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市川哲史「私がヴィジュアル系だった頃。」




音楽をやってると「ヴィジュアル系とかどう思う?」というのはよく訊かれる。私の回答としては「あれは音楽のジャンルじゃなくてマーケティングの方法だからね。儲かってるみたいで羨ましいね」といったものだが、まぁ通じない。もっというと「受け手側が『リスナー』になる前に『ファン』になってしまうので評論が成り立たたないことから、村の外に出られないジャンル。金を持ってる分悪質」かな。
とはいえ、私が小学生〜中学生のころはヴィジュアル系全盛期でテレビをつけると映ってたから観てたしチャートにバンバン入っていたから曲も知ってるし、という感じで、好き/嫌いの前に普通にあるものだった。私ら世代には懐メロだ。私はその後すぐにメタラーになってしまったが、友達からCDやビデオを貸りて聴いてたし、各バンドに関しては好きなものも嫌いなものもあるとしか言いようがない。hideは大好きでCDを全作買ったが、ヴィジュアル系のCDを買ったのはそれだけだ。偏見を持つのは嫌なので最近のもyoutubeでちょこちょこチェックするが、好きになったバンドは無い。上手いな、と思うバンドは明らかにメタルあがりだし。
私も昔は体が細くて髪が長くて肌が白くてギター弾いてたので、周りにV系好きな女の子がよく寄ってきて、付き合ってもみたが正直1ミリも話が合わなかった。
なんというかヴィジュアル系を考えると、磯部涼が書いたMSCに関する記事にあった文を思い出してしまう。

「ティーンエイジャーという概念がもともとはマーケティング用語だったことからも分かるように、オレたちはそもそもが負けっぱなしである」
『ヒーローはいつだって君をがっかりさせる』より
               
負けっぱなしでいるのに、仲間内だけの村から出ずに「幸せだ」って強がっているような感じ。
これはもちろんロックでもヒップホップでもメタルでもノイズでも同じだ。でも「負けている」事を知ってなお、それを越えようとあがく、それを冷静にリポートする、やり方はそれぞれながらそれを感じるからこそジャンルとして好きでいるのだ。
V系はそこから外に出るのではなく、小さい世界を仲間内で作ってしまったように見えるのがその印象を強くしているのだろう。にしてもYOSHIKIが開拓したその世界は産業として十分すぎる規模だったのが難しい所なのだが。

この本は「ロッキンオンジャパン」にV系を持ち込み、後に「音楽と人」を創刊した著者によるV系の総括としての本だ。大槻ケンヂ、YOSHIKI、SUGIZO、キリト、そしてライター仲間の大島暁美との対談を通して、V系全盛期といわれていた時代をもう一度考えていく。
これがとても興味深い。まず大槻ケンヂは何度も「オレがV系の元祖なんだよー」なんて半分呆れて半分納得のできるような冗談を交え、「いや、良くも悪くもね」などと語尾を濁しながらもハッキリと核心を突く発言を放り込んでいく。
「地方のヤンキー文化なんだよね」「V系に東京出身者はほとんどいないし、全盛期も東京以外の土地の方がはるかにV系人気も高かった」「ヤオイ文化」「ファック隊は特に『東京への憧れ』」「V系に東京の夢を見ていた」などなど。
「初の日本オリジナルスタイルだからね。ロックのさ。」といい感じにまとめるが、結局、東京生まれ東京育ちで文化系で背も高くて顔もいいオーケンは、自分は違うからV系をおもしろがるというスタンスなんだよな。
「ロック要らないよ。ショーパブでいいんだよ。」という発言もあるが、これは最近ゴールデンボンバーでうまい事商売になった。

