2017年01月01日
悲しみにさよなら
『安全地帯IV』七曲目、「悲しみにさよなら」です。
年の初めから意気地のないことで恐縮なのですが、この曲は80年代安全地帯第二の大ヒット曲ですから、語るのにもちょっと心の準備が必要なのです。
六土さん「〈ワインレッド〉のイメージから抜けられるかなと思って、ちょっとホッとした」(志田歩『幸せになるために生まれてきたんだから』より)
「ワインレッドの心」以降、いくつもの佳曲をリリースし、トップ10に次々とランクインさせてきた安全地帯といえども、「ワインレッドの心」の大ヒットの後では、どの曲も「ワインレッドの心」の余韻にしか感じられなかったのかもしれません。そりゃ……徳川埋蔵金が発見された山で、あとから千両箱がいくつか出てきたからって、「もしかして信玄公の遺したものでは?」とは思いませんよね。徳川埋蔵金の残りだと感じるのが普通でしょう。
そんな状態が続いたら、新しい畑を耕しているんだか、落ち穂を集めているんだか、自分たちでもわからなくなる、というのはありそうな話ではあります。
現代のわたしたちは、あとから見てますから、「ワインレッドの心」以降の楽曲の素晴らしさも、セールスの好調さも、ライブの盛り上がりも、決して「ワインレッドの心」によるものだけではない、むしろ、彼らはどんどん前に進んでいたんだ、と言うことが、ある程度できるでしょう。しかし、当の本人たちは、そうではなかったのかもしれません。自分たちの実力に謙虚であればあるほど、「もしかして自分たちは一発屋なのでは……?」という疑念は晴れにくかったことでしょう。安全地帯ほどの実力者であっても……。だからこそ、「ホッとした」のでしょうね。これからまた鬼のように忙しくなるのはわかっているのに。なんというんでしょう、音楽に裏切られなかった!という喜び、これはニュートンが万有引力の法則を検証して、やっぱりこれでいいんだ!とわかったときの喜びに近いでしょうか(われながら訳のわからなさに乾杯!)。
それほど、この「悲しみにさよなら」のヒットは大きいものでした。セールスでいうと、「ワインレッドの心」の半分ほどのようですが、それでも十分大ヒットです。誰もがこの歌を口ずさみ、夜はスナックでカラオケの歌詞カードをめくり、有線のある店でも受験生の聴くラジオでも、しょっちゅうこの曲を耳にする、そしてもちろんテレビの歌番組で毎週目にする、という具合です。
さて、松井さんは玉置さんの歌の力を信頼して「シンプルな言葉」で詞を書くことができた、とおっしゃってます。うーん、サビは確かにその通りですよね。簡潔な言葉で覚えやすくて、繰り返しを効果的に使っていて、誰もが一回聴いてこの曲を識別可能にならざるを得ないくらい、印象が強いものになっています。
ただ、サビ以外は、見事に松井ワールドですよね。「抱きしめる腕のつよさ」「夢のつづきさがす」「ひとつの夜にいる」こういった言葉たちは、この曲によって松井さんワールドのイメージを象徴するものになったのか、もしくは松井さんワールドが先にあって、この曲に用いられただけであるのか、(もちろん後者なんですけど)もうわかりにくくなってしまうほど、この曲と、松井さんの言葉と、玉置さんの歌は一体化しています。まさに、ひとつの絶頂期を象徴するような曲になっています。
ところで……わたくしが「心の準備が必要」だと思っていたのには、セールスの規模が大きかった、エポックメイキングな曲だった、ということのほかに、もう一つ理由があります。
なんと……わたくし、この曲のギターが聴き取れないんです!
