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安全地帯・玉置浩二の音楽を語るブログ、管理人のトバです。安全地帯・玉置浩二の音楽こそが至高!と信じ続けて四十年くらい経ちました。よくそんなに信じられるものだと、自分でも驚きです。
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2023年11月19日

aibo

玉置浩二『ニセモノ』五曲目、「aibo」です。先行シングル「虹色だった」に続き、これまた先行シングルとして発表されていました(カップリングは「ジェスチャー」でした)。

パン…パパ・パン…パン……パンパン・パン……と、なにやらサスティンの少ない弦楽器(たぶんガットギター)でテーマが弾かれます。バックにはギターのアルペジオで、低音と高音がよいタイミングで絡んでいきます。これを一聴しただけでこの今日がバラードだとわかります。わたくしシングル買ってませんでしたから、「aibo」がバラードだということすら知りませんでした。

「汗にまみれて〜」と、ギターの弾き語り状態で玉置さんのボーカルが始まります。いきなり胸をうちます。どうにかやってきた、立ち直りたかった……弾き語りがその切々さをいやがうえにも高めます。この「aibo」は、あの「メロディー」以来のナイス告白ソングだとわたくし思っているのですが……Wikiによれば売り上げは0.4万枚、いくらアルバム直前だったからといって売れなさすぎです。この「aibo」からしばらく、玉置さんはセールスでいうとほぼどん底だったといっていいでしょう。

ある日、「aibo」は聴きましたか?とメッセージが来ました。当時連絡をとっていた香港のファンの方でした。いや聴いてないけど……と返した記憶はありますが、その後何を話したかは覚えていません。いまWikiを見ていると「香港の歌手であるアンディ・ラウへの提供曲「痛…」(1999年)の日本語によるセルフカバー」という記述があり、ああ!そうだったのか!あのとき、もしかしてこのことを話してくれようとしていたんじゃないのか?と思い当たりました。いや、そう話してくれていたのかもしれませんが、それをわたくし、まったく記憶に残らない程度にしか熱のこもらない話の聞き方をしてしまったのでした。私自身に余裕がなかったんですね。だから……玉置さん本人の歌でなければ心に食い込んでこなかったのでしょう。そしてそれは、香港のファンにとっても、広東語で歌われた玉置さんの新曲が香港人にとってどれだけ大きい衝撃をもっていたかを、20年以上も経ってなお思わされることなのです。いやもう……どれだけの人とこうやってすれ違ってしまったんだ、どれだけの人の喜びに水を差してしまったんだと考えると、クラクラと眩暈がします。

ベースとドラムが入り曲は一気にマイナー調へ、玉置さん得意のF♯mからF♯m7に半音ずつ落としてゆく泣きパターン、「ほら」と言っているように聴こえますが、アンディ・ラウは「oh why」ですね。この場合どっちでも意味の通りがよくない気がしますが、そのせいか歌詞カードにはこの箇所の記載がありません。気になる!(笑)。「きゅっ!きゅっ!」とギターがスネアを助けるように鳴ります。「あー」というコーラスが派手に聴こえるくらい、アレンジはシンプルです。歌詞の内容は、aibo相棒に後日談を問う内容です。でも別に、相棒があれから何してたかなんて、きっとどうでもいいんです。泣いたりしてないことがわかりさえすれば。だから、何してた?と尋ねつつも、寂しくはなかったんだね、それだけ知りたかったんだ、よかったよ。と返すという、実にシンプルな心の交流がこれだけで描かれています。実際に問うてみたら、泣くわけないじゃんかこっちゃ大人だぜときっと返すでしょう。でも、泣いてはいなくてもきっと泣いてるんですよ。いや泣いてないんですけど。なんというか、泣いてなくても泣き顔が見えるんです、想像できちゃうんです、相棒だから。それが心配で悲しくて、「泣いたりしてないよね」と実際には問わずとも、ふと思われるのです。

曲はまたパン…パパ・パン…パン……いつものパターンといやそうなんですが、一番にはなかったドラムとベースが二番からは入ります。エレキギターも遊び心あるフレーズを入れてきます。そして歌詞は、かつての思い出を語り合うイメージで展開します。寝るところなんで気にしないでずっと一緒に遊びまわっていた日々、それは「元気な町」よりももう少し年齢が上の段階で経験した日々でしょう。それこそ10代後半とか20代前半とか……相棒をみつけるというより、自然に相棒になったというのが近いですよね。そうしたくてたまんないんです。ずっと一緒にいる。へたすれば一緒に住んでる。それくらい行動を共にする相棒というのは有難いものです。当時はそれが当たり前で、へたすればたまに鬱陶しいくらいの気持ちでしたが、どこかの段階でそんな日々は終わりになります、誰もがいずれは若者であり続けることを諦めて自分の道を行き、自分の家庭を築いていかなくてはならないからです。職場でいうと下っ端でいることを諦めてなんらかの役職と責任を引き受けなくてはなりません。それはかつての「相棒」が自然に相棒になったのと同じくらい自然なことなのです。

そんなあるとき、かつての「相棒」を思い出します。「あのとき……(僕たちは)なにみてた」んだろう?一緒にいたんだから同じものを見てたんだろうし、もちろんそんなこと疑ったこともなかった。だけど、もしかして違うものを見ていたのかもしれない……。そんなことを、役割も責任も負ってしばらく突っ走ったあとに、ふと思うのです。そして、いまどうしてるだろう、これまでどうしてきたんだろうと、心配するんです。これはせつない!もちろん一方的に心配しているだけですし返答もないでしょうから、ネル・ノディングスにいわせればこれはケアが成立していません(笑)。ですが、大人だってかつては若者、子どもだったのですから、若いときのことを思い出すに決まっているのです。そしてひととき若いときの感傷に酔うこともあるのです。こんな単純なことを、若いと想像できないんですよね、経験がないことというのは想像しにくいし、腑に落ちにくいものですから。だから、この歌詞の世界はある程度経験がないとわかりにくいでしょう。でもまあ、そんなこと言ったら安全地帯の時だって40万もの人みんながみんなああいう熱愛の経験があってわかるわかるキャー最高!って言っていたわけじゃないですから、あまり気にしないで楽しむのが吉でしょう(笑)。同じ理屈で「Eleanor Rigby」なんて共感できる年齢になるまであと何十年かかるかわかったもんじゃなかったのに、あれは各国で一位(アメリカ除く)ですもんね。

そして派手な音でギターソロが「いなくても」の「くても」にかぶって始まります。音はハモリで派手なんですがフレーズはごくごくシンプル、工夫がないといってもいいくらいです。でも最高に泣けます。自分の相棒と合わせて弾いたら以心伝心でハモっちゃったような気さえします、そんな一瞬の奇跡を描いたの如く間奏はすぐに終わり、また歌が始まります。

余談ですが、玉置さんソロでは間奏の終わり際にエフェクトシンバルを「カシ!」と入れる癖があります。癖といって悪ければ様式です。それくらいほかの曲でもよくあることなのですが、これはわたくしも受け継いでおります、勝手に(笑)。ドラムのフレーズは田中さんを参考にすることが多いのですが、玉置さんの入れるこういうアクセントも好きなんです。

そして歌は「これから」を案じていきます。自分だって自分の道を行くのですし、他人の人生まで背負ってられませんから、案じるだけなのですが……その案じるだけのことがどれだけ尊いか……「泣いたりしてないよね」と「ねー」をオクターブ上げするこの驚異の表現力……めちゃくちゃ案じてる!だけど案じるだけだ!でもそれで精一杯なんだ!それが尊い!と叩き込まれる気さえします。そして曲はメインテーマを繰り返しフェイドアウトなく終わっていきます。

これが、わたしが経験してきたことから想像できる「aibo」の世界なのですが……世の中にはもっと違った「aibo」の世界了解があるのでしょう。それこそ玉置さんと矢萩さん、玉置さんと武沢さん、矢萩さんと武沢さん、田中さんと六土さん、玉置さんと田中さん……「あぶない刑事」「加トちゃんケンちゃん」みたいな相棒もあるでしょう。ショーケンと乾、でなくて水谷、水谷ともっと若い人たちが演じた「aibo」もあることでしょう。わたくしなんてドライすぎるのかもしれませんから、ぜひいろいろな「aibo」の解釈が百花繚乱になってほしいもんだなと思います。だって、この曲埋もれすぎですもん。それこそ「メロディー」に匹敵する名曲だと思いますよ。

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2023年11月11日

ジェスチャー

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玉置浩二『ニセモノ』四曲目、「ジェスチャー」です。

ブブ!ブブブブブブブ……とギターの低音弦を使ったであろうリフと呼ぶべきかどうかも悩むような単調な繰り返しが始終鳴っています。たしかに心地よいんですが、なんとこれに「ギャーン!ギャギャ!ギャーン」というストロークでアクセントを入れる、基本的にはだたそれだけのアイデアで一曲突っ走ってしまうのです。玉置さんあなたどれだけ思い切りがいいんですか!ホントにこれだけでいいのか?と不安になっていろいろ付け加えてしまって曲を台無しにしてしまうのが一般的であるし、一般的すぎてそれがダメになっていると気がつかないケースこそが99パーセントのJ-POPだと、見事に曲で示してしまっています。素材がよければそれだけで勝負できるという、安全地帯初期からチラホラと垣間見えていた玉置さんの曲作りに対する心構えが貫徹された結果であるといえるでしょう。いやじつに爽快です。

そのブブンブブブブブ……にあわせて玉置さんのボーカルが「いつもの〜」を繰り返します。「ギャンギャーン!ギャギャ!ギャーン」には「大丈夫」「問だーいなーい」「ぜーんぜんしんぱいなーい」と、「アーイ」と「〇ン、〇、〇ンアイアーイ」を繰り返す仕掛けになっているわけです。よって、歌詞の意味自体はそこまで重視されておらず、リズム・ライム最優先の制作姿勢で作られたことがうかがえます。したがって「ジェスチャー」という言葉の選択にもそこまで深い意味はないだろうとわたくし考えております。

