1節 一般事項
9.1.1 適用範囲
(a) 建築物で防水を必要とする部位は屋根、ひさし、バルコニー、外壁及び室内の水回り等である。これらの部位への防水層が必要となる。この防水層を形成するために行う工事が防水工事である。
防水工事の仕様は一般に経験と実績データによるといわれている。このことから「防水工事の仕様」は信頼性のあるものが用いられる。「標仕」に採用している仕様は材料・工法とも常に技術の進歩と実績による検証を含めて検討されたものである。このため新しい防水工法はあまり採用されていないが、これらの工法の防水性能が劣るものではない。新しい防水工法を採用する場合には、施工例等を十分検討したうえで用いるとよい。
(b)「標仕」では、メンブレン防水として、アスファルト防水、改質アスファルトシート防水、合成高分子系ルーフィングシート防水及び塗膜防水を規定している。また、地下構造物を対象とした防水としてケイ酸質系塗布防水を規定している。更に、目地防水として、不定形弾性シーリング材を用いたシーリングの規定がある。
(c) メンブレン防水工事は、不透水性被膜を形成することにより防水するものである。選定に当たっては建物の用途、規模、構造、気候及び施工条件を考慮する必要がある。更に、保全のしやすさ、耐久性等も併せて検討することが大切である。メンブレン防水層の種別選定の目安を表9.1.1に示す。
(d) ケイ酸質系塗布防水工事は、コンクリート表面にケイ酸質系塗布防水材を塗布し、その生成物でコンクリートの毛細管間隙を充填し、防水性能を付与するものである。選定に当たっては部位、用途等を考慮し、更に下地の状態に十分な配慮を行い適用する必要がある。ケイ酸質系塗布防水の適用部位は「標仕」表9.6.1を参照されたい。
(e) シーリング工事は不定形弾性シーリング材を用いて部材の接合部等を充填するものである。シーリング材の種類は被着体に適応するものを選定する。シーリング防水の種別選定の目安は7節を参照されたい。
9.1.2 基本要求品質
(a) 防水工事及びシーリング工事に使用する材料の品質は主としてJISによるものとしており、このJISに適合することの証明方法は1章4節に示すとおりである。 JISのない材料にあっては、主要な材料製造所の指定する製品としており、この指定された製品であることの確認ができる資料を提出させることによって証明ができるようにする。
(b) 防水工事及びシーリング工事は、使用する材料の品質規定だけでなく、指定材料により防水層等を構成する工程についても、官庁営繕工事の実績により「標仕」に詳細に定めている。「所定の形状及び寸法」とは出来上がった状態に対する要求であるが出来形の確認として完成した防水層を切り取ることを要求しているわけではない。品質はプロセスによってつくり込まれるという考え方に立って.定められた材料を定められた手順で施工することで結果として所定の形状及び寸法を確保するようにする。具体的には、このための管理項目、「標仕」で定める以外の詳細な手順を明確にし、プロセスの途中における施工の良否の判定基準及びこれらの限度を超えた場合の処置方法を「品質計画」において提案させるとよい。
完成した防水層やシーリングは、防水上重要あるだけでなく、出来形として見え掛り面に表れてくることから、意匠上も重要になる。このことを踏まえて「所要の仕上り状態」とは、防水機能を果たす部位としての寸法及び形状を満足するだけでなく、見え掛りとなる部分については、取り合う仕上材料とのバランスを考慮して出来形の許容範囲を具体的に定め、これを確実に実施するための管理を行うと考えればよい。
(c) 「標仕」9.1.2(a)(3)、(b)(3)でいう「漏水がない。」とは、例えば、屋上の防水の場合等に水張り試験を行って確認することを要求しているわけではなく、漏水のない品質をプロセスでつくり込むという考えが重要である。つまり、(a)及び(b)と関連して、防水工事及びシーリング工事の施工プロセスをいかに管理するかを具体的に「品質計画」で提案させ、これを実施した結果として、防水工事の基本である漏水のない建物ができると考えればよい。
9.1.3 施工一般
(a) 施工時の気象条件
(1) 防水層の施工の良否は、施工時の気象条件に大きく左右されるので十分注意する必要がある。次の場合は施工を中止する。
(i) 気温が著しく低い場合
(A) 降雨・降雪等のおそれがある場合
(B) 降雨・降雪等のあとで、下地が十分乾燥していない場合
(C) 強風及び高湿の場合
(2) 施工時の降雨、降雪に対する処置
防水施工中、降雨・降雪のおそれが生じた場合には一時中止し、既に施工した防水層について必要な養生を行う。
(b) 施工の各段階における監督職員の検査
本来期待する防水機能は、材料と工法の選択により決まるものであるが、更には、施工段階の合理的な品質管理によってつくり込まれるものである。
したがって、使用する材料の確認だけでなく、実際の施工の各段階における適切な時期に、適切な作業が行われていることを確認することが重要である。
このため「標仕」9.1.3(b)では、防水層の施工は随時検査を行うことを規定している。
(c) 防水層施工後は、機材等によって防水層を損傷しないように注意するとともに、他の工種の作業員等が防水層に上がらないようにする。やむを得ない場合は必要な養生を行う。
表9.1.1 メンブレン防水層種別選定の目安