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安全地帯・玉置浩二の音楽を語るブログ、管理人のトバです。安全地帯・玉置浩二の音楽こそが至高!と信じ続けて四十年くらい経ちました。よくそんなに信じられるものだと、自分でも驚きです。
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2024年02月23日

このリズムで

玉置浩二『スペード』一曲目、「このリズムで」です。アルバム同時発売シングルという珍しいんだかよくあるんだかわたしにはよくわからない戦略でリリースされました。わたしなら絶対買わないですね、カネないもん(笑)。ただ、ビデオか何かがついているバージョンがあったようで、いちおう特別感はありました。カップリングは「願い」(Live Version)でした。

「キュワー」というシンセ、「ズーン」というベース、そしてドラム、いやパーカッションを背景に、低音のギターリフとアコギアルペシオを組み合わせた前奏で、一気に神妙な気分にさせられます。むむ、前作とは違ってまたしんみりしたアルバムだな、と思わされます。そして玉置さんのボーカル……もういちいち「玉置さんの」と付記する必要もないし、ギターだってベースだってドラムだって「玉置さんの」と前置きしなくてはならないうえに矢萩さんのギターとはもはや区別付きませんから、やめるように意識したいと思います(笑)。で、そのボーカルもきわめてしんみりと、ささやかながら強い強い決意を歌います。ひどい目に遭った、おれもひどいことをしてしまったかもしれない、ともかく傷だらけになってしまったけど、いつだっておれはこのリズムで立ち上がって進んでいくんだ……なんという説得力!一人語りなんですが、こんな一人語りがありますか。あのつらい辛い90年代を超えた世代でこれで共感をぜんぜん感じないような人はこういうアルバム聴かないほうがいいです。それがお互いのためってもんです。ついでにいうと2000年代もさらに悪夢じみた辛さでしたから、その後の10年間のことさえすべてが思い出されてくるような一人語りです。この歌は魔法の詠唱か!そしてこの演奏……玉置さんに合の手を入れる安藤さんのさりげないピアノ……すべてが魔術か!こんなの一人語りじゃないやい!と叫びたくなるくらいのハードタイム・リコーラーです。

無理しないで行く……他人の痛みがわかるように……いやそれが難しいんですよ!他人の痛みがわかるためにはかなり頑張らないといけません。ああ傷んでるなとはわからなくもないですが、どのくらい痛いかは似たような経験をしてなお不十分です。だから、リラックスしているわけじゃないんです。必死なんです。必死なんだけど「無理しないで行こう」「やってみよう」と一人つぶやく……

Bメロに入りまして「身を粉にして働いて」と、とても無理しないではできないような強い決意が漏れます。家族に何か残すというのは、今と自分しかみえていない若者から大人になったということなのです。コスパタイパと小賢しいうるせえ奴らは黙っていろこちとら自分のためだけに生きてるんじゃねえんだよ、と、多くの場合攻撃的な口調になりかねないメッセージなのですが、玉置さんはさらっとやさしく、しかし強く、そっと歌うのです。このさりげない強靭さ壮健さは、もはや色気すら感じさせます。

「ドン!」と静かに、しかし強く一瞬のブレイクからつづけざまにギターに導かれてサビに入ります。少しずつ少しずつ……と、きわめてシンプルで力強い歌詞です。松井さんが「悲しみにさよなら」でシンプルに書くことを心掛けた心境に近かったのでしょうか、大したことは言っていないのに(笑)このメッセージの強さ!転んでも立ち上がって歩く……ただそれだけなんです。ですがそれが難しいと骨身に沁みてしまった世代には涙モノの強さなんです。手ひどく転んでしまい、もう立ち上がる気力をなくしかけた2000年ころ、そして寒々しい21世紀を迎えて病んでゆく心身、立ち上がるってどうやってやるんだよ……立ち上がったところですぐまた転ぶに決まっているじゃねえか……もはや、「沼」を攻略した後すべてのカネと気力を失い坂崎家に居候していたカイジなみのダメぶりです。考えようによってはカイジより酷く、ただただテレホーダイタイムが始まるのを横たわって待つしかない無気力に陥っていたわたくし、弦の錆びたFenderストラトキャスターは埃をかぶり、再び弾かれる日なんて来るのやら、部屋の隅でじっとかつての相棒だったダメ青年をみつめていたのでした。さて、この短いサビ、「ン・ターンタンター、ン・ターンタンター」を繰り返す生々しい単音とストロークの組み合わせのアコギ、そして曲の冒頭からずっと鳴り続けるリフ、ピアノ、これらがベースとパーカッションの隙間から、聴くたびに違う楽器が目立って聴こえるかのように重層的に、しかし控えめに折り重ねられています。それによって数十年かけて作り出した蕎麦屋の返しのように全く飽きの来ない聴き味を出しているのです。これは凄い……。

そして曲は二番、今度は心を明るく保とう!と語ります。一念発起してようやっと立ち上がって歩き始めたばかりのわたくし、すでにグロッキーです(笑)。「慌てないで」「救われるように」「今度は人を好きになれるように」……「すきーになれるよーうにー」?……(ブワッ)、なんだなんで泣かせるんだよ!「悲しいことがなくなって」?なんでそんなに、グリグリといま痛いところを衝いてくるんだよ……勘弁してよ玉置さん……。まだ立ち上がったばかりのわたくしにはハードルが高すぎるのですが、でも、そこにたどり着かなければならないのは明らかで、玉置さんがそれをはっきりと示してくれたような感じさえするのです。

