04節 粘土瓦葺
13.4.1 一般事項
(1) この節は、粘土瓦を使用した屋根を対象としている。
なお、平成22年版「標仕」から、12章[木工事]の「小屋組」及び「屋根野地、軒回りその他」が削除されたため、13章においても適用される下地から木造下地 が削除されている。しかし、本書の12章では、「標仕」以外の工法として、平成 19年版「標仕」の「小屋組」及び「屋根野地、軒回りその他」の仕様及びその解説を残してあること、瓦葺は木造下地に施工される場合が多いことなどから、この節では木造下地関係の記述も参考に残した。
(2) 作業の流れを図13.4.1に示す。
図13.4.1 粘土瓦葺の作業の流れ
(3) 施工計画書の記載事項は、概ね次のとおりである。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。
@ 工程表(着工及び完了の時期)
A 瓦の種類、製造所
B 施工業者及び施工管理組織
C 揚重及び小運搬計画
D 役物及び留付け用釘・緊結線・金物等の種類
E 風圧力及び地震力に対応した瓦等の留付け工法、管理の項目、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書及びその管理方法等
(4) 粘土瓦葺の施工水準の確保と施工の信頼性向上を図るため、(-社)全日本瓦工事業連盟では、「瓦屋根工事技士」資格制度を設けており、瓦屋根工事に関する知識及び技術の維持・向上、施工管理、安全管理等の能力を有する資格者を育成し、技術者の認定登録を行っている。
13.4.2 材 料
(1) 粘土瓦は、JIS A 5208(粘土がわら)により製造されたものとする。
(ア) 粘土瓦の種類、大きさ、産地等は設計図書に特記される。
(a) 粘土瓦の基本形となる桟瓦の形状及び寸法を、図13.4.2 及び 表13.4.1に示す。
図13.4.2 桟瓦の形状(JIS A 5208 : 1996)
表13.4.1 桟瓦の寸法(JIS A 5208 : 1996)
(b) 粘土瓦は、日本の三大産地として、愛知県三河地方の三州瓦、島根県の石州瓦、兵庫県淡路島の淡路瓦があるが、日本各地(原料の粘土の産する所)で土質・焼成等の特質を生かした瓦が生産されている。
(イ) 役物瓦は、使用箇所ごとにその種類が設計図書に特記される。また、雪止め瓦を使用する場合についても特記されることになっている。
J形の役物瓦の種類及びその使用箇所を、図13.4.3に示す。
図13.4.3 屋根の各部及び桟瓦と主な役物の名称
(ウ) 「標仕」では、瓦の、JIS A 5208に基づく凍害試験等を行う楊合は、特記によるとしている。JISによる凍害試験は、凍結融解及び観察の操作を1回とし、その繰返し回数は「当事者間の協定による」とされているが、一般的には、繰返し回数は 5〜10回程度であり、寒冷の程度に応じて定めた繰返し試験成績書により確認する。
(2) 瓦桟木は、瓦の掛止め用等に使用するもので、その材質・寸法は設計図書に特記される。しかし、湿気による腐朽防止のため、「標仕」12.3.1による防腐処理を施した杉を標準としている。また、それらと同等の性能を有すると認められる人工木材、金属製品等も市販されている。
(3) 棟補強用心材は、冠瓦の取付け等に用いられるもので、その材質・寸法は設計図書に特記される。しかし、湿気による廊朽防止のため「標仕」12.3.1による防腐処理を施した杉が一般的に使われている。また、それらと同等の性能を有すると認められる人工木材、金属製品等も市販されている。
(4) 瓦緊結用釘又はねじ、緊結線、棟補強用金物等
(ア) 「標仕」では、瓦緊結用釘又はねじは、ステンレス製で、胴部の形状は振動等で容易に抜けないものとし、種類、径及び長さは特記によるとされている。
また、「標仕」13.4.3 (1)では、瓦緊結用釘又はねじの有効長さの最小値は、先端が野地板厚さの2分の1以上に達する長さ又は野地板の裏面(下地)まで貫通する長さとし、特記によるとされている。
図13.4.4 瓦緊結用釘又はねじの例
(イ) 補強に使用する釘、ねじ及びパッキン付きねじは、ステンレス製とする。
なお、パッキン付きステンレスねじのパッキンは、耐亀裂性及び耐候性を有し、かつ、ねじを締めても頭部から飛び出さない材質及び形状のものとする。
図13.4.5 瓦補強用ねじの例
(ウ) 緊結線は、合成樹脂等で被覆された径1.0mm以上の銅線又は径0.9mm以上のステンレス製とする。
(エ) 棟補強等に使用する金物等は、ステンレス製又は溶融亜鉛めっき処理を行った鋼製とし、材質、形状及び寸法、留付け方法は、特記による。
