工事現場溶接B
【 溶接禁止範囲 】
仕上工事、設備工事などに付随する工事現場溶接を行う場合の注意事項
内外装工事や設備工事の下地として必要な金物等は原則として工場製作の時に設置する必要がある。しかし、止む得ず、鉄骨本体に取り付けるために工事現場溶接が行われることもある。これらの溶接は十分に管理された中で行われる必要がある。
例えばショートビードや溶接欠陥は、母材(構造体)の性能に悪影響を及ぼす原因となる。
公共建築工事標準仕様書(平成28年版)の「7.6.9 関連工事による溶接」には、
『関連する工事のため、金物等を鉄骨部材に溶接する場合は、母材に悪影響を与えないように、表7.6.1に示す最小ビード長さを遵守するとともに、必要に応じて予熱等の処置を行う。なお、溶接は、7.6.3による技量を有する溶接技能者が行う。』
とある。
公共建築工事標準仕様書 7.6.3による溶接技能者
•手溶接の場合は、JIS Z 3801に示す試験等による技量を有するもの
•半自動溶接の場合は、JIS Z 3841に示す試験等による技量を有するもの
特に、大梁端部のように大地震時に塑性化する可能性がある部位や冷間成形角形鋼管のコーナー部等のように塑性変形した部位、また応力集中が起きやすい部位などには、これらの溶接は避けることが望ましいといえる。 やむを得ず、これらの部位に金物を取り付ける必要がある場合は、
@構造体に直接工事現場溶接をすることの無いように、捨てプレートなどを製作工場で取付ける
A溶接方法、溶接材料や溶接技能者の資格を明確にし、十分に品質管理された中で作業を行う
等の計画を立て、設計者・工事監理者の承認を受ける
なお、鉄骨工事技術指針では、軽微な溶接といえども、溶接技能者は原則として、JASS6の5.4「溶接技能者および溶接オペレータに規定する溶接技能者のうち、少なくとも基本となる級(下向き)の有資格者とすることを求めている。
尚、塑性化が想定される領域とは一般に、材端からL/10又は2d以上までの部分程度。(L:梁の長さ、d:梁せい)
出典:公共建築工事標準仕様書(建築工事編)(平成28年版)
(一社)日本建築学会_鉄骨工事技術指針・工事現場施工編、2018
【 アーク光障害 】
溶接時のアーク光による目や皮膚にどのような障害
溶接時のアークは、目に見える可視光と目に見えない紫外線および赤外線を発生する。その中で、特に目に有害な光は、紫外線(200~380nm)および可視光の青光(400~570nm)である。
・紫外線による障害 :
電気性眼炎。角膜の表層部に障害を与え、目に異物が入った感じになり、涙が流れ、まぶたの痙攣を伴った急性症状が数時間後に現れ、48時間程度で消滅する。皮膚に受けると日焼け同様の水脹れの症状となる。
・青光による障害 :
網膜障害。視力低下、視野の一部が見えなくなる、かすんで見えるなどの 症状が数週間から数ヶ月続く。
これらの障害を避けるために、適切な遮光保護具(保護面と保護めがね)を使用する必要がある。保護面のプレート、めがねレンズの遮光度番号は、遮光保護具のJIS規格に記載されている 使用標準を参考に選択する。例えば、100A~300Aのガスシールドアーク溶接を行う場合は遮光度番号11か12を使用する。
【 溶接作業影響 】
溶接作業が人体に与える有害な影響
溶接作業では、ヒュームやガスによる呼吸器障害、アーク光による眼炎・皮膚障害、スパッタなど による火傷、感電による死亡災害などが懸念される。
溶接作業の際の危険・有害要因と人体への影響および防止するための保護具
溶接技能者はもとより溶接技術者、施工管理者も適切な保護具を使用し、自ら身を守ることが必要である。
注) 人体への影響ではないが、溶接がペースメーカーに与える影響も注意が必要である
出典:溶接・接合技術総論 産報出版
【 開先防錆範囲 】
開先の防せい(錆)塗装の範囲
開先防錆塗装は一般の下塗りとは目的が異なり、溶接開始までに開先部にさびを発生させないために行う。
