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卯月妙子「人間仮免中」




まさか続きが読めると思ってもみなかった。
あの卯月妙子の新作である。しかも300ページ以上ある力作だ。
初めて見た時は目を疑い、何度も著者名を確認し、中をパラッと見てやっと、「本物や......」と震えるように感動をした。

ここで軽く著者について書いた方がいいのだろうが、短くまとめられる気がしない。
スカトロもこなす特殊AV女優(代表作「ウンゲロミミズ」)としてカルト的な人気を得て、漫画家としても作品を発表するがその後夫が自殺、持病の統合失調症が悪化し、表舞台から姿を消す。女優として舞台で活動していたが、2004年に舞台上で喉を切り裂いて自殺を図ったことで話題になる。
こんな感じ。
詳しくは自伝的な過去作品「実録企画モノ」と「新家族計画」に詳しい。
過去作も今作も自伝的作品という事で繋がってはいる。「実録企画モノ」は実録というだけあってそのまま自分のこととして夫の自殺までを、「新家族計画」ではフィクションの自伝的作品としてその後の緊縛師の有末剛との愛人関係を書いているが、「新家族計画」は2巻で中断、未完となってしまい、いいところで終わってしまったのでおおいに気になっていた。

ちなみに過去作は絶版になっているようで、当てにならないアマゾンのマケプレとはいえ法外な値段になっているが、ちょこちょこブックオフの105円コーナーにあったりするので探した方がいいと思う。私も10年以上前とはいえそうした。今もあまり状況は変わってないから見つかるはず。
(追記 現在は電子書籍としてKindle版が読めます。)

「実録企画モノ」はまだギャグ漫画っぽかったのでまぁ極限まで行ってるとはいえテイストとしては作品より著者の方が面白いんですよパターンに思えなくも無い。
が、「新家族計画」はあくまでフィクションなので、本人ぽい人が出てくる物語としてとても面白く、というか安易に「面白い」と言えないような生々しさで迫ってきて、体調の悪い時には読めないほどの作品で、こんなに凄いものを書けるのなら漫画家として天才だとさえ思っていた。
未完になってしまったのは物凄く惜しかったが、作品で見られる本人の姿があまりにも凄かったので、驚くよりも「あぁ、ついに......」と思って諦めていた。
何年かに1回くらいは検索してみてはいたが、パートナーの有末剛が書いていた『実録閉鎖病棟ー毎日PKOー』という連載記事を太田出版webで読めるくらいで、あとはプライベートに近いブログや、それに対する罵詈雑言が掲示板に書き込まれているばかりで、ほとんど活動はみられず、舞台をやっているとわかってもすぐに2004年のことが起こってしまい。もう彼女の新作に触れることは無いんだろうな、と思っていた。
今度こそ本当に次は無いだろうと諦めていた。

ちょっと話は逸れるが、私はもう死語であろう「サブカル」という言葉になかなか愛着がある。というかたぶん「サブカル」だと認識して色んなものを吸収していた世代は私たちくらいが最後だろう。スチャダラパーは先輩のみうらじゅんに「スチャくらいでサブカルは終わったんだよ」といわれたそうだが、同感だ。その終わった「サブカル」を安値で投げ売りされている古本、古雑誌から吸収しながら自分は生まれるのが遅かった......とほぞを噛んでいたのが私だ。
もちろん卯月妙子を含むAV関係者も「サブカル」に多数含まれており、ゴールドマンのような天才もいた。
今、それなりに長いこと「サブカル者」をやってきて思うのが、昔羨ましがってみてた人たちがしんどそうに見えるということ。吉田豪は「サブカルは40で鬱になる説」を唱えていた。
「サブカル」は死ななかったロックスターのように懐メロで食えない、ある種時代と寝てナンボなので本も再発されない。昔話では食えないし、今からアニメ観てもよくわからん、権威や旧体制を馬鹿にしてたせいで古典もわからん、知名度があれば大学の客員教授にでもなれるが代表作がある一部の人間だけ、大衆が好むものと距離をとっていたせいでサブカル村から離れると一からはじめなければいけない、40になると肉体的にバイトもなかなか無い、鬱になって当然だ。
一ミリも食えないままの俺は20代後半ですでにしんどい。
自称サブカル/アングラにもよく会う。前に知り合った自称サブカル君は何も知らず、情報を集める術もないし、努力もしない人間だった。馬鹿の一つ覚えのように「園子温やべー、バックホーンやベー」と言っている奴だった。まだよく知らず、同じサブカル者だというし、いろいろ貸してくれというので、当時本とCD用の倉庫のようになっていた自室に招いていろいろ見せていたところ、「で、それは最後どうなるの?死ぬの?気が狂うの?リストカットするの?」と本を読みもしないで言われ、本気で殴りそうになったことがある。物語でも、作者でも、「サブカル」の最後として安易に思いつくのはそんなとこなんだろうと呆れてしまって止めたが。
唯一の支えである受け手側ですらこの有様である。40っていうのも、ちょっと有名になったらくっ付いてきた変なのと結婚して、離婚してってやったらこのくらいの年齢なんだろう、と考えると合点がいく。



36歳からの約5年間を書いたこの作品は、歩道橋の上から身を投げるところではじまる。いわゆる自分の生き様を作品にする人は多いが、ここまで壮絶で、それなのに作者が明るいのは他に無いのではないだろうか。
当然絵は昔より荒れているが、表現力は全然衰えていない、シンプルというか初心者が書いたweb漫画のような絵なのに、途中で延々と入院中の妄想の世界を書いている部分は、今まで読んだトリップ表現の中でもトップレベルだ。
明るいヘンリーダーガーというか、もうアウトサイダーアートのようだ。とにかく凄い。もちろん現代医療と周りの人々の理解と協力があったからこそのものなんだが......。
とにかく物凄いから読んで欲しい。出来れば過去作も読んでから。
そして、この本を読んで思ったのは、そんな「サブカル者」の最後はそんなに悲観的になることも無いのかな、という事。もちろん特殊中の特殊な例であることは承知なのだが、「あの卯月妙子」が40を越えてこの作品を出したのは凄く希望のもてることだと思った。
「この本を読んで希望?最後におかれた状況をよく読めよ」と言われるかもしれないが、躁状態で口走るわけではなく、日常で「生きてるって最高だ!」と思えるというのは素晴らしいことだ。

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