01節一般事項
11.1.1 適用範囲
この章は、通常の建築の内壁、外壁及び床の表面に、仕上材として陶磁器質タイルをセメントモルタル又は接着剤を用いて手張りで施工する陶磁器質タイル張り工事、コンクリートの型枠にタイルを仮付けし、建築現場でコンクリートを打ち込む陶磁器質タイル型枠先付け工事に適用する。
11.1. 2 基本要求品質
(a) タイル工事に使用する材料としては、仕上げ材としてのタイルと張付け用材料が主なものである。このうちタイルについては、一般的な品質はJISによることにしている。また、タイルの寸法については、JISによって標準的なものが定められているが、実際の工事に当たっては、タイル割りによって若干タイルの寸法を調整することがある。この場合にあっては、指定寸法に対する許容寸法を定めるときに該当するJISの規定を適用する。タイル製品については、(-社) 公共建築協会の「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」により評価がなされており、この結果を活用するとよい。
タイル以外の材料にあっては、指定されたJISに適合することの証明を材料製造所から提出させる。JISの指定されていない材料にあっては、設計図書の指定材料であることの確認のほか、材料製造所から実績を証明する資料を提出させることによって確認するとよい。
(b) タイル工事の仕上り面は、タイルと目地によって構成され、タイルの寸法や施工方法等により異なるものとなっている。
「標仕」11.1.2 (b)でいう「所定の形状及び寸法を有する」とは、材料としてのタイルの形状や寸法でなく、タイル面の仕上り状態として、タイル寸法のばらつきによる目地の通りの精度をどのように計測し、判断するかを提案させ、実施させることと考えればよい。
(c) タイル工事の完成した状態としては、下地であるコンクリート躯体とモルタル層及びタイルが一体となっていることが最も望ましいものであるが、適切な施工方法で施工した場合であっても、「標仕」11.1.5(b)に定める打診による確認を行うと、タイル面に浮きを発見することがある。「標仕」11.1.2(c)でいう「有害な浮き」とは、下地モルタルがタイル数枚分浮いているものと考えればよい。この場合の対応としては、浮きの認められるタイル部分の目地にカッターを入れタイルを撤去し張直しを行うか、浮き部分にエボキシ樹脂等を注入する方法等により、補修を行う必要がある。
これに対して、例えば、タイル1枚の一部分のような部分的な浮きの場合、タイル張付け後どの程度の時間が経過したかによるが、これが直接はく落につながることは少なく、無理に補修しようとすれば、タイル張り撤去に伴う振動や注入時の圧力により、周囲の健全部分に対してはく離を誘発するおそれがある。このような場合は、施工後相当時間経過したのちに状況を再度確認し、必要な処置を施すなど適切な保全を行うことが重要となる。
打診による確認により浮きが認められた場合、その浮きが有害な浮きであるかどうかは、タイルの形状、寸法、施工方法、建物の部位等を勘案し総合的に判断することになるが、「品質計画」においてその限度を定めておくようにする。
11.1.3 伸縮調整目地及びひび割れ誘発目地
(a) タイル仕上げ面には、乾燥及び湿潤、日射等による温度変化.地震等の外力により、ひずみが生じる。このひずみによる力が各材料の層間の接着強度を上回るとはく離が生じるので、タイル張り面の適切な位置に伸縮調整目地を設けることで、タイル面のはく離の拡大を低減する必要がある。
また、躯体及び下地モルタルにひび割れが生じると、タイル面にもひび割れが生じ、タイルの接着性能にも悪影響を及ぼすことがあるため、これを防止するためにも躯体にひび割れ誘発目地を設ける必要がある。
このため、「標仕」6.8.2及び「標仕」11.1.3では、下地のひび割れ誘発目地、タイル型枠先付けのひび割れ誘発目地及びタイル面の伸縮調整目地の規定を設けている。「標仕」11.1.3(a)の「なお書き」は、ひび割れ謗発目地、打継ぎ目地及び構造スリットの位置に伸縮調整目地が設けられていなかったことが原因で、タイルにはく離が生じ落下事故が起こったことにより追加されたものである。したがって、「標仕」より上位の設計図書で伸縮調整目地設置の指示がない場合(「特記がない場合」)においても、ひび割れ誘発目地の位置には、必ず伸縮調整目地を設けなくてはならないということを述べている。
一方、ひび割れ誘発目地がない場合の伸縮調整目地については、効果があるという考え方と意味がないという考え方の両論があるが、一般的には前者の考え方で設計される場合が多い。したがって、伸縮調整目地の位置には、ひび割れ誘発目地がない場合もある。
なお、ひび割れ誘発目地及び伸縮調整目地の位置は,タイルの割付けを考慮して設計される。
(b) 「標仕」では、ひび割れ誘発目地及び伸縮調整目地の位置は、特記によることとしている。特記のない場合の標準的なひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)の位置を図11.1.1及び2に示す。