YOSHIKIはもうYOSHIKI個人が面白すぎるから別物ですよ。
本当に時代を、音楽界を変えてしまった男。梶原一騎とかと同じジャンル。
オーケンも天才だと思うし大好きなんだけど、絶対YOSHIKIみたいにはなれない、選ばれた人間だと素直に思う。オーケンの言うとおり、耽美で繊細な文化系はたしかに芸術的ではあるんだけど、芸術的であるが故に、自分で稼いだり、世間に混じっていったり出来ずに、細々と世捨て人ライクになってしまう事が多いのだ。それに対しヤンキー的な人間は、大雑把な所がありながらもたくましく世間と渡り合っていく、本宮ひろ志漫画的な所があるのだ。
そうやって出来た世間での「居場所」を「仲間だけの村」にしてしまった後続の人間はともかく、YOSHIKI自体はどの方面から見てもどうこう言われる筋はないくらいの人物だ。
YOSHIKIにしろSUGIZOにしろ、ちゃんとクラシックの素養があるというのは大きなポイントだったりするんだけどね。V系は特に編曲、オーケストレーションが重要になる大仰な音楽だし。「ヤンキー」とは相反する要素だし、これを言ってしまうと終わりなんだけど、アマチュアリズムが重要なのももちろん解るんだけど、天才じゃない限りは結局勉強と一緒なんだよね。

SUGIZOはほぼルナシー時代の愚痴。でも、そんな事は表現者なら誰にでも付き物なので同情は出来ない。
自分のソロアルバムへのアマゾンレビュー読んで凹んだ、とかの話はとてもおもしろかった。しかし、「3歳からバイオリンを〜」とか「オレには音楽しか」みたいなことを言うのだが、そこまでSUGIZOの音楽に興味を持てなかった自分からしたら疑問が残る。
この本でアルバム「STYLE」がとても良かった、という話が出てきたので、聴いた事が無いアルバムだったので今回試しに聴いてみた。いいアルバムだと思う気持ちは分かる、サウンドメイクや曲作りは野心的でいい。けれども、「初期衝動」「モラトリアム」などの言葉で誤魔化せないキャリアになっていた当時でこの演奏力と仕上がりではやはり頂けないと思ってしまう。
ちゃんといいプロデューサーについてもらって、このアルバムの延長で成長できていれば、という気持ちは痛いほど解るけど。
たくさん出てきたLUNA SEAフォロワーの音楽に何も感じず、
「次の世代に残したものが『あの』インパクトがあったヴィジュアルだけだったんだなーと思ったら、凄い遣る瀬なかったな」
という発言がSUGIZOから出た、というのは確かな収穫だろう。

キリトは前に自伝っぽい本を読んだ事がある。読んだ理由は元彼女がピエラーだったからなんだけど......。
「個人主義」を強調するだけあって、
「不良グループに入る。高校を受験するものの、結局中退してしまい、このままでは駄目になると心機一転、長野の工場に就職し、寮生活を送る wikiより」
というのがとても真っ当で芯のある人間だと思えて好感を持ったのだが、どのアルバムを聴いても、少し前にあった新宿アルタ前でのシークレットライブを観ても、「人と違うこと」を音楽では出来てないとしか言いようがなく、音楽は好きにはなれなかった。
インタビュー的にもそんな感じ、言ってる事ははおもしろい。コピペにもなった、「BEAUTIFUL MONSTERS TOUR」参加時の有名なMCなども読めるし、興味深い。
ライター同士の話は、まぁ、儲かってたよねーだからこそ破天荒だったよねーみたいな話なので特別思う所は無し。

全体として、凄くいい本です。V系を語る際に、YOSHIKIは当然外せないのだが、大槻ケンヂにも語らせると言うのはとても重要だ。この本でも書かれていたが、V系の表と裏としてやはりこの2つのバンドを語ってこそだろうと思う。冗談と嫉妬混じりながらも大槻ケンヂが鋭く語っているのが素晴らしい。
たぶん、一般人がV系と言われて名前を知ってる人でキチンと語ってくれるのはここで扱われている人くらいで終わりだろう。ガクトやマナ様は今となっては絶対語りたがらないだろうし。      
というわけで、V系についてはこれとYOSHIKIの自伝を読めば大体解るんじゃないかな。
それに誰にとっても、少なくともパイオニアの話は為になるし、その後一番成功したバンド、そして経済的にではなく精神的にその更に後続のバンドという人々の話は聞く価値があるよ。

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