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ジャレット・コベック(著),浅倉卓弥(翻訳)「ぜんぶ間違ってやれ──XXXテンタシオン・アゲインスト・ザ・ワールド」




非常に興味深い読み物ではあったが、予想と違っていたのでなんとも消化が難しくてしばらく放っておいてしまった。
「評伝」という事なので、私が慣れ親しんでいた「自伝」「自叙伝」などとは違い、あくまで作者の作品という感じだ。現行のヒップホップを書くことはイコール現代を書くことにもなる。ロックやブルースのファンの私としては羨ましい限りだ。
たかだか4年ほどの短い活動期間ながら強烈なインパクトと結果を残したXXXTentacion​なので、どう描くか、というところが問題になるであろうけど、このやり方は大正解であったと思う。
Xを「ネットの中で生まれ、育ち、そしてその中で死んだ」とし、彼の残したツイートから彼の軌跡を追っていく。

彼の人生は勿論なのだが、まず興味深かったのが、チャートの集計方法の変化の話。以前読んだ『誰が音楽をタダにした?──巨大産業をぶっ潰した男たち』にも同様のことを書いていたが、あちらはビルボード、サウンドスキャンからMP3の登場まで。こちらはその後のストリーミング時代のことまでを書いている。現代はやはりそこから話をはじめないといけないのだろう。
彼が天才である事はもちろんなのだが、このヒットチャートというものに載らないと広く知られる事はできないという現実はある。「何回のストリーミング再生で売り上げ一曲分」などという曖昧でどうにでも変えられるルールによってメインストリームにポコっと出てきた彼はさぞ衝撃的だっただろう。

この本では本人の回想はもちろんの事、関係者へのインタビューなども無し、あくまでツイートを遡り、裁判などの記録を調べ、著者は考える。
辛かった過去と成り上がり、のような物語にも回収しないし、若き獰猛な天才ラッパーの殉死というような書き方もしない、淡々とツイートを遡り、検証し思考する。

彼の最期が悲劇なのは間違い無い。Lil Peep、Juice wrldの死と併せてエモラップは死んだともいわれた。
しかし、未完成とも揶揄される粗く生々しい2分足らずの曲でビルボードの1位を奪取したこの一瞬の輝きは大きな影響を残した。
誰でも投稿できるプラットフォームであるSoundCloudから全くのインディーズで1位の奪取。それは既存のシステムの終わりでもあり、時代の隙間に突っ込まれた錆びたナイフのようでもあった。

先述のようにいわゆる自叙伝ではないので、Xの残したインタビューやレコーディング時のエピソードなんかを期待すると肩透かしを食らうかもしれないが、評論として、又読み物としてとても優れていると思いました。


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