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安全地帯・玉置浩二の音楽を語るブログ、管理人のトバです。安全地帯・玉置浩二の音楽こそが至高!と信じ続けて四十年くらい経ちました。よくそんなに信じられるものだと、自分でも驚きです。
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2022年11月23日

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玉置浩二『EARLY TIMES〜KOJI TAMAKI IN KITTY RECORDS』、十曲目「スケジュール」です。「行かないで」カップリングで、当ブログ指定変な曲三部作のラストを飾る変な曲です。「ホヘホヘホヘホヘ〜ヒホヒホヒホヒホ〜」と、およそシリアスとは縁遠い不思議なノリで、一週間、いや二週間ですかね、思惟の移り変わりというか、命令調の言葉で何者かが迫ってくる様子が淡々と歌われるという奇妙極まりない歌です。

オリジナルサウンドトラック プルシアンブルーの肖像』でよく聴いたようなシンセの音でホヘホヘと裏をなぞられながら玉置さんが美しくも弱々しいファルセットで歌い始めます。花を植えるのは日曜日〜からはじまり、月曜火曜と続いていくのです。これだけきくとロシア民謡の「一週間」みたいです。ですが、この歌は曜日によってかなり重要度というか歌詞の分量が違います。

花を植えた翌日、月曜日はかなり陰鬱な様子がつづられます。コントラバス的なベースが「ボン・ボ・ボンボン・ボイヨ〜ン」と短い音でリズムを取ります。カツカツとパーカッションもアクセントを入れてきます。ホワンホワンとした鍵盤が薄くバックに流れています。総じて憂鬱です。仕事で人の心を捨てて笑顔で嘘をつく(セールストーク)ように命じてきます。イヤな命令だな!でも仕方ありません。わたしたちはこの命令にあらがうには立場が弱すぎるのです。思わず空をみあげて星になりたいと願ってしまうような月曜日でした。

ズチャ・チャチャチャ・ズチャッチャーとあまり三度とか五度とかのキレイ系でないジャジーな和音をピアノが奏でます。火曜日もまた長いです。まだ憂鬱なのです。夢とか恋なんかやめてしまって金だけに集中しなさいと命じてきます。この命令にもわたしたちは逆らうことができません。夢とか恋とかのことを考えていてはまだまだこの先長い一週間を乗り切るにはわたしたちの心は弱すぎるのです。勢いつけて「仕事だ!金だ!」と気合を入れる必要があります。その気合のおかげでKissの感触も忘れ仕事に全力投球できそうです。

ここから先、サビというかホヘホヘというか、怒涛の水曜木曜を一気に短く通過していきます。水曜日は忙しくて疲れて電話どころじゃなく、電話しそびれていると見ようと話していた映画も終わったことを木曜日に気づいてしまいます。ふんだりけったりですが、金とか仕事の前には大したことじゃありません。まだ週の半ばなのです。

木曜のことか金曜のことか……いよいよ気分は限界に近づきます。もうすぐ週末だガンバレ!悪魔になる、野蛮になる、自分は苦労を避けて相手にショックをプレゼントする……もう玉置さんのボーカルも苦しそうに叫んでいます。ほぼバブル全開のこの時期、職業生活ってこんなに苦しかったのか?もっとこう、植木等の映画みたいに歌ったり踊ったりしているうちにぜんぶうまくいくような感じじゃなかったの?(ちなみに高度成長期の映画で、バブル期ではありません)いやいや、当時中学生だったわたくしが言うのもなんですが、そこまで底抜けにお気楽な感じではなかった気がしますよ。高度成長期のことは知りませんがきっと高度成長期だって楽ではなかったと思います。いつだって仕事そのものは大変でそれは変わりがなく、ただ給料が増えるとか増えないとかの部分が違ったのだと思われます。

ここにピョー!ピョピョー!というハープシコードをムリヤリ伸ばしたような奇妙な音で間奏が入ります。なんか、いかにも無秩序!といった旋律で、心が疲弊し千々に乱れていることがしのばれます。

そしてここからホヘホヘで金曜土曜、そして日月火水木金土さらにまた日と、一週間強が一気に流れていきます。なぜかというと、これはおそらくフラれたのでしょう(笑)。フラれたのは、よくよく考えると最初の花を植えた日曜日だったんじゃないかと思われます。フラれたからきみに花をあげる当てがなかった、そして月曜火曜が陰鬱にスローに過ぎてゆき……水曜はもしかしていつもは電話のできる日だったのにフラれたから「電話もできない」だったのかもしれません。そんなわけで花金(花の金曜日、バブル用語)ですが踊りに行けません。半ドンの楽しい土曜日も遊びに行かずテレビなんか見ています。そして日曜には、忙殺されていた間に枯れていた花を見つけてしまいます。

「軒下にでも置いとけば吹き込んだ雨で勝手に育つよ!」と薬屋のオヤジにいわれてパンジーの苗をいくつか買ったことがありまして、言われた通り軒下(アパート窓の、落下防止手すり枠)に置いておいたのですが、忙しくて気にしないでいるうちに雨が全然降らない日々が続き、すっかり枯らしてしまいました。男の一人暮らしと花の相性は悪い……というか単にわたくしがずぼらなんですけども。お花の可愛らしい姿で癒してもらおうとか恋人に喜んでもらおうなどと、図々しいにもほどがあったのです。

そんなわけで恋人のためにと一種の願掛けを兼ねていた花は枯れてゆき、手紙をみて涙やら想いやらがあふれ、火曜日は思い出しては泣き、水曜日はとうとう心がダウン。ちなみに当時、太田裕美さんのアルバムにそういうタイトルもありましたけども、うつのことを「心の風邪」と呼ぶ言いかたはまだありませんでした。そして寝込んでしまい、木曜日はひたすら寝ます。金曜日は金魚と遊ぶという、ダジャレかほんとうに寝床から金魚鉢を眺めてエサをやるくらいが限界だったのか、よくわからないともかく非活動的な一日を過ごします。土曜日もサボテンと話すという、まだ寝込んでいるんじゃないかという描写が続きます。サボテンなんておいてあるんですねえ。たしかに80年代はよくサボテンとかアロエとか鉢植えでおいている家が結構あった気がします。そのサボテンの花なのか、二週間前に植えて枯れかけた花なのか、ともかく日曜になっても花は咲きません。曲はフェードアウトしていきます……。

言ってみれば、フラれたあとに仕事してて寝込んじゃった、というだけの歌なんですが、それを「スケジュール」と命名するセンスが一種残酷で、おそろしく鋭いです。フラれても仕事には行かなくてはならない、それはたしかにスケジュールです。ですが、そのあと恋人の感触を恋しがる、喪失感に苦しむといったことをスケジュール帳に入れる人はいません。いたら危ない人です。ですが、その苦しみは必ずやってきます。まるでスケジュールのように……スケジュールなのに曜日ごとに濃淡があったり過ぎるのが早い遅いがあったりと、人間の営みが時計の進み通りにいかないことすらもスケジュールされていたことのように起こる……現代社会の営みと個人の心的営みをリンクさせて生きなくてはならないわたしたちの悲しき運命を「スケジュール」という問答無用の定めに喩えるという、松井さんの洞察力にもう脱帽するしかありません……。

ですが、いうまでもありませんがこれはとても変な曲なので、わたくし「またか……」と、「行かないで」との落差にがっかりしたものです。なんで玉置さんはB面こんなに変なの!と、憤りにも近い感覚を覚えていました。ですが、この曲は強烈にわたしの心に残りました。ここまで変、というかこれまでにないフックで心を打たれまくると、この曲でなければ感じることのできない何かがあることに気がつきます。ですから、「行かないで」のシングルを再生するときはいつでもこの「スケジュール」まで再生しました。変なのに猛烈にさみしいこの曲を、何度も聴きました。このとき、玉置さんの精神状態がこの歌のように追い詰められつつあったということは当時気がつきませんでした。この数年後、『LOVE SONG BLUE』中「最高でしょ?」でウッキウキの一週間を描く歌が出て、ようやく玉置さんの一週間がまた始まったんだな、思い至り、この曲のことは忘れていったのです。忘れるなんて不届きな!と思わなくもないのですが、もしかしてそれがきっとこの曲の正しい位置づけだったんじゃないのか……と思われるくらい、玉置さん復活ストーリーの狭間にうまくハマっているように思われます。

さて!ようやくこのアルバムも語るべき曲はこれでおしまいです!思ったより長かった……いよいよ『JUNK LAND』だ!と思っていたのですが、よくよく考えたらその前にライブアルバムの『T』が先ですね。なかなか入れないな『JUNK LAND』……でも、ホントにもうすぐです。

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posted by toba2016 at 12:31| Comment(4) | TrackBack(0) | EARLY TIMES

2022年11月19日

行かないで


玉置浩二『EARLY TIMES〜KOJI TAMAKI IN KITTY RECORDS』九曲目、「行かないで」です。5thシングルで、カップリングは「スケジュール」でした。

最近とみに人気があるというか、一度は完全に忘れられていたのに大復活を遂げた曲です。へたするとなかったことにされてるんじゃないかってくらい存在感の薄い曲だったんですが、YouTUBEによって発掘された時期と、玉置さんがオーケストレーションコンサートで歌う時期がたまたま一致したのか、多くの人の胸をうちまくり、今日では玉置ソロ随一の大号泣必至超壮絶バラードとして知られます。

89年の、ちょうど今頃(記事執筆は2022年11/18)の晩秋に発売されました。事前情報なしに日課のレコード屋巡りをしている最中に発見し、「おっ!出てんじゃん!」と喜んだわたくし、速攻で買い求め家までダッシュ、光の速さでコンポに挿入、再生ゴー!なにやら寂しげで憂鬱なコードを重ねてゆくホワホワ系のシンセ、堅めの音でアルペジオを奏でるピアノをバックに「パーララー」と流れるオーボエ、むむ!これは久しぶりの大バラードの予感がするぞ!と喜んだわたくし、歌詞カードとジャケットが一緒になったケースを眺めて期待感に胸を躍らせます。

いかにも玉置さんらしいことにAメロとかBメロとかそういうセオリーなどどこ吹く風、早々にいきなりサビに突入します。行かないで……行かないで……ちょっと待て!卑怯すぎるぞなんだその切ないファルセットは!ピアノもストリングスも装飾音のシンセもぜんぶ切ないパラメータに全振りだ!「悲しいんじゃない」「あなたにふれたのがうれしくて」って喜んでるじゃん!なんでこんなに切ないんだよ!わかってるよ、会えたってことはいつか別れるってことだなんて。ふれたってことは、いつか離れるんだ。当たり前じゃんか当たり前だよ……だからわかっているのに願うんだ、行かないで、はなさないでって、切実に。切ないトルネードにすっかり巻き込まれはるか遠くに吹っ飛ばされたわたくし、何が起こったのかわからずしばらく呆然でした。

思考を取り戻したわたくし、「好きさ」「じれったい」と同じく一つの感情のみを切々と繰り返す曲だと気がつきます。同時に、威力はそれらの曲を上回っていることにも気がつきます。「あなたの肌に夜が訪れる」とか「やっかいな目が揺れてる」とか、視点や視座があちこちに移動していた(だからこそリアルで鮮やかだった)安全地帯時代の曲とは違い、あなたがそばにいる、くっついているこの瞬間、はなれたくない!いま、これがおれの本拠地であり、いま以外ここ以外はすべてウソなんだ!とでも思わされるあの幸福感と、その幸福感を失わなくてはならない運命にたいする絶望感とだけを切々と繰り返すという、前代未聞のとんでもない曲を、玉置・松井・星・BAnaNAチームは作り上げて叩き込んできました。この渾身の一球は糸をひくようにキャッチャーミットに吸い込まれ、スパアン!と軽やかかつ力強い音を立てた切れ味最高の、誰も打てないストレートだったのです。これはさすがの打撃の天才川上哲治も打てなかったものと思われます。塀の穴から突如飛び出してきた剛速球が電柱にあたり、また出てきた穴に吸い込まれてゆくのを呆然と眺めるだけだったことでしょう(現代ではわかる人少なそうなネタ)。

で、当時中学生だったわたくし、当然そんな「行かないで」という幸福感・絶望感などわかるはずがありません(笑)。いや、わかっているつもりなんですよ?クラス替えや席替えで知り合ったかわいいあの娘といろいろ可愛らしい交流を重ね始めるようなお年頃ですから!もう名前も忘れたけど!貸してくれたカルロストシキ&オメガトライブのアルバムを(あんま興味ないのに)一生懸命聴いて君は1000%!ほしいよ〜とか音楽室のギターで弾き語りして喜んでもらおうなどとよこしまなことを企むなど、順調に大人の階段を上っておりましたから!授業中は隣の席にいてはなれないで!掃除当番に行かないで!うん、やっぱわかってないですね。

つまり、その真価は当時わかってたつもりで呆然としつつも、まるで分かりようがなかったのです。そんなことを言ったら安全地帯時代から真価がわかっていた曲なんてひとつもないですが、この「行かないで」はとりわけワンスポット感が高かった、結局この曲が収録されたオリジナルアルバムは出ずにこのときだけポンとこの路線で出てきたものですから、そのうちになんとなく忘れていたのです。『夢の都』『太陽』を経て三年強経って『あこがれ』を聴いてようやくハッと気がついたような体たらくでした。この経緯は「コール」の記事に書いておきましたが、ああ、こういう路線をやろうとしていたんだ!と気がつかされました。最初に佐渡ヶ島が出てきて、美しい島だけどなんだこれなんのつもり?と思っていたところにしばらくたって水平線の向こうに新潟県が現れたので、なるほどこうだったのか!と……意味が分からなさすぎるたとえですが、欠かせないワンピースが先に出ていたんだ!と、あとから玉置アコースティック・シンセ超怒涛切ない悲しい愛しいバラード群の全体像が見えたわけです。それから何年も経って『あこがれ』が「長年録りためていたバラード集」(『幸せになるために生まれてきたんだから』より)だと知り、この「行かないで」の位置づけを確信するに至りました。つまり、というか結果的に、この「行かないで」はそのバラード群の中で松井さんが参加している唯一の曲なのだということです。

玉置さんが松井さんの詞を歌います。あたたかいあなたにやっと触れることができ、うれしさに泣く、でもこのうれしさもいずれは過去になり、思い出になってしまう、それがわかってしまっていて辛い、悲しい、そんなこと知らなくてよかった……歌は信じられないほどのあたたかさ、愛しさ、悲しさ……用いられる言葉の種類が絞られているぶん、シン!と澄み切った切なさが何度も胸に迫り、貫いてきます。これは須藤さんにはできない、安全地帯の世界をともに作り上げたこの二人だからこそできた唯一無二の曲だと言えるでしょう。だからこそ、ポツンとひとつだけ、その輝きを保って現代によみがえった、いや生き続けていたのではないでしょうか。

すでに中学生どころか学生でなく、独身でなく、若者でもなくなったわたくし、玉置さんのこの歌が再び脚光を浴びているこの時代にあって、別の意味を読み取るようになってきました。当たり前ですけども、べつに抱きあってなくてもいいというか、抱きあいなんかしたら暑苦しいし動きづらいですからそれは是非とも遠慮したいのですが(笑)、嫁さん子どもたちとの日々はいつまでもは続かないということを受け入れたくない気持ちを投影するようになってきました。こんな切ない歌声やアレンジの似つかわしくない気持ちではあるのですが。子どもたちはいずれ自分の足で立って私のもとを去ります。順当な順番でいうと親は先に死ぬんですからそうでないと困りますが、でも寂しいですね。嫁さんとは、たぶんわたしとどっちかが先に死にますから、どっちにしてもいずれお別れです。その前に別の原因でお別れにならなければですが。そう考えると、いまは大変だけど愛おしむべき楽しき日々なんじゃないか、行かないで、行かないで、この日々よどこかへ行ってしまわないで、と思えてきます。

当時はまだ30やそこらだった玉置さん松井さんにはきっとそのような気持ちはなかったことでしょう。ですから、完全な曲解であるわけなんですが、名曲はこのようにして長く生き残るものであるのかもしれません。

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2022年11月12日

Sendenfor


玉置浩二『EARLY TIMES〜KOJI TAMAKI IN KITTY RECORDS』八曲目、「Sendenfor」です。「I'm Dandy」カップリングで、弊ブログ指定変な曲三部作の二作目にあたります。

この曲は、まあ曲もたいがい変なんですが、詞が特に変です。歌詞カードを最初に目にしたわたくし、なにこれ何語?英単語がちりばめられてますが文法も単語もメチャクチャ、何を言っているのか全然わからないのです。曲を聴いてみて、ああなんだ日本語か、とようやっとわかった次第でした。前年にリリースされた聖飢魔U『The Outer Mission』内「不思議な第三惑星」と類似のネタでした。松井さん遊びすぎ!ちなみに「不思議な第三惑星」は英語としてどうにか意味が通じる詞なのに対して、この「Sendenfor」はまったく通じません。さらには歌詞中「night mare need more」が「悪夢にも」と歌われるのは聴かないとわからないなど、「不思議な第三惑星」に比べて読解に労力を要する仕掛けになっています。