わたしはこれを聴きながら、学生時代に読んだマックス・ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を思い出していました。簡単に言うと、救われる人リストはすでに確定していて、自分がそれに含まれていると信じたいから人は天職に邁進する、という禁欲的宗教と資本主義の合体仮説です。もちろん読んだときはもっと若かったですから「フン!」って感じでしたけども(笑)、若い時に読書はしておくもので、歳を取ってからいろんなタイミングに効いてくるんですねーこれが。救われるとか救われないとか、なにマジになって信じちゃってるんだよ、そんなことあるわけないだろくらいに強気だったのが、悪夢の90年代を通過するともういけません、ああそうか、いまのおれは救われてないんだ……死んだ後のことは死んでみないとわからんが(ただし、死んだ後も何かを分かる状態だった時だけわかるし、たぶんそれはない)、少なくとも生きてるいまだってこれ以上ないダメぶりじゃないか……これは救われなかったということだ……死んだらもう必ず負けるバクチみたいなものでしかないから頑張りようもないけど、生きているいまならまだ救われるように頑張れるかもしれない……とかなんとか、すっかり気分は敬虔なプロテスタント風味になり、神の声(玉置さんの歌)に引き寄せられるように導かれてゆきます。

そして「少しずつ、少しずつ」わたしは歩き始めます。一日に一歩でいい、前に歩こう、ときには一歩に何日かかかるかもしれないが、それでも確実に歩いて行こう。まずはバイクを直しました。クラッチが擦り切れて坂を上らなくなっていたひどい状態です。でもこれがなければ進めません。人に頼んで部品屋に連れて行ってもらい、一番安い非純正の輸入品だか逆輸入品だかを手配しました。工賃なんて払えないので、オートバックスとかで買ってきた一番安いオイルを用意して、油まみれ砂まみれになって修理しました。そして残っていた洗剤とワックス、コンパウンドをかけて、何日もかかってピカピカにしました。よし、これで動ける!次は散髪だ!すっかりボサボサになっていた髪を千円床屋で切り落とし、髭をそりました。ワイシャツに袖を通し背広を羽織るとブカブカ!うわこんなに痩せてたのかと驚きつつ、いくつかの仕事場にアポを取ってわたくしは動き始めました。すっかり人間嫌いになっていたわたくし、かなりムリして表情を作り言葉を絞り出しながら仕事を獲得していきました。「腕を振って」、そうそう「このリズムで」、「真直ぐに」、「歩いて行こう」……サビのオーケストレーションが、その楽器のフレーズ一つひとつが、並列四気筒の排気音、踏切の音、そして人々の声の合間に聴こえてきてわたしを前に進ませてくれます。倒れても転んでもいい、そうしたらまた立ち上がって歩き出すまでだ。ニコニコ笑って、人を頼ったって構わない、時代も社会も、最悪のときにわたしはめぐり合わせてしまって酷い目に遭わされたかもしれないが、少なくとも出会う人たちは鬼なんかじゃないんだから……。

最後のサビ、歪んだエレキギターが「ギュイーン!」と入り、曲が最高潮に達したタイミングでわたしはいつもあの2001年を思い出します。立ち上がらなくちゃ、歩き出さなくちゃ、救われない、救われない、救われてない……「自民党をぶっ壊す」と登場した小泉純一郎が自民党総裁、内閣総理大臣に就任したあの2001年4月、小泉が着々と支持を集めてゆくのを横目に、わたくしもまた再起をかけて動き始めました。シーズンインした野球では、新庄がメッツに加入していました。さらっと書いていますけど野手がMLBに挑戦するのはいかにも無謀に思えたあの時代、新庄は孤軍奮闘します。衛星放送で英語の解説を聴きながらガンバレ、ガンバレ新庄……と自分の行く末を勝手に重ねあわせて祈ります(おれも頑張ってみるよとは恥ずかしくて思わないようにしているけど思っている)。そして辛いときは「このリズムで」「このリズムで」と、ギターソロに合わせて玉置さんが繰り返すアウトロをいつでも思い出します。そうだ、リズムを守っていればいい、そうしたらどうしたって体は動いているんだから。体が動けば頭も動く。止まらないことだ。

さて、久しぶりの記事更新となりました。一ヶ月くらい沈黙していたでしょうか。もう何が何だかわからないくらい次から次へと何かしらすべきことを抱えてしまい、ようやくひと段落したところです。まさに「身を粉にして働いて」なんですが、自分一人でできることなどたかが知れてますから、その成果もあやしいもんです。そんな中で「家族に何か残してやれるように」と願うことの尊さというかその気持ちというかが、四半世紀近く経って当時の玉置さんよりだいぶ年上になってからわかってきたように思います。あのとき、『スペード』がなければ……そして「このリズムで」がなければ、四半世紀後にこんな心境に至れることはなかったんじゃないか、この曲に「救われた」んじゃないかと思っております。あのときのストラトキャスターももちろん健在ですよ。だいぶ手を入れてしまってあまり当時の部品は残ってないですが(笑)、いまでも相棒(あちき)の指先の動きにいい音で応えてくれてます。

スペード [ 玉置浩二 ]

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posted by toba2016 at 12:50| Comment(4) | TrackBack(0) | スペード