ああー、白状してしまいました。言わなきゃいいのに勝手に言っちゃいます。みなさま、本当に申し訳ありません。少なくとものこの曲に関しては、わたくしギターのアレンジを語るだけの耳をもっておりません。いや、聴こえるんですよ、シャリーンという武沢トーンも、矢萩さんかな?と思わせるアルペジオのクリーントーンも。ただ、お二人がどのように弾き分けているのか、30年以上もこの曲を聴いておきながら、とうとう今日までハッキリ聴き分けることができておりません。
え?この曲はギター一本じゃないの?うん、コピーバンドでそれらしくやるなら、一本でそれっぽく弾くことはできると思います。先日発売されたスコアでも、採譜者はギターは一本という判断をしたようで、ギター一本分しか掲載されていませんでした。ただ、武沢さんの音と、矢萩さんの音、両方聴こえているような気がするんです。ライブの映像でも、お二人とも弾いていらっしゃいます。
そうなると……二人ともほぼ同じフレーズを弾いていた、という可能性が浮上します。それで、お二人のギタープレイのキャラクターの違いによって、トーンが強く前に出るところが違うので、わたくしに両方聴こえてくるように感じられる、ということなのかもしれません。サビでのアオリは矢萩さん、Bメロのカッティングは武沢さんだとは思うんですが、それ以外は何とも言えない、というのが正直なところです。
そうそう、一応映像でも確認しようと思って、いくつかDVD等をみていて、『ONE NIGHT THEATER』において、玉置さんの後方でサングラスをかけてアコギを弾いている御仁に、目がとまりました。
この御仁、松井さんなんだと、どこかで読んだ記憶があります。これももうソースがわからない話なんですが、非常にありそうな話です。安全地帯がわざわざライブのためにギタリストを雇うわけがありません。松井さんクラスの関係者でなければ、このステージに立つはずはないでしょうから。
ベース、ドラムのお二人は、このアルバムにありがちなハードで華麗な連携プレイでなく、ひたすらオーソドックスな八分のプレイでこの名曲を支え続けます。ニコニコと、ステキなお兄さんたちだなあ〜感満点なんです。難しい曲とか易しい曲とかじゃないんですね。この曲の安全地帯は五人ともみんなそうなんですが、音楽を演奏する楽しさ一杯で、ほんとうに憧れます。
さて、この曲はシンセがわりと大きめに入れられていますよね。だからギターがよく聴こえないんだよ!と文句を言いたいわけでは決してなく(笑)、曲の魅力を最大限に引き出すために、チーム全体で考えた最適な音量バランスでしょう。「碧い瞳のエリス」でも書きましたが、もう五人だけでは難しい曲がこれから増えていきます。それは安全地帯コピーバンドをするときの、ひとつの壁でもあるでしょう。スキルの高いキーボディストなら、五人だけの時代の曲でも適切なアレンジをして加わることができるでしょう。そうでなければ、休むしかありません(荒井注)。だから、五人でバンドを組みにくいといえば組みにくいといえるでしょう。
さてこれで終わりにしようと思うんですが……、『安全地帯ベスト2 ひとりぼっちのエール』で、みなさん思いませんでしたでしょうか?「要らないよ、悲しみにさよなら」って。
あのアルバムには、『安全地帯ベスト I Love Youからはじめよう』に入らなかった曲を入れるべきです。事実、そういう編集方針だったことを伺わせる渋めの選曲ですよね。「悲しみにさよなら」以外は。
曲に罪はありませんが、ヒットしすぎた曲の背負う業のようなものがあって、いささか露出過多気味です。簡単に言うと、食傷気味なんですね。わたくし一時期、この曲をとばしておりました。ちょっと致死量に達しちゃったかな…感が出てしまったのですね。まあ、逆を言うと、過去にそれだけ聴きまくったということなんで、大好きな曲であることに間違いはありません。むしろ、こうなるまで聴きまくってしまうという経験を与えてくれた、わたくしにとって唯一無二の曲だということもできるでしょう。
キティさん……古くからのファンが納得する選曲で、かつ新規購買層も獲得したかったのかもわかりませんが、これじゃ「悲しみにさよなら」がかわいそうです。どうせなら「ワインレッドの心」も一緒に入れてあげるか、あるいは両方入れないかだと思います……。翼くんがいないから、岬くんだけ代表入りさせました的な寂しさが漂っています。
翼くんがいなくてもこの男がいれば何とかしてくれるだろう、という岬くんのポジションに相当する曲なんですが、でもその結果岬君ばかり出場数が増えて、かけがえのないエースなのに疲労をためていく、みたいな、不遇ではないけど悲劇のエース、という印象をわたくしにあたえる曲です、というお話でした。いや、失礼しました(笑)。
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神宮も行かれてるんですね。小学生のわたくし、そんなの全然ムリでした。うらやましい……!