迫られ拒まずYes I Do 俺流宣伝法
至れり尽くせりI Love You 完璧宣伝法

こんな調子で聴きながら読んでいかないとまったく予想がつきません。正直、なんのつもりでこんな遊びをしようなどと思ったのか傍からはまるで見当がつきません。聖飢魔Uに対抗意識を燃やしたというのはありそうもないですので、もしかして疲れていただけなんじゃないでしょうかという疑いすら抱かせます。世の中には一定のポーズで座り続けて無心になるよう心がけるという修行を行う宗派がありますが、あれは続けているとフッと自分が自然と一体化した感覚を得られることがあるのだそうです。自分は細胞の一つ、いや素粒子の一つのレベルまでが自然の一部であって、それは自分の周囲にあるものとなんら区別するべきものではない、だから自分と周囲を隔てる壁のようなものが崩れてゆく、別の言い方をすれば境界は意味のないものであって、わたしという幻想の意識がそういう意味を作り出しているだけだ……などと感じられる瞬間があるそうなのです。茶化すつもりはないのですが、それアタマが疲れてるだけなんじゃないのと傍からはみえても仕方ないように思われるわけです。もしかして松井さん玉置さんもヘビーな日々の中でそのような境地に至ったのかもわかりません。

そんなわけで、全曲いい曲である思想を堅持している弊ブログ、大ピンチです。「Hen」のときに半ばムリヤリ記事を書いたわたくし、この曲でもかなりの苦戦が予想されます。思い切りいい曲いい曲と書きまくったあとで、松井さんが「あの曲?ちょっと浩二と遊んだだけだけだよ捨て曲だよあんなの」と言ったらすべてが崩壊するという超極大爆弾を抱えながらの執筆になってしまいます。政府と軍がどんなにダメダメでもマスコミが超忖度しまくって威勢のいい記事を書くまくるも、あっさりポツダム宣言受託でその報道姿勢をひっくり返す醜態をさらすという、歴史的クソネタと同様の構図を抱えてしまいます。そんなわけでなるべく厳正中立に、かつこの曲の面白い点優れている点をつとめて客観的に記してゆきたいと思うわけであります上等兵殿!

えーと、まずは、詞の面白さです。「Send Den For宣伝法」と「St. Rent Hoom洗練法」の二種類があります。何が宣伝されているのか、どうして洗練されているのか、それはもちろんナニのためなんですが(笑)、それが一見しただけで読めてしまってはあまりにも生々しすぎます。それで、かなり読みにくい表記法であるこのような書き方を採用したのではないかと思われるのです。「ハッとわりかし攻めても」「きっとそれなり濡れてそう」なんて、いくらきわどい歌をこれまでさんざん作ってきた玉置松井コンビといえど、そのまんま書かれていたらちょっとどギツ過ぎるように思えます。むしろ最初は普通に書かれていたけど、これはいくら何でもヤバいんじゃないのという判断が、会社サイドか玉置松井コンビサイドかの間に起こって、じゃあこういうふうに書こうか、歌は変わってないんだけどね、これなら何か新しい感覚が生まれる感じがしない?いいね五郎ちゃんこれでいこうか!なんて会話の一つもあったかもしれないのです。つまり、この歌は玉置松井コンビ史上ナンバーワンのドエロソングであるという、唯一無二の称号が与えられる可能性があるわけです。もちろんエロいだけでなくてそこには言葉選びやリズムの妙などの芸術性があってこその、この演出であったわけですから、これは高度なエロさの技量を要するわけです。

曲に関しましては、BAnaNA的ギミックにあふれた聴きこみ甲斐のあるアレンジです。ベースの音がボッキボキ、これもシンセベースな気がしますが、ずいぶんゴキゲンです。ドラムの音はずいぶん生音感がありますが、マシーンのような正確さですので、生ドラムかどうかまではわかりません。右チャンネルに細かく仕組まれたパーカッション、左チャンネルから聴こえてくるアオリ、当時の聴衆が当時の家庭用機材でどれだけ聴きとれるのか非常に疑問に思えるほどの変態的凝り方をしていまして、ああBAnaNAだな、BAnaNAでなくてもBAnaNA的な凝り方をするアレンジャーだな、と思わされます。BAnaNAファンはもちろん聴き逃せません。メインリフを刻む鍵盤はやや右より、ギターがやや左の奥から聴こえてきます。こういうふうに位置をハッキリさせるのもまあ基本といえば基本ですが、バンドでのライブだとふつうこういう立ち位置にはなっていませんので、そういうことにあまり囚われない柔軟な思考の持ち主がアレンジ・ミックスしたのでしょう。ちなみにギター、これいい音ですねえ。正確すぎてこれもシンセなんじゃないのと思わせられる箇所もあるんですが、間奏のソロはさすがに弾いたでしょう。「I'm Dandy」のギタリストがそのまま弾いたか、もしくは玉置さんがお弾きになったのだと思います。まるきり根拠がないこともなくて、『CAFE JAPAN』以降の玉置さんと音階の使い方が似ているように聴こえる……まあ聴こえるだけで、根拠ないんですが(笑)。

とまあ、変な曲ですから、こんな感じにあまりストーリーとか感じさせないようなご紹介になる……いやエロいんでそれはご勘弁くださいって感じではあります(笑)。A面「I'm Dandy」が主題歌になった『右曲がりのダンディー』の映画は観たことがないのですが、原作のマンガは当時パラパラと読んだことがあります。いわゆるいい男であることを自他ともに認めていて、自分がいい男であることをちらと疑いもしない、自分磨きなどする必要のないモテモテの男の話です。あたりまえのように恋はみんなゆきずりで、回転すしのように次から次へと女性が現れます。あのねえ……そんなのいくらバブルで浮ついていたからって、当時だって許されるわけないじゃん、刺されて終わりだよ、と現代からみれば思えます。でも玉置さんならあり得たんじゃないか?と思わせる感じが当時はあったのです。当たり前に玉置さんはそんなんじゃないと思うんですが、なにせほんの数年前に離婚と石原さんとの浮名が報道されまくっていた玉置さん、安全地帯の超ロマンチックな楽曲群のイメージを一身にまとう玉置さんですから、生身の「右曲がりのダンディー」がありうるとしたらこのくらいの男ぶりでないと……という、製作者サイドの判断があっての起用だったのでしょう。軽薄短小の世情ここに極まれりです。性行為のことを「プレイ」とか呼ぶ時代ですから、どんだけバカなんだよと思わせられます。ですがこんなクルクルパーの時代でも、少年少女の性と理不尽な暴力がエンターテイメントの主役になった90年代よりは明るかっただけなんぼかマシだった気がしなくもありません。そんなウルトラスーパー軽薄な時代、おそらくは玉置さん本人も大喜びでやった仕事ではなかったんじゃないかと思われる映画とその主題歌、さらにはそのカップリングであるこの曲が、一見アソビで作ったんじゃないのと思われるような出来であるのは必然でもあったのだと思います。いや、ホントにアソビだった可能性もなくはないのですが(笑)、それにしちゃ妙に凝ってるんだよな、と不思議な輝きを持つ曲でもあるわけです。

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2022年11月06日

I'm Dandy


玉置浩二『EARLY TIMES〜KOJI TAMAKI IN KITTY RECORDS』七曲目、「I'm Dandy」です。MIASSのCM、映画『右曲がりのダンディー』(玉置さん主演)に採用されています。作詞は松井さん、松井"お月様"五郎名義です。当然玉置さんも玉置"流れ星"浩二名義です。

ノリのいいロック的ポップスですね。アレンジの雰囲気はゴージャス時代の安全地帯や『All I Do』時の玉置さんに似ています。シンセ、ブラス、そして気の利いたギター、これはサウンド的には回帰です。歌詞は英語を使いまくりの玉置ソロですから『All I Do』に一番近いですかね。さらにこの曲は「キ・ツ・イ」以来のオリコンベスト10入りしてますから、安全地帯休止前の人気を維持していたわけです。玉置さんしか目に入っていなかった人には、安全地帯が動いていようがいまいがどうでもよかったことでしょう。ですが、安全地帯の看板を一人で背負うかのようなこの活躍劇は、玉置さんにとって負担があまりに大きかったといわなくてはならないでしょう。『All I Do』は好きなようにやれて楽しかったという玉置さんですが、この「I'm Dandy」からは、玉置さんのフウフウハアハアゼイゼイいう声が聴こえてくるかのようにわたしには思われるのです。同じようにやっていかなくてはならない!そんな辛さが、リバウンドとしてB面の変な曲(これは本人的には楽しい)オンパレードにこそ現れているんじゃないかとさえ思えてきます。B面があんまり変な曲だらけなので、これは玉置さんの精神衛生がかなりマズいことになっていると星さんなり金子さんなりが判断してこの時期のアルバムが出なかった……というのは考えすぎかもしれませんが。

さて、曲はなにやらパーカッションにあわせて、終始ピコピコ鳴り響くシンセで始まります。そしてドラムが入り、ブラス系の音で賑やかにリード、これもシンセなんじゃないかと思いますが……さらに、もの凄い低音がブリーブリーいってますよね。ベースをかなりの緩々セッティングで音程を下げ、さらにディストーションかけてつぶしたような音です。正体はよくわかりませんがカッコいいのでアリでしょう!ちなみにわたくし、コンサート用にベースを打ち込むとき、あんまり低い音ですと音源のほうが対応しておらず、やむなくシンセベースにすることがたまにあるのですが、そんな感じの音ですからシンセベースかもしれません。玉置さんのシャウトをサンプリングして鍵盤叩きまくったあげくにディレイかけたような効果音も入っており、当時らしい最新の電子処理が満載です。

そしてバスドラ踏みっぱなしのドラム、鳴りっぱなしのピコピコシンセ、ブーリーブリのベースをバックに玉置さんが歌います。なぜ哀しいなぜ寂しい……うっ!これは久々の『安全地帯IV』とか『安全地帯V』的な、女心を見透かしたような松井節です。哀しがってる(フリ)、寂しがってる(フリ)で涙を流したりとり乱したり、すべてを振り払うように羽目をはずしてみたりと、かまってちゃん全開で非常に傍迷惑なロンリーガールです。でもまあ、こういう芝居に乗っちゃうのが男ってものでして、ましてやダンディさんならば「ふっ、だからガールは可愛いのさ」とか言ってタバコ(MIASS)を捨ててシャワーを浴び、コロンを振ってトレンチコートを羽織り、ロンリーなハートを包み込みにBMWとかに乗り込んで迎えに行こうとするものなのかもしれません。ダンディーさんだった経験が全くありませんのでわたくしまったくわかりませんけども!

Bメロから安全地帯を彷彿とさせるクリーントーンのギターが入って来てますね。サビ前の「パララパラララ」は安全地帯的でたまりません。そうそう、こういう感じで合わせてほしいんだよって思います。一気にサビ、これまで英語のフレーズばかりいっしょに歌っていた女性コーラスが一緒にサビを歌います。これが玉置さんの色気をムンムンに演出するということは『All I Do』時代にすでに実証されていましたから改めていうようなことでもないんですが、玉置さんの声は一発で聴きとれますね。どの声ともかぶらないんで、男性コーラスでも女性コーラスでも決して埋もれません。こういう歌手に出会えたらどれだけこれまでの音楽人生ラクだったかと思わされると同時に、こんな歌手がわたくしと一緒で満足するはずがないのであっというまにヨソに行かれるであろうこともわかってしまいます(笑)。さて、このサビ、耳を澄ませると高音ストリングスが混ざってきていることと……なにやら左チャンネルが特に大きいのですが、「ドビュードヒュー」という音が入ってきていますね。なんなんでしょう?カッコいいんですけども、正体不明だとちょっと気分がよろしくないです(笑)。キメでキレイなクリーントーンのギターが「シャシャーン!」となると同時に消えて、また大きくなっていき、を繰り返すような感覚です。こういうところも『All I Do』的、もっというとBAnaNA的ですね。小技が抜群にセンス良くて、曲を作る人演奏する人の気分を盛り上げてくれることが容易に予想できます。こういう人にスタジオにいてほしいものですが、もちろんこういう人だったらわたくしなんぞとは(以下略)。

悲しいDanceはやめて、きみは自分の可能性を追うべきだよ!とでも言っているかのような歌詞、これはただのスケコマシではない……あしながおじさん的なナイスおじさんです。スケコマシには自分の奴隷になれというタイプと、そのほかに育てて伸ばそうとするタイプ、育てはしないけど応援して見守るタイプがあるのです、いやあるかもしれない!(急に弱気)まあ、ぜんぶコマしてるんですけども(笑)。これはもう戦略とか攻略とかでなく、性格でしょう。応援して見守りたいのに攻略法としては奴隷戦法が正しいからワイルドに迫るとかそんなことはありませんというか、あったとしてもそんなの心が追い付きませんので、みなさんご自分の性格に最もフィットしたコマしかたをなさっているのだと推察されます。まあ、スケコマシだった経験はわたくし全くございませんので(以下略)。

曲は前奏とほぼ同じ演奏を繰り返し二番に入りますが、相変わらずロンリーガールは煮え切りません。ムリヤリ過去の心の嵐を思い出して泣くなど、ロンリーガールっぷり全開です。松井さんにもハッキリ「わずらわしい」と言われちゃってます。現代的にいうと「そういうのいいから、もう」ですよね。令和時代だとこういうロンリーガールはSNSなどで自爆を重ねることが大いに予想されますので、こういうダンディーさんがウロウロしている場に出てくる前に何かに引っかかっている感じがしますが、当時はもちろんSNSなどなく、人づきあいにおおらかな時代だったといえるでしょう。というか、SNSなどで気をつかいまくりの現代人が平成初期の若者からすると気の毒すぎです。既読がついたとかつかないとか、気の利いたことを言わなくてはならないとか、どんな脅迫ですかって気分になります。気の毒に思いつつなぜか自分も息苦しくていけません。しまった平成初期の若者だったおれもリアルで令和時代に生きてた!

「半端な夢」とか、松井さんも口が悪いなあ(笑)。でも、松井さんの歌詞で玉置さんが歌うと許せるというか、なにかもっと大きな夢を与えてくれそうで、悩みがささいなことに思えてくる効果が抜群です。これは非常に不思議です。人徳とか歌の力とかとしかいいようがありません。わたしが「そんな半端な夢捨てちゃいなよ」なんてSNSで言おうものならその日のうちにかなり周囲の重力をきつくされたり酸素を足りなくされたりしそうです(笑)。現代では思いやりあるセリフがデフォルトに設定されていて、そんな思いやりなんて少しも持っていないわたくし、メッセージは極力事務的に発信するしかありません。現代人のやりとりはOfficialナントカさんの歌みたいにオーグメントとかsus4とか、そんなの曲に一か所か二か所でいいんだよっていう泣かせどころを曲全体に惜しみなくぶちまけまくりなんです。これが現代人の感覚なんだとは思いますが、ラーメンでいうと焦がしバター味噌コーンラーメン背脂チャッチャニンニク野菜マシマシトロトロチャーシュー白髪ネギ入りみたいなもんで、ふつうに味噌だけでいいんだよ!とか思っているおじさんが食べると胸焼けがネバーエンディングです。こういう時代にこそ松井玉置メソッドを取り入れて、あっさりだけどコクがあって飽きない、くらいの中華そば的SNSメッセージを発信したいものです(笑)。

さて曲は間奏、サックスらしき音が最高にファンキーなアドリブっぽいソロを奏でます。その間なにやら「バー!ボー!バー!ボー!」とよくわからない音が上下しており(80年代のシンセポップではよくある音だったように思われます)、一気にブレイク、そしてパララパラララとギターが鳴り、曲は最後のサビに突入します。このブレイクを挟んだ展開はむやみにかっこいいです。ラーメンでいうと札幌ラーメンのようにコーンが乗り薄く脂が浮いている……おじさんもやっぱちょっとは泣かせどころがほしいのかも!(笑)

悲しいDanceはやめて、綺麗なDressにふれて、ホンキで奇跡と戯れるんだ、ここで悲しい女性を演じて駆け引きしているだけで終わるつもりかい?そうじゃないだろう?確固たる愛を築き上げて、新しい人生のステージに向かうんだ。きみはきっと何かができる。何かになれる。ぼくはここできみの礎となるから……ここまでの覚悟があるかどうかはともかく、玉置さんの歌はこう信じさせるくらいの説得力にあふれています。言質はとらせてないけども(笑)、「愛はどこへもいかない」という熱い宣言で心の底から安心させるのです。おお、そういや「愛はどこへもいかない」は後年「田園」でもラストの歌詞に使われましたね。これがのちにダンディーさんとしてでなく、泥臭く畑を耕す玉置さんとして同じセリフを歌うとは、この当時はまったく予想できなかったのです。