図11.1.1 標準的なひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)の位置
(外部側に柱形がある場合)
図11.1.2 標準的なひび割れ誘発目地(伸縮濶整目地とも)の位置
(外部側に柱形がない場合)(その1)
図11.1.2 標準的なひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)の位置
(外部側に柱形がない場合)(その2)
外部側に柱形のない場合には、特記により図11.1.3に示すような位置にひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)が設けられることがある。これは柱心からある程度離れてひび割れ誘発目地を設けると、斜めひび割れの防止に有効であるという考え方があるためである。
図11.1.3 特記によるひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)の位置の例
(c) 屋内のタイル張りにおいては、入隅部では躯体及び下地モルタルの動きにより、また、建具等の他部材との取合い部では、タイルと他部材との挙動が異なるため.タイルに大きな力が作用する。このため、これらの部分には伸縮調整目地を設ける。
(d) ひび割れ誘発目地及び伸縮調整目地の詳細例を図11.1.4〜6に示す。
図11.1.4 陶磁器質タイル張りのひび割れ誘発目地及び伸縮調整目地の例
図11.1.5 陶磁器質タイル型枠先付けのひび割れ誘発目地及び伸縮調整目地の例
図11.1.6 垂直伸縮調整目地の例
(e)下地材料が異なる場合には、挙動が異なるため伸縮調整目地を設け、ひび割れの発生を防ぐ。意匠上、不適当な位置ならば設計担当者と打ち合わせる。
11.1.4 あと張り工法施工前の確認
(a) モルタル塗り面の下地コンクリートからの浮きの原因には、次のようなものがあり、(1)〜(3)の例が多い。
(1) 下地表層の強度不足による表層破壊(硬化不良、レイタンス等)
(2) 下地面の清掃の不足による接着不良
(3) 下地面の水湿しの不良によるモルタルの硬化不良
(4) 施工時の養生不足による硬化不良(直射日光等による急述な乾燥、寒冷期の保温加熱等の不良)
(5) モルタルの塗厚の過大による収縮
(6) 長期にわたる下地の変形(躯体膨張、収縮、ひび割れ)
(b) モルタルの浮きの検査は、テストハンマー、木づちの類で塗り面をたたき、打撃音によって判断する。一般に正常音(高く、硬い音)であれば浮きがなく、異常音(響くような大きな音)であれば浮きがある。
(c) モルタルの浮きの補修方法には次のようなものがある。
(1) 一般には、浮いている部分をはつり取ってモルタルを塗り直す。はつり方によってはかえって浮きが進むおそれがあるので、カッターで浮いている箇所の周囲を切断し、絶縁してからはつる。
はつったのちは、ワイヤブラシ等で十分に清掃し、水湿しを行ってセメントペーストを塗り、次の工程にかかる。
(2) 補修方法には、(1)のほかアンカーピンニングエポキシ樹脂注入工法、アンカーピンニングポリマーセメントスラリー注入工法等があるが、これらは主として改修工事に採用される場合が多い。特にエポキシ樹脂は、湿潤状態の箇所では接着不良を起こすので、湿潤用のものを使用する。
11.1.5 施工後の確認及び試験
(a) 外観の確認
タイル張り面は、目を近づけて見るだけではなく、離れたところから施工面全体を眺めて、色調・仕上り状態・欠点の有無等を判断することが重要である。限度見本がある場合は、ばらつきがこの限度見本の範囲内であることを確認する。
タイル張り面は、目地の通りが基準となって不陸等がよく目立つ。外観を見て見苦しい段差・目違いがあってはならない。また、目地の深さと目地幅の不ぞろい及び目地切れは好ましいことではない。目地深さが深い場合、将来の故障につながりやすい。また、目地材の水密性を確保するためにも、目地切れがないことを確認する。
(b) 打診による確認
(1) タイルの施工面については、不陸・目違い、ひび割れ等の目視確認を行うとともに、「標仕」11.1.5 (b)により、屋外、屋内の吹抜け部分等のタイル張りは、全面にわたり、打診による確認を行う。打診は張付けモルタル硬化後で、かつ、足場の残っている期間に行うのがよい。
(2) 打診は、図11.1.7に示すような打診用ハンマーを用いて行う。
鋼球型テストハンマー
図11.1.7 打診用ハンマー
(3) 打診の結果、浮きやひび割れが発見され、それが打害と判定される場合は、国土交通省大臣官房官庁営繕部「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)」により適正な方法で処理する。有害か否かの判定が困難な場合は、定期的に状態を観察して経時変化を確認し、危険度を勘案して判断するのがよい。
(4) 有機系接着剤を用いたタイル張りは、くし目ごてで施工することからタイルと接着剤とが隙間なく密着しているわけでなく、施工不良でなくてもタイルについて1枚の中で部分的に浮き音がすることがある。その場合は、浮き音がするタイルについて打診による確認を行い、 タイル1枚の中での浮き音が発生する割合を考慮して合否を判定する。判定が困難な場合は、タイルをはがして、接着状態を確認するとよい。
