これはもう……初聴時は言葉がなかったですね。新しい形のロック・ポップスを脳髄に叩き込まれて呆然としました。なんてこった!前曲「太陽さん」が別段アップデートなしでもわかる良さだった、ただし超弩級の良さだったわけですが、この「闇をロマンスにして」は新しい時代の玉置ロック・ポップスを聴いていないとちょっと追いつけない部分のある良さだったのです。なんだいまのは!80年代にはじめて「あなたに」とか「風」とかを聴いて「いい歌」ワールドの構図が一度ガラガラと崩れ落ち、またすごい勢いで組み替えられて再生されてゆくような快感を味わいました。
「常に新しいのを聴いてないと成長が停まるような気がする。昔から同じものを聴いているとか、一回聴かなくなったものをまた聴くようになるとかしたら、そこが停まった時点だと思う」(うちのドラマー談)
当時、オルタナとかラウド系とか、新しいタイプのロックがロック好きの間で話題になったんですが、わたくしとんと興味がありませんで、中学生くらいから大して変わらずJUDAS PRIESTやLOUDNESSがメタルの最終進化形態という態度でした。もちろんNIRVANAやALICE IN CHAINSなども見事に素通りしており(いちおう聴いてはいるんですよ?たんに好きでないってことです)、ましてや、小学生のころから安全地帯・玉置浩二こそが至高であってそれを一度も変えたことのないわたくし、成長など微塵もしておりません(笑)。人それぞれでいいじゃんと思わなくもないのですが、バンドメンバー間でそれがすれ違いますと案外大問題でして、しばしば「音楽性の違い」で解散せざるを得なくなるものです。「あ、ああ、そうかもね」とやり過ごし、とりあえずデモづくりにはドラマーの車で聴いた現代ヘヴィネスのエッセンスを超適当に盛り込んで、絶賛成長中メタルソングライターの体裁を整えるのでした。
ですが、この「闇をロマンスにして」はそんな小手先のアップデートではありません。全面リニューアルに近いガッツリアップデートです。何が違うって、その抑揚と美麗なメロディーの一体感です。カツカツとパーカッションが刻まれて始まるのはこれまでのソロ作品でもなかったわけではありません。そしてその後ルーズな感じでいろいろな楽器が入るのもこれまでに類例のあったところです。ですが、歌が入って最初はなんかルーズな歌メロだなーと思っているうちにみるみる引き込まれて知らぬ間にいつの間にかテンションも歌メロの魅力もマックスになるこの不思議な浮揚感はあまり経験がありません。ベースがプウーンプウーンとスライドしてそれを煽るようにキューンキューンと入るギター、「ye...ah」とため息のようなボーカル、突如入る旋律、なんでしょうね?何か鍵盤だと思うんですが、弦楽器のような震えも感じられますので、もしかしたら12弦キターとかそういうわたくしあまりなじみがないギターかもしれません。奥で小さくピアノがアルペジオ、これが歌のバックでコードを刻んで存在感が大きくなります。ここで一段階ギアチェンジですね。この段階では、四拍めのタンバリン効いてんな〜でも抑揚の少ない歌メロだし歌詞もピンとこないななんて思っているんですが、ダダンと展開が変わりさらにギアアップ、一気に歌の世界に引き込まれます。「愛情を〜(をー!)もって〜(えー!)」と重厚なコーラスが合いの手に入り、「ロマンスにして〜」でボーカルとハモリコーラスが一緒に美麗に歌うことでテンションマックス!なんだったんだあのルーズな始まりは!というくらい美しいボーカル、コーラスワークで三速くらいから一気に一気にトップギア!おお!攻めてくるな!と驚かされます。しかしこの歌が凄いのはさらにここからで、すでに「闇をロマンスにして」と歌のタイトルを歌ってしまったのですからそこが最高の盛り上がりなはずなのに、まだサビが終わらないのです。「真実にいつだって〜」とシフトレバーをガツガツと下ろしてゆきエンジンブレーキがグワングワンと感じられるあの心地よい感触!「ありがとう〜」とハモリコーラスで巡行するかと思いきや、「少し無理して」とギアアップ、「僕を〜」と心地よいギターがギュイギュイさらにシフトアップ、「見つめて〜」ギュイギュイ!ギュイギュイギュギュギューギュー!とサビの余韻をワウの効いたギターで引きとります。
ふう……!これは凄い!ここまで、Bメロかと思いきや実はサビだった長いワインディングロードを右に左に、やっと130Rを抜けたと思ったらさらにキツいコーナーが二連続くらい、息もできないくらいの緊張感で駆け抜けてきた心地よい疲労感にぐったりです。何だいまのは!こんな曲、前代未聞だ!
