3節 植 樹
23.3.1 一般事項
この節は、樹木の新植並びに樹木の移植工事を対象としている。
23.3.2 材 料
(1) 樹木の品質
樹木は、掘取り・出荷に耐え得るように、あらかじめ根回し若しくは床替えをしたもの又はコンテナにて栽培したものとする。「標仕」23.3.2 (1)では、原則として、栽培品を用いることにしている。ただし、栽培品が得られない場合には、植栽計画 に使用可能で、樹姿、樹勢等が優良な栽培品以外のもの(山採り樹木:山野に自生している樹木を根回し、あるいは移植養生したもの)を用いてもよい。
掘取り後、運搬に先立ち根鉢の崩れを防止するために、こも、わら縄その他有機質根巻き材料等で根鉢を堅固に根巻きをする。根の回りの土をふるい落としても植樹が可能な樹木や苗木では、種類によって根巻きを行わなくてもよい場合もある。
(ふるい堀り:休眠期間中の落葉樹を移植する場合、堀り上げてから根巻きせずに、そのまま根付け位置に運んで植付ける方法)
(2) 樹木寸法の測定方法
樹木は、原則として搬入時に確認する。ただし、特殊樹、主木等については事前に写真を提出させ又は必要に応じて圃楊(栽培地)において確認する。
株立物で、幹周の指定がない場合は、樹高(樹冠頂までの寸法)及び枝張(葉張)に重点をおくようにする。
なお、寸法には、一部の突出している枝(徒長枝:とちょうし)は含まないものとする。
「公共用緑化樹木等品質寸法規格基準(案)」による各部の寸法等の表示名称は図23.3.1のとおりであり、「標仕」もこれに準拠している。
図23.3.1 樹木の寸法表示名称
((-財)日本緑化センター:公共用緑化樹木等品質寸法規格基準(案)の解説より)
(3) 支柱材
「標仕」では、支柱材の種類は、特記による。特記がなければ、丸太とすると規定している。
(a) 丸太
「標仕」では、防腐処理方法は特記による。特記がなければ、JIS K 1570(木材保存剤)に定める加圧注入用木材保存剤を用いた加圧式防腐処理丸太材を使用すると規定している。加圧処理方法は、JIS A 9002(木質材料の加圧式保存処理方法)による。以前に用いられていたCCA(クロム・銅・ヒ素系木材防腐剤)は、環境汚染物質が含まれていることから使用してはならない。
なお、焼丸太については、衣服を汚すことが懸念されるため、鑑賞を目的とした日本庭園等の人の立ち入らない場所にて使用する。
(b)真竹
真竹は、腐れのない、真っ直ぐな2年生以上の良質なもので、適期に切り出したものとする。
(4) 幹巻き用材
幹巻き用材料、天然繊維(ジュート)製の幹巻き用テープ又はわら及びわらを粗く編んだこもが使われる。「標仕」では特記がなければ、幹巻き用テープを使用する。
23.3.3 新植の工法
植栽に当たっては、必要に応じ施工図(配植図)の提出を求め、照明灯等関連設備 との関係、樹木特性と植栽地条件との適合性、景観上の納まり等について確認を行う。
(ア) 搬 入
樹木は搬入時に、一部の樹種で用いられているふるい掘りや根巻きを必要としない低木を除き、こも、わら縄、その他有機質根巻き材料で堅固に根巻きされ、根鉢の崩れがないものとする。
(イ) 保護養生
樹木は、搬入後、速やかに植え付けることが原則であるが、やむを得ず直ちに植付けができない場合は、根鉢の保護を行ったうえ、寒冷紗やこも等による蒸散抑制及び養生期間中の散水を行う。
なお、植付けまでに長期間を要する場合は仮植えを行う。
(ウ) 植付け
(a) 植穴の位置の決定から掘削までの手順は、次のとおりである。
@ 植付けは、植栽平面図又は施工図に基づいて行うが、初めに景観の主要な部分となる高木等の位置を現場で決める。引き続き残った樹木の位置を、樹種、樹高、間隔、幹ぐせ、幹ぞりを考慮し、周囲との調和を図りながら決める。
A 高木の群植等の場合は、搬入された樹木の性質や形状等を見極め、将来の生長も考慮し、植付け間隔を調整するのが望ましい。
B 植穴の径は、通常根鉢に十分余裕のあるように掘り、穴底のきょう雑物を取り除いて底部を柔らかにほぐし、植込み用土を中高に盛り上げる。
(b) 立込みの手順は、次のとおりである。
@ 樹木は、植付けに先立ち、適切に枝抜きせん定及び必要に応じ幹巻きを行う。
A 樹木の裏・表を見極め、立込みを行う。根鉢の根巻きが厚い場合や二重巻きになっている場合は、細根と植込み用土が密着するよう根巻き材を取り除く。