ただし、トータルには玉置さんからのやさしいメッセージがよく感じられる歌詞です。よくできているなあ……なんて偉そうな態度で鑑賞しては申し訳ないのですが、よくできています。このころの玉置さんは歌詞ばっかり考えていたそうで、こういうノリ重視で物語構築に難のある曲でも、歌詞全体をみれば強いメッセージを感じられるように考えてお作りになっていたのだと思われます。「フリフリ」なんて全く意味はないですもん。そこは歌詞カードで渦巻き状に歌詞を掲載するという離れ業を使うことによって「フリフリ」の連呼にこういう包み込むような、泣いている赤ちゃんをあやすような、そういうやさしい意味を付加することに成功しているように思われます。包み込むんでなくて玉置ワールドに引きずり込まれているんじゃないのといえなくもありません(ギャバンの魔空空間)。

いつものメンバー、いつものスタイル、ゲームが台無しになったりそれでもバッチリだったりしても、全く問題ない!心配ない!だって僕たちはいつものジェスチャーで以心伝心、おたがい何を望んでいるかわかっているんだからさ!だからなんだっていいんだよ……ああ、ここでまた、このアルバムが当初安全地帯でレコーディングされていたという事実が重くのしかかってきました。気心知れた、知りすぎたメンバーで、バッチリだ!大丈夫だよ問題ないよ……問題あったのです。バッチリじゃなかったのです。玉置さんはきっとニコニコとメンバーを励ましながら、ストレスを溜めていったのだと推測されます。なんか違うんだよな……でもニコニコ!ん?浩二どうかした?もう一回やろうか?いや大丈夫大丈夫、大丈夫だよ……と。これはどうしたって仕方ないのです。だって玉置さんは軽井沢ノリ全開になっていましたが、他のメンバーはそうじゃないからです。

プレイヤーには癖ってものがあります。たとえばわたくしですと、ピッキングの前にちょっと空振りして勢いをつける癖があります。これをやると、ほんの僅かですが最初のアタックが遅れます。ですからそれを補正するためにちょっと前のめりでピッキングする癖がついています。これは機械で演奏するようなジャストタイミングからは本当に僅かなんですが(波形を見てもほとんどわからないけど、人間なら気がつく人は気がつくってくらい)ズレるんです。もちろんレコーディングではそれをしないように気をつけて弾きますし、普段からその癖を矯正するように心がけてトレーニングもしているんですが、それでも少しは録音された音源には痕跡が残るんです。たぶん自分でないと気がつかないレベルの痕跡なんですが……こういうものが積み重なって、その人の音というものは出来ています。これは普段から合わせて演奏していると、おたがいに矯正したり補ったり、あるいはその癖を活かしたタイミングで全体が動いたりと、いろいろな作用が働いてバンドの音というものが出来ていくのです。名手である矢萩さん六土さん田中さん、そしてもちろん玉置さん自身にもこういう癖はあるのでしょう。それ自体はむしろ味ってもんですから否定されるべきものではありませんし、これを否定するなら音楽なんてやらないほうがいいです。それこそ現代の流行歌みたいに下手すれば機械に演奏させて機械を人間がコピーするような技量を発揮して演奏し、歌も機械でしかできないようなムチャクチャな譜割の細かさと音程の上下で歌えるようにトレーニングして歌っていればいいじゃないですか。やや、いつのまにか現代流行歌への文句になっていますが(笑)、ともあれこのとき、武沢さんを除く安全地帯はこのバンドとしての音を形成できずに終わったのです。玉置さんのソロ歴の長さ、そして特定のごく少人数(二人とか)で音を作って形成された軽井沢ノリになっていた影響がここにモロに出てしまったんじゃないか……と思われるのです。いわば、機械とは対極にある玉置さんや安全地帯だったからこそこうなったわけなのでしょう。

さてそんな人間、天才超人玉置さんは、シンセサイザーでやればいいものを、いろいろな工夫で不思議な仕掛けを曲に忍ばせています。イントロのパーカッションからして正体不明な音がかなり使用されています。キットカットの箱?ダンボール?いやそんな音じゃないだろ?ってやったことないからわからないんですが、聞いたことない打楽器の音が右から左から響いてきて、感じたことのない感覚にフワフワと浮遊感すら感じるほどです。そして「ブブブブブブ……」が入って、ようやく玉置さんの声という聴きなれた音が入ります。「大丈夫」前後からベースや通常のドラムセットが入って本当に安心させられます。「いつものジェスチャーだーい」と、この「だーい」が安全地帯や玉置ソロの盛り上がっていたころを彷彿とさせます。音は激しくダイナミックなのにむしろホッとさせられるという不思議な逆転現象です。

曲はまた「ブブブブブブブ」で二番に入ります。今後はドラムがずっと入っていて一安心なわけですが、なんだか危なっかしいリズムと音で、別な意味で心配になります(笑)。よくよく聴くと一定さってものがあまり重視されていない感じなんです。もしかしたらこれが玉置さんのわかりやすい癖のひとつなのかもしれませんが、ここを田中さんが叩くと鋭すぎてこの感じが出ないかもしれません。そして二番は「だーい」ツタ!(ズシャーアアアン!)と大音量で最高に盛り上がる間奏が予想されて終わるんですが、この間奏というのがものすごい肩透かしという不思議な構成になっています。アコギとエレキで「トルルルーンルーンルトルルルー」となんだかスケールを単純になぞりましたって感じのギターソロ、それに続けて「キューン……キュンキュンキュン……」と玉置さんがストラトキャスターのブリッジをグリグリと押し付けて出したような無音階に近い音が響くばかりです。『CAFE JAPAN』くらいから散見されてきましたが、玉置さんはこういう、ギタリスト的には到底思い切れないくらいシンプルで奇妙なギターソロを用いることがあります。違うだろここは泣きのメロディだろ!と思うのはもちろんわたくしの勝手だし、それもずいぶん浅はかな発想なのでしょう。

さてソロが終わりまして、「☆身近な武器☆」という謎の言葉と「☆フリフリ☆」「☆素晴らしい☆」を裏で繰り返すという、常人には到底思いつかない声の楽器化によるリフを炸裂させます。もちろん『カリント工場の煙突の上に』における「家族」ですでに派手に使われた技であって、その後も散見されるわけなんですが、この箇所はメインの歌も「大丈夫」「問題ない」「もうぜんぜん心配ない」がひたすら繰り返されるだけで、どっちが楽器化されてるんだか、メインなんだかサブなんだかわからないという仕掛けが施されています。「バッチリだ」がわざわざ一か所だけ太字で書かれていて「キュルキュルキュルキュル」と目の覚めるようなギターが挿入されるなど、凝り方が尋常じゃありません。これだけ凝った励ましソングはそうそうお目にはかかれないことでしょう。そして励ましは明確には終わる様子を見せることなくフェイドアウトしていきます。

曲の骨格アイデア自体はごくごくシンプルな一発勝負、だけれども凝った仕掛けが施されていて容易にはその正体をつかんだ気になれない、この時期の玉置さんに特徴的なロックだと思います。『JUNK LAND』よりシンプルでリラックスしているけれども、そのリラックスしたぶん遊び心が感じられるという、絶妙さのよく感じられる曲だといえるでしょう。

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2023年11月05日

ターンテーブル

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玉置浩二『ニセモノ』三曲目、「ターンテーブル」です。

「roop rhythm by CARLOS KANNO & YUJI TANAKA」とのクレジットがあります。お二方の担当まではわかりませんが、冒頭からずっと鳴っているパーカッションをこのお二人が演奏したものをループ再生して使ったということなのでしょう。安全地帯としてレコーディングをはじめたこのアルバム、いろんな事情なり拘りなりがあって全部玉置さんが録りなおしたというのは有名な話ですが、こうして残っている部分もあったのか、とちょっと安心させられます。まあ、もしわたしが田中さんの立場ならブチギレしますけども(笑)。でもまあ、「ただドラムとベースが、今それぞれ音楽じゃない仕事をやっているので、様子を見ているところですね。それを辞めさせてまたこっちに来いっていうほどのものかね?っていうような感じですね。それは迷っているところです」(「玉置浩二3万字インタビュー本文」より)なんて玉置さんが言っていたものですから、思い切れないところがあったのだと思います。

これは玉置さんがお二人の演奏に納得いかなかったということでもあるわけなのですが、それはある意味当たりまえで、お二人ともツアーメンバーはおやりになっていたにしても、『GRAND LOVE』以降の軽井沢ノリにはまだ適応できていなかった可能性が高かったわけですから。同じインタビュー内で、『スペード』がほんらいの安全地帯がやるべきことだったと感じているとおっしゃっていましたので、この軽井沢ノリをこそ安全地帯のメンバーで演奏すべきだと玉置さんは思っていたことは間違いないでしょう。それで、実際やってみたら何かが違う。違っていて当たり前です。玉置さん安藤さんが作り上げた軽井沢ノリを形成する過程に安全地帯のメンバーは関与していなかったのですから。じゃあ残っている矢萩さんはなんなのよと思わなくもないですが、矢萩さんは異様に玉置さんとのシンクロ能力が高かったのでしょう。なんにせよ、思っていたサウンドとは違っていたのです。強引にそのまま安全地帯で突っ走ることは出来たでしょう。ですが、六土さんと田中さんはすでに音楽でないことを生業として生活を成立させていますし、武沢さんとはまだ仲直りも済んでいないわけですからここで安全地帯再開は明らかにフライングですし、そんな状態でお二人を玉置さんの思い通りに動かそうとするには思い切れなかったわけです。これはオトナなら当然の戸惑い、躊躇というもんでしょう。

さてアコギで軽く刻みつつ、玉置さんが囁くような声で歌い始めます。すわろうとしたのは、椅子がそこにあったから。なんとしなやかな思考!「あっ椅子があるから座ろう」なんて思いませんよ。座りたい、座ろうという意思があってそこにたまたま椅子があったのでなければ。人間というものは自由意志などをもっているのではなく環境のなかにあって原因結果の枠組みで行為しているにすぎないのだ……という深遠なる思想にしばし浸らされることになります。単に移り気とも呼びます(笑)。そんな心にうつりゆくよしなごとを独白のように、だがしかし「ちょっと」「ちゃんと」と確実にリズムを伴って少しずつ盛り上げていきます。

