私服はいつもバンドTシャツで、「休みの日とか何してんの?」と訊かれて「本読むかギター弾いてますかねー。それかジム行くか」なんて答えていれば、そういう人だと思われて、「もし、いるならあげる」とCDもらったり本もらったり、時に引越しの際に邪魔になった安ギターをもらったりする。
そんな感じで上司に貰った1枚。発売早々にくれた、という事でまったく期待せずに観た。
まず端的に話が下手。
そしてターゲットがよくわからない。
「音楽(理論)を知っている/知らない」というのが、とても判断の難しい事である事は私が実体験としてよく知っている。
私は13歳で初めてのギターを買ってもらい、16歳で専門学校に入り、そのくせ目をかけてもらっていた先生も嘆くほど音楽理論の授業には寄りつかず、なにも理解しないまま音楽活動を続け、なんとなくいい時にいい所にいたせいで契約の話が来たり、コンピ盤に入ったり、雑誌に載ったりした。
しかし、それが一文にもならない、狭い村社会での出来事だったので意を決して24歳でもう一度ドレミから音楽理論を習いはじめた経験があるので。
だからわかる、もし、24歳以前の私がこのDVDを買っても再生して20分で寝る。
あのね、10年ギター弾いて、ライブハウス出てても、「3度(3rd)」もわからない人間が山ほどいるの、というかロックの世界はそれが多数派なの。むしろ「無知である事が善」みたいなキリスト教福音派みたいな思想すら持ってるの。
そんな奴の「JAZZとかもけっこう好きなんで教則DVDでも買って勉強するか」なんてね、ヤンキーの言う「全国制覇」みたいなもんです。そういう意味でね、
「今なら余裕で理解できるけど、以前の俺なら放り出すな。・・・しかし話下手だなこの人。自宅の片隅で撮ったような安い画が延々と続くなぁ・・・・。ニコ生とかyoutuberかよ・・・。あ、『youtubeでの無料レッスンも累計視聴回数80万回を突破〜』とかパッケージに書いてある・・・」
みたいな。
このご時勢にホワイトボードに手書きのギターの指板の絵。そこにマグネットですよ。泣けるー!
で、まず最初の30分くらいで既に、言ってる事は普通にコードの構成音の話。
それは「理論以前」という認識なのかなぁ?普通に理論の話になってると思うんだけど・・・「理論は無用」じゃないのかと。
まあねぇ、パッケージにも書いてある「youtubeで累計80万再生」というのが、ミリオンセラーなんかと比べると格段に落ちる、クリアしやすい課題である(そして水増しがあまりに容易)っていうのは、もうとっくに周知の事実なんだよねぇ・・・。ちょうどネットバブルでネットアイドルだの携帯小説だのが流行った時代の人間なんで、そこはもう騙されないんだねぇ。累計ってことはおそらく多数挙げている動画の再生回数を全部足したんだろうし、それで80万は少ないんだよねぇ。
例をあげると、私が昔やってた日記ブログが偶然ニュースサイトに1行載っただけで、2日で5000PVくらいになりました。この好き勝手ダラダラ感想書いてるブログでさえ1日200〜250PVあります。で、それなりの量書いといたら更新しなくてもそれはなかなか減らないのよ。「累計」は勝手に増えてくの。
あと、観ていて思うのが「youtubeありき」なのかな、と。どうもね、そのyoutube上の無料レッスンの延長にも思えてくるんですよ。観てて当然な感じっていうか、このDVDだけで完結していない感じ。
で、まぁ1時間くらい経つといよいよ先生が本格的にギター持って弾くんですけど、「理論は無用」っていうかさぁ、ただ「ろくに説明もせずに弾いてみせてる」だけなんだよね。「こんなのもありますよー」とかいいながら色々弾いてるんだけど、「2音で」っていってたのが3オクターブ分に増えるし、9thとか入ってくるし、コードスケール知ってる前提な感じだし、説明もせずにアプローチとか入れるし、初心者向けに「アプローチ」って言葉を使わずに行くのかと思ったら途中から普通に言っちゃうし。
こんなんなら理論的に説明したほうがわかりやすいよ。というか、まず前半1時間の中で、観てる自分がギターを持ったほうがいいと思えるポイントがないし。
つか「理論も読譜も無し。楽譜とか冊子とかも付いてないですよ。そんなのはいらない。耳で聴いて弾く!」みたいなコンセプトなんだけどさ、そんないい耳とギターのセンスがあったら勝手に弾けるようになるんだから、このDVDいらないじゃんね。
えーと、だからですね、端的に言って初心者向けの普通の演奏が行われるだけで、こっちが弾いてみる感じゼロです。3パターンそれがあって、視聴者用にカラオケ(ロン・カーターが弾いてるらしいけど、特に意義は感じない)がはじまるけど、何を弾けと?マネすんの?「理論」がわかってなきゃブルースのコード進行もクソもないでしょ。ジャズブルース風にツーファイブ入れてっけど、そこも説明なしかよ・・・っていう。
最後までそんな感じでしたね。
あ、ちなみにパッケージを読んで「おぉ、ロン・カーターが弾いてるのか!」と思った方。ロン・カーターは一瞬も出てきませんよ。写真すら。
ブルースのバッキングトラックを弾いている、というだけです。
ジャズクラブなり、スタジオなりで軽くセッションしているデモンストレーションくらいあると思ったんですけどね、全くありません。
演奏も至って普通。
そらタダでくれるわ。