そう!ドラムわかってない人というか、打ち込みでドラムも自分で打ち込みますって人は、こういう老獪さがないんですよね。しばしばエッと思わされるくらいシンプルなほうがいいんです。LUNA SEAのシンヤさんですかね、テレビで流れてたのを何回か聴いたくらいですが、あの人はたまにハッとさせられる、こういうシンプルなのを打ってくるんで、むむ!やるな!と思わされたのを思い出します。
失恋してるクラスメイトに「泣かないでひとりで〜」って歌うとは、そうとう優しい人か、それ以上の何かを胸に秘めてる人な気がしますよ。それで安全地帯に目覚めるとはそのクラスメイトさんも夢にも思わなかったこととは思います(笑)。
エンドレスのスコア、たまにすんごい値段でヤフーオークションに出てますよね。昔はふつうに古本屋で半額とかになってたような気がしますが……ちょっと手が出ないので耳コピにいそしみます。とは言ってもヘボなので「エイジ」一曲に数ヶ月かかりました。ひたすら録音して、聴き比べて直してまた聴き比べてです。安全地帯IVとかVとかはもうムリ!使ったことない楽器だらけ!なんの楽器かもよくわからない!「どーだい」とかならまあ……ってくらいです。
悲しみは正直、私の安全地帯との出逢いの曲でして、当時失恋したばかりで落ち込んでた僕に隣の席の女の子が「泣かないで〜」と(笑)軽く口ずさんでくれたのを聴いて「なんていい曲なんだ」と直感的に思い、トップ10のある月曜日夜8時を待って当時のベータのビデオで録画して何回も何回も観ました。丁度6週連続1位の時で、日本青年館か渋谷公会堂の客席にはお相撲さんの姿も。エレベーターが無くなる回で物凄い歓声でした。おニャン子クラブの河合その子ちゃんから「どうしてそんなにお歌が上手なのですか?」の質問に玉置さんは「生まれつきです」と答えて司会の堺正章さんに「面白い答えでしたね(笑)」と言われてました。
確かにレコードやライヴ版を観たり聴いてもギターの音はわかりにくい気がします。エフェクターとか全く詳しくありませんが、それを使って音を変えてるのでしょうか。アコースティックバージョンは比較的わかりやすいのかなと思います。
私が最初にドラム練習で叩いたのも悲しみでしたが、小学の鼓笛隊で1年間大太鼓をやっていたからか、最初からエイトビートのこの曲を田中さんの見よう見まねに叩けたので自分で驚きました。あれ?俺ドラム出来んじゃん(笑)そのあとからは全曲コピーに明け狂いました。ライヴエンドレスのバンドスコアを今でも大事に持ってます。
曲は2回転調してラストは苦しそうに唱って、泣かないでなのに何で泣きそうな顔で唱うんだろう?と最初は思いました。マスカレードが後年好きになった親父からは全然いいとは思わない、とけなされましたが、神宮球場のチケットをとってくれたり最終的にはあっちこっちに行ってくれました。特に私は神宮球場で初めて安全地帯を生で観たときは野外ステージで聴く生ドラムの過ごさには感激しました。曲順は青空、風、夢のつづき、悲しみにさよならだった記憶ですが、悲しみにさよならイントロのAメロの歌に入る直前の短い前奏部分のおかずの太鼓がめちゃめちゃ音がデカくてカッコよかったと記憶しています。
ダッ ドンドン(マニアック(笑))
折り鶴の絵の安全地帯2のベストにも悲しみにさよなら入っていて、キリン秋味のコマーシャルソングに当時なっていた関係で収録されたのかな?と思ってましたが、そのCDは貸したかあげて今は家にありません。
この曲で日本作曲大賞を受賞した時に玉置さんは言ってましたが、5分くらいで出来て最初はひどい曲だとおもっていたが皆でアレンジして作っていくうちに良い曲になっていったと。5分で出来るってやはり天才デスね!
「悲しみにさよなら」に限らず妄想だらけのブログですがよろしければご笑覧願います!
CDでは息苦しくなっちゃうのですが・・・
悲しみにさよなら 以外の各曲の紹介も読ませていただきます!!
ラウドネスは二井原さんの声は苦手ですが、ハリケーンアイズのSDIやロックンロールジプシーは大好物ですね。
玉置さんもハイトーンだしファルセットをかなりうまくこなしますが、いわゆるHR/HM型の裏声(チェストボイス)のハイトーンっでは普段歌ってないですよね。ツェッペリンはどう歌いこなすのか、聴いてみたいですね!
小野正利さんっていたなあと思ってちらっと経歴みたら、ガーゴイルの屍忌蛇さんと仕事したことあるみたいですね。おお!無関係ではなかった!(笑)。
玉置さんのツェッペリン聴いてみたいですね。たぶんひっくり返るくらいうまいと思います。わたくしクリスタルキングの田中さんがプラントにいちばん似てると思うのですが、玉置さんも似てはいないにしても別次元のツェッペリンを聴かせてくれるんじゃないでしょうか。「アキレス最後の闘い」とか安全地帯でやってくれないかな。
イングヴェイは、かつてオリコン1位にもなりましたね。イングヴェイからマイク、そしてラウドネスとはトバさんも完全にメタラーですね。
安全地帯も、アマチュア時代はレッドツェッペリンのコピーをしていたなんて聞いたことがあります。玉置さんのロバートプラントってどんな感じだったのか、気になりますね。
ま、という感じでメタルばかり聴き、家族に白い目をされるのですが、なんだかんだ言って結局一番好きなのは安全地帯、玉置浩二、そして 悲しみにさよなら ですね。
なんだか変な書き込みを書き込みまくりですみません・・・
LOVEBITES、センチネルの次のアレですから、プリーストの影響を受けまくったバンドに違いない!と思ったんですが、そりゃメタルはメイデンとプリーストの影響を受けてないわけないですから影響あるっちゃあるんだけど、でもこれは新しい時代のバンドですね。
おおイングウェイ!聴きましたね……『オデッセイ』をジョーが歌ってるから聴いてみたらこりゃいいやって感じでした。あとラウドネスのマイクが歌っているやつくらいまでは、なんだかんだ言って全部持ってるんじゃないかと思います。
たしかにすっかりメタル談議になっていて、「悲しみにさよなら」なんにも関係ない話ですