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安全地帯・玉置浩二の音楽を語るブログ、管理人のトバです。安全地帯・玉置浩二の音楽こそが至高!と信じ続けて四十年くらい経ちました。よくそんなに信じられるものだと、自分でも驚きです。
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2023年03月05日

しあわせのランプ


玉置浩二『JUNK LAND』十四曲目、「しあわせのランプ」です。本アルバムはこの圧巻の名バラード曲で幕を閉じます。なお、七年後の2004年に再レコーディング、シングルとして出されたという珍しい曲でもあります。

「しあーわーせにー」と玉置さんが歌い始めてすぐに右に左に複数本のアコギ、安藤さんのピアノ、須藤さんのベース、そして薄くパーカッションで分厚いながらもあっさり風味な演奏です。

生まれてきたのはなんのためか?誰もが一度は陥る深い悩みに、玉置さんは「幸せになるために」とズバッと答えて歌います。この時点でもうハートがっちりわしづかみ、いままでそんな悩みも忘れていたのに悩める子羊へと一気にフォームチェンジして玉置さんの歌に耳を傾けます。「好きな人と……一緒に……」の裏でギターが「シャラララン……シャラララン……」と鈴のように響きますよね。わたくしこれにぬう!と衝撃を受け(すみません、こと安全地帯と玉置浩二にはいとも簡単に衝撃を受けるんですわたくし)、初聴時にすでにギターさわっていたと記憶しています。このように、歌詞でもギターでも序盤で完全にノックアウト、このアルバムが始めから終わりまで文句の付け所のない大名盤であることを知ったのでした。

空ばかり見て暮らしていた

友達が毎日入れ替わりで集まってくれた

どんなことしたって食っていけるんだから一緒に農業やろう

大丈夫、大丈夫、好きな人たちと、好きなことをやっていればいい、大丈夫

大切なことはいまわからなくたっていい、いまわからないなんて当たり前、わかってくるものなんだから

(おもに『幸せになるために生まれてきたんだから』より)

そう、これは、玉置さんが傷つき静養していた旭川でお母さんが言ってくれたこと、そして玉置さん自身が体験し体得していったことを表現する、魂の歌詞だったのです。お母さんの金言をリスナーのみんなにも伝えたいな、という玉置さんの思いや願いもあったのでしょう。そして、そのお母さんの言葉を玉置さん自身が理解し、咀嚼して今度は自分の言葉として伝える側になったということも意味します。ここにおいて玉置さんが、安全地帯崩壊の衝撃で負った傷を癒し完全復活、いやむしろパワーアップして再登場したという奇跡を、再登場から四年経ったこの時期、すでに『田園』の成功を経て復活が誰の目にも明らかになっているこの時期にようやく鮮明に表現したというエポックメイキングな曲であったといえるでしょう。

Aメロの途中から時折スネアが入ってましたが、Bメロからはバスドラも入り、曲を盛り上げていきます。サビからはシンバルも入りと、だんだんリズムが強くなっていくにつれてわたしたちの感情も高ぶっていきます。

Bメロ、ホワンホワンとしたシンセが入り、「やりきれなくなった時は〜」という条件節でBメロという単位を意味の上でも音楽の流れの上でも埋めていきます。これは意識的にそうしたのか無意識的な天才の技なのか、むむむ、やりきれなくなった時はどうなるんだ?どうしたらいいんだ?なんて言ってくれるんだろう?と期待値が爆上がりになります。

曲はサビに入りこの空を見上げて……のちの「からっぽの心で」に通じる空の効果は、旭川での静養を経て玉置さん自身が体感したことなのでしょう。「納屋の空」で幸せに……幸せに……と絶叫した空、「青い”なす”畑」の上に「カリント工場の煙突の上に」広がる青い青い空、玉置さんが何かに困ったとき、詰まってしまったとき、苦しいとき、幾度も空を見上げて「やさしかった頃」を思って笑ったのでしょう。奇跡のアルバム『カリント工場の煙突の上に』において始まった玉置さんの再生劇、そしてその後の『LOVE SONG BLUE』『CAFE JAPAN』そしてこの『JUNK LAND』の、落ち込んだ日本全体を励まし勇気づける大ヒット作「田園」を含む新時代玉置ソロ三部作、すべてを総括する見事なエンディングバラード、いやもうホントに見事としかいいようのない曲です。

