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玉置浩二8thオリジナルアルバム、『ニセモノ』です。発売は2000年4月、『GRAND LOVE』から約二年後のことでした。
前年の『ワインレッドの心』で、もう安全地帯復活秒読みだろうと思っていたわたくし、このソロアルバムの登場に正直驚きました。なぜ安全地帯じゃないんだろう?もちろん玉置さんの情報を平素から追いかけていた人ならば、先行シングル(「虹色だった」と「aibo」)が出た時点でもうお分かりだったと思うのですが、まだ安全地帯は復活していませんでした。聞くところによると、いったんは安全地帯(武沢さんぬき)でレコーディングしたものの、玉置さんがぜんぶ録りなおして自分のソロとして出しちゃった、だからタイトルが(安全地帯の)『ニセモノ』だという笑えない話があったそうなのです。
以下は志田歩さんの「玉置浩二3万字インタビュー本文」からの引用(青文字にしてあります)です。
「あれから連絡1年とらなかったですからね。でも矢萩とはね。矢萩のギターはだから残っていると言ったら変ですけど」
安藤 (笑)
──(笑)
「矢萩はだから残ってるんですよ。矢萩は問題ないですね。でも「みんなはちょっとガッカリしてたみたいだぞぅ」なんて」
安藤「その時は武沢さんはいなかったの?」
「うん。もう一人の(安全地帯の)ギターね、武沢ってのはいなかったんだけど。だけど去年のツアーでその武沢ってギターがまた入ってきて、ええ。それでギターが二人揃って。安全地帯のギター二人と俺で去年ツアーやったら、今度はもっと安全地帯をまた始めるかなって実感があるんですよね。ただドラムとベースが、今それぞれ音楽じゃない仕事をやっているので、様子を見ているところですね。それを辞めさせてまたこっちに来いっていうほどのものかね?っていうような感じですね。それは迷っているところです」
六土さん田中さんの音、あるいはそれらがふくまれたアンサンブルに納得がいかなかった……ということなんじゃないかと思います。お二人とも90年代玉置さんのツアーには参加されていたわけですから、けっして傍からわかるほど腕が落ちていたり感覚がズレていたりしていたようには思えないんですが、だからこそレコーディングまでは行った、だけどボツにした、というのが玉置さんによるそのサウンドへの評価の結果だったと思うのです。もう一つは、武沢さんぬきのレコーディングのまま安全地帯の名前でリリースしたくないという気持ちもあったんじゃないかと思われます。
ちなみにこの志田さんのインタビュー、超貴重な資料です。ダンボールを叩くようになった経緯だとか、歌詞を書く様子だとか、ベースが得意だとかスティーリー・ダン好きだとか、いろいろなことがわかりますのでファンの方はぜひご一読を!
そんなわけで、玉置さんのこだわりが窮極にまで発揮された結果としてソロ八枚目のアルバムとしてリリースされることとなったこの『ニセモノ』、そうですねえ……わたくし個人は、これ安全地帯ではなくて玉置さんのソロで出すべき作風だな、とは感じました。もちろんバンドでレコーディングすればそれなりバンドの作品ふうにはなるんでしょうし、曲によっては非常に安全地帯よりというか、安全地帯の未来において実現してたようなサウンドが散見されるんですけども、これはリリース時点では玉置さんソロの作風だと思います。のちに玉置さん自身もお気づきになったことなんでしょうけども、武沢さんの復帰はもちろん必須として、『安全地帯IX』で「星さん、またやって」と星さんに声をかけることであるとか、歌詞を松井さんに依頼するなど、安全地帯の作品を作るにはまだ必要な仕掛けがあったように思うのです。『ニセモノ』には共同プロデューサーとして須藤さんの名前がクレジットされていますけども、それも安全地帯のサウンドとは別物であることを意味しています。ただ、武沢さんの復帰を提案なさったのはほかならぬ須藤さんだそうですから、須藤さんが安全地帯復活に果たした役割が超巨大であったことは間違いありません。あくまで、『ニセモノ』のサウンドが安全地帯でなく玉置ソロであった要因に須藤さんのプロデュースがあったということです。
このように、玉置さんソロであるべき理由というものを書いてまいりましたけども、人がレコーディングしたものをボツにしていいとはわたくし全然思っておりません(笑)。「ちょっとガッカリ」じゃ済まない暴挙だと思います。こういうことが出来てしまう人だからこそ、玉置さんや安全地帯の作品はこんなにも胸をうつのだと思い知らされたエピソードです。とてもとても申し訳ない気持ちにされられます。わたくし、先月(今年の八月)にぜんぜん当ブログを更新できませんでしたけども、その理由の一つにレコーディングがあります。そうです、レコーディングに参加していた、というか、とある作品にアレンジ・演奏で参加していて、ポチポチ打ち込んだりギター弾いたりしていたのです。で、これでどうだ!とできた音源を送ってみたところ、あんまり反応がよくありませんで(笑)、「ちょっとガッカリ」いたしました。頑張って考えて作ったのになあ……でもまあ、仕方ありません。結局は基本アイデアはそのままでちょっと録音を差し替えしただけで印象がガラッと変わったらしくオーケーが出ましたけども、まるごと録り直しとか、あるいは他に依頼されたとかになったら、ヤサグレちゃいましたよ、もう。アレンジとか演奏ってのは自分の子どもみたいなもんで、取り返しがつかないその時々の「自分」の分身なんです。だからわたしは、自分の作品にほかの人を参加させるときには、可能な限りその人のアイデアを受け入れるようにしているんですよ。最初はイラっとしてもだんだん馴染んでいって、そのうちオリジナルの自分のアイデアが塗り替えられていきます。一人よりも二人分のアイデアのほうが豊かに決まってますから、たいていはそうしたほうがうまくいくんです。こんなアマチュアの甘い思いなど遥かに超えた次元で玉置さんはボツにしてしまいますけども(笑)、そのくらい安全地帯とか玉置浩二というアーティスト像へのこだわりこそが、この緊張感とそれによる感動を生んでくれたのでしょう。