ハモリのコーラスを入れて独白は続きます。地球が回ること、それは一見時間が流れてゆくことと同じです。時間を「流れ」に喩えることは、時間が未来からやってきて過去へと去るもの、なんらか直線上にあるものだという理解があるからなのですが、じつはそういう理解は適当ではなく、いつだって「いま」しかないのですし、積み重ねることが出来るものではなく、そして動くものでもありません。現代ではわたしたちは音楽を聴くのだって直線の再生位置を示すバーを見ながら聴いてますから音楽を「位置」や「量」だと思っているフシがありますが、その位置や量はいくらいじってみても「音」にはなりません。時計をいくらグルグル回してみても気温や明るさやそのときの気持ちが再現されるわけではないことから明らかであるように、時間はいくら頭をひねって考えてみても位置や量といった空間的なものに変換できないのです。ですから地球がいくら早く回ったってそれは時間を左右するものなどではなく、ただ私たちはそれを時間の目安として利用しているにすぎません。だからこそ地球がいくら回ろうとわたしたちは回ってなどおらず、それとは無関係に歳をとっていきます。回ってなどいないのに迷ったりフラフラしたりしてはいますから「目が回っているみたい」な錯覚に襲われるのです。こっちまでちょっとクラクラしますね。

ベースとドラム、エレキギターが入り、「ビルのおーくじょーうにいいい」「まいおりーてーきたああ」と信じられないところで言葉を伸ばすスペシャルな活舌とそれを導くリズム感、そして神様がさみしそうに、きっと回っている地球を「ターンテーブル」にみたてて、そしてその上で迷ったりフラフラしたりしているわたしたちを眼下に見下ろして孤独に踊るというシュールな想像が混然一体となって、わたしたちに一種の快感をもららします。音楽によって得られる快感であることには違いないのですが、それこそシュールレアリスム絵画、とりわけジョルジュ・デ・キリコを観たときのように不安な想像をかきたてられることによって得られる興奮に似ています。

そして曲は二番に入ります。エレキギターが加わって不安さが増しています。次の『スペード』もそうなんですが、この時期の玉置さんの作品が玉置浩二・安全地帯ファンの間でも評価が分かれがちであるのは、この不安さに原因があるんじゃないかと思います。そりゃ好きこのんで不安さにシンクロしたい人なんてそんなにたくさんはいないでしょう。あのドン底の時代に玉置浩二の音楽を愛しすぎるがゆえにハマりこんでしまった迷宮のようなものです。Wikipediaによれば売り上げは3.7万枚、まさに惨敗です。『安全地帯BEST I LOVE YOUからはじめよう』の十分の一程度にすぎません。ですから、ものすごく乱暴にいえば、あの熱狂から十人に一人しか迷宮には残らなかったわけです。ここにおいてなんの遠慮がありましょう、殿!思う存分やっちゃってください!われら殿と命運をともにさせていただきます!という気分でした(笑)。ライオンがそこにいたから身を投げ出しただけ、なんて理解できなくて当たり前です。奇しくも須藤さんが玉置さんを猛獣、ライオンに喩えたこと、後年に「Lion」というシングルが出たこと、これらから得られる玉置さんのイメージはライオンなのです。これは猛獣が猛獣に絡んだということでしかありません。猛獣同士、友達になろうよと挨拶をしたわけなのです。

おそらくは猛獣同士ハイパワーでじゃれ合っているうちに殺し合いになり、アスファルトの染みに化けちゃったのでしょうけども、二匹の猛獣は楽しかったのでしょう。そこには確かに「夢」があったのです。「アスファルトーのーすみにいいい」「夢がしみーつーいてえええ」とまたメロウなメロディにとんでもないリズムと活舌、そしてアスファルトですから当然踏まれっぱなしになる夢、すすり泣きする夢、その上にさらに神様が踊っているという、絵にも描けそうにない光景のシュールさにホレボレとさせられます。

ここで安藤さんのエレピが鳴っていたことに気がつきます。エレピによるリードで展開が変わり、さらにメロウ、さらにメロディアスな歌にしばしボヤっとさせられます。そうだそうだ、待っていたんだこれを……歌の内容は敗色濃厚のダークなものなんですが(笑)、それでも希望があります。「投げ出す勇気」「踏み出す勇気」がほしい、それさえあれば勝ち目のないゲームはまだまだわからない……このとき玉置さんはかりそめの安全地帯復活という大博打を打てませんでした。でもそれはゲームを捨てたわけじゃないのです。かりそめでなく、武沢さんも松井さんもいっしょに、次こそは……と決意を込めた「待ち」であったのでしょう。

ループと口笛と、そしてガットギターによるもの悲しいソロ、「かみさまが」「さみしそうに」「おどって」というスキャット的な途切れ途切れの歌……「ターンテーブル」ですから、またチャンスは巡ってくるのだと信じて見送った……だって神様はまだ踊っているんだから、まだ回っているんです。

さて、なんのかんのと二か月?三か月?くらいろくに更新できませんでしたが、そろそろ再開したいなあと思います。ラストスパート的にこの連休もいろいろやることがあって、PCの前にゆっくり座るのも久しぶりでした。参っちゃいますね。本業だけでも気が遠くなるのに、そこに家庭やら町内会やらの色々が重なって、今月も週末のスケジュールが真っ黒なもので、じわじわと再開して参りたいと思う次第であります。

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2023年10月08日

古今東西

玉置浩二『ニセモノ』二曲目、「古今東西」です。

曲は遠くからビヨビヨーン……タリララー……とギターが絡みながら近づいてくる様子から始まります。これ、のちの『安全地帯XI☆Starts☆「またね…。」』にみられるパターンですよね。古くは「SEK'K'EN=GO」にもこの原型を思わせる表現がありました。ああそうか、この『ニセモノ』は最初は安全地帯で作ろうとしたいたんだから、こういうことも起こるだろうな、と思わされます。

軽い音色のドラムにのせて硬質のクリーントーンギターが単音リフを奏で、絡んでいた遠きギターの謎めいた弛緩を引き締め、曲の緊張感を高めます。「んん〜」と玉置さんがうなり、ベースがドムーンムン!とエンジンをかけてからムムムムムムムム……と単音で突っ走りはじめ、玉置さんが『CAFE JAPAN』時代を思わせる掛け声で合いの手をいれます。うるさいアメ車で時速60-70キロくらいの突っ走り具合です。

さあ何かが始まるぜ!みんなカモン!おれのマシンに乗りこめ!って感じなんですが、歌詞をよくよく聴くとこれは断捨離の歌でした(笑)。玉置さんは、傍から見ているとどうもこういうリセット癖があるようで、あるときスパッと何もかもを捨ててイチから新しいものを作ろうとする性質があるように思えますが、歌にもそのような心境が垣間見えることがあるわけなのでした。

手あたりしだいやめる、何から何まで捨てる……やめたり捨てたりしたら楽になるような気がするんですが、そのあと「ガンバレ ガンバレ」です。何をガンバレとおっしゃるのか……やめることを?捨てることを?きっとそうなのでしょう。人間、保守的な生き物ですから、現状変更を嫌います。ですから、それを続けることで少しずつ状況が悪くなってきていても、なんとか最低限の成果があればそれを続けてしまうものなのです。だからガンバレガンバレ、そんなこと思い切ってやめてしまうんだ、捨ててしまうんだ、……。ムムムム……と疾走するベースに音の軽いドラムがすべてを振り切ってすべて壊しながら進むナイトクローラー(プリースト)のように、突進します。「ミョンミョーンミョン、ミョンミョーンミョン」と何の音かわからない、それでいて印象的なリフレインがこの「ガンバレ」の悲壮さを盛り立てます。

さらにもう一度、断捨離を促すパッセージが繰り返されます。無くしてしまえ、そんなことで死んだりするもんか、大丈夫だ、許せないなんて言ってないでスパンと許してしまえ、怒りも捨てるんだ……それで君は死ぬんじゃない、それで生きることが出来るんだ……ああいかん、何もかも捨てたくなってきました(笑)。ここのところ、まあ世情がそうなんでしょうけども、何かをしようとするとそれを邪魔する勢力が我が物顔でデカい声を出していますから、いちいち話すのも疲れてきました。もうトヘロスでも唱えたい気分なんですが現実にはトヘロスもせいすいもなく、ラダトーム(事務室)やガライ(会議室)に近づくとスライムベスやドラキーがレベルに関係なくエンカウントしてきますので、ウザいことこの上ないです。もう最初からやり直したほうがいい……いや、ゲームの話ですよ?ホントですって!

