続・孤独のすすめ 人生後半戦のための新たな哲学 (中公新書ラクレ) [ 五木寛之 著 ] 価格:858円 |
いざという時、国民を団結させるのに最も効果的なのも、憎悪の感情です。国内に、権力に対する不満のエネルギーが充満してきた時、他に叩くターゲットを提供する「ガス抜き」の手段としても、それはよく利用されます。
日露戦争を目前に控えた時期、日本人は、敵の国民を「露助」と呼びました。そこに込められたのは、敵国民に対する、軽蔑、憎悪の感情にほかなりません。
日中戦争、太平洋戦争では、もう開戦の十年も前から、軍が主導した「時局講和会」が全国津々浦々で開かれていました。そこでは、日本民族の優秀さ、その行く手を遮ろうとする「鬼畜米英」に対する連合国に対する憎悪の念が、これでもか、と刷り込まれたわけです。
それは、日々苦しくなっていく生活に対する国民の不満を「外」に向けさせるうえで、極めて重要な役割を果たしました。
実は、私がひそかに憂えているのは、そのシナリオなのです。
確かに今現在「革命」の予兆は感じなれません。でも、月日を重ねて社会の奥底でたまったマグマが、時として想像もしなかった地殻変動をもたらすことを、歴史は教えています。(p111)
■「マスメディアが世論をリードする」というのも常識です。しかし、戦時中の経験からして言わせてもらると、その「常識」は怪しい。
あの時期新聞は、好戦的な大見出しを掲げれば掲げるほど売れました。国民が、そのニュースを「欲した」からにほかなりません。「需要」に応えて、新聞社はさらにデカデカと、「わが軍、大勝利す」の大本営の発表を載せるようになりました。
マスコミと世論とは「相補的」な関係にあるのです。「常にメディアがリードする」と考えるのは、私に言わせれば幻想にほかなりません。
新聞もテレビも、「ビジネス」であることは、昔も今も変わらないのです。購読部数や視聴率は、彼らにとって生命線です。市場調査の結果、「これがプラス」という話になれば、それが論調に影響を与えることはビジネスとしては、当然です。(P114)
■自分が今どこにいて、とりあえず向かっている方向が東なのが西なのかの認識は、常にしっかりと持っていなくてはなりません。それなしに、ひたすらリーダーや周囲に言われるまま歩くようなことをすれば、戦前の轍を踏む可能性が、なきにしもあらずののです。(P64)
■アメリカの環境問題対策は、今後もうまくいかないと思うのは、根本にある思想が人間中心主義だからです。これ以上自然を壊すと人間の生活の支障が出るから手加減しよう、という発想では環境問題は解決しません。
これからの世界で必要なのは、日本の仏教の中で言われる「草木国土悉皆成仏」や「山川草木悉有仏性」のような発想だと思います。木にも草にも山にも岩にも命があり、仏性という尊いものが潜んでいるというアニミズム的な考え方。・・・ 宗教の歴史は5000年。その背景には50万年のアニミズムの世界があるのです。(P122)