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櫛野展正 「アウトサイドで生きている」

元々アウトサイダーアートには興味を持っていたので各種連載も無料で読めるものは読み漁り、『櫛野展正のアウトサイド・ジャパン展』も行ったのだが、おそらく最新作である『アウトサイド・ジャパン 日本のアウトサイダー・アート』の印象があまり良くなく、そういえばこのブログでは触れていなかった。
『アウトサイド・ジャパン』そして、まぁ『アウトデラックス』かな。けうけげんの紹介者みたいな感じで出てたんだけど、あまり印象が...まぁテレビは難しいんだろうけど。

なのでまぁ、この本を手に取るのが遅れたのだが、まぁこのご時世ですから。買っておくか、っていう。

でもですね、この本は凄く良かったです。
『アウトサイド・ジャパン』に感じた私の悪印象というのは、簡単に言うと詰め込みすぎてカタログっぽくなっちゃってるな、という感じだったんですよね。もちろん、できるだけ多く紹介したい、という情熱故だとは思うのだけど、バックグラウンドがあまり見えないままで特に老人芸術的なものの写真を見せられても、正直困ってしまう部分はあって...。
ただ今改めて見返してみると、あの本1冊で135人も紹介しているのか...意図的にやってたんだろうな。今さら理解できたわ。

そしてこの本『アウトサイドで生きている』。ここで紹介されているのは18人、当然その分一人一人を深く紹介できているので、その部分では満足。その点は読む前から分かっていた事なのですが、まず「はじめに」で著者の櫛野さん自身の人生が語られている部分で、かなり掴まれた。
現在では後出しで様々な問題が指摘されているいわゆる「90年代サブカル」「90年代鬼畜系カルチャー」に関わった人たちの中で私がやはり否定できない人たちは、傍から嘲笑ったり石を投げて遊んでいたわけではなく、リスクを背負って自身の人生の中で彼らと関わっていた人たちで、それと同じように感じたからだ。

この本の前に『シルバーアート 老人芸術』を出しているせいか、この本で紹介されているのは比較的若い人が多い。もちろん、芸術に年齢は関係ないのだが、やはり親近感がある。私の母親も裁縫が好きで、今でも何かと作り続けているのに辟易している、というのもあるが。
特に、実際に『櫛野展正のアウトサイド・ジャパン展』で作品を見て感銘を受けていた西本喜美子、遠藤文裕、ラーテル(あなぐまハチロー)などの項は、既に知っている情報も多かったが、改めて興味深く読んだ。
いわゆる分かりやすいアウトサイダー・アート然としたものから、老人芸術、武装ラブライバー、ホームレスなど、著者のあらゆる興味の向かう先が見て取れる。
デビュー作、というわけではないのだが、その後の活動の広がりのキッカケとなった一冊なのだろう、「デビュー作にはその作家のすべてが〜」みたいな感じ。
やはり彼の活動に興味を持ったら、まずはこの本を読むべきなのだろう。

TEDx Talks出てた。




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ハルオサン「警察官をクビになった話 」




たぶんTwitterで知ったんだと思う。自分の興味のあるものをフォローしていれば、こういう新しい才能が出てきた時にすぐチェックできるから便利だ。
「半年で警察官をクビになった」という物凄くキャッチー、と言ってしまうのもいかがなものだが、とにかく多くの人の興味をそそるような文句で登場した著者は当然ながら私も気になったのだ。
出自と経歴から察する通り絵は上手くない。漫画かと言われれば、モノローグとイラストという方が正しいかもしれない。いわゆるSNS発のエッセイ漫画などのように特殊な経験一発で書き飛ばした作品の系譜になるだろうが、軽く読み飛ばせるものではなく、情念にまみれた暗く重いものである。

経験が特殊、というのはさんざん他でも見てきた、というか特殊な経験一発で本一冊みたいな感覚がいわゆる「ブログ本/Twitter本」にはあった。
生まれ、育ち、事故、病気、性癖、職業。なんなら「〜をよく見に行きます」くらいでも本が出ていた。もう特殊、というものも分からなくなってしまってはいる。
そういうものの一つであるのだが、著者は警察官を半年で辞めた以前も以後も特殊といえばずっとそうで、この本で出ている部分は単に一番キャッチーな部分に過ぎない。

しかし、とにかく異様なものを読んでいる、という感覚がとても強くあり、著者のTwitterが更新される度にチェックせずにいられないくらいハマってしまった。
「コミックエッセイ」というものからは遠く離れた、版画のように黒く塗りつぶされた画面の中で白く抜かれた目、ちぎり絵のような不安定な線の中で硬い動きのキャラクター、そしてシンプルで抒情的、そして絶望的なモノローグ。
こういう類の作品では著者の経験より作品自体に惹かれることはほとんどないのだが、この著者の場合は完全にそうだった。そして、もちろん著者の経験自体も物凄く興味深く、しかも底無しに思えるほど引き出しがあった。



今回のこの本は内容が内容なのでたしか一度出版が流れていたと思う。その為出版が決まり、本屋に並んでいるのを見たらすぐ買った。警察学校内部の暴露、というわけでもないのだが、イジメ、暴力、辞職の強制などは薄々世間の知るところであっても、こうハッキリとは示されると困るのだろう。

今回、出版にあたり全編描き下ろしたという事で私が最初に感じたような異様さはかなり薄れている。だいぶ漫画らしい体裁に近づき、絵も見やすく、多少可愛らしくなっている。
それが残念にも思うのだが、大幅にページ数が増え抒情的な部分が増えているのでこれはこれでいいのだと思う。Twitterで発見した時と実際本になったものは違って当然だ。両方を知れた私は幸せなのだろう。

前述したようにネタはいくらでもあるであろう著者なので、これからも出版は続いていくだろうと思う。
うーん、なんか歯切れが悪い感じ。応援はしたいけど、やっぱり洗練されてしまったのは悲しいな。あのインパクトが恋しい。スマホに慣れてる世代でもないので余計に紙で感じたかったかな。

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著者のnote→http://note.com/keikubi


追記
完全に余談でただの私の昔話だが、昔居た会社で元警察官の後輩に暴行を受けた事がある。
怪我も無かったし退職も決まっていたので、刑事事件にはしない代わりに残りの期間を楽な部署への異動という事で納めた。
そいつも退職届出したしね。正確には逃げただけだけど。彼は警察を1年で辞めていたが、その後も1年程度で転職が続き、その時もちょうど1年くらい勤めた時。
やっぱりみんな「勿体無い」みたいな感じで、なんで警察官を辞めたか話を聞こうとしてたんだけど頑なに過去を語ろうとしなかった。
元警察官って事は一応地方公務員試験に合格してるって事で、その後地方の役所で働こうとしたみたいだけど不採用になったから戻りたいって言ってきてる、って所まで話は聞いた。もう辞めてたからどうでもよかったけど。
彼には1ミリも同情とかしないけど、まぁ元警察官って事は一生付きまとうんだろうなとは思う。

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