曲はささくれだったストラトキャスター的な音でギターソロが入ります。これは玉置さんなんじゃないかなと思います。そしてピコピコと鍵盤シンセらしき音が加わり「腹立たしい……そんなもんだー」と、怒りをこめておきながら最後にそんなもんだと諦めたような、一種独特のリラックスしたルーズな玉置さん一流の嘆き節が入ります。ここに、地味に「今も昔も」と、「古今東西」の「古今」が隠されているのも非常にオツです。

そしてまたギターソロ、こんどはレスポール系の粘っこい音です。これは音からして矢萩さんなんじゃないかなと思いますが、『CAFE JAPAN』や『JUNK LAND』における玉置さんのフレージングを思わせるところもありますので、判断が難しいところです。

そして歌は二番というか、ラストに向けた展開に入ります。今度はギターソロを挟まず直接ピコピコ入り嘆き節に入りますので、あっというまにラストまで突っ走る感覚があります。野を越えて山も越えて海も空も行く、ホントに突っ走ってます。「ところかまわず愛が行く」って、さすがの玉置さんも愛までも断捨離しようとは歌いません。ちょうどこの頃を作っているあたりで安藤さんと結婚なさっていましたので、考えようによってはリセットなさったわけなんですけども、そんな感覚はないでしょう。ひたすらに愛が行く、どこまでも愛が行く、真面目とか不真面目とかそんなのは周囲による評価であって自分の気持ちとは別のものだ……これはカッコいい!いや、周囲はたまったもんじゃないでしょうから、カッコいいと痺れてばかりもいられないし、見倣うことも勧めることもないんですが、この、ある意味で一途な境地は、なにもそれが愛でなくとも、自分の信じる道において到達したいと思わせてくれるものがあります。

そして曲はまたガンバレガンバレ、最後の嘆き節に入っていきます。この嘆き節の中に「西も東も」とまた「古今東西」の「東西」が隠されています。古今東西、人はいろんなことで嘆いてきました。肌淋しいと、嘆かわしいと、バカバカしくて忌々しいと。ホントに古今東西そうなので、いま自分がそのように嘆いたとしても「そんなもん」なんです。ウイリー・ウイリアムスがクマと対決したら、たぶん現代だと抗議電話が殺到するだけじゃ済まない騒ぎになることでしょう。昔はよかったのに今はダメなのかよと思わなくもありませんが、これもまた「そんなもん」なんです。そんな状況ではご都合主義な人とそうでない人は対立しますし、原理主義者とリアリストも対立するでしょう。そうして人類は筋違いの衝突を起こしながら、ずっとやってきたんだと思われます。「そんなもん」なのに嘆かわしいバカバカしいと嘆きたくもなります。

そしてまたギターソロ……これはこれまでに二回あったギターソロのうち、一回目のソロと似た音であるように思われます。うーん、わからん。何回も聴くとかえってわからなくなります(笑)。そして、『夢の都』のころを思わせるキメで曲が終わります。これはロックンロール!最後だけ!新旧の安全地帯サウンドが90年代でぷっつり切れているところに突如登場したようなサウンドとフレージングで、これは裏事情を知ってからだと胸の奥が暑くなるものがあります。もちろん当時はそんなこと知りませんでしたので、ぜんぜん気づきすらしませんでしたが……。

さて前回の記事からまた一か月ほどお休みいただいていまして今日やっと一つ書いたんですが、さらに一か月くらいはこんな感じでなかなか進めません。こんなわたくしでも本業という非常にやるせないものがございまして、どうにもこうにも動きようがないのです。そんなわけでして、またゆるゆるペースになります。ここ三年くらい頑張ったんだけどな……。もう七年とかやってますが、たまに数か月単位、へたすると年単位で休むことがあるのです。それでも続けてはおります。気が長いんです、わたくし。音楽の世界の広大さと奥深さを日々感じたり遠のいたりしながらも、ゆっくりとでも自分のささやかな一歩を進めてゆくんです。それがわたしなりの、何十年も尊い活動を続けているアーティストへの、ささやかなリスペクトの示し方なのです。

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2023年09月10日

凡人

玉置浩二『ニセモノ』一曲目、「凡人」です。

曲は「スパン!」と実にこ気味のいいドラムの音から始まります。そして開放弦もまじえたメインリフが繰り返されます。これがこの曲全体のリズム、サウンドを象徴しており、「凡人」といえばこのリフ、これを弾けば(玉置ファンなら)誰もが「あっ「凡人」だ!」とわかる大きな特徴となっています。ですから、これが耳に残って仕方ないというわたくしのようなリフマニアにとっては、早くも一曲目にしてこの『ニセモノ』が名盤であることを確信させられた名リフとなっています。

さて歌が始まりまして、ポワンポワンとした、おそらく鍵盤と、後ノリのベースに乾いた音のドラムだけ、たまにギターでアオリが入るというシンプルな伴奏で玉置さんがハイテンションに歌います。元気のよい、という形容がピッタリ!簡単にいいますけどもこれが難しいんですよ。世の中にはどんな役を演じていても同じキャラにしかならない役者さんがいるのと同様に、どんな曲を歌っても同じ感情しか表現できていない歌手というのもいるのです。その点、玉置さんは元気のいい歌としんみりした曲はハッキリと表情が違います。これは冷静に考えるとおそるべき表現力であって、わたしら「ワインレッドの心」のしんみりした色っぽさと「真夜中すぎの恋」の劇的に元気のよい色っぽさをたて続けにくらってから約四十年も麻痺したまんまなんですが、世の中にはこんなとんでもない歌手もいるのでした。色っぽいのは変わんねえじゃねえかコノヤローとお𠮟りを受けるかもわかりませんが(笑)、いえいえいえ、玉置さんは「田園」という色っぽくない元気な曲も出しているではありませんか。さらには郷愁の「メロディー」、応援歌の「ルーキー」と、キャリアが積み重なるにつれてもはや人間の感情全方面にわたるのではないかというくらいバラエティ豊かな、それでいて曲想にズバリで鳥肌モノの感情表現を聴かせてくれます。

さてそんな元気のいいボーカルで歌われる世界は、何やら不思議なニオイに満ちています。裸になって文句がない?値うちがあるから見張る?お腹がすくからカッカッカッカッカッカッ?そして天国で踊り、そして落っこちる……ことによるとこれは恐ろしい曲なのかもしれません。底抜けに明るいアレンジに演奏なんですが、歌われているのはもしや……堕天使なのでは……。偽典とされる『エノク書』には、地上の人間を見張る使命をもった天使アザゼルが人間の娘にすっかり魅了され、なんと200人(?)の天使を率いて人間の娘と交わり、天国の秘密たる医療、呪術、金属加工法と武器製造法、染料の知識等を人間界にもたらしたとの記述があります。神からすればこれはとんでもない裏切りです。なにしろ職務放棄、秘密漏洩であり、しかも天使と人間の境界をぼやかしてしまうことによって神の秩序をこれでもかと乱したわけですから。まあ偽典なんでしたらマトモに取り合うようなものでもないんでしょうけども、神からしたら実にけしからん内容であるわけなのです。で、こんだけいろいろ書いておきながら、根拠は「天国」と「見張って」だけだという(笑)。

普通に考えて、裸になるというのは衣服を脱ぐことではなくて本気になるとか本音でぶつかるとかカッコつけずに素の自分で勝負するとかそういうことでしょう。それで素の自分に価値があるのならそう思って勝手に注視していればいい、こっちはもう腹くくってるんだから、自分のできることをするだけだ、という意思表明に思えます。もちろん腹ごしらえもしっかりしてカッカッカッカッカッカッ、うん、やっぱり謎だ(笑)。「カッカッカッカッカッカッ」が以前登場したのは「愛してるよ」なんですが、あのときも「ゲラゲラ笑ってりゃカッカッカッカッカッカッ」というやっぱりわからない描写でしたもので、謎は深まるばかりです。うーん、高笑いか、怒りかなんでしょうけども、どっちでもそれなり納得できるしどっちでもやや釈然としないものが残ります。「愛してるよ」に一か所、この「凡人」に二か所、それぞれ違う感情を表現しているのかもしれません。どれもが怒りと高笑いとがないまぜになった複雑すぎる心境を表しているのかもしれません。全方面感情表現と言いつつ、その方面がよく分らないものまでカバーされているとは想定しておりませんでしたが、そりゃわたしがわたしの語彙なり経験なりで表現できる感情しか歌われていないと考えるほうが不自然なのです。

さて曲はその複雑な「カッカッカッカッカッカッ」に導かれて天国から落っこちるサビへ、印象的な裏メロとそれに合いの手を入れる何やら鈴的な音に乗せて、天国で!踊り狂って!落っこちて!と印象的にもほどがある歌詞を叫び気味に歌い、あっというまに通り過ぎてイントロのリフに戻るのです。早い!この展開の早さはこれまでなかなかなかったように思います。

曲は二番、演奏にとくに一番と変わったところはありませんが……歌詞のほうは不可解さを増してゆきます。そしてボンクラ耳のわたくしいま気づきましたが、これ玉置さん二回(以上)歌って重ねてますね。一番に比べて二番のほうがやや揺らぎが大きいのかもしれません。23年も経ってやっと気づきました。遅い!だからちゃんとなんて聴いていなかったんですねえ、いま思えば。オジー・オズボーンが声を太くするためにダブルボーカルにしてるんだってインタビュー読んでましたから技法としてはもちろん知ってましたが、だから何なのオジーじゃ仕方ねえなくらいにしか思ってなかったんですね。まさか玉置さんが声を太くすることをねらってそんなことするわけねえだろって思ってますから、そもそも想定にないんです。普通に考えれば非力を補うだけじゃなくてもともと十分な力感をさらに増すとか、微妙な揺らぎを表現技法として取り入れるとか、使いどころはいくらでもあるんです。アタマが固いと人生損しますねえ、四半世紀もそこにあるものに気がつかないでいたんですから。ですから、虚心坦懐にというか、ただただ耳に聴こえてくるもの、胸に感じるものを思考のフィルターで減じないようにしたいものです。いやホントに。

眠れなくて明日が見えない……むう、それは続くようなら病院に行ったほうがいい……いやこれは結構マジです。玉置さん自身、心を病んでしまってひどく辛い思いをなさっていますから、睡眠によって頭をリセットすることの重要性をよくご存じで、それが出来ずに苦しんでいる人への思いやりもハンパではないでしょう。よくたやすいことを「朝飯前」というのですが、これ、たやすいから朝飯を食う前の力が弱っているときでもできてしまうという意味ではなく、朝飯前がいちばん物事をたやすく処理しやすいという意味なんじゃないかとわたくし思っております。睡眠によって昨日の些事はすっかり忘れてしまっていますから思考はクリアですし、早朝にはウザい連絡来ないし(笑)、血糖値が低いからかものごとを早く片づけて飯を食いたいと思ってますし。夜だと二時間かかることを三十分くらいでできてしまう感覚があるくらいです。ですから、眠れないというのは一大事、ほんとうに「明日が見えません」くらいの惨事だといえるでしょう。さっさと眠ってつまらないことは忘れ、名前があるんだかないんだかわからない人のいうことなどに惑わされず、金があるとかないとか、それでできるとかできないとか、イライラしちゃうとか高笑いしちゃうとかの思考を遮るノイズをいったんリセットして、クリアな状態で毎日を始めるべきなのです。そうすると……サビの「天国で踊り狂って」というのは、もしかして仕事の異様にはかどる早朝のことなのでは?(笑)。で、だんだん日常のノイズに支配されてゆくさまを「落っこちて」と……そんなわけあるかって思うんですが、まあ、ひとそれぞれ「天国」、つまり絶好調のときというものはあるものです。それがわたくしの場合は早朝だってだけのことで。そしてそこから落ちてゆく、その最中に雲にまじったり星をつかんだりする……つまり絶好調の間に重要なヒントを手に入れることが出来るというわけなんですが、この積み重ねこそが、「平凡」なとき、つまり通常時において「凡人」が十分なパフォーマンスを発揮できるコツなんだとわたくし考えております。

ひとは絶好調のとき、わたくしの場合は早朝なんですが、天才かって思うようなことができることがあります。そこでつかんだ星は人を驚かせ、他者から一目置かれるようになることさえあるでしょう。絶好調のときの産物だから、言ってみればマグレなんですけども、他者はそう思いません。ですから凡人は絶好調を維持して周囲の期待に応えようと、自己管理を行うようになります。「天国で暮ら」すために。

さて間奏に、非常に単純ながら印象に残るギターソロがありました。これ、やっぱり二本で弾いていると思います。この微妙な揺らぎとハーモニーが「カッカッカッカッカッカッ」に聴こえます。やはり高笑いのような、イラツキのような、そんなギターソロです。凡人なのに、天国で踊ってしまった、つまり神のような天才のようなパフォーマンスを見せてしまった、そりゃ有頂天にもなりますし、焦ってイラツキもするでしょう。おれは凡人なんだとわかっているからこそ、不似合いな世界に躍り出てしまったことによる高揚感と焦りはひどく心を消耗させます。「夢が醒めて」「平凡な男になって」……そうすればラクなんですが、それでも天国で暮らすためには、平素におけるパフォーマンスを高く維持するしかありません。なんか、どこかにないですかね、ムリしないで天国にいられる方法って。

さて、一ヶ月ばかりほとんどお休みさせていただいた当ブログですが、実はまだ完全復調というわけにはまいりません。やや頻度は落ちますが、それでも少しずつは前に進もうと思います。早朝とかに(笑)。

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2023年09月03日

『ニセモノ』

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玉置浩二8thオリジナルアルバム、『ニセモノ』です。発売は2000年4月、『GRAND LOVE』から約二年後のことでした。

前年の『ワインレッドの心』で、もう安全地帯復活秒読みだろうと思っていたわたくし、このソロアルバムの登場に正直驚きました。なぜ安全地帯じゃないんだろう?もちろん玉置さんの情報を平素から追いかけていた人ならば、先行シングル(「虹色だった」と「aibo」)が出た時点でもうお分かりだったと思うのですが、まだ安全地帯は復活していませんでした。聞くところによると、いったんは安全地帯(武沢さんぬき)でレコーディングしたものの、玉置さんがぜんぶ録りなおして自分のソロとして出しちゃった、だからタイトルが(安全地帯の)『ニセモノ』だという笑えない話があったそうなのです。

以下は志田歩さんの「玉置浩二3万字インタビュー本文」からの引用(青文字にしてあります)です。

「あれから連絡1年とらなかったですからね。でも矢萩とはね。矢萩のギターはだから残っていると言ったら変ですけど」
安藤 (笑)
──(笑)
「矢萩はだから残ってるんですよ。矢萩は問題ないですね。でも「みんなはちょっとガッカリしてたみたいだぞぅ」なんて」
安藤「その時は武沢さんはいなかったの?」
「うん。もう一人の(安全地帯の)ギターね、武沢ってのはいなかったんだけど。だけど去年のツアーでその武沢ってギターがまた入ってきて、ええ。それでギターが二人揃って。安全地帯のギター二人と俺で去年ツアーやったら、今度はもっと安全地帯をまた始めるかなって実感があるんですよね。ただドラムとベースが、今それぞれ音楽じゃない仕事をやっているので、様子を見ているところですね。それを辞めさせてまたこっちに来いっていうほどのものかね?っていうような感じですね。それは迷っているところです」


六土さん田中さんの音、あるいはそれらがふくまれたアンサンブルに納得がいかなかった……ということなんじゃないかと思います。お二人とも90年代玉置さんのツアーには参加されていたわけですから、けっして傍からわかるほど腕が落ちていたり感覚がズレていたりしていたようには思えないんですが、だからこそレコーディングまでは行った、だけどボツにした、というのが玉置さんによるそのサウンドへの評価の結果だったと思うのです。もう一つは、武沢さんぬきのレコーディングのまま安全地帯の名前でリリースしたくないという気持ちもあったんじゃないかと思われます。

ちなみにこの志田さんのインタビュー、超貴重な資料です。ダンボールを叩くようになった経緯だとか、歌詞を書く様子だとか、ベースが得意だとかスティーリー・ダン好きだとか、いろいろなことがわかりますのでファンの方はぜひご一読を!

そんなわけで、玉置さんのこだわりが窮極にまで発揮された結果としてソロ八枚目のアルバムとしてリリースされることとなったこの『ニセモノ』、そうですねえ……わたくし個人は、これ安全地帯ではなくて玉置さんのソロで出すべき作風だな、とは感じました。もちろんバンドでレコーディングすればそれなりバンドの作品ふうにはなるんでしょうし、曲によっては非常に安全地帯よりというか、安全地帯の未来において実現してたようなサウンドが散見されるんですけども、これはリリース時点では玉置さんソロの作風だと思います。のちに玉置さん自身もお気づきになったことなんでしょうけども、武沢さんの復帰はもちろん必須として、『安全地帯IX』で「星さん、またやって」と星さんに声をかけることであるとか、歌詞を松井さんに依頼するなど、安全地帯の作品を作るにはまだ必要な仕掛けがあったように思うのです。『ニセモノ』には共同プロデューサーとして須藤さんの名前がクレジットされていますけども、それも安全地帯のサウンドとは別物であることを意味しています。ただ、武沢さんの復帰を提案なさったのはほかならぬ須藤さんだそうですから、須藤さんが安全地帯復活に果たした役割が超巨大であったことは間違いありません。あくまで、『ニセモノ』のサウンドが安全地帯でなく玉置ソロであった要因に須藤さんのプロデュースがあったということです。

このように、玉置さんソロであるべき理由というものを書いてまいりましたけども、人がレコーディングしたものをボツにしていいとはわたくし全然思っておりません(笑)。「ちょっとガッカリ」じゃ済まない暴挙だと思います。こういうことが出来てしまう人だからこそ、玉置さんや安全地帯の作品はこんなにも胸をうつのだと思い知らされたエピソードです。とてもとても申し訳ない気持ちにされられます。わたくし、先月(今年の八月)にぜんぜん当ブログを更新できませんでしたけども、その理由の一つにレコーディングがあります。そうです、レコーディングに参加していた、というか、とある作品にアレンジ・演奏で参加していて、ポチポチ打ち込んだりギター弾いたりしていたのです。で、これでどうだ!とできた音源を送ってみたところ、あんまり反応がよくありませんで(笑)、「ちょっとガッカリ」いたしました。頑張って考えて作ったのになあ……でもまあ、仕方ありません。結局は基本アイデアはそのままでちょっと録音を差し替えしただけで印象がガラッと変わったらしくオーケーが出ましたけども、まるごと録り直しとか、あるいは他に依頼されたとかになったら、ヤサグレちゃいましたよ、もう。アレンジとか演奏ってのは自分の子どもみたいなもんで、取り返しがつかないその時々の「自分」の分身なんです。だからわたしは、自分の作品にほかの人を参加させるときには、可能な限りその人のアイデアを受け入れるようにしているんですよ。最初はイラっとしてもだんだん馴染んでいって、そのうちオリジナルの自分のアイデアが塗り替えられていきます。一人よりも二人分のアイデアのほうが豊かに決まってますから、たいていはそうしたほうがうまくいくんです。こんなアマチュアの甘い思いなど遥かに超えた次元で玉置さんはボツにしてしまいますけども(笑)、そのくらい安全地帯とか玉置浩二というアーティスト像へのこだわりこそが、この緊張感とそれによる感動を生んでくれたのでしょう。

さて、一曲ずつの短い紹介を。

.凡人 ノリノリのオープニングナンバー、「カッカッカッカッ……」に「愛してるよ」の面影があります。
2.古今東西 スリリングな二曲目(「闇をロマンスにして」みたいな)のイメージを見事に継承してます。
3.ターンテーブル 二曲目のスリルを増幅させるスローでミステリアスなアコギロックです。
4.ジェスチャー 「大丈夫」「心配ない」と歌ってくれるんですが、不安は募るばかりの不穏さです。
5.aibo やっとバラードだ!シングル曲で一息……なんてとんでもない号泣ソングでした。
6.懺悔 「RELAX」を彷彿とさせるサビの力で叩きつけられるような剛腕ソングです。
7.常夜灯 このアルバム随一の号泣ポップソングです。わたくし的アルバムNo.1です。
8.淋しんぼう つづけさまに号泣ソング、バラードです。
9.御伽話 『安全地帯IX』に入っていてもおかしくない安全地帯の未来を予言したサウンドです。
10.あの丘の向こうまで これも『安全地帯IX』あたりにありそうな未来ソングです。
11.夢のようだね しつこいようですが、これも『安全地帯X』あたりの作風をみせるバラードです。
12.虹色だった シングル曲です。『安全地帯X』と玉置浩二『GRAND LOVE』の中間あたりのバラードです。
13.ニセモノ 「見破」りはせず志田さんのおかげで真相を知りましたけども……胸の痛む号泣バラードです。

時は2000年、世紀末だミレニアムだーとテレビが浮かれていた(それしかネタがないのか?)時代です。北海道拓殖銀行が潰れ、長銀、山一證券が破綻、ビッグな金融事件が相次ぎ一体どうなっちゃうのさ!と不安で一杯なのにウッチャンナンチャンがポケビブラビで華やかにパフォーマンス、モーニング娘は黄金期で絶好調、海の外ではクリントン大統領が「不適切な関係」で大炎上し、共和党政権へのバトンタッチやあの9/11まで秒読みの世界情勢ですから国際関係だって穏やかであるはずがありません。ひそかにノストラダムスの「七の月」も迫ってました(笑)。ですから、破壊と創造がごっちゃというかなんというか、破滅と新時代の雰囲気がミックスされた、実にカオスな状況でした。

