『安全地帯 アナザー・コレクション』二曲目、「FIRST LOVE TWICE」です。セカンドシングル「オン・マイ・ウェイ」カップリングの曲でした。
ドーン、ドーンというベース、ドス、ドスというバスドラに、透き通るギターのアルペジオ、「ツーツクツクツクー、ツーツクツクツクー、ウィーオー!」という短音リフが重なり、ギターソロで旋律が奏でられます。ギター三本いりますね。俊也さんがいらしたときにつくられた曲なのかも?レコーディングではお兄さんのぶんも武沢さんが弾いたのかもな、なんて思いながら聴きます。
キラキラキラキラ……と鍵盤で弾いたと思しきフレーズとともに玉置さんの歌が始まり、ギターはアルペジオと細かい短音刻み、ベースは単純な八分ではなく「ズ、ズズッ!」と細かく落ち着いたリズムを刻みます。あっというまにAメロらしきところを通過し、展開が変わります。ベースの音がやみ、「カカカカカカカカ……」とクランチ気味で高速カッティングのギター、全音弾きから「ウィーオー!ウィーオー!ウィーオー!ウィーオー!」とウリウリ念を押してくるオーバードライブ強めのギター、そして再開するベースに「ウンチャカチャカチャカチャーチャッ!ウンチャカチャカチャカチャー!チャッ」と裏拍アクセントのカッティングと、目まぐるしく調子を変えてきます。これはライブで聴きたいですね、あっあっちだ、今度はあっちだと、楽しいです。こういうところがギターバンド、ライブバンドなんですね。
曲はAメロ、Bメロを繰り返して、サビに突入します。深く歪んだギターが全音弾きで「ギュイーン!」と効いてますね。その裏で「ギャッギャッギャギャー!」と弾いていたギターが、コーラスの途切れたところで「ギャギャッギャッギャッギャッギャッギャギャー」と荒めに歪んだ音でリズムをとります。なんだか「カカカ」とか「ギャッ」とかばっかり書いてて見苦しいんですが、わたくしの表現力ではこうとしか書きようがないのでご勘弁を。もうやめます(笑)。ようするに、ギターがかわるがわる様々な役割をくるくるとあちこちでこなしていて、ギターバンドの本領発揮、うわー演奏していて楽しいよな、目の前で聴くときっとすごいよな、と思わされる曲なのです。
曲はサビを繰り返し、間にギター二人によるソロを挟んでさらにサビを繰り返して、前奏を短くしたようなアウトロをアルペジオだけを残して終わります。なんだもう一回くらいギターバトルみたいなの繰り返してもいいのにって思いますけど、ここはあっさりと終わります。曲自体が忙しいバトル的なものだったので、あえて強調することもあるまいと思ったのかもしれません。
さて歌詞ですが(このパターン久しぶりかも!)、小椋佳さんなんですね、ずいぶん思い切った人選です。というかよくこんなメジャーな人起用できましたね。陽水さんの歌詞を書いていたことがあるので、そのコネクションを使ったのかもしれません。当時はまだ第一勧銀の銀行マンをしながらメジャー級の作詞活動をなさっていたというとんでもない人です。
いきなり「ひさかたの雲」「やみくもの雨」って、枕詞です。古文の勉強を思いだして気分がブルーになりますが(笑)、これが遠い日に「知らぬ間に消えていったFIRST LOVE」を思わせる効果を生んでいる……のかもしれません。そのあと「まばたきするほど恋を重ね」たかどうかはともかく。こんなふうに、わたしたちが安全地帯からイメージできる歌詞の世界とは全然違うんですね、比喩の使い方が。安全地帯の良さを引き出そうと、スタッフ一同苦慮して試行錯誤していたんじゃないのかと思われます。
一風違った詞の世界を与えられた安全地帯はひどくさわやかです。玉置さんも顔を赤くして歌っていたんじゃないかと思われます(笑)。でも玉置さんが歌うとサマになっていますよね。これはこれで似合っているところが玉置さんの歌とメンバーの演奏能力・適応能力の高さを示しています。メンバーは「浩二、なんかこっぱずかしい歌詞歌わされてんなー、まあおれたちはいつも通り演奏するだけだけど!」とか思っていたかもしれませんが。