さて、一曲ずつの短い紹介を。
1.凡人 ノリノリのオープニングナンバー、「カッカッカッカッ……」に「愛してるよ」の面影があります。
2.古今東西 スリリングな二曲目(「闇をロマンスにして」みたいな)のイメージを見事に継承してます。
3.ターンテーブル 二曲目のスリルを増幅させるスローでミステリアスなアコギロックです。
4.ジェスチャー 「大丈夫」「心配ない」と歌ってくれるんですが、不安は募るばかりの不穏さです。
5.aibo やっとバラードだ!シングル曲で一息……なんてとんでもない号泣ソングでした。
6.懺悔 「RELAX」を彷彿とさせるサビの力で叩きつけられるような剛腕ソングです。
7.常夜灯 このアルバム随一の号泣ポップソングです。わたくし的アルバムNo.1です。
8.淋しんぼう つづけさまに号泣ソング、バラードです。
9.御伽話 『安全地帯IX』に入っていてもおかしくない安全地帯の未来を予言したサウンドです。
10.あの丘の向こうまで これも『安全地帯IX』あたりにありそうな未来ソングです。
11.夢のようだね しつこいようですが、これも『安全地帯X』あたりの作風をみせるバラードです。
12.虹色だった シングル曲です。『安全地帯X』と玉置浩二『GRAND LOVE』の中間あたりのバラードです。
13.ニセモノ 「見破」りはせず志田さんのおかげで真相を知りましたけども……胸の痛む号泣バラードです。
時は2000年、世紀末だミレニアムだーとテレビが浮かれていた(それしかネタがないのか?)時代です。北海道拓殖銀行が潰れ、長銀、山一證券が破綻、ビッグな金融事件が相次ぎ一体どうなっちゃうのさ!と不安で一杯なのにウッチャンナンチャンがポケビブラビで華やかにパフォーマンス、モーニング娘は黄金期で絶好調、海の外ではクリントン大統領が「不適切な関係」で大炎上し、共和党政権へのバトンタッチやあの9/11まで秒読みの世界情勢ですから国際関係だって穏やかであるはずがありません。ひそかにノストラダムスの「七の月」も迫ってました(笑)。ですから、破壊と創造がごっちゃというかなんというか、破滅と新時代の雰囲気がミックスされた、実にカオスな状況でした。
わたくし、個人的に、この年にそれまでの生活をいったん(半分以上やむを得なくて)リセットしています。三月でそれまでの生活に区切りをつけ、これからどうしよう……と迷っていた時期でした。まだまだ二十代中盤で若く、なんでもできる気分ではありましたからそんなに悲惨な感じではなかったんですけども、それでも怖かった、本当に怖かったのです。行き止まりに突き当たった感覚でした。そんなとき「”aibo”はもう聴きましたか?」と海外の友人から、英語だったか日本語だったかもう忘れましたけども、メッセージが届きました。「"aibo"ってわかんないな、玉置さんのシングル?」「とってもいい曲だから聴いてみて!」「じゃあアルバムが出たら聴くよ、いまちょっとお金なくてシングルは買えないんだ」「そうなんだ……」それから一か月ほど経って、なけなしの三千円でこの『ニセモノ』を手に入れ、その元気のいいサウンドに驚き(『GRAND LOVE』『ワインレッドの心』の雰囲気まったくなし!)、そして「aibo」に……涙しました。詳しくは「aibo」の記事に譲るとして、メッセージをくれた友人に、ありがとうを伝えました。当時普及し始めたADSL回線だったか、まだテレホーダイだったかも忘れましたが、ICQでアッオー!アッオー!とやり取りは続きました。
そんなわけでこの『ニセモノ』は、平成不況ど真ん中、氷河期世代の嘆きも最高潮の時期に出されたこのアルバム、いろいろな思いの詰まった思い出のアルバムなのです。
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途中で、出前のチャイムが鳴ってきたり…。
たしか、“GRAND LOVE" A LIFE IN MUSIC だったような。
良い雰囲気です!
このアルバムは「常夜灯」から一気ですよね。「常夜灯」って実はまだ前半なんですけど、後半は泣かされっぱなしで終わります(笑)。ロッド・スチュアートの『Atlantic Crossing』のA面最後が「Sailing」で、そのあと怒涛のB面になるのに似ています。
みんな好きですけど、淋しんぼう、ニセモノあたりが、グッときますね。
自宅風景ですと、CHU CHU の弾き語りも好きでした!
私も発売当時からすでに20年以上が経過し、狂ったように聴いたアルバムか?というと「うーん」と首をかしげる感じです。一曲目が少し奥田民生っぽいと思いました。
レコーディングし直したり時間がかかっている分聴き手に、僕はこーだよ!とメッセージを投げかけているかのようです。常夜灯が一番やはり好きです。
当時、情熱大陸で軽井沢の自宅で常夜灯を弾き語りしてる時、その玉置さんの部屋のテレビに映るプロ野球の横浜の権藤監督がホームランを打たれてしまい、腕を組んでる映像と常夜灯がうまく重なってた記憶があります(笑)「やりた〜いようにやっていいんだよ〜」ありがとうございました。