B 立込み後は、必要に応じ仮支柱を取り付ける。
(c) 鉢を植込み用土で埋め戻す方法には、次の方法がある。
@ 水ぎめは、鉢を埋めながら水を注ぎ、鉢の周辺に植込み用土が密着するように細い棒で土をよく突きながら埋め戻し、これを数回繰り返して鉢を埋めていく方法で、一般的に多く使われる方法である。
A 土ぎめは、水を使わずに細い棒等で植込み用土を鉢回りに密着するように突き入れる植え方で、松類等を植え込む場合に用いられる。
(d) 水鉢の設置
立込み後、鉢を完全に埋め戻してから、樹木の根元を平らに均す。水鉢は、鉢の外周に土を盛り上げ、この中にかん水を行う(図23.3.2参照)。
図23.3.2 水鉢
(エ) 支柱の取付け
支柱の形式は、特記による。
支柱は、風による樹木の倒れや傾きの防止とともに、振動によって新しい根が切られることのないよう保護のために取り付けられる。根部が正常に活着するまで(通常 3〜 4年程度)取り付けておくが、街路や屋上庭園等で風が強く当たる空間や、根が十分に張れない場所は保持を統ける。
@ 支柱の取付けは、「標仕」23.3.3(4)並びに図23.3.3から図23.3.5のように行う。支柱の基部は、地中に埋め込み、根杭を設け、釘留め、鉄線掛け等で容易にぐらつかないよう堅固に組み立てる。ただし、島居形は打込みとする。樹幹(主枝)と支柱との取付け部分は杉皮等を当て、しゅろ縄掛け結束とし、丸太相互が接合する箇所は、釘打ちのうえ鉄線掛け又はボルト締めとする。真竹は先端を節止めにして使用する。
支柱(控木、ワイヤ掛け形、地下埋設形等)と樹木の幹周との関係の目安を、表23.3.1に示す。
なお、表はあくまでも目安であり、必要に応じて風荷重を考慮して支柱の形式・形状を決定するものとする。
A ワイヤ掛けには鋼線、被覆鉄線があるが、三〜五方に緩みが出ないように張り、活着後は次第に緩める。ワイヤは目に付きにくいため接触事故を起こしやすいため、危険性がある場合は塩ビ管等をかぶせて事故を防止する。ワイヤの太さ及びアンカーは樹木転倒の風荷重計算を行い、風荷重に耐えうる力が得られる形状・寸法のものとする。
B 地下埋設型
地下埋設型支柱には、大別して支持アンカーを横向きにして打ち込むタイプと鉛直に打ち込むタイプがあり、植栽箇所周辺の構造物、埋設物を調査し、樹木寸法を考慮のうえ、その機能が十分働くものを使用し、樹木の生長に合わせて調整する。
C 維持管理
支柱設置後は、幹や根鉢を締め付けることのないよう、樹木の生長に合わせて調整又は撤去する必要がある。
表23.3.1 支柱形式と使用区分の目安
図23.3.3 支柱形式(建築工事標準詳細図より)
図23.3.4 地下埋設型(参考図)
図23.3.5 根鉢固定方式型(参考図)
(オ) 樹幹の保護矯正
樹幹の保護や向き、曲がりを矯正する場合は、取付け部分にしゅろ縄などを巻き、こずえ丸太や竹の添え木等を結束する。設置後は、幹を締め付けることのないよう樹木の生長に合わせて調整又は撤去する必要がある。
(カ) 幹巻き
幹巻きは、移植後の樹木の幹から水分の蒸散と幹焼け(樹皮組織が破壊されて死滅すること)防止と防寒のため、わら、こもや緑化テープを樹幹、主要枝に、巻き付けることである。
(キ) 防寒対策
厳寒期に常緑広葉樹を植栽せざるを得ない場合は、寒冷紗等による防寒対策を行う。
(ク) 花木植栽の留意点
多彩な花色を有する花木は、設計意図を把握し各樹種のもつ特色と開花期、花色、さらには周囲の景観に十分調和するよう考慮し、より美的効果が発揮できる配植とする。
(ケ) 植付け後の養生
植付け後、完成引渡しまでの期間は、定期的に樹木の状態を観察し、必要に応じて、かん水、病害虫防除、整姿せん定(枯死枝の除去)を行う。
23.3.4 新植樹木の枯補償
(1) 枯補償の期間
「標仕」23.3.4 (1)では、新植樹木の枯補償の期間は、特記がなければ引渡しの日から1年としている。
(2) 枯補償の判定
(ア) 「標仕」23.3.4 (2)の「枯死、枝損傷、形姿不良等となった場合」とは、図23.3.6に示すように、植栽した時の状態で、枯枝が樹冠部の概ね2/3以上となった場合又は真っ直ぐな主幹をもつ樹木については、樹高の概ね1/3以上の主幹が枯れた場合をいい、今後、同様の状態となることが予想されるものも含む。
図23.3.6 枯補償の判断(造園施工管理(技術編)より)