ちょっと真面目に考えてみますと、二回目の初恋とでもいうのでしょうか、初恋なみに胸を焦がす、どうしたらいいのかわからなくなるほどの相手に出会ってしまった、その戸惑いと喜びを美しくさわやかに描いていますね。こんな恋を「うそぶきながら誰もが願う」と、メンバー一同のコーラスで歌われてしまいます。そうだそうだ、おれうそぶいていたよ!二回目の初恋なんてそんなことあるわけないさ、もう幾度かの夏を巧くやり過ごすことにも慣れてきてしまったんだ……とかなんとかいいながら(笑)。誰もが願うかどうかはともかく、そんなことがあったら素敵だねえとはちょっとだけ思っている、そんな恋心の機微を楽しいギターバトルにのせてお送りしますという、非常に珍しいバンドになっていますね。これ、A面の「オン・マイ・ウェイ」と調子が違い過ぎてみんなこけちゃっただろうなあ。「萠黄色のスナップ/一度だけ」のような曲を期待していた人にとってはこの「FIRST LOVE TWICE」のほうが気に入って、逆に「オン・マイ・ウェイ」に異質なものを感じたかもしれません。そんな、安全地帯の変わり目をシングル一枚で堪能できるという、まさに「ここまで・これから」を楽しめる仕掛けになっていたのです。
安全地帯はこのころ、もがいていました。デビューしたはいいものの、関係者の評価は高いのにレコードは全然売れない、玉置さんは苦しくて苦しくて自殺を考えるほど……(『Friend』より)。歌詞は「安全地帯」「崎南海子」「松尾由紀夫」などなどいろいろな方向性を試していたのでしょう。でも、曲だけは絶対に外注しませんでした。そこは譲れない!曲を他人に書かせるくらいならメジャー契約を蹴って北海道に帰ったほうがマシだ!と意地を見せます(『幸せになるために生まれてきたんだから』より)。結果として作詞「小椋佳」「井上陽水」と作曲「玉置浩二」という、後から考えればとんでもない豪華な組み合わせが実現したのですが、このときの玉置さんは無名の作曲家にすぎませんでしたから、目先の売れることを優先して曲を陽水さんに頼むなんてことをしていたら、のちの安全地帯も玉置浩二もなかったのです。
バンドマンとしてわたくしにもよくわかります……わたくし作詞はどうでもいいんです。歌メロもハッキリいって興味があんまりありません(玉置さんは歌メロも譲らないと思いますが)。曲と歌メロ以外のアレンジはすべての音符をわたしが書きます。これを譲るとわたしの音楽ではなくなるからです。若いころのバンドではドラムはドラマーに余裕で任せてましたが(笑)、それは明らかに上だと認めていたし、音楽を高めあってくれる相棒だと思っていたからです。……とまあ、譲れない線というのはそれぞれのバンドマンで異なるとは思うのですが、線があること自体は多くのバンドマンに共通するんじゃないかな……と思います。「帰れない二人」を清志郎さんと共作して、どこからどこまでが自分の作ったところかわからないとおっしゃる陽水さんは懐深いなあ、と思わされます。玉置さんも、ずっと後になって、安藤さと子さんや矢萩さんとの共同クレジット曲を発表するようになりましたから、この譲れない線というのは、いつかはなくなってゆくものなのかもしれません。
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ギターの弦が3000円って、わたしが使ってるやつなんて下手すると六本で300円くらいのこともありますから別世界の高級弦!音楽室の、たぶんガットギターだと思うんですが(玉置さんが弾き語りで使ってるやつです、エレキギターと押さえ方は一緒です)、そんないい弦使ってるんですね……わたしも中学の音楽でギター習いましたが、よもやそんなすごいものとは思いもよりませんでした。音楽でギター習うのはたぶんレア体験ですよ、ラッキーでしたね。
ギターの弾き方には色々あるんですが、いつのまにか覚えてるって感じだと思います。好きな曲を夢中でマネしてるうちに身についてるものですから、そんな大したことじゃないとは思うんですが……
アレンジはあれです、そりゃいまの若い人が生まれる前からやってるんですもん(この時点で酔狂な人)。
いつもトバさんのブログ楽しみになります。知らない曲でも知ってる曲でも聴きたくなります(*^^*)
私はギターとか音楽の授業でしか弾いたことないし、もちろん全然できなかったので笑、色んな弾き方があるなんて信じられないです。音楽の授業で使うギターとはまた別の種類なんですかね?先生から「弦は切れたら高いから絶対切らすな」って言われたの覚えてます。1本3000円って。
トバさんはアレンジの音符を書かれるんですね!素人の私からするとすごく難しいことに感じるからすごいって思います!!