(c) 接着力試験
(1) 外装タイル張とり及び屋内の吹抜け部分等の環境条件の厳しい部位やはく落による危険度が高い部位についての接着力試験は、原則として、監督職員が立ち会う。ただし、通常の腰高と天井高の内壁や床のタイル張りのように、はく落による危険が少ない部位や、建物周囲こ植込等が設けられ、人が壁面等に近づけないような場合等安全上の配慮がなされている場合は、接着力試験を省略することができる。
(2) 試験体
(i) 試験の時期は、施工後2週間以上経過してから実施するのが一般的であるが、セメントモルタル張りの場合、夏期では1週間程度で強度が出るので「標仕」では強度が出たと思われるときとしている。ただし、試験を行うまでは足場を外せないので、他工事との工程の調整に注意する必要がある。
試験体は、タイルの周辺をカッターでコンクリート面まで切断したものとする。これはタイルのはく落がタイルだけではなく下地のモルタルからはく落することが多いので、この部分まで試験するためである。
なお、アタッチメントの大きさは、図11.1.8のようにタイルの大きさを標準とする。アタッチメントに合わせてタイルを切断すると誤差が大きくなるおそれがあるため注意が必要である。
ただし、二丁掛けタイル等小ロタイルより大きなタイルの場合は力のかかり方が局部に集中し、正しい結果が得られないことがあるので、小ロタイル程度の大きさに切断する。
(ii) 試験体の個数は「標仕」11.1.5(c)(ii)により3個以上、かつ、100 m2ごと及びその端数につき1個以上として、壁面全体の代表となるよう無作為に選ぶ。
(3) 試験機は、建研式引張試験機(図11.1.9)のほか、日本建築仕上学会認定の油圧式簡易引張試験器(図11.1.10)が開発されており、後者の方が軽量であるためアタッチメントや試験機の質量によって破断することが少なく、低強度まで測定が可能であり、普及している。
図11.1.8 接着力試験の状況
図11.1.9 建研式引張試験機
図11.1.10 油圧式簡易り張試験器
(日本建築仕上学会認定)
(4) セメントモルタル張りの場合の試験結果の判定については、引張接着強度のすべての測定結果が 0.4N/mm2以上の場合を合格とする。この引張接着試験は、施工品質を確認して、施工不良を排除することが主たる目的の試験である。昨今のタイル張りのはく離故障は、コンクリート下地と下地モルタルの接着界面が支配的になっている。このことを踏まえて、コンクリート下地の接着界面における破壊率の上限値が50%に設定された。
不合格が生じた場合には、該当するタイル施工部分の全面に対して、再び(2)(ii)に進じて試験を行う。不良部分については目地部を切断して、再施工しなければならない。
(5) 接着剤張りの場合には、接着剤層の破壊状態に基づいて合否を判定し、引張接着強度は参考値とする。一方、下地モルタル及びコンクリートに起因する破壊状態が主である場合には、セメントモルタル張りと同様に引張接着強度と破断状態で合否を判定する。
破壊モードの分類を図11.1.11に示す。タイルと接着剤の間の未接着は、くし目の谷部やタイル裏あし部に接着剤が充填されていない場合に生じる状態であり、接着剤とタイルの界面破壊と同一と判断する。
なお、接着剤の塗残し部分等の接着剤が塗付されていない部分も界面破壊と判断する。
図11.1.11 引張接着試験における破壊モード(JASS 19より)
合否判定のフロー図を図11.1.12に示す。凝媒破壊モードが T + A ≧ 50%(タイルの凝集破壊率と接着剤の凝集破壊率の合計が50%以上の場合)を合格とする。破壊モードがAT + MA> 50%(接着剤とタイルの界面破壊率及び下地モルタルと接着剤の界面破壊率の合対が50%を超える)ならば接着剤の界面破壊が主であり不合格とする。この条件に当てはまらない場合としては、下地の破壊が混在する場合がある。破壊モードがT + A< 50%、かつ、AT + MA<50%、かつ、M + CM + C ≦ 25%(下地モルタルの凝集破壊率、下地モルタルとコンクリートの界面破壊率及びコンクリートの凝集破壊率の合計が25%以下であれば、接着剤及びタイルの凝集破壊( T + A )が主と考えられるため、合格とする。破壊モードが T + A < 50%、かつ、AT+ MA < 50%、かつ、M + CM + C > 25%(下地モルタルの凝集破壊率、下地モルタルとコンクリートの界面破壊率及びコンクリートの凝集破壊率の合計が25%を超える)であるなら、下地の破壊比率が高いためセメントモルタル張りと同様に、下地モルタルとコンクリートの界面破壊が50%以下、かつ、引張接着強度が 0.4N/mm2以上の場合を合格とする。
図11.1.12 合否判定フロー(JASS 19より)
(d) 検査及び接着力試験の記録は保存して、維持保全時の判断資料として役立てるとよい。
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