図13.4.6 棟補強材取付け金物の例
図13.4.7 棟瓦の例
(5) 下葺材は、一般的に二次防水として使用されるものであり、「標仕」では、標準としてJIS A 6005(アスファルトルーフィングフェルト)に基づくアスファルトルーフィング940又は改質アスファルトルーフィング下葺材とし、種類は設計図書に特記される。
なお、緩勾配で漏水のおそれがある(J形瓦では、屋根勾配が4寸未満で流れ長さが10mを超える)場合は、防水性能の優れた「標仕」9.3.2 (1)に規定する改質アスファルトシートの使用について検討する必要がある。
(6) 葺土は、棟や壁際で冠瓦やのし瓦を安定させるために用いるもので、次による。
(ア) 「標仕」では、モルタル、山砂又は真砂土と消石灰をふのりの煮汁と適量の水で、丁寧に練り上げたものを使用するとしている。
(イ) 既調合のものを使用する場合は、信頼できる機関の試験成績書又は使用実績等により品質を確認する。
13.4.3 工 法
(1) 屋根葺材、外装材等は、建築基準法施行令第39条において「風圧並びに地震その他の震動及び衝撃によって脱落しないようにしなければならない。」と規定されている。
なお、風圧力の計算方法や風圧等に応じた取付け工法等については、(-社)全日本瓦工事業連盟等で2021年改訂版「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」等を作成しているので参考にするとよい。
(2) 下葺の工法
(ア) 下葺材を野地板等の下地に留め付ける場合、通常、タッカーを使用してステープルで留め付けるが、しわ、破れ、浮き等の損傷が生じないよう注意する。特に重ね部分については漏水が生じるおそれがあるため、施工に当たってはステープル等を必要以上に深く打ち込まないようにするなど十分な注意が必要である。
ステープルを使用しない工法には、接着工法、釘にシール用パッキンを組み合わせた工法等がある。
(イ) 棟、谷部分は、平部分に比べ変形による動きが大きく、損傷しやすいため防水性の高い下葺材(13.4.2 (5)参照)の使用についても検討することが望ましい。
(3) 瓦桟木の取付け
(ア) 瓦の取付け工法によって桟木の取付け位置が異なるため施工計画書に記載する。桟木の取付け位置は、軒瓦の出寸法及び登り寸法並びに桟瓦の働き寸法を割り付け、これに基づいて墨打ちを行う。
切妻の瓦割付けの例を図13.4.8に示す。
図13.4.8 切妻瓦割付けの例
(イ) 木材以外の下地として一般的によく行われているのは、コンクリートにパーライトモルタルを塗った下地で、下地面の仕上り精度が高く、桟木の留付けはモルタルが固まらないうちであれば、木下地用の釘が使用可能である。その施工例を図13.4.9に示す。
図13.4.9 パーライトモルタル下地の施工例
(4) 平部の工法は、「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」では、次のような方法が示されている。
(ア) 全ての桟瓦は、1本以上の釘で瓦桟木に留め付ける。
(イ) 全ての軒瓦は、上端重ね部(尻部)の2か所を釘又は緊結線で留め付け、さらに、桟山をパッキン付きステンレス鋼製ねじ若しくは緊結線で補強するか又は重ね部の端をステンレス鋼製7形釘で補強する。
(ウ) 袖瓦は、瓦の形状に応じて以下の方法で緊結する。
(a) J形瓦は、尻部の2か所を釘又は緊結線で留め付け、さらに、桟山や袖部の垂れ際をパッキン付きステンレス銅製ねじ又は緊結線で補弛する。
(b) S形瓦は、垂れ部の2か所をパッキン付きステンレス鋼製ねじで緊結し、さらに、山部(尻部)にステンレス鋼製釘等で緊結する。
(c) F形瓦で、桟瓦に垂れが付いた一体型袖については、尻部に釘1本以上と露出部の軒際をパッキン付きステンレス鋼製ねじ1本で補強する。後付け袖については、平部1か所と側面2か所をパッキン付きステンレス鋼製ねじ1本で緊結する。
(5) 棟の工法は種々の工法があるため、「標仕」では特記によるとしている。
「標仕」では、標準的な棟の工法として、7寸丸伏せ棟、F形瓦用冠瓦伏せ棟(三角冠伏棟)及びのし積み棟の三つの工法の仕様が規定されている。平成31年版「標仕」から、のし一体棟工法は、近年の生産量の減少から、削除された。
その三つの工法の例を図13.4.10に示す。
図13.4.10 標準的な棟の工法の例
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