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2022年11月03日

Will…


玉置浩二『EARLY TIMES〜KOJI TAMAKI IN KITTY RECORDS』六曲目、「Will...」です。

感覚としては「地平線を見て育ちました。」に近いです。つまり、ふつうにいい歌です。以上。

うーん、うーむ、むむむむ……さすがの弊ブログでもこれ以上の言葉がなかなか思い浮かばない曲ではあります。ですがそのぶんといいますかなんといいますか、アレンジは気合が入っています。フェードインでスリーフィンガーと思しきギターのアルペジオ、バスドラとほぼ完全にリズムを一緒にしたベース、そしてハイハット、ストリングスとが聴こえてきます。淡々です。淡々としすぎていて、かなりメカニックです。それだけに、ベースのうねりや、なにやら低音太鼓の「ドウン……ウウン……」という音が不定期に耳に響くのですが、それがとてもオーガニックに聴こえます。なんでしょうねこれ?ジャンベのテンション低いやつ?いわゆるロックバンドで日常に使うようなものでない太鼓であるように思われます。そしてアオリに高い音の「キキキキココココ」が入ってますね。マリンバですかね……もうわからん楽器だらけでめげそうになります。BanaNAが鍵盤ガシガシ叩いて作ったんじゃないでしょうかね。

さて曲は玉置さんが「Will」とささやいて歌が始まります。意味のよくわからない歌詞です。とりわけ一番の歌詞は中身のないバブル期日本歌謡曲そのもののような、ストーリーや情景の感じられない歌詞です。東村山音頭の「ちょいとちょっくらちょいと」なみです。う、むむむむ、「氷点」の美しさを考えますと並河さんの力量を疑うのは失礼な話なのですが、ここまで意味がないと超適当に作ったか、もしくは玉置さんの曲に詞をつける難しさに手を焼いてなんとか言葉をくっつけたんじゃないかと想定せざるを得ません。ちなみに「Will you......?」は意向を訊ねる表現であるかのように中学校とかでは習いますけど、実はほとんど命令なんですよ。”Will you go home now?”「お前はとっとと家にお帰りになるんだよな?」くらいの慇懃無礼な命令です。これをムリヤリ生かしたとしたら、うわあなんて素敵な雰囲気なんだ、風のささやきがメロディーになって聴こえるよね、聴こえるだろ、なあ聴こえるんだよな!よしそうだワンダフルだ、だからお前は〇〇することになさったんだよな?してくれるんだよな?早くしろよとかそういう恐怖の世界になってしまいます。たぶんですが、玉置さんのデモテープで、ここにあたる箇所がwillに近い発音で歌われていて、それがすごくしっくり来たんで並河さんもWillとそのままに近い形で採用したんじゃないか……歌い出しがいきなり助動詞なんて普通に考えたら思いつくわけがないので、おそらくそんな事情があったんじゃないかと愚考いたします。

曲は間奏、なにやら笛の音が……リコーダーじゃないですかね?当時リコーダーを首に下げて、間奏を自分で吹くというビックリアイドルがいていまでもその映像を覚えているんですが(名前は忘れた)、当時中学生くらいだったわたくし、テレビとかに出てくるミュージシャンはみんな学校の音楽室にはない楽器を使うものだと思っていましたから、リコーダーの音には驚いたものです。歌メロとはぜんぜん違う旋律を描き、曲はふたたびBメロに流れていきます。

消えない夢のときめき、これは、かなり穿った見方をすれば並河さんからみた玉置さんなのかもしれません。安全地帯が休止し、シングル連発、俳優活動ガツガツの玉置さんは、まるでわざと全力で空回りしているようにさえ見えます。松井さんもいます。星さんもいます。BAnaNAもいます。実際この三人だけいればできる音楽も安全地帯時代からやっていました。でも同時に安全地帯でなければ、あのメンバーたちと一緒でなければダメなんだ!とどこかで分かっていたんじゃないかと思えてきます。奔放すぎて嫁さん子どもから愛想をつかされた旦那さんが、それでも嫁さん子どものいる家庭がなければ心の底から安心して遊べず、「子供のような笑顔」を取り戻したい一心で全力で遊びまわろうとしているかのような暴走ぶりです。これは家族からすればたまったものじゃありません。だから安全地帯だって身動きが取れなくなったんじゃないかとさえ思われてくるのです。この時期の玉置さんはギラギラでした。曲も出すしドラマも出ます。でもどの現場に行ってもメンバーはいません。だから一人で五人分輝こうとしているんじゃないかってくらい光っています。押しも押されぬ大スターです。でも後にわかることですが、玉置さんはべつにテレビのスター歌手になりたかったわけじゃないんです。ですから、ひとことでいえば迷走していたんです。

そんなどこに向かって走っているのかわからない玉置さん、傍から見ればまあ落ち着けよって感じです。まさか並河さん、ここまで見抜いていてWill youなどというほとんど命令文(しかも中身を省略してぼかしてますが、メンバーに頭を下げて安全地帯にお戻りになるんだよな?が示唆されるという)の歌詞を書いたのでは……それだと中身がないだとといって失礼しましたあああ!……などと、ありそうもない妄想を抜きにしますと、歌詞カードに印刷されている、少年が草原を駆け回る情景を思い浮かべさせられる歌です。これは玉置さん・松井さんの作品(「…ふたり…」「パレードがやってくる」など)以外にあまり例がないテーマかもしれません。これを玉置さんが色っぽさを廃したさわやかボイスで歌うんですから、玉置ソングとしてのアイデンティティは保たれているともいえなくもありません。

ですがまあ、客観的にはけっして超名曲ってわけではないし、有名曲でもありません。言いかたが悪ければあっさりしていてホッとする曲、にすぎないのです。ただ、この「Will......」、Badfingerの"I Miss You"や"Day After Day"を不思議に思いだす曲です。構成とかアレンジの考え方が似ているのかもしれません。うっかりそれだけで名曲だと思えて来てしまうんですが、よくよく考えたらそれはBadfingerの力であるような気もします(笑)。Badfingerの悲劇を知り、そして安全地帯の歩みを知るわたくし、この時期の玉置ソロは、安全地帯を休まざるを得なかった玉置さんによる『涙の旅路』であるように思えてならないのです。

*************************
『涙の旅路 BADFINGER』はアップルレコードを(かなりのゴタゴタの末に)傷つき離れ、ワーナーに移籍したBadfingerが1974年に送り出したアルバムである。バンド名をタイトルにするという心機一転を図った渾身の作品であったが、英米チャートの反応は冷ややかなものであった。皮肉なことに当時バンドは音楽的に円熟期・絶頂期に達しており、本ブログ管理人のような偏執狂的なファンによって最高傑作もしくはそれに並ぶ作品として評価されている。なおこの後バンドは坂を転げ落ちるように崩壊・分裂してゆく。2022年現在、安全地帯がそうならなさそうで本当によかったと本ブログ管理人は胸をなでおろしている。ただしBadfingerは2022年現在も唯一の生存メンバーであるジョーイ・モーランドが活動を続けているため、あのストーンズ(1962-)をも上回るビックリの長寿バンドである(1961-)ともいえよう。60年以上もバンドやってるって一体……

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2022年10月29日

氷点


玉置浩二『EARLY TIMES〜KOJI TAMAKI IN KITTY RECORDS』五曲目、「氷点」です。玉置ソロ3rdシングルです。じつはシングルA面初のバラードですね。作詞は並河祥太さん、この曲で初めて知った名前ですが、それはわたしが無知なだけでいろいろ作詞されてますね。なおカップリング「Will...」も並河さん作詞です。そして安全地帯・玉置浩二通してシングル曲初の三拍子だと思います。

さて曲は遠くからストリングス系のシンセが響いてきて、エレピ系の音でメインフレーズ、コード弾きとアルペジオ、このほかはデジタルパーカッションのガス!カシャーン!ガス!カシャーン!と、もうシンセ全開の音で奏でられます。当時のシンセ事情はよくわかりませんが、現代でこの曲を再現するんだったら迷わずすべての音をシンセだけで作るでしょうし、この音源でも生音感はかなり乏しいのでやはり当時でもシンセを使ったものと思われます。これは『All I Do』のころに試行されたスタイルで、この後ピアノ、生ストリングスを交えた「行かないで」、さらに生ギターを加えた『あこがれ』のスタイルへと発展してゆくその過程上にある曲だと位置づけることができるでしょう。さらにいうとそこからピアノやシンセを大幅に省いてかわりに生ギターを主体にし、ベース、ドラムを入れてゆくと『カリント工場の煙突の上に』のスタイルへと発展してゆきますので、この曲と「行かないで」は玉置アレンジ思想史を語るうえで欠かすことはできない貴重なワンピースであるということができます。

これ、よくわかる気がするんです。というか若いころから安全地帯・玉置浩二の音楽に首まで浸かっていますから自然に影響を受けただけなんだとは思うのですが。わたくしもいっときシンセに夢中になったんですよ(いっときなのでよくわかってませんが)。やりたいこと全部できちゃいますから。でも生音が恋しくなっていくんです。思ったようにいかないのが生音なのに、それでも生音で思ったように音を出したいですし、かりに思った音が出なくても生音のほうがいいんです。そして最近も、現代のソフトシンセは安いしかつてよりも大幅に自由度が高く音もいいですからここ一年二年ばかりまたいじってもみましたが、やっぱ自分でギターなりベースなり弾いたほうがいいやとMTRやオーディオインターフェイスにマイクつっこんでシコシコ録音するようになりました。アレンジ思想史なのか音色嗜好史なのかよくわかりませんが、キッパリ分けられないんですよこの二つは。これに演奏技術や楽器の知識などもろもろが連動して、大きな流れが形成されてゆくのです。あ、いや、わたくしなんぞはよくて沢のチョロチョロか悪いと排水溝でして、玉置さんですと長江や黄河もかくやの大河となるわけです。参考までに昔本で読んだ話を記してきますと、中国からいらした観光客が瀬戸内海を見て「日本にもこんな大きな川があったのですね」と言ったそうなのです。まっことスケールが違うのが玉置さんだという喩え話になっていますでしょうか!