(イ) 「標仕」において、枯補償の対象から除外されている「天災その他やむを得ないと認められる場合」とは、異常気象による干ばつ、土砂災害、盗難や人為的な損傷による枯死等を想定したものである。
(ウ) 維持管理
(a) 一般的に、植栽については、施設の管理者により通常の管理が行われることを前提としている。
(b) かん水等、管理者による通常の管理が明らかに困難な場合は、管理官署、受注者等、設計担当者(国土交通省の場合は計画担当者を含む。)、監督職員等の関係者間で協議し、適切な処置を定めておくとよい。
23.3.5 樹木の移植
(1) 樹木の移植は、樹木を掘り取って直接目的地に植え付ける場合と、根回し(細根の発生を促す処理)後一定期間養生した後、目的地に植え付ける方法がある。大径木や貴重な樹木を移植する場合は、事前に根回しを行うことが望ましい。
工期や現場条件等の関係から根回しができない場合は、移植の時期、枝抜きの程度等について、よりきめ細かい検討が必要である。
なお、移植時期が極めて悪い場合は、移植時期や樹種変更等について検討する。移植の適期は、概ね次のとおりである。
(ア) 暖地(暖温帯に位置する北陸・関東地方以西)では、常緑針葉樹は10月から
4月上旬、落葉樹は11月から3月までが適期であるが、厳寒期は避ける。
常緑広葉樹は、3月末から入梅頃まで及び9月中旬から11月上旬までが適期である。
(イ) 寒地(冷温帯に位層する北海道・東北地方)では、暖地よりも春期は1〜2箇月遅くし、秋期は早くするように調整する。
(ウ) 主な樹木の移植の難易度について、表23.3.2に示す。
表23.3.2 移植難易度の例(造園施工管理(技術編)より)
(2) 整姿せん定
移植は地下(根)部を大きく減少させることから、地下部と地上(枝葉)部の水バランスをとるため、樹種特性や樹木の状態に応じて適切に枝抜きを行う必要がある。枝抜きの程度は、移植の時期、根の状態、運搬等を考慮して決定する。
太枝の切断面は、殺歯剤を塗布するなどの腐朽歯の侵入防止対策が必要である。
(3) 根回しには、次のような方法がある。
(ア) 溝掘り式は、幹の根元(接地部)径の3〜5層程度の鉢径を定め、支持根となるべき太根を残して掘り下げる。支持根は三〜四方にとり、他の根は、根鉢に着って鋭利な刃物で切断する。残した支持根は10〜15cmの巾で環状はく皮し、鉢底にも直根があれば断根する。
太根の処理が終わった後、粗めに根巻きを行い、掘り上げた良土で埋め戻す方法である(図23.3.7参照)。
(イ) 断根式は、溝掘り式と同様に鉢径を定め、鉢回りを掘り同して側根だけを切断し切り離すだけの方法で、モッコク、キンモクセイ、サザンカ、ハナミズキ等の比較的浅根性又は非直根性の樹種と幼木に行う方法である。
図23.3.7 溝掘り式根回し
(4) 掘取り、根巻き
根鉢の大きさは、根回しを行った樹木は元鉢径よりやや大きめに、直接に移植する樹木は、根元幹径の3〜5層程度の鉢径を定め、幹を中心に円形に掘り回す。根鉢の側面に現れた根は、鉢に着って鋭利なガ物で切断する。
根巻きの方法には、鉢に平行に素縄をたたき込みながら巻いていく「樽巻き」と、樽巻きを行った後、さらに、縦横に鉢をかがるように巻き上げていく「揚巻き」がある。大径木や貴重な樹木を掘り取る場合は、鉢土にじかに縄で樽巻き又は揚巻きを行った後、さらに、わら、こも、緑化テープ等で二重に根巻きを行う(図23.3.8参照)。
図23.3.8 根巻き
(5) 運搬時の保護養生
運搬は枝葉、幹を痛めないように積み込み、夏期に乾燥のおそれがある場合は、根鉢にこもをかけるか散水をするなどの手当をし、枝葉、根鉢をこも、シート等で覆い乾燥防止や蒸散抑制を図る。場合によっては蒸散抑制剤を散布するなどの処理を行う。
(6) 植付けについては、23.3.3(3)を参照する。
23.3.6 移植樹木の枯損処置
移植は、発注者が指定する樹木を根回し又は直接目的地に植栽する一連の作業である。
したがって、引渡し後(特記がなければ1年以内)に移植樹木が枯れた場合でも、その原因が不適切な移植作業にあるといえないため、全ての責任を受注者等のみに求めるのは適切でない。このため、「標仕」では樹木の枯補償は求めず、枯損処置としての伐採・抜根及び良質土による埋戻し並びに整地としている。
なお、発生した残材は速やかに搬出し処分する。