その範囲は、おおよそ開先部から50mm程度で、裏当て金の付く面も同様である。 開先防錆塗装は特にはがすことなく溶接されるので、あまり厚く塗るとブローホールが発生することがあるので注意が必要である。
塗膜厚は一般的には5~7μm程度が良いとされている。
また、一般の下塗りに比べると耐候性に劣るので、開先防錆塗装された状態で長期間保管する間に発せいすることがある。 このような製品を保管する場合は、劣化した塗膜とさびを十分に除去してから再塗装する必要がある。溶接する前でも塗膜が劣化していればさびとともに充分に除去することが必要である。
この開先防錆塗装は開先部が発せいしていないことを確認してから行うが、そのことを確認するために透明度の高い色を指定される場合もある。
※クリア/シルバーのどちらとするかは設計者・工事監理者に確認する
出典:(一社)日本建築学会_鉄骨工事技術指針・工事現場施工編(2018)
【 CFT柱等への後溶接 】
コンクリートが充填されたCFT柱への鉄骨ピース等の溶接による熱影響
高温加熱が高強度コンクリート( 70 N/mm2:加熱時材齢91日)の圧縮強度およびヤング係数に及ぼす影響についての研究1)によると、
@圧縮強度については300°Cまでは常温と同程度の強度を示す
Aヤング係数については100°Cまでは常温と同程度の係数値を示す
つまり、加熱温度が100°C以下であれば高強度コンクリートの力学特性は常温時と変わりないと考えてよいといえる。
加熱温度と圧縮強度および
圧縮強度残存比
加熱温度とヤング係数および ヤング係数残存比
また、コンクリートが予め充填されたCFT柱を工事現場溶接(柱継手および柱・梁仕口)する場合の、 溶接熱がコンクリートに与える影響についての研究2)によると、
柱形状:︎-600x600x32(BCP325)、梁フランジ:t=32mm、ダイアフラム:t=32mm、 充填コンクリート:50N/mm2、パス間温度:250°C、300°C、350°C、連続溶接の4種類、
という溶接条件下で、
@コンクリートの最大温度はパス間温度の上昇に伴い高くはなるが200°C以下である。
Aコンクリート温度が100°Cを超える範囲は、パス間温度に限らず溶接部からの鉛直・奥行 方向の距離が100mm~135mm程度以下に限定される。(溶接線に沿った方向は別)
B最高温度に近い領域では、コンクリートの温度は鋼材裏面の温度よりも平均的に50°C 程度低くなっている。
という結果が得られている。
当然、検討対象の構造物の板厚等の溶接条件が異なれば、上述の結果をそのまま用いることはできないが、こうした既往の研究結果をもとにコンクリートに生じる最大温度等を推定することができる。 溶接を行う場合は鋼材表面の温度管理の条件を定め、溶接によるコンクリートへの影響を最小化する方法を示し、工事監理者と協議の上、承認を得る必要がある。
出典:
1)「高温加熱を受けた高強度コンクリートの強度回復」
(コンクリート工学年次論文集、VOL.25,NO.1,2003)
日本建築学会学術講演梗概集 2000年9月
2)「プレキャストCFT柱(Pca-CFT)接合部に関する研究 その6、その8」
(日本建築学会学術講演梗概集 2000年9月)
【 溶接順序 】
3層1節の場合の柱、梁の高力ボルト本締め及び工事現場溶接の手順
通常は、下記に示す手順で高力ボルト本締め、溶接作業が行なう。
@柱継手部の溶接は、柱継手部のエレクションピースの本締めを行い、その柱(節)の最上階梁の高力ボルト本締め完了した後に実施する。
A柱-梁継手もしくは梁-梁継手で、ウェブ高力ボルト接合、フランジ溶接接合の混用継手の場合は、ウェブの高力ボルト本締め終了後に、フランジの工事現場溶接を行なう。
高力ボルト本締めと工事現場溶接の基本的な施工順序
出典:鉄骨現場溶接の基本と監・管理(JSSCテクニカルレポート1998)
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