リバーブたっぷりの玉置さんのボーカルが、「ガスッ!カシャーン!」というパーカッションをアクセントに、冬から春への移り変わりを歌います。「冬のこころ」、この時点でもうよくわかりませんが、こういう場合には詞の中に根拠を求めなくてはなりません。ええ、これは大学受験の現代文読解における基本中の基本です。回答はすべて本文の中にある!ですから、「あなた」のもつ「こおらせてほしい」という欲求こそがこの「こころ」なわけです。つまりまだ凍っていないのでしょう。「氷点」に達すると凍り始めるわけですが、まだまだ「白い花びら」すなわち雪がパラパラと舞い降りる程度ですから、そこまでは気温低下していないのです。すべてを白く包み込み、けっして氷点以下には下がらないよう保温をする雪、その雪に降られ「こおらせてほしい」と願う心身、その願いに応えて氷点に向けてじわじわと命の流れは止まってゆきます。雪の中では氷点周辺で気温低下は止まりますが、人間は余裕で死ぬので注意が必要です。ここで酒など飲むとほんとうにあの世行きですので酔ってるときに外を歩かないことを強くお勧めします。わたくし飲み会の帰りに雪の中にゲロをぶちまけ、その奥に倒れ込み、あやうくそのまま眠ってしまいそうになった経験がございます。札幌市内であっても住宅地の夜は静かで、しんしんと降り積もる雪にあっというまにゲロもわたしも包み込まれて行方不明になります。ああ……雪気持ちいいな……こおらせてほしい……と思ったところではっと我に返り、命拾いをいたしました。雪に埋もれたまま春になって、今度は「あたためてほしい」……と願うことは不可能だ!やさしい鼓動はストップしてネバースタートだし!とギリギリ動いていた脳細胞が判断しました。イヤあぶない!皆様どうかお気をつけください!

曲はまたメインテーマを奏でる間奏から二番へと向かいます。二番もよくわかりません。春が「ひかりあふれる」のはわかるのですが、それが「遠い悲しみ」を愛する……?ちょっと頑張って想像してみましょう。こういうとき大学受験の現代文読解など屁の役にも立たないことを痛感し、想像の翼を自由に広げるべきなのです。なにせ出題された作品の作者本人がその入試問題を解いてみたら満点じゃなかったという逸話があるくらいですから、現代文読解法なんてアテにはならないものなのです!いや、それは作者のほうが自分の書いたことをよくわかっておらず勘違いしているんじゃないかとは思うんですが……それは言ってはならないという雰囲気をビシビシと叩き込んでくるような人が嬉々として紹介するエピソードですので、ここは目いっぱい想像力を駆使することにしたいと思います。「遠い」には物理的に遠いことと時間的に遠いこと、そして心理的に遠いことの三通りがあります。実際にはこれらの要素が順序を変えて絡み合うことがありますからまず三つの組み合わせ順列で3‣2‣1の六通り、そして三つのうち二つの組み合わせで、3‣2/2の三通り、その逆パターンもアリで三通り、そして単独で三通り、合計で十五通りあります。この時点でもう想像力を駆使するのはムリだと気がつくわけなんですけども(笑)。想像力というのがいかに根拠の薄い思い込みであるかがよくわかります。ランダムで1/15の正答率しかありません。もしここに受験生の方がいらっしゃったら、想像力を働かせろ!という現代文講師の話はつとめて聞き流すようにしましょう!(笑)

そんなわけでやっぱり詞の中に根拠を探していきますと、冬の間にこおった心のことだとわかります、ああ、ゲロのことじゃないですよ(笑)。季節をまたいでいますから時間的に遠いのです。ざっと三か月前です。そして、悲しいことが起こった場所からフラフラと彷徨いたどりついた凍り場までの距離もそこそこはあるのかもしれません。これは不確定ですね。そして、これが恋愛沙汰であったとしたら、心が遠く離れてしまった、あるいはもともと遠かったのを確認してしまったという心理的な遠さが加わります。これもまあ、不確定でしょう。うん、普通に考えてこれしかないですね。想像の翼など無用です。

冬の間に凍ってしまった心は、春の訪れを迎え、僅かに残していた鼓動を再び活性化させます。すなわち、あらたな恋愛沙汰受け入れ状態スタンバイ!あ、恋愛沙汰とは限りませんね。これが想像力のよろしくないところです。勝手に好きなほう好きなほうに話をもっていきがちになります(笑)。まあ、何やら心がざわめき始めるわけですね。寒さが悲しみを凍らせ、時間がそれを癒すのです。そしてあたたかい春のひかりが癒えた心を解凍(解答)してゆくのです。これが自然の営みというもので、人間の心も大自然の一部ですから、このように季節によって変わりゆくものなのです。そのもっとも劇的な変化を「冬」「春」とその間にある「氷点」という言葉で表現したものと思われます。

さて、いつもどおり屁理屈でいろいろ説明してきたわけですが……この曲はいろいろな意味でターニングポイントになった曲ですので、いつもどおりの説明ではなんだか文章を終えてはいけない気がしてならず、まだ少しだけ語ろうと思います。あれはたぶんこの曲が出て一年くらい後のことでした。

「氷点」って歌があったよね、あれが好きかな……

これがわたくしが今までに他人から聞いたことのある唯一の「氷点」評なのですが、わたくしそのときちょっと驚きました。えっ「氷点」かい?もっといっぱいいろんな歌あるのに「氷点」を選ぶとは?意外!でした。ですが、この曲には他の曲にはないいろいろな要素が絡まりあっていますので、他の曲でなくて「氷点」を選ぶ理由はたくさんあったのです。作詞ですとか、拍子ですとか、オールシンセアレンジですとか……ですから、「氷点」が好きで他の曲はあまり耳に入らないということは当然起こるものと思われますし、その逆も然りなのでした。

そう思って聴きますと、玉置さんの歌もこれまでにないものであるような気がしてきてなりません。ウイスパーもビブラートもブレスも玉置さんそのものなのですが、どこかのちの『あこがれ』へと続いてゆく階段の一歩目であるように聴こえてきます。そして歌詞の大自然の移り変わりを思わせるスケールがこれまでの松井さんの詞とは大いに異なるものでしたから、玉置さんの声が生きる新しいフィールドを見せられたように思ったものです。松井さんでなく並河さんだったのにはドラマの都合とかいろいろ事情があったんだと思いますが、ここで90年代後期以降の玉置さんや2000年代の安全地帯の世界を拓く可能性がほの見えたといえるかもしれません。

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2022年10月15日

“Hen”


玉置浩二『EARLY TIMES〜KOJI TAMAKI IN KITTY RECORDS』四曲目「"Hen"」です。

パーカッションと鋭い口笛、なにやら管楽器でポコポコピュウピュウ、バンブーバンブーと、なんだか呑気な雰囲気で曲ははじまります。よくこんな曲思いつきますね!口笛なんてそもそも唇が追い付きませんよこんなの!人間、フィジカルでできないことはそもそも思いつきません。現代のようにAIとかサンプル音源とかを使いながらアレンジをPCで組み立てて行ける時代でないですから、技量が追い付かないことを表現するのはぜんぜんムリだったのです。そんなわけで呑気な感じなのに口笛が超絶技巧でいきなり驚かされます。

「〜のは変」という内容をポコポコピュウピュウと十三回も繰り返す歌です。身もふたもないですが本当にそうなんです。しかも変だといっているその内容はあまり変じゃないのです。