「笑っていなさい」というやさしい導きとともに曲はすぐに間奏のギターソロへ入ります。このギターも最初は矢萩さんが弾いたんじゃないかと思ってクレジットを見ましたがそんなことはなく、玉置さんが弾いたのだとわかります。「矢萩が弾いてもおれが弾いた感じ」とすっかり自信満々に語っていた玉置さん、いやほんとにその域に迫っていますよこれは!矢萩マジックかなり効いています。泣きの、いや号泣のソロです。

ダダン!ダン!とブレイクが入り、伴奏はホワンホワン……玉置さんがここで一瞬弱音ともとれる愛を歌います。僕には君がいなけりゃダメなんだ……あれ、いままで支える側だったんでないの?いつのまに入れ替わっている?と思わされるかもしれません。ですが、これはごく当たり前のことなんですが、玉置さんは神ではありませんし、わたしたちの誰も神ではないのです。支え支えられている関係にある、人間同士なのです。もしも君のランプがなけりゃ……この「しあわせのランプ」は、持っている人が幸せでなければ消えてしまい、その人の幸せによって自らを奮い立たせていた人が、なんのために自分はここで頑張っているんだろう、どうしたらいいんだろうと、「闇に迷う」ハメになるのです。わかりやすい例でいうと親子がそうですね。親は子どもが幸せでいてくれたらそれでいい、自分はそのために、それを支えるために生きている、それが生きがいになっているわけですが、子どもが不幸のどん底に落ち込んでいたら、自分は何のために生きているのかよくわからなくなります。ですから必死に支えようとするのです。玉置さんのお母さんもきっと、そんな思いを込めてどん底の玉置さんを支えたのでしょう……玉置さんは少しずつ少しずつ、自分が生かされている存在であると同時に誰かを生かしているのだと身に沁みてわかっていき、その過程で支え支えられる存在としてのゆるぎない自分を確立していったのでしょう。この歌は、そんな新生玉置さんの悟り、願いをそのまま歌にしてしまったわけで、玉置さん復活の奇跡をもっともよく表す曲を選べといわれたらわたくし、「カリント工場の煙突の上に」でも「メロディー」でも「田園」でもなく、迷わずこの「しあわせのランプ」を選ぶでしょう。

