたり打診を行うこととされている。モルタル工事完了後に接着力試験を行う場合は特記されるが、この場合はあらかじめ接着力試験を想定した施工計画を行う。
(d) 下塗りモルタル施工後の注意事項
下塗りモルタル施工後は、硬化乾燥状態により、原則として施工日又は翌日に水湿しを行い下塗りモルタルを十分に硬化させる。
(e) 既製目地材
目地は、モルタルの収縮によるひび割れ、部分的なはく離及び外壁では雨水の浸透による湿潤・乾燥の繰返し、温度変化に伴う膨張収縮等によるひび割れ防止.異種下地の接合部のひび割れ防止のために設けるものであるが、既製目地材はその形状等から意匠的に用いられるもので、ひび割れ防止を目的としたものではない。
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