いちおうわたくし、"Hen"が「変」以外の言葉である可能性も考えました。ええ、「Love ”セッカン” Do It」と同じパターンですよ。また大辞典中辞典駆使して手掛かりを探ってみます。すると一発目の英和大辞典で「hen」がめんどりの意味以外に鳥類の一部のメスの意味、またエビカニ等、そしてなぜか鮭のメス、転じて女性、とりわけ口やかましい中年女性、スコットランドではお嬢さん、彼女を意味することが分かりました。聞いたことないな、「ラッシー」が「お嬢さん」の意味だって知ってたくらいですよ、英語はヨーロッパじゅうから様々な語源が渦巻いていますから奥深いですねえ。でも少なくとも独仏ルーツではないようで、それらの辞書には何も見つけることができませんでした。しかしまあ、どう考えても「プロポーズは口やかましい中年女性」「抱きあうのは鮭のメス」とかはありえないので、このセンはないですね。スペイン語にhender割るという単語がありますが……この意味である場合「プロポーズは割ってしまえ……」ちょっと意味が通らなくもないのですが、スペイン語のhenderはhを発音しませんのでヘンでなくエンになるはずです。世界中にはもっとたくさん言語がありますが、もうふつうに日本語の「変」だと考えるのが自然でしょう、意味通るし(笑)。

「どーなんだろーね」のあとに「ヘ…ヘ…ヘ…ヘ…アーイアイ!」と女声と絡めて歌う変な箇所があります、って変な箇所を指摘していたらキリがないくらいどこもかしこも変な歌です。どうしろというんだ……

と、まあ、ぜんぜんいい歌だと思えなかったのですが、当ブログを開設したとき、いずれこの曲を解説する日も来るものだと覚悟しておりました。わたくし、以下のように宣言しております

そういう曲もきっとその魅力がわかる時が来る!
それまではその曲について語らない!

つまり、安全地帯・玉置浩二の曲は全曲いい曲である!

いずれは全曲を語る!


うーん、鼻息荒ーい!(笑)いや笑いごとでないですね。この「"Hen"」を語る日なんてだいぶ後だろうからと、いずれ魅力がわかるだろうくらいに思っておりましたが、困ったことにまだよくわかりません。激烈な変さです。こういうときは発想を変えるべきでしょう。つまり、この変さこそがこの曲の魅力であると!

わたくしこう見えても、というかブログですから見えないんですが(笑)、ともあれわたくし若いときに音楽をやっておりましたから、こういう遊び心たっぷりでわざと変な曲を作って楽しむこともございました。普通に歌っているところをとつぜん叫ぶとか、ギターは終始ロングディレイでわけがわからなくなっているとか、とんでもない変拍子の連続で曲の流れがよくわからないとか、仲間と悪ノリでどんどん変な要素を付け加えてゆきムチャクチャな曲を作ることがあったのです。変であれば変であるほど価値がありますから、これは世間の「ふつう」「まともな」という価値が確立していてこそ成立する逆価値になります。わたし個人からみると変とかではなく、世間からみて変なのです。これは思ったよりも難しいことなのです。なにせ世間の「ふつう」に逆らって生きよう、出し抜いてやろうと思っているわけですから。若いですねえ。ともあれ、世間で「ふつう」だと思っていることを知らなければ世間からみて「ふつうでない」ことはできないものなのです。わたくしが「ふつう」だと思って行ったことが「ふつうでない」ことも、その逆のこともままあるわけですから、世間に対するアジャストが必要となるわけなのです。

で、わたくしのような凡人だとそのような過程になるわけなのですが、玉置さんの場合はこれが案外素なのではないか、という合理的な疑いが生ずるわけです(笑)。いやいや、玉置さんだってこれが売れる曲ではないというのはよくよくご存知でしょう。でも天才が凡才と違うところは、変なことを変だと思っていないところなのです。ゴッホにはひまわりがあのように見えていたんじゃないかと疑われるのと同じで、玉置さんにはこれがいい曲だと感じられている、少なくとも「悲しみにさよなら」みたいなタイプの曲でないこと、そしてウケそうな曲でないことはわかっているけども、いい曲だと思っているからリリースしたのではないかと思われるのです。レコード会社は嫌がる可能性がありますけども(笑)、当時は天下無敵の玉置さんの意向です。キティレコードもへたに逆らえません。そして玉置さんもこれは世間では変だと感じられることはわかっていたのでしょう。だから「変」だろうから「"Hen"」って言葉を使った、あるいは松井さんと話して「"Hen"」にしようか、と申し合わせたのではないかと思われるのです。

そう思ってこの曲をよくよく聴いてみますと……うーんやっぱり変!(笑)。でも、一発で口ずさんでしまうレベルで覚えやすいメロディーに、HenHen言ってるだけなのにメロディーが数通りあって飽きさせないフックの効いた展開、サビで玉置さんのボーカルがハーモナイザーでムリヤリ作ったような美しくないハモリになっていてインパクト大になっている点、間奏の流麗なピアノとのギャップなど気絶しそうなくらいショックです。おもに裏のリズムを取っている管楽器のマヌケな感じ、これらはすべてこの変さを最大値に引き上げるために計算された演出なのでしょう。この曲、いつものようにガットギターで弾き語りでお作りになったのだと思われますが、ガットギターで弾き語りしている音像を想像すると、玉置さんの優しい声に、この覚えやすいメロディー、そして素朴なギターの音色……うん、こりゃ玉置さんの曲だ、いい曲だと思えてこないこともありません、いやまだ無理してますかね(笑)。でも、この後90年代の玉置さんソロの音楽を彷彿とさせる曲であることは確かでしょう。当時は当時までの、主に安全地帯の作品しか知らなかったから大ショックだったわけで、逆に玉置さんソロからさかのぼっていくと、そこまで違和感はないのではないかと思われるのです。もちろん「うわ変な曲!」とは思うと思います。だって変に作ってあるんですからそれは当然です。でもそれは玉置さん松井さんの術中です。そこで立ち止まってしまいあんまり聴かないようにしていると、この曲は変な曲のままです。ですが何度も聴き込むことでだんだんハマっていく、そんな曲であるといえるでしょう。

珍しいことに今回わたくし歌詞にぜんぜん言及してません。よくわからないからですが(笑)。でもまあ、うん、これはバブル期特有の、とある若者の生活ですかね。恋人が泣いたタイミングでプロポーズするのもなあ……ちょっと意地悪して心を揺さぶるのもなあ……なんかわざとらしいんだよなあ……トレンディードラマじゃないんだからさ!気まずい場を笑ってごまかそうとか、ごまかせるわけないじゃんね、ドラマならそこで場面切り替わるけどドラマじゃないし。毎日仕事、毎日食事、こんな当たり前のことすらわざとらしい感覚さえしてきます。朝八時はちょっと早いですが(笑)。なあ、そこで彼女が泣いたんだよ、夜もまあそこそこなんだけど……朝早いからって気になっちゃうのも芝居がかっていて変だよな、こんなことおまえに電話して相談しているのもドラマのワンシーンにされてるんじゃないかって気になっちゃうよ、変だよなおれ。電話の相手がやたらやさしくてこっちが悪いみたいな気がするのも筋書き、パターン通りってわけなのかな、という疑いが晴れないんだよ、頭がフワフワしちゃってさ……。と、こんな心境なのかもしれません。バブル期はマンガとかドラマとかビデオとかがヒーローものとか熱血高校球児ものとかそういう70年代にありがちなものでなく、ぐっと「ふつう」の若者を描くようになっていました。ほんとに「ふつう」だったら作品として面白くないですから、よくよく考えるとぜんぜん「ふつう」じゃないんですけども。「アパッチ野球軍」みたいに人間離れした話でなく「タッチ」みたいな現実味がそこそこある作品がウケるようになっていたのです。ですから、マスコミが垂れ流す「ふつう」がホントの「ふつう」を侵食するような感覚すらありました。「これだけ毎週来てると渋谷も」「私たちの庭ね」みたいなキャラクターがいて、こっちは「中学生くらいになると毎週渋谷にいくものなんだ!おれも行かないと!しまったここ札幌だ!かわりに大通のオーロラタウンに行くぜ!」とかうっかり思わされる、といった具合です。マンガみたいなことは何も起こらず自転車で帰ってくるんですけども(笑)。虚構はどこまでも虚構で、現実はどこまでも現実でした。東京に行けば事情は違うかといえばもちろんそんなことはないわけでして。

そこかしこにわざとらしさ、演出のニオイ、芝居がかった何かを感じると、だんだんイヤになってきます。ギターを弾いて歌うのもマンガの一コマに影響されたみたいでイヤ、という感覚です。それを歌にしてしまった!これは革命的です。あげくに最後に「こんな歌を歌ってうれしいのはHen」と、さらに客観視する自分もいる、というとんでもない仕掛けになっています。

さて、ここ数週間急ピッチで記事を書いてまいりましたが、少しの間スローダウンいたします。いや、『CAFE JAPAN』の終わりで今年中に『JUNK LAND』に入ると宣言したのですが、宣言した後に、しまったその前に『EARLY TIMES』あるじゃん!安全地帯のライブアルバムも扱うってどこかで宣言したし!ヒイ!余裕こいてる場合じゃなかった!アルバム終わるたびにちょっと感無量になって余計なこという悪い癖は六年経ってもぜんぜん治ってねえ!と気づいてしまい、慌てたわけです。慌てた結果、まあ大丈夫だろってくらいの進捗具合にはなりましたので、弊ブログの通常くらいのペースにさせていただきたいと思います。それでは、また!

