ドイツ人はなぜ、年290万円でも生活が「豊か」なのか (青春新書インテリジェンス) [ 熊谷 徹 ] 価格:1,012円 |
■ドイツの店や企業は日本ほど顧客へのサービスに時間をかけない。日本と違って、ドイツではサービスは有料だ。このため、人々は業者などに頼らず、ならべく自分で行ったり、友人の手を借りたりすることによって、費用を節約する。
客は商品やレストランでも良質なサービスを期待しない。つまり人々のサービス期待度が低いのだ。これは一見。ホスピタリティに欠けたギスギスした社会に思えるかもしてないが、利点もある。人々の働く時間が短くなり、過剰な負担がかからないようになっているからだ。過剰サービスをやめれば、商品やサービスの値段も安くなる。
つまり、社会が過剰サービスを減らすことで生活コストを低くし、自由時間を増やしている。ことため収入が低くても「ゆとり」のある暮らしを送ることができるのだ。
さらに彼らはお金をかけないで人生を楽しむ術を知っている。
お金をかけないドイツ人の生き方や社会の仕組みの中には、我々にとってヒントになるものもある。金銭だけでは測れない。価値を重視する生き方について学ぶことによって、我々日本人の暮らしをより豊かにできないだろうか。本書がそのための助けとなればと考えて、と筆を執った。 (P4)
■食事も質素だ。ほとんどのドイツ人は、夕食でまず火を使った料理をしない。夕食はパンやハム、チーズだけの「アーベントブロート」と言われる質素な食事で済まさる。[コストと時間がからない](P17)
■平日夜8時以降と日曜祝日は店を開けてはいけない「閉店法」という法律がある。ガソリンスタンド、薬局、空港、大きな駅の売店などは例外となっている。(P41)
■企業や店は過剰にサービスを提供する必要がないので、労働者や店員は負担が軽くなり自由時間が増える。また、過剰なサービスをなくせば、企業や店は人件費を節約でき、商品やホテルなどの価格も割安にできるので、生活にかかるコスト小さくなる。つまり、サービスをあえて低水準にすることによって、お金に振り回されない生活を可能にするメカニズムがあるのだ。それによって働く者にとって労働時間が短くなり、消費者にとっては物の値段が割安になるという利点が生まれる。(P73)
■多くのドイツ人は、同僚と長期的な休みが重ならないように、毎年1月になるとお互いの休暇の計画について相談を始める。中には1年前から休暇の計画を練り始める人もいる。(P96)
■ドイツ人の行動パターンを理解する上で最も重要なキーワードは、効率性だ。彼らは常に費用対効果のバランスを考えている。端的にいえば、彼らはケチである。仕事をする際に使う労力や費用を最小限にして労働生産性を高めようとする。その傾向が日本以上に強いのだ。 (P79)
■ドイツでは大半の客が「店で働いている人や配達人にも、他のサラリーマン同様に休む権利がある」と思っている。したがって、彼らは日曜日にデパートやスーパーマーケットで買い物ができなかったり、荷物の配達などで不便が生じたりしても我慢する。この社会的な合意が、市民が「ちょっとした不便」をお互い様と我慢するための前提である。(P98)
■日本人は大人数でレストランに行った時、割り勘にする場合が多いが、ドイツ人はこれが大嫌いだ。他の友人が自分より高いものを頼んだ場合や、他人が自分よりも多く酒を飲んだ場合などには、自分が損をするからだ。
ウエイターもこうした事情を理解していて、一人一人に食べたものを尋ねて別々に計算してくれる。(P129)
■ドイツ人がエネルギー問題について詳しい理由の一つは、環境保護への強い関心である。
彼らの環境保護への関心は政治の世界にも表れている。1980年に創設された緑の党はその象徴である。
緑の党は1998年から2005年まで社会民主党との左派連立政権に参加し、原子力発電の使用停止と再生可能エネルギー拡大に関する最初の法律を施行させた。2018年の政党支持率でも、支持率は17%で、メルケル首相を支える政権与党のキリスト教民主・社会同盟への支持率27%に次ぐ第二党の地位にある。
緑の党の自然環境の保護や天然資源の節約を重視するエコロジーの思想が多くのドイツ人に受け入れられている。
緑の党が初期に使ったスローガンの一つに「我々は地球の自然や資源を大切に扱って、子供たちに美しい環境をそのまま引き継ぐ義務がある」という意味のものがある。これは、米国の先住民族のある首長の言葉だ。
人類は原発からの電力供給という恩恵を受けてきたが、チェルノブイリ事故や福島事故による放射能汚染のために、長期間にわたり人間が住むことができない地域を生んでしまった。これは、「地球の美しい環境を子どもたちに引き継ぐ」という義務に反する行為である。
党代表を務めたルドガー・フォルマーは、「エコロジーとは、社会の全ての領域を貫く政治的な基本概念であるべきだ。エコロジーは人間の存在を自然環境の文脈の一部と考える、総体的な哲学だ」。
つまり、エコロジーとは、環境保護政策にとどまらず、人間の生き方そのものだというのだ。エコロジーは、人間と環境が互いに及ぼす作用を観察し、環境を保護するための政策決定を行う。(P154〜)
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