平成の中期ごろから特に政治的メッセージの「自立」が目立つようになってきました。たぶん、いまの若い人も小さいころからこの自立しろしろビームをくらいまくって育っていますから、すこしは心を痛めつつもそれが当たり前な気がしているんじゃないかと思います。ですが当時は、やれ自立した女性だのやれ障害者が自立する支援をするだのと、まるでいま「自立」していないみたいな言いぐさで激しく違和感を覚えたものです。なにしろ「自立」とはカネを稼ぐことだと言わんばかりですから、簡単に納得なんかできるわけがありません。じゃあ株の取り引きとかで大儲けしている天才トレーダーは「自立」しているわけですよね?たとえ自分一人ではおしっこができなくて後ろから誰かに抱えてもらって「シーシー」って言ってもらわないとできない人でも、夜になったらかならずお母さんに電話してちょっとしたことでも慰めてもらわないと不安で寝れない人でも、カネさえ稼いでいれば「自立」しているということになりますかね?明らかにそういうことを言う人が言っているのはカネのことだけなんですから、そんな状態でも「自立」していると自信をもって答えなくてはおかしいのです。でもそんなの「自立」っていうの変じゃない?と思うのが自然な感覚ですよね。誰もが支え支えられていて、その関係が成り立っていることを「自立」っていうのでなければ、仮にカネは稼いでなくても、自分では下の世話はできなくても、お母さんに添い寝してもらわないといけなくても、自分のできることで誰かを支えているのならそれは「自立」っていうのでなければ、世の中の誰も自立なんかしていないことにならないとおかしいのです。ハア?わたしはわたしのお給料ですべてを賄っていますし下の世話も自分でできますし誰にも精神的に依存してませんだあ?お前の飯はぜんぶ自分で育てたか狩猟してきたものか?お前の排泄物はおまえんちの庭に埋めるのか?そんなわけあるか!自立がきいて呆れるぜ!とまあ、日本という社会の経済システムとか社会インフラとかの恩恵を無視して話すのはまったくナンセンスです。ついでにいうとかりに完全孤独で自給自足の生活を送ったところで、太陽さんの恵みを無視して「自立」などと言い張るのも噴飯ものでしょう。この支え支えられる関係に誰もが生きている、ときには死者でさえ誰かを支えている、少なくとも現代先進国ではそういう関係性の中でしか生きられないし、「自立」なんてその範囲内でしか成り立たないのですから、ことさらカネのことだけを取り上げるのは無根拠だしアンフェアなのです。誰かが配られたカードの中で「じゃあ今からこれを一番強いカードってことにしようぜー」と叫んでいるようなもので、恣意的で卑怯な思惑しかそこには存在しません。そんな世界だなんて、わたしたちが人間としての誇りを捨てて信じてやる義理はまったくありません。

だから、「僕には君がいなけりゃ ダメさ」と叫んだっていいのです。そう叫びながら、励ますメッセージを送っていいのです。僕は君を力いっぱい支えるよ、だって君は僕の生きる希望なんだから。君のランプが消えてしまったら僕はもうどうしたらいいかわからない、だから君が笑顔でいられるように、幸せだっていって笑っていられるように、僕はなんだってするよ……これは、小賢しい政治的メッセージ「自立」などとは無縁の、人間本来の愛ですし生きる姿でしょう。人間、誰かを支えるためでなければ頑張り通せないものです。自分だけのために何十年も頑張れないですよ、少なくとも私はムリです。ホームレスにならない自信がありません。大事な人たちを支えるために、そして大事な人が振り向けばいつもそこにいて力を与えられるように、だから何十年も、へたすりゃ自分が年老いてもうあと何年も楽しむ時間がなくなってしまうとほとんどわかっていても、頑張れるんです。親たちがそうして生きてくれたからこそ、わたしたちもそう生きて生かされるんです。そうしているからこそ堕ちずに暮らしていられるわけですから、支えているつもりで実は支えられているのです。そして玉置さんにとっては頑張るものが歌だった、音楽だった、そしてそれが超特級天下一品の歌であり音楽であったというわけです。

曲はJUN TAKEUCHI STRINGSのストリングスが入り最高潮、最後のサビに入ります。「めぐりあった頃」のことを思い逢いたくなります。逢っていいんです。「さみしいよって言って戻って」きていいんです。めぐり逢ったからには、すでに支え支えられる関係にあると知っているのですから、それはもう頼っていいのです。頼られすぎるのも処理能力の限界というものがありますから何でもはしてあげられませんけど、頼られたら悪いことにはしません。ほとんどの人は基本的にはやさしいのです。わたしたちはそういう生き物だからです。「さみしいよ」「戻ってきなさい」と歌う玉置さんの声が、わたしたちすべてを広い空から包み、そういうやさしい世界を彩ってゆくように響きます。ぶ、仏陀か!あんた仏陀か!悟りの朝に泉のほとりでスジャータから差し出された乳粥を食べその名前を訊く仏陀のように支え支えられる関係を認め合い慈しみ合う、美しい世界に温かい太陽の光が降り注ぐかのように、ただただ美しい人間の愛がごく自然にシンプルな形でここには顕在化しているのです。