曲は間奏もなく二番に突入します。構成もアレンジも基本は同じなんですが、ワウのギターだけはさらに自由闊達にアオリを入れてきます。これが闇の中を私たちにはわからないなんらかの見込みをもって歩き回る自由の歩みを思わせます。闇は一番ですでにロマンスになっているのかもしれません(笑)。そして前奏のフレーズを繰り返し、また楽器が減ってゆきベースがプウーンプウーン、最後にはパーカッションだけになり、フェードアウトしてゆきます。一番二番と三分足らずの間に繰り返されたこのサーキット走行、まるでワークスチームのタイムアタックのようにあっという間に終わってしまいました。これはこれが最適の長さであって、三番などもってのほか、間奏すら要らないと判断なさったのでしょう。おそらくは、リスナーがあまりの抑揚とそのメロディーの美しさというか吸引力、スピード感にボヤっとした状態のところに次のカオスナンバーワン卑猥ナンバー「NO GAME」を叩き込むという作戦なのです。これは効きます。失恋とか復縁とかそういうわりとしんみりした気分だったところに、いきなりハッスルでぐったり濡らしてきます。アルバムってこういうふうに作るもんなんだよなーと、当時この「闇をロマンスにして」で感じさせられたものです。もちろん初聴時はノックアウトですからあとから何回も聴いて気づいたようなことですけども。
さて歌詞なのですが、これはもう恋が終わりかけている、もしくはもう終わっている段階の物語ですよね。「始めた頃」は闇でした。なんにも分からないからです。いまはいろいろ分かって来てますが、今後の見通しが立たないという別の「闇」にハマりこんでしまっています。どっちも闇なのだから、始めた頃の闇だと思ってやり直せばいいんじゃないかという、驚きの逆転発想です。いや、これは気づかなかった!ぜひそうしよう!とはなかなか思えないくらいスーパーブルーな関係に陥っていることが想定されるわけですから、これはなかなか言えるもんじゃありません。たしかに「なくしたもの」はたくさんありますし、最初からやり直せばまた見つけることができるのかもしれません。でもなあ……「少し無理して」じゃないと、いやかなり無理しないと。
これまで長い道のりを歩いてきたし、それもボヤっと歩いていたわけではなく路傍の花もできるだけは摘みとろうと努力してきたつもりです。だから、これ以上一緒にいても明るい未来はなさそうだということが何となくわかってしまっています。真実にありがとうっていう余裕もあるんだかないんだか……そういう日々のいろいろに感謝する態度というのは、けっこう余裕のある時、あるいは気分が一新されて新鮮な視点のもてるときにこそ採りうるものであって、もうすっかり慣れて飽きてしまった恋人と一緒に共有できるものではないのが人情ってものでしょう。それでも「一緒に歩かないかい」「腕を組んでいけばいい」と玉置さんは呼びかけるのです。これは、底抜けの楽観を思わせるものでもありますが、人知を超えたレベルのやさしさと希望がなければできるものじゃありません。旧愛を復活させ、四十年を超えて安全地帯を継続させている玉置さんがそのように人を愛する人であるというのは令和の現代でこそ多くの人が知るところとなっていますが、当時は誰も知らなかったのです。ただ歌だけが、それを語っていたのでした。現代でさえ玉置さんは歌はうまいけどひどくハレンチな人物だ的な人物評が多少残っていて、わたくしなどは、なんであの歌を聴いてなおそんな人だと思えるんだろう?と不思議に思うのですが、まあ、無理もないかもわかりません。多くの人にとってそんなスケールの大きい愛は倫理に抵触するように感じられますし、その時点で理解の外でしょうから。そもそも曲だってちゃんとは聴いていないのでしょう。誰だって気の向かないものを聴きこむ義理なんてありません。違うんだ!玉置さんの愛はそんなものじゃない!キミの想像の範囲に収まるものだなんて思ってはならない!この曲を、アルバムを聴くんだ!とか言ったってムダに決まっています(笑)。もったいねえなあ……。
そんな玉置さんのスーパーマンな愛情が強く感じられ、かつサーキット走行のようなスリル満点の曲だといえるでしょう。
価格:2,556円 |
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この曲は目立たない位置にあるような気がしていましたんで、玉置さん的にはそんなに重要視してないのかな?と思っていましたが、『安全地帯13 JUNK』に収録されましたのでうれしかったですね。そうそうこの曲なんだよ!聴けば聴くほどいいですよね。「太陽さん」が一杯目の吟醸酒で、この「闇をロマンスにして」が鮭トバとかスルメのようなものです。「瞳の中の虹」も似た感じありますね。どこがってわけじゃないですが、とつぜんテレビで歌われた「RUN OF LUCK」とか「虹色だった」みたいに、いきなり出てきて人を泣かせる感じです。わたくし「太陽になる時が来たんだ」にもそんな雰囲気を感じています。
闇をロマンスにしてですが、安玉ファンも今では良い大人になってしまい、トバさんが今回のように書かれているような感想や分析を目にして嬉しくなりました。私もこの曲はスルメソングで、これは前からいい曲をさすが玉置さんは書くなぁ、玉置さんなら当然書くよな!とずっと興奮していました。私だけでしょうが、ちょっとアルバムあこがれの中の瞳の中の虹と私はかぶるというか、両方大好きです。
なんか聴いていてメロディーと、流れている空気が切なくなる感じ?が凄いして、音の構成、繋ぎ方が絶妙で、いわば「玉置節」全開な名曲です。
以上です(笑)。