わたくし、個人的に、この年にそれまでの生活をいったん(半分以上やむを得なくて)リセットしています。三月でそれまでの生活に区切りをつけ、これからどうしよう……と迷っていた時期でした。まだまだ二十代中盤で若く、なんでもできる気分ではありましたからそんなに悲惨な感じではなかったんですけども、それでも怖かった、本当に怖かったのです。行き止まりに突き当たった感覚でした。そんなとき「”aibo”はもう聴きましたか?」と海外の友人から、英語だったか日本語だったかもう忘れましたけども、メッセージが届きました。「"aibo"ってわかんないな、玉置さんのシングル?」「とってもいい曲だから聴いてみて!」「じゃあアルバムが出たら聴くよ、いまちょっとお金なくてシングルは買えないんだ」「そうなんだ……」それから一か月ほど経って、なけなしの三千円でこの『ニセモノ』を手に入れ、その元気のいいサウンドに驚き(『GRAND LOVE』『ワインレッドの心』の雰囲気まったくなし!)、そして「aibo」に……涙しました。詳しくは「aibo」の記事に譲るとして、メッセージをくれた友人に、ありがとうを伝えました。当時普及し始めたADSL回線だったか、まだテレホーダイだったかも忘れましたが、ICQでアッオー!アッオー!とやり取りは続きました。

そんなわけでこの『ニセモノ』は、平成不況ど真ん中、氷河期世代の嘆きも最高潮の時期に出されたこのアルバム、いろいろな思いの詰まった思い出のアルバムなのです。

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2023年08月30日

『ワインレッドの心』

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玉置浩二アルバム『ワインレッドの心』です(発売は1999年2月)。CDジャーナルもWikipediaも「セルフ・カバーアルバム」と書いていて、実際玉置さんが作曲クレジットをもっている曲を玉置さんが歌っているという意味ではたしかに「セルフ・カバー」なのは間違いありません。タワーレコードも「「ワインレッドの心」「夏の終りのハーモニー」「恋の予感」「碧い瞳のエリス」など、90年代を代表するバラードの名曲揃いです!」などとサラッと間違ったことを書いているのはともかく(80年代だろ!)、「セルフカヴァ―・アルバム」と書いていますので、セルフだというのはどうも業界で一致した見解のようです。

わたくし、違うと思うんですよ。玉置さんは、玉置浩二と安全地帯を別のアーティストだと考えているフシがありますもので、玉置浩二が安全地帯をカバーした、というのが正確で、それ以上ではないんだと考えています。そう考えます根拠としましては、第一にMIASSツアーでの「安全地帯の前座の玉置浩二です」と言って客席で「All I Do」歌っちゃった事件が挙げられます。そこはもうキッパリ分かれているわけです。当時は安全地帯に比べて、玉置浩二というアーティストはまだまだ実績の足りない新人でしたから、安全地帯のいちメンバーでしかない玉置浩二が安全地帯を名乗ってはいけない、別のアーティストなんだという自覚をもって安全地帯にリスペクトをもっていることを示したというわけです。第二に、この『ワインレッドの心』は矢萩さん、六土さん、田中さんが参加しているのに「安全地帯」を名乗らない、という事実が挙げられます。武沢がいないと安全地帯じゃないんだよ!という思いがなければ、安全地帯を名乗ってもいいはずなのです。武沢さんは当時脱退していましたから、このメンバーで安全地帯を名乗るのはおかしくないどころか全く自然なことなのに玉置浩二名義でこのアルバムを出したということは、玉置浩二は安全地帯とは別のアーティストとみなしていたからだと考えるべきでしょう。ぐだぐだと書きましたが、多くの人にとってそんなこたーどうでもいいんですよ、きっと。玉置さんがあの声で安全地帯の新バージョンを歌った、それだけが重要であると考えるのなら、全くその通りです。実際に、玉置浩二と安全地帯のキャリアには分かちがたい結びつきがありますし、玉置さんもソロのライブでしばしば安全地帯の曲を演奏してきましたから、どっちでもいいよそんな細かいことにこだわっているのお前だけだよとお考えになるのももっともなのです。ですが、ほかならぬ玉置さん自身がこだわったからこその玉置浩二名義でのリリースなんだと思うわけですから、わたくしもそのこだわりをここに書き留めておきたいと思ったわけなのです。単に安全地帯の契約が取れなかったからという理由だったらコケちゃいますけど。

さて、このアルバムは全13曲、シングル曲は半分ほど、それ以外の曲も往年のファンならよく知っている名曲、それもバラードばかりです。バラード以外、たとえば「じれったい」「I Love Youからはじめよう」などは収録されていませんから、バラード集を作ろうとしたのは明らかです。そして安藤さんのピアノを随所に生かしたアコースティック調で静かなアレンジになっています。そして矢萩さんがギター(とエレクトリックシタール)、六土さんベースに田中さんドラムなんですが、玉置さん自身もギター、ベース、パーカッションを演奏したとクレジットされていますので、安全地帯とは編成が違っていることはここでハッキリします。そしておなじみカルロス菅野さんパーカッション、平原まことさんソプラノサックスとフルート、そして竹内ストリングスのみなさんがストリングスと、なるべく「いつもの・往年の」メンバーで録音しようとしたことがわかります。

その一方で、たとえば『T』における「ワインレッドの心」や「悲しみにさよなら」はすでに安全地帯のオリジナルバージョンに近い形で演奏しようという意図が薄かったように感じられましたし、2000年代以降のライブアルバムではさらにその傾向は顕著になっていきます。ですから、玉置浩二名義で安全地帯の曲を演奏するときはこうなんだ!という、安全地帯との差別化というか、玉置浩二はこういうアーティストなんだ!ということをスタジオアルバムの形で基準として残したアルバムになっています。

で、いつまでも感想を書かないわけなんですが(笑)、安全地帯オリジナルバージョンとはまるで別物だとわたしは考えています。たとえば一曲目「To me」、イントロのピアノとストリングスの時点ですでにゾクゾクと来ます。玉置さんのボーカルは極力リバーブを抑えた生々しい声で、「なにも言わないで」を初聴時にヘッドホンで聴いたら失禁するんじゃないかってくらい近いんです。そして二曲目、タイトルナンバー「ワインレッドの心」は安全地帯時代の妖艶さをすっかり脱していて純粋に曲のよさをグリグリと押してきます。さらに三曲目「Friend」、これは低音のピアノがいいんですよ……わたくし曲を作るときピアノを低音にしがちなのはこのピアノに完全に参っているからです。安藤さんのセンスなんだと思うんですが、安藤さんがいかに玉置さんとベストマッチなピアニストであったかを示す究極のプレイだと思っています。そしてこの平原さんのフルート……なんじゃこの切なさは!『安全地帯LIVE』で聴くことのできる平原さんのプレイをここで堪能できるという、非常に贅沢なバージョンとなっています。わたくし的にはこのアルバムベストチューンはこの「Friend」です。そして四曲目……このまま続けると読みにくいし、きりがないんで、いつもどおり箇条書きにしていきますね。

1.To me ストリングスとピアノではじまる、原曲を超える切なさ爆発バラードです。
2.ワインレッドの心 アコギでスローに歌われるタイトルナンバーです。
3.Friend 低音のピアノとフルートの、卑怯な切なさ暴発ソングに変身しています。
4.夏の終りのハーモニー 陽水さんなしで、ピアノで盛り上げられる完全な玉置浩二バージョンです。
5.夢のつづき ストリングスでシンプルに盛り上げられて、知る人ぞ知る名バラード復活です。
6.瞳を閉じて 玉置ソロでしばしば聴くことのできる、よく響くアコギでの弾き語りです。
7.恋の予感 アコースティックな響き、とくにギターを中心にアレンジを再構成しています。
8.あなたに これも原曲のピアノのイメージを覆すかのように、ギター中心のアレンジになっています。
9.悲しみにさよなら 繰り返しの説明でしつこいようですが、ギター中心、そしてスローです。
10.碧い瞳のエリス ……安藤さんいるのにピアノでなくギター中心です。ドラムも入ってません。
11.朝の陽ざしに君がいて 比較的時代が近いせいか、オリジナルにそれなり近いアコギバラードです。
12.ゆびきり なんだか暗いです!でも、もとはこういう曲としてつくっていたんだ!と気づかされます。
13.あの頃へ シタールってこれじゃない?すごい迫力のアレンジです。これも原曲を超えています。

さて、ここまで書いてしまうとお気づきの方もいらっしゃるのではないかと思うのですが、わたくし、このアルバムを通して、原曲を超えている!と考えているものは数曲なのです。これはもちろん人によりますから、このアルバムのほうが明らかにいい!という方もいらっしゃることでしょう。完全に好みの問題です。それで、だからそれ以外の曲を聴かないということでは全くございません。わたくし安全地帯・玉置浩二の曲は全曲良いと考えておりますし、このアルバムも例外ではありません。ただただ、原曲と比較してより好きかそうでないかというだけのことです。気分によってこのアルバムを手に取り(というか現代では画面上で選択し)、じっくり耳を傾けることもございますし、今日の気分はこっちだなと考えて単曲で聴くこともございます。

当時はあまり自覚していませんでしたが、これがわたしの考える安全地帯と玉置浩二の、アーティストとしての違いなのだと思います。作曲者でありリーダーであるからといって、玉置さんが安全地帯であるわけではないのです。玉置さんがソロで全身全霊で歌う曲と、安全地帯で演奏する曲とでは、たとえ原曲が同じであっても違う曲に近いものなのだとわたしが心の奥で見なしているいうことなのです。だから原曲が同じだとどうしても宿命的に比較してしまうし、その結果、これは玉置さんソロのほうが明らかによい、と考える曲もいくつか出てくるのでした。

さて、ここまで、このアルバムはセルフカバーではない、ということを力説してきたわけなのですが、そんなのどうでもいいよという方が大勢だと思いますから、さらっとお勧めするならば、アコースティックテイストのアレンジで玉置浩二が作り直した安全地帯のバラードを収録したアルバムだ、ということが出来るでしょう。つまり、安全地帯のバラードが好きであるか興味があるかで、かつアコースティックなアレンジが好きならば、いの一番にお勧めできるアルバムです。というか、そんなアルバムこれしかありません。

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2023年07月29日

FIGHT OH!

