食の戦争 米国の罠に落ちる日本 (文春新書) [ 鈴木 宣弘 ] 価格:902円 |
■はじめに
「今だけ、金だけ、自分だけ」は、最近の世相をよく反映している。目先の自分の利益だけしか目に入らない人々が多すぎる。しかも、国民の幸せでなく、目先の自分の利益しか見えない政治家や、人の命より儲けを優先する企業の経営陣が国の方向性を決める傾向が強まっている。
物事には、いくつもの側面がある。自分に都合の良い側面のみに基づいて主張を展開すれば、信用されないように思われる。しかし、多くの場合は、意識的なのか無意識のうちになのかはともかく、各自の利害に基づいた偏った見方が、「正論」として、まことしやかに主張される。・・・
それぞれの立場の人々が、自分たちの目先の利益だけで議論をぶつけあっても、かみ合わないし、・・・皆、自分たちの目先の利益のみに、目を奪われ、支え合う気持ち失い、やがては、全体が沈んでいって、そこで初めて気づくかもしれない。しかし、そのときではもう遅いのであろう。我々が直面している日本の現実には、悲しいが、そのような危うさを感じる。とりわけ「食」をめぐる日本の現状は危機的だ。
「今だけ、金だけ、自分だけ」というフレーズは、池田整治氏の『今、「国を守る」ということ』(PHP
研究所、2012年)よりヒントを得たことを申し添えておく。
(池田整治氏の離間工作の罠はオススメ)
■戦略物資としての食料の認識の乏しさ(P15)
世界的には、「食料は軍事・エネルギーと並ぶ国家存立の三本柱」だと言われているが、日本では、戦略物資としての食料の認識もまた薄いといわざるをえない。
2008年の食料危機では、トウモロコシを主食とするエルサルバドルが食料危機に陥ったのはもちろん、コメを主食とする中米のハイチ、フィリピンでは、お金を出してもコメが買えなくなり、ハイチなどでは死者が出る事態となったのである。なぜそうなったのかと言えば、アメリカの食料戦略のもと、主要穀物をアメリカからの輸入に依存する状況ができあがっていたからである。つまり、もともとはコメの有数の生産国でありながらコメの関税を極端に低くして輸入促進したため、コメ生産が縮小してしまっていた。さらに各国の輸出規制でいざという時にコメを輸入しようと思っても、対応ができなかったからである。このように、アメリカが他国の関税を削減させてきたことによって穀物を輸入する国が世界的に増えている。
■知られざるBST(牛成長ホルモン)P68
実は、アメリカから輸入される乳製品には、日本では認可されていない遺伝子組み換え技術によって作られたrBSTという牛成長ホルモンが入っている。BSTは本来は牛に自然に存在するものであるが、これを大腸菌で培養して大量生産し、乳牛に注射をすると1頭当たりの牛乳生産量が20%程度増加するということで。牛乳生産の効率化として登場した。
rBSTを注射された牛からの牛乳・乳製品には、がんのが発現率が高くなると1998年に「サイエンス」「ランセット」の両誌に論文が発表されている。
■アメリカの「攻撃的」食戦略(P167)
アメリカをはじめとるる輸出大国は食の競争力があるから食の輸出国になっているのではなく、国をあげての食料戦略と手厚い農業保護のおかげである。