去年もフェスを開催し、今月にも第3弾のコンピ盤が出るDJ BAKUの「KAIKOO」。最初のミックステープから続くこのコンセプトの作品群の中から、今回は約8年前に出たこのDVDを観た。 初見ではなく、数年前に一度見たものの再見。とはいえ、以前に観たときはいろんな意味で生活が崩壊しかけていた時で、急いで一度観た後は、「KANNIBALISM」のPVを何度か観たくらいで人に貸し、その後返ってきてすぐ売ってしまった。 じっくり観たとは言いがたいし、「Scratching The Surface: Japan」を観た時と同じく、まだ日本語ラップ聴きたて磯部涼読みたてで自分の中に日本語ラップに対する多大な幻想を持ったままだったために、まだヒップホップ初心者の当時の自分には、若干肩すかしを喰らったような感じはあった。なんというかいわゆる「資料的価値はあるんだろうな」という感じ。わかりやすくアーカイビングされているわけでもなく、歴史を追ってくれるでもなく、ただポコッとシーンのある部分を持ってきた感じ。もちろん悪くは無いし生々しくてリアルなのだが、初心者だった昔の自分にはよく理解できなかったのだ。 確かに、DABOとの和解後はもう演らないと言っていたので限られた回数しか披露されていないであろう漢の「take a candy from a baby」のライブ映像や、TAVのPV、今や構成員が大きく変わってしまったMSCのライブはまさに「資料的価値」があるし、単純にカッコいいのだが、それだけではないものも今回は感じた。 単純に、ここ数年ドップリはまっているために、前よりヒップホップ、それも日本語ラップに詳しくなってから見ると、BAKUがいわゆる「日本語ラップシーン」とは一線を画した活動をしている事がわかるからだ。 それは単純に他ジャンルと積極的に関わっている、というレベルではなく、意識的に明らかに違う方向に進んでいる、それも凄く張り詰めてやっているのがわかるのだ。 単純に、これだけ多くの人が関わっているように思える映像の中で、出てくるヒップホップアーティストは極端に少ない事でもわかる。初DVDということで、DJ BAKUのヒストリー的な紹介をしたとすれば出てくるハズであるアーティスト、そしていわゆる「日本語ラップシーン」にいたはずの人間たちは一切出てこない。 簡単にいうと、「イエー、俺たちのクルーはこんなにいるんだぜー!パーティーだー!」というヒップホップにありがちな映像が一切出てこない。 かつては「般若」(グループとしての)として活動し「シーンに裏切られた」(磯部氏のライナー参照)後に、磯辺涼だったか古川耕だったかが言っていた「2002年の漢のBBPのMCバトル優勝ではっきりとした、シーンが一枚岩でなくなった感じ」になり、新しく歩みを進める仲間を得て、そこからの数年間の歩みが、ひたすらギュウギュウに詰め込まれている様は、今観ると圧巻だ。たかだか数年で、20代半ばの青年のやったことだとは驚きだ。 まぁどうしても細切れになってしまうし、どんどん外に出て行ったがために統一感も無い、暗いクラブでの不鮮明なハンディカメラ映像も多い。作品としてはやはり荒削りだ。でもやっぱり、これは残しておくべきものだとハッキリと思える。