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2022年10月10日

キ・ツ・イ


玉置浩二『EARLY TIMES〜KOJI TAMAKI IN KITTY RECORDS』三曲目、「キ・ツ・イ」です。このシングル「キ・ツ・イ」と次のシングル「I'm Dandy」では、玉置さんは「玉置"流れ星"浩二」、松井さんは「松井"お月様"五郎」という名前を用いています、これはすでに言及しましたが、「このゆびとまれ」のモチーフでしょう。「このゆびとまれ」の記事を書いているときは「I'm Dandy」のことしか思いついておらず、この「キ・ツ・イ」が同様の名前を用いていることは気づいていなかったか忘れていました。うーむ。

当ブログでも何度か言及したことがあるのですが、ドラマ「キツい奴ら」テーマ曲で、あのドタバタコメディにはとても似つかわしい明るい雰囲気の曲でした。チェンジャー声の「O-A-OH-A」とか女声の「キ・ツ・イ」とか、玉置さんの歌に女声が混じると艶やかさ華やかさのほかに色気が爆上がりでいけません。

ドラマの話をちょっとしてしまうと、ヒモ暮らしとかサギとかヤクザとか金庫破りとか、まあろくなもんじゃないんです。およそ健全とはほど遠い連中なのに、決してお気楽ではなく邪気もなく「キツいなあ」と言いながら暮らしているんです。そんな連中が、とある施設を救おうと躍起になって努力するんですね。もちろん女がらみなんですけど(笑)、それがまた一途で健気なんです、犯罪ですけど。全編にちりばめられた玉置さんや小林さんの歌のよさに彩られて、無茶苦茶に犯罪がらみなのになぜか一種の美しい物語を見せられたような錯覚に陥ります。これが久世マジック?

さて、曲は「ビョワッ!」といきなりなんだかわからない音色からはじまり、ギターのアルペジオ、ドラムのバスドラと……リムのような音、なにやら管楽器(わたくし相変わらず疎い)、玉置さんの唸りで始まります。おお、これは『安全地帯V』で胎動を始め「じれったい」で爆誕、そして『All I Do』でその新境地を切り開いた玉置さんのリズム!こういうメロディーと並ぶほどの存在感を放つリズム、しかもブラックな感じのリズムを強調してくる曲は当時の日本では本当に珍しく、玉置さんがいかに異端だったかがいまから思えばよくわかります。玉置さんはシーンのど真ん中にいましたから異端だとは気づかなかっただけで、教父アウグスティヌスがじつはマニ教信徒だったくらいの衝撃なのです。

そして強烈なドラムで歌に入ります。玉置さんしょっぱなからトップギアで歌い始めます。Dancin' Shoesで男と女が走り出し、のちに涙も見せあう関係に……うん、順調じゃないですか(笑)。「O-A-OH-A」とか、ノリノリです。玉置さんファンの方でしたら玉置さんがダンスシューズを決して華やかな意味だけで使っていないことをご存知でしょう。『GRAND LOVE』収録の「Dance with Moon」におけるダンシングシューズは虚飾をすべて剥ぎ取り自分を丸裸にするくらいの意味があります。それに対しこの「キ・ツ・イ」におけるDancin' Shoesは虚栄そのものを意味するシンボルとして描かれていたのではないでしょうか。虚栄を張り続けて「いつまでだって踊りつづけ」る……華やかに、美しく、そして情熱的に……これは当時の玉置さんと女性たちのイメージでもあります。玉置さんは実際グレートな実力とサービス精神がありますから、体力さえあれば無限に人々を喜ばせようとしますし、それがムリして作っている姿だとは一見思えないんですね。でも松井さんはもちろん気づいています。「キツいなあ」「キツいよなあ」と。これは玉置さんに向けた、「このゆびとまれ」でとまってくれ「ともだち」であるお月様からの、いたわりソングだったとわたくしには思えるのです。

二度目の「O-A-OH-A」を経て、曲には管楽器が入り、いきなりサビに突入します。邪魔さ↑れたって、苦し↑くたってと、まあ辛そうな節回しと音程です。どうしてこんなに苦しそうなのにキャッチーで覚えやすいんでしょうねえ。これが天才ってやつなんでしょう。

二番もアレンジは基本的に変わりません。虚栄を張りまくってヘロヘロだけど走りまくって踊りまくる玉置さん、幼い感じ、いや小山内完次が歌いまくって人々を楽しませながら、迷いながら奔走する姿にも重なります。小山内完次は有名人でなく、金持ちでもなく狭く古いアパートで兄貴分の大曾根吾郎と共同生活を営むお調子者の青年です。でもあれが玉置さんの真実の姿なんじゃないか、ほんとに酒場でビリーバンバンとか歌って人々を酔わせているんじゃないか……と思わされる強烈な魅力がありました。で、「ぎりぎりで純情」なんですよ。鷲尾いさ子さんと肩を寄せ合って陽水さんの「いっそセレナーデ」を歌うシーンは、屈指の名場面といってもいいでしょう。チンピラにあの歌は歌えない……!純情で、おセンチで、実は義理堅くてと、虚栄を廃した青年玉置浩二その人そのものが、こういう人であってほしいという私たちの願いをドンピシャに反映していました。だからやるときゃやるよ、邪魔されようが苦しかろうがいつまでも踊るよ!でもキツいから、きみのそばでだけは休ませてね、というこの歌には登場しない裏の姿が暗示されるところまでを「キ・ツ・イ」で表現しているといえるでしょう。ちょっと冴えすぎです松井さん!ドラマのプロットをご存じだったかは知りませんが(「ヤバい奴ら」だったのを「キツい奴ら」に変えたというエピソードは知っていますが、それが松井さんがドラマの内容を知らなかったという根拠にはならないな、と判断しています)、現実の玉置さんとドラマの玉置さんとを行き来する見事な切り取り方のように思えます。

変拍子を挟み曲はサビ、今度は二回繰り返しですね。玉置さんの唸りが多めに入って実にソウルフルです。そしてテンションを上げたまま間奏に入ります……とさらっと流そうとしましたが、ここにも松井さんの仕掛けが!ここでは「燃えつきそうさ」「魅せられそうさ」と、まだ燃えつきてない、魅せられてない状態が歌われています。これを覚えていないとわたくしのようにあとから歌詞カードを見て「うっ!」と気づくハメになります(笑)。

間奏は……Aメロの伴奏になにやら高音の……なんでしょうね、相変わらず楽器の音に詳しくなくていけません。笛的な音です。あまりメロディーで泣かせに来る気はないようであっさり終わってサビを繰り返す終盤に突入します。

「キ・ツ・イ」のブレイクがないまま繰り返されるサビ、つまり本音を漏らすゆとりもないまま踊り続けるのです。「アオー!」とか「イエーイ!」とか、ノリノリだけとキツそうなシャウトがしばしば入ります。一回だけ武沢トーン的なギターが「ギャイーン!」と入ってブレイクがあります。「うーYEAH」「うーYEAH」「YEAHYEAH」「YEAHYEAH」と玉置さんと女声が掛け合いで胸の内を探り合いしているかのような場面があります。「俺は大丈夫だけどきみは疲れたから休みたいだろ?」なんですかね。もちろん続行になります、キツいですねえ(笑)。そして最後のサビ、歌詞が「燃えつきちゃって」「魅せられちゃって」に変化します。陥落です。体力的にも参っちゃってますが、精神的にもシビレちゃってます。この二人はそうなっても踊り続けるんですね。フェイドアウトで曲は終わらないままに遠くなってゆきます。

安全地帯を休止させたあと、怒涛のソロ活動を始めた玉置さん、これは松井さんからみてそうとう心配になるほどのハードワークだったことでしょう。休めばいいのに休まないんですから。本マグロみたいに止まると死ぬんじゃないかってくらいの勢いで数人分の仕事に全力投球です。ただ、この年か次の年に予定されていたアルバムが出なかったことが、この活動に無理があることを象徴していたのだと思います。『夢の都』があったことは、『太陽』で崩壊する安全地帯と不可分に連結する事実ですが、『夢の都』がなければ玉置さんはあのまま突っ走り続けてもっと早い時期に倒れてしまったのではないかと思われるほどに「キ・ツ・イ」のがこのときの玉置さんの姿だったのでしょう。

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posted by toba2016 at 00:00| Comment(6) | TrackBack(0) | EARLY TIMES