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「君のいない世界~hideと過ごした2486日間の軌跡」I.N.A.(hide with Spread Beaver)




hideの側近かつ創作のパートナー、というかソロアーティスト「hide」の楽曲の共同製作者であるI.N.A.の本。
改めて考えてみると、結果的に後にバンドメンバーとして表舞台にも出る事になるとはいえ、基本的にはスタジオミュージシャンでマニピュレーターだった人間とガッチリタッグを組むというのはかなり珍しい。だからこそ、基本的にはスタジオの中でバンドメンバーともまた違う、共同製作者としてhideと一緒に駆け抜けた彼の話は貴重だ。

日記のような体裁をとってhideとの出会いから別れ、そして蘇らせた「子ギャル。」までを書いているのだが、この日記のような体裁を取れたというのは、ほぼ全てのhideの曲を共同製作をしているという事でデータファイルの日付から、いつ何をやったという事が明確だからだろう。
今更改めていうまでもないが、「イナちゃんの才能を俺だけに使って欲しいんだ」「雇われているという事ではなくて対等で」というアプローチを受けて、作曲からレコーディングまでをほぼ2人だけで一緒にやってきたI.N.Aだからこその本だ。弟でありパーソナルマネージャーの裕志氏の本でもこの本の後半でも同様に書かれているように、人前ではあくまで理想のロックスター「hide」としてのキャラクターを崩さなかったヒデの素顔を見ている数少ない一人なのだと思う。
とはいえ死後20年以上経ち、さんざん語られ尽くしたヒデなのでこれといって新しい情報があるわけでもない。ましてや、作品が表に出る前のプロセスが主なので、いわゆる破天荒エピソードなどが羅列されているわけでもない。基本的にはただただ、素晴らしい才能と先見の明を持ったアーティストとのスタジオでの共同作業が書かれている。
Xが売れた事で最新の機材に豊富な資金を注ぎ込む事ができ、そしてI.N.Aというパートナーを得ることが出来たヒデは本当に幸運だったと思う。献身的にhideのヴィジョンを形にし、さらに磨きをかけようとするI.N.Aは理想のパートナーだったであろう。コンピュータを使うという事で簡単に出来そうでいて絶対的に違ってしまう、まだまだ90年代にはあったそれこそNINなど海外との差をほぼリアルタイムで埋めていた事は驚くと共に、zilchがなぜあの時代にあの音が出せていたかの訳がわかった。今の時代に読むと、音楽を齧っていれば全て当たり前に思えることばかりだが、あの時代にこれをやったというのは本当に驚くべきことだ。
もちろんXの人気もあるのだが、とにかくもっといい物を、最先端のものを、と追い求めた結果であろう。本当に感服するしかない。
と同時に、やはり彼亡き後には誰も続けていないという事実も重くのしかかる。
いい時代に、才能のあるミュージシャンが、最良のパートナーと出会ったという事なんだろうなぁ。

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