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ツチヤタカユキ「笑いのカイブツ」




深夜ラジオを聴いていれば当然知ることになる著者の初の単行本。というか、「オードリーの若林の所から実家に帰っちゃって、どうしてるんだろ?」と思ってたら本が出てビックリした、という感じ。
当然興味はあったが、今更読んだ。
なんかね、タイトルから粗筋からインタビューからなにから、なーんか違和感があったんですよ。それで遅れました。

読んでみると、最初は共感できる部分もあったのだけど、徐々に違和感が。最初は「凡人がどこまで出来るか」だったはずがいつのまにか「笑いの能力が高い」「天才」「カイブツ」になってしまう。
変わったのは自意識だけなのでは、と思うんだけど。
結局ね、「凡人がどこまで出来るか」という事だと、優秀な下請けくらいが限界だったりするんだよね...。
いや、私も一応それなりに音楽やってたりしてたんでわかるんですけど、本当の天才以外は普通にサラリーマンと変わんなかったりするんだよね...。例えば、今は教則本で有名になってる先生が、カラオケのバックや着メロを過労で倒れるまで作ってたり、即興しか興味の無いジャズマンが営業バンドでマツケンサンバ弾いたりしてるのを見てきてるからね。超上手いのに「当てフリも立派な仕事ですよ」って寂しそうに言ってたり。
いわゆる「アーティスト」でなければ、音楽だけやるってのは無理なんですよ。
というか、よっぽど売れてなきゃ遅刻とかも出来ないからね。

本の内容は予想通り粗筋通りなんであまり書くことは無いので、この著者と一番分かりやすく比較できる対象を考えると、少し前にアウトデラックスに出ていた、「けうけげん」がいると思うんだけど、あっちはもうアウトサイダーアートに近いからね。それと比べるとどうもね......。しかもあっちのが意外と大卒で正社員っていうね。親のために芸人ではなく安定した正社員の道を...っつっても才能があるからそれで稼ごうとするマネージャーみたいな人も付くし、その人の紹介とかいらないレベルでもう一発で面白がられるわけですよ、でテレビ出て。
ぶっ飛んだ天才で、親も安心させて、安定してて、その上で才能がもったいないっつってテレビに引きずり出されてくるわけ、あっちは。

同じくケイタイ大喜利レジェンドのライターにインタビューされている記事も読んだし。だから...そうも出来るのよ。
「全てを笑いに捧げたからこんな人生です」じゃないんだ。「極端な事をしたから凡人でもそこまで行けました」なんだ、やっぱ。

しかもなんかね、けっこう気になる存在だったから本を読む前からネット上のインタビューとかも読んでたし写真も見てたんだけどさ、「全てを笑いに捧げた」っていう人に見えないんだよね。物凄く自意識過剰な感じを受けるのよ。なんというか、「高くは無さそうだけどちゃんと自分なりにデザインで選んだ服」を着てるように見えるんだよなぁ。普通に自意識があって、自分で選んでるんだけどダサい人って感じ。
本の中でも「ヤクザに殺されるならカッコいいかも」みたいなのが出てきて、結局カッコいいとか悪いとかの自意識モリモリなんですよ。「ヤクザに殺されるのは面白いのか?笑えるのか?」じゃないの?って話。
本書の中でいうと、人と違う「カイブツ」を自称するのに、人に変な目で見られる「町の名物おじさん」にはなりたくない、っていう自意識のあり方。
結局、カッコよくありたいっていうのがさ。

そこに通じるのかな?最初の3000円の話しか書いていなかったけど、あれだけ採用されてればそれなりに金になるだろうし、ほぼずっと実家で家に金も入れてないわけだろうしなぁ。
あ、あと、「27歳、無職、童貞」みたいに帯の裏にデカめに書いてるけど、27歳で彼女出来て童貞喪失してるのね...。しかも本の真ん中あたりでバッチリ1章使ってその話書いてるし。
売る為に編集者とかがした事なんだろうけど、なんかね...。

まぁ少なくとも、大喜利やネタ作りにかけたのと同量の情熱を文筆には傾けていないのが丸見えなので、「面白くないやつが出世して!」「才能無くても媚びるだけで稼いでるやつがいる!」というのが、文筆で金を貰っている自分に跳ね返ってこないのは何故なんだろう?と思ってしまう。
もちろん、編集者もついて直しているのだろうけど、漢字や言葉の使い方に不自然さを感じる。個性を出そうとしているのかもしれないけど、端的に言って失敗だと思う。
「燃え殻」「こだま」「爪切男」と文筆の世界にブログやツイッター界隈から本物の才能が出てきちゃってる中、正直これでは勝負にならないと思うわ。
また10年文章だけ書き続ければ何かしら生まれるかもしれないけど、結局、中途半端に培ったものを切り売りして金にしちゃってる現状だもんな。

最大のテーマであろうお笑いや、そこにかけた情熱と極端な生活より、意外と、彼女の事を書いた章の、彼女と別れた時の

「アナタがまだ僕を好きな間に、アナタの隣で、死んでおけば良かったと、僕はその時、思った。」

って一文が一番好きだったな。
たぶん彼が自意識から出てきたのは彼女と一緒の時だけで、その最後に書かれたこの一文が、私には一番心に残った。




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