玉置浩二ベストアルバム『田園 KOJI TAMAKI BEST』十曲目「FIGHT OH!」です。「MR. LONELY」カップリングのバラードです。

安全地帯のころからそうなのですが、玉置さんはカップリングをそんなに重要視していないフシがあるというか、作ったこと忘れちゃってるんじゃないのってくらいアルバム未収録のまま放置されていることがよくあります。これもそんな曲だったのですが、奇跡的にというべきかなんというべきか、このベストアルバムに収録されました。このほか「カリント工場の煙突の上に(Single Version)」もカップリング曲ですから、アルバム未収録だったカップリング曲を収録する方針だったのかと思わなくもありません。ですが、それにしては「田園」のカップリング曲「働こうよ」は収録されてませんし、その一方でシングルでもなんでもない「CAFE JAPAN」「ROOTS」「花咲く土手に(New Recorded Version)」「JUNK LAND」が収録されているわけですから、これは本当にそのとき収録したい曲を選んだんじゃないかと思えてきます。

さて曲は『カリント工場の煙突の上に』の頃よく聴いたようなフィーリングのシンバルから始まり、ギターのアルペジオに併せてオーボエ的な音色をもつ管楽器が悲しげな旋律を奏でてはじまります。丸いけども腹にズシーンと来るベースが全体のムードを引き締めます。

「FIGHT…...OH......」と玉置さんが吐露します。なんだよ吐露って、激励とか発破とかそういうのじゃないのかファイトなんだから、と思わなくもないんですが、ホントに吐露としか言いようのない、覇気のない「ファイト」なんです。なんなら「OH」はできるなら避けたいけども仕方ないなと諦念の境地に達しています。いったい何があったんだと思わせる「ファイト」なんです。伴奏はなにやら単音の鍵盤に、ギターのアルペジオを重ねています。そしてポクポクとパーカッション……いやこれギターのボディー叩いたんじゃないですかってくらい簡素でささやかな打楽器音です。シンプル極まりません。

「ひさしぶりに」いやだけど仕方ないから喧嘩でもしなくちゃならないって感じですね、そのままに歌詞を読んだら。でも、そんなふつうの「ファイト」なわけはありませんから、たぶん自分からは手を出さないで殴られるんでしょう。もちろん殴られると痛いですからイヤなんですけど、仕方ないから殴らせるんです。詳しい事情は分かりませんが、それが「あの娘」を守る方法なら喜んで殴られましょう、もちろんやっつけてもいいんですけど、そうすると恨みを買いますから殴られて話を終わりにすることで後難を防ぐことが彼女を守る唯一の方法ならば、もちろん殴られますとも!でもまあ……痛いしなあ……という心境なのでしょう。

ふたたびベース、テンションを高めるアコギのストロークが入り、決意を確かめるように「OH FIGHT! FIGHT OH!」と二回繰り返します。今日だけでいい、もう一度だけ、と転調しつつメロディーもどんどん変化させていきながら非日常モードへと自分を突入させていくのがわかります。「勇気を」「戦う」と最高潮の伸びやかさで歌い、その直後に「フーンフーン 男にして」と二拍子を入れて一気に曲をコード進行が不安定なものにします。ここで一気に「崩れた」感覚があるのですが、そのいっぽうで歌詞は女性のために体をはる男、ファイトする男に変貌するさまを描いているという一種の倒錯がこの絶望的な気持ちで臨戦(殴られるだけですが)態勢へと変わりゆく心情を絶妙に表現しているように思われます。

さて、ここで間奏というべきか……バンバンバンバンバン、と目立つリズムを打ちつつ調を元に戻しているんですが、緩衝材的に機能しつつ曲を通常モードに戻す前のひと悶着が表現されている箇所が挿入されます。これは殴られたのでしょう。「ボコボコにされたって」と、わたしが殴られに行ったという説をぶち上げる根拠となる箇所にさしかかります。逃げないよ、好きなんだ、だから逃げやしない……もちろん殴られるというのは、物理的に拳で打撃をくらうだけではないでしょう。仕事上の攻撃をくらうとか、政治的経済的に不利益を被るとか、殴られ方はいろいろあります。そのどれもがあの娘を守るためなら耐えてみせると覚悟しなければならないほど痛いものなのでしょう。それこそ、中学生が席替えのくじ引きで一番前の席になってしまったあの娘の身代わりを買って出る程度のホンワカしたものから、ビジネスマンが借金の取り立てに苦しむあの娘の連帯保証人になる死亡必至レベルのものまであります。これは、守られた側の「あの娘」はどうしているのかが気になるレベルの熱の入れようです。元気でいてくれれば幸せなんですよ。後ろの席で新しい友達とよろしくやってこっちのことは見向きもしなくなったって、また借金して結局夜逃げしちゃったって、どこかでよろしくやっていてくれれば(人によっては)耐えられるんです。その元気はわたしの苦痛と引き換えに生まれたものなのですから。

人間は結局利己的な動機でなければ他者のために動かないものだ的な人間理解をもつ人がこの世には無視できない割合でいます。哀れなことです。親が子どもに愛情を注ぐのは自分の老後の労働力として育てているのだ、教師が教え子に情熱をもって教育を行うのは社会の奴隷を育成して自分が優位であり続けるためだ、妻が夫にやさしくするのは夫をATMとして飼いならすためだ等々、それはもう自分が食われないためにそこまで人を疑うかってくらいの自己保身の情熱で燃え尽きて真っ黒な塊になってしまっているようなオリジナル信念の持ち主がいるわけです。これはたまにいるレベルでなく、90年代にはマンガやビデオで頻繁に描かれるくらいには一般的なものでした。そうじゃない、自己犠牲は結局は自分のためなんてそんなことあるもんか、誰でも自分が一番かわいいからいざとなれば他人を犠牲にして平気だなんてことがあるか、だってここに玉置さんがいるじゃないか、こんなにも、何も得られなくたってこんな名曲をサラッと作ってしまって、カップリングにしてへたすれば曲の存在を忘れてしまっているような人がいるじゃないですか(笑)。もっとテキトーな曲だってよかったんです。「MR.LONELY」さえあれば売り上げはそう変わらなかったことでしょう。その「MR.LONELY」だって自分はいいから君は頑張って元気でやってくれ的な歌じゃないですか。この玉置さんの人間理解、とことんまで人を愛する、そのためならとことん自分は犠牲にしてもいい、とことんまで惜しみなく与える、こういう生き方をする人が同じ時代にいるんだと感じながら生きられたことは、あのつらい90年代後半からしばらくの間、わたしにとって希望でしかなかったのです。

田園 KOJI TAMAKI BEST [ 玉置浩二 ]

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2023年07月22日

『田園 KOJI TAMAKI BEST』

玉置浩二ベストアルバム『田園 KOJI TAMAKI BEST』です。98年12月発売、ソニー時代のベスト曲という体裁ですがなぜか「ルーキー」も収録されているとか、シングル曲だけではない選曲でありつつ「カリント工場の煙突の上に」にはわざわざ「Single Version」と記載があるとか、なんだか意図のよくわからない収録曲になっています。ジャケット裏っていうんですかね、小麦畑の向こうに、ジャンクランドからCAFE JAPANへ跳んで行くLOVE SONG BLUEの玉置さんが組み合わされた図案になっています。JUNK LANDで人生に迷ってCAFE JAPANを訪ねてゆくんですかね……もっと未来志向を感じるデザインにすればいいのにと思わなくもありません。

さてこのベストアルバム、たんなるベストアルバムではありませんで、このアルバムでしか聴くことのできないものが含まれています。第一に、「FIGHT OH!」、いやそれヒットシングル「MR. LONELY」のカップリングだろ聴いたことあるに決まってるじゃねえかよとお思いになる向きもありましょうが、いえいえこの世の中にはめったにシングルを買わない層ってのがいるんですよ(あちき)。

【追記】わたくしこの「FIGHT OH!」が「田園」のカップリングだと思い込んでおりましたが、実は「MR.LONELY」のカップリングでした。訂正してお詫びいたします。

そして第二に「カリント工場の煙突の上に(Single Version)」、これもあちきのような層には初出です。第三に「花咲く土手に(New Recorded Version)」、これはわたしの知る限りほんとに初出です。三曲聴いたことのない音源が入っていれば「買い」でしょう。でしょうって言われたって一曲ずつデジタルで買うよって層はもちろんいるんだと思いますが、それはもう根本的にわたくし世代(の一部?)と考え方が違うのです。アルバム一枚2500−3000円、視聴コーナーもYouTUBEもないからどんな曲が入っているのかまるでわからない、えいっと思い切って買ってみる、だあー全部ハズレだ!ということが昔はよくあったのです。ですから、一曲感動できれば「当たり」であり「買い」だったんですよ。ハア?テレビとかラジオとか有線とかでかかっている曲でいい曲のシングル買えばいいじゃんって?いやいやいや、テレビとかラジオとか有線ってのは数を売るためのつまらない曲しかないし、それこそその程度のものはテレビとかラジオとか有線とかでかかったときだけ聴けばいいじゃないですか。どうせたいして感動しないし。とぼしい収入の中からそんなものに金を使う気なんてサラサラありませんでした。だからどんなにバクチでも、えいっとよくわからないアルバムを買うのです。その点このベストアルバムはいいですよ、聴いたことない音源で、感動可能性が高いものが三曲も入っています!現代だったら?あーそうですねえ……これまでの玉置ソロアルバムみんな持っているならその三曲だけデジタル音源で買うってこともあるかもわかりませんねえ。わかりません、だって買ったの98年でしたから。