曲はさらにもう一度、「幸せになるために生まれてきたんだから」と、のちに志田歩さんが本のタイトルにしたその美しい愛を歌います。好きな人と一緒にいなさい、たとえそれがわたしでなくたっていい、あなたが幸せなのがわたしの幸せなのだから、あなたもわたしもそのために生まれてきたんだから、ただ蜜蜂が花の間を飛び交うように支え合い、ただ吹く風が青い空を作っているように当たり前に、自然に生きていこう……アウトロの玉置さんの声、ギター、ベース、重ねられるピアノとパーカッション、それを包むストリングス……ジャララン……と弾き下ろされるアコギで終わってゆくこの曲は、渾身の思いで、それでいて後光差す仏陀のように穏やかな心で作られたものだとわたくし信じているのです。

さて……このアルバムも終わりました。ホッとしました。かつて「黄昏はまだ遠く」の記事を書き上げて満足したわたくし、次の区切りは「しあわせのランプ」だなーとボンヤリ思っていたのですが、ようやくたどり着きました。次の区切りは何になるんでしょうかね。ソロ活動の区切り的には『スペード』のラスト「どうなってもいい」なんですが、受けた衝撃の大きさでいうとその次にあたる『安全地帯IX』の一曲目「スタートライン」か、軽井沢時代の終わる「からっぽの心で(Instrumental)」のほうが大きかったです。まあ、またニ〜三年かかると思いますが、さしあたりなんとなくそのあたりを目指して頑張ってまいりたいと思います。

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感想(1件)



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posted by toba2016 at 12:16| Comment(2) | TrackBack(0) | JUNK LAND
この記事へのコメント
おかげさまで走破しました!そういや転調して戻りますね。記事を書くときは完全に忘れていました。自然なので気にならないということにしましょう!

糸井さん出たんですか。まだ録画チェックできていないもので、ちょっと楽しみです。「メロディー」のことを話したんですね。詞が曲にすでに含まれていたとは言い得て妙です。

ラウドネスの『誕生前夜』『戦慄の奇蹟』ですね。わたくしリアルタイムではもちろんありませんでしたが、かなり聴きこみました。もうメタルのドラムといえば樋口さんです。この音!このオカズ!いわれてみれば鹿鳴館みたいな芯の残り方と残響ですよね。不思議です。思い返せば、わたくし打ち込みドラム作ると必ずこういう芯と残響の感覚にしてます、今でも。マー君との絡みで生まれるウネリも、これはいまのロックにはないですよねえ。
Posted by トバ at 2023年03月07日 17:38
今晩は!月曜日のお供?よっしーです。

遂にしあわせのランプですね。ジャンクランドサファリパーク!お疲れ様でした。

この曲は、安全地帯HIの後にシングルでも唄われました。サビで転調してまたもとに戻る?不思議な曲。雰囲気として個人的に後年の清く正しく美しくに通じる、少なくとも玉置さんの人と成りに関係の深い曲なんだろう、と思います。玉置浩二ショーで、糸井重里さんもメロディーについて深い考察をされていて面白かった。確かにあの歌詞には技巧はなく、狙わないで自然体で出来た歌詞と思います。まあ、メロディーの曲(メロディー(笑)ややこし)が詩を持っていた、とも言えます。

話が飛び、ラウドネスのファースト、セカンド聴いてます。30年前の池袋のイケベ楽器のドラムフロアか、目黒鹿鳴館のような?音の鳴りや何ていうか、私にとっては聴いたのが初めてではない、リズムにしろベースとドラムのうねりのある絡みが、今だから聴いてて楽しめる内容です。聴きな流すことはしないで、大事にゆっくり聴いていきたいです。樋口さんのドラムは、ピタッと来ます。シンバルの音が最高に。あの音があのおかずのフレーズが、スネアの音色とバスドラの連携が気持ちよいです。
Posted by よし at 2023年03月06日 21:56
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