さて、収録曲です。
1.田園
2.CAFE JAPAN
3.ROOTS
4.正義の味方
5.MR. LONELY
6.カリント工場の煙突の上に
7.花咲く土手に
8.STAR
9.ルーキー
10.FIGHT OH!
11.星になりたい
12.元気な町
13.JUNK LAND
14.メロディー

全十四曲、『カリント工場の煙突の上に』から三曲、『LOVE SONG BLUE』から三曲、『CAFE JAPAN』から四曲、『JUNK LAND』から二曲、『GRAND LOVE』から一曲、シングル「MR. LONELY」から一曲という構成になっています。『LOVE SONG BLUE』の先行シングルであった「LOVE SONG」は収録されない、あの大名盤『JUNK LAND』からはたったの二曲だけという、もうホントにこの時点で入れたいと思った曲を選んだとしか思えないアルバムになっていますね。ヒットシングルはちゃんと収録されていますけども、ヒットシングル集では決してありません。

「カリント工場の煙突の上に(Single Version)」はアルバム収録のものに比べて音量が大きめですがリバーブがそれほど効いておらずクリアで、さらにギターとボーカルがいくぶん控えめに収録されているように思われます。「花咲く土手に(New Recorded Version)」はまったく別のアレンジが施されており、歌詞も一部異なります(じゃがいもの白い花に、が入る)。でもなぜか当時からすでによく覚えている歌詞だったようなのです。これはきっと玉置さんがそのように歌った機会があって、そのどれかをわたくし聴いていたんじゃないかな、と思っています。【追記】コメントでおしえて頂いたのですが、「青い"なす"畑」ですでに登場してました。どおりで当時から聴いていた気がしたわけです。

玉置さんのベストアルバムというのは現代でこそ複数バージョンがあって収録曲も充実していますけども、私の覚えているかぎり当時において企画盤でないものはこれだけだったように思います。90年代後半、玉置さんのソロ活動がその最初の絶頂期にあったころの空気をよく感じられるよいアルバムであると、わたくし思っています。

田園 KOJI TAMAKI BEST [ 玉置浩二 ]

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2023年07月17日

Inst.#2

横浜スタジアムライヴ〜ONE NIGHT THEATER 1985 [ 安全地帯 ]

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安全地帯ライブアルバム『ONE NIGHT THEATER 1985』七曲目「Inst.#2」です。これも矢萩さん作曲で、玉置さん抜きの四人での演奏になります(もしかしたらBAnaNAも入って五人)。

暗い照明が落とされたステージになにやらシンセでフワフワしたイントロが響きます。映像では六土さんが定位置に戻ってベースを構えているのがわかります。田中さんのハットが響き、一気にズシーンとしたベース、矢萩さんのメロウながらに深い歪みの、以下にも安全地帯のソロという音が深めのリバーブで響きます。ほどなくクリーントーンでのリフレイン、この間武沢さんもアルペジオをしていることが聴いてわかります。

それにしてもこの矢萩さんのクリーントーン……これは素晴らしい音です。この丸さなのにこの響き!なぜ?どうしてこんなに芯がいつまでも残ったサスティンが出るの?と一生懸命アンプをいじくりまわして試してみるんですが、ギターをとっかえひっかえしても一向に似た感じになりません。武沢さんフリークのわたくしたまに矢萩さんのソロもコピーしてみることもあるんですが、矢萩さんってどういう指の力してるのか、とうていそうは動かんだろってグリグリなチョーキングやトリル等を組み合わせたソロをお弾きになられます。おそらくはギターの種類なりアンプのセッティング云々よりも、その指使いこそがこの強力なトーンの秘密なのでしょう。クラプトンとかベックとかは、ふるーいアンプやギターで小細工なしの指使い一発でそれぞれの音を出していたわけなんですが、わたくしにとっては矢萩さんのギターもその域に突入しているのです。

そしてその指使いのまま一気に歪ませて官能のオーバードライブを横浜スタジアムいっぱいに響かせたあと、また曲はクールダウン、クリーントーンのリフレインに戻り、さらにまたまた官能のオーバードライブ……基本的にはこの動静を繰り返すことで曲が成立しています。

そして今度は武沢さんがエレガットで例のリフレインを弾きます。「ワインレッドの心」や「ダンサー」で聴くことのできる武沢さんのガットギターはみなさんご存知のように、この時期の安全地帯においては欠かすことのできない特色です。ギターシンセを駆使した最新鋭デジタルのサウンドに、このアコースティックなサウンドが付け加わることによって安全地帯のアンサンブルはその深みを完成させていたといっていいでしょう。

そしてまた矢萩さんのオーバードライブ……このあたりから映像では例のアニメが始まりますのでもうどの音をどっちのギタリストが弾いているのか視覚では確認することができません。途中から二人のギタリストがハモリでリフレインを奏でるのですがこれが最高に美しく、何度でも身を委ねたい完璧なハモリになっています。それなのになんだよこのアニメは!と文句ばかり言ってもアニメの発注を受けた会社や、ここにアニメを挿入することを決断した御仁に悪いといや悪いので、これも説明しておきましょう。

まずは宇宙空間にピラミッドが浮かびます。ピラミッドの下にはバッテンマークが下敷きになっており、それぞれNSWEと方角を記されているのですが、やがてピラミッドがつむじ風によって砂のように巻き上げられ、宇宙空間に「安全地帯」の文字だけが残るのです。何言ってんのと思うかもわかりませんが、ホントにそうとしか言いようがないのです。そして非常にMSゴシックくさい「安全地帯」が青抜き文字に変わり、ズームインして画面は青空になります。その青空を紙飛行機が飛び交い……そのうち一つが海に着水、折り紙の舟の形にトランスフォーメーション!やがて日が暮れてきて海面が赤く染まり、それも暮れてやがて藍色になっていきます。何やら陸地に向かう舟がとつぜん光ったかと思うと金色の光となって一直線に舞い上がり満月に命中!満月は一瞬金色に輝きますがすぐに薄い青に戻り、なぜかその月が少女の眼になっている……その少女は観音開きの窓を開いて紙飛行機だらけの床に座っており、月を眺めているのです。やがて少女は手近にあった紙飛行機をひとつ手に取り、月に向かって投げますが、もちろん月になど届くはずもなく暗い地面に落ちてゆくのです……。

CD版ではそもそも映像はなくここで終わりなのですが、映像版には続きがあります。なんとこの紙飛行機が玉置さんの自室に届いており、エリック・サティ「ジムノペディ」が流れる中、玉置さんがその紙飛行機をやけに大きな仕掛け時計にむかって飛ばします。紙飛行機は白く部屋の調度も白く、ついでに玉置さんのシャツも白いです。大きな歯車が時計の内部で時を刻みます。玉置さんは曲作りに苦戦しているようでギターを抱え歌いつつもラジカセのボタンを何度もオンオフしています。コンサートの観客が大喜びしている様子、玉置さんがコンサートで歌っている様子、テレビで歌っている様子がそれぞれモノクロで一瞬映るのですが、大成功の陰にはこんな苦労があるんですよという対比となって玉置さんを苦しめます。思うようにいかずタバコを吸い、とうとう寝転んでしまった玉置さんのもとに、時計の内部から現れたらしい黒衣装で白い顔のデーモン閣下のようないでたちをした怪人が歩み寄ります。これはどうみても玉置さんなんですが、まあここでは本人がいうように「ともだち」ということにしておきましょう。そしてそのともだちは、苦しんでいる玉置さんを救うためにといって懐からプレゼントを取り出します。それは仕掛けオルゴールで、ピアノやラッパ、ギターを奏でる人形が動きながら回るタイプです。なぜかバカにするなと怒る玉置さんをよそに、オルゴールを残しともだち怪人は時計の中に消えてゆくのです。

そのオルゴールは「ワインレッドの心」のオルゴールで、スタジオにいる安全地帯のメンバーが機械仕掛けのオルゴール人形のような動きで口々にこの曲を絶賛します。「合わせてみよう」と武沢さんが言って映像ではふたたび横浜スタジアムに戻り「ワインレッドの心」が始まるという趣向になっているわけです。

いってみればこの映像は、デビュー直後に苦しんでいた玉置さんが悪魔に魂を売って売れセンをねらった曲を作ってしまった……という、暗い過去でありつつも輝かしい未来を開いたという現実を示唆しているわけなのです。その悪魔も、玉置さんが紙飛行機を時計に投げつけなければ現れなかったかもしれない、その紙飛行機も少女が飛ばさなければ玉置さんのもとに届かなかったかもしれない、あの夜に月が輝いていなければ少女は紙飛行機を飛ばさなかったかもしれない、その月が輝いていたのは……と、この名曲が生まれた因果はいくつもの要因と偶然が重ならなければ成立しなかったことを詩的に表現しているといえるでしょう。まあ、多賀さんでしょうねえこんな演出を思いつくのは。一人二役の小芝居をやらされた玉置さんはこっ恥ずかしかったでしょうし、人形の動きをしたメンバーも何だかわからなかったことと思います。純粋にライブ映像だけ楽しみたいわたくしのような人間にとってはジャマですらあります。ですが、まあ最初に観たときはそれなり感じるものはありました。現代からいえばずいぶん困ったちゃんな感じバリバリの映像ではあるのですが、当時はこれが標準というか最新の技法を使用した美麗なものでした。そして、安全地帯のイメージがこのように詩的でミステリアスなものでしたから、安全地帯を売っていくためにはこのイメージ戦略は有効だったのです。当時はツイッターもインスタグラムもありませんでしたし、テレビに出てもおすましさんであまりしゃべらないメンバーたちでしたから、安全地帯はその意志が見えにくい謎に包まれたバンドだったといってもいいでしょう。その物語を映像で抽象的に表現するという方針はかえって私たちの想像力をかきたて、安全地帯の魅力をブーストすることに貢献していたといえるでしょう。

ONE NIGHT THEATER〜横浜スタジアムライヴ〜 [ 安全地帯 ]

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横浜スタジアムライヴ〜ONE NIGHT THEATER 1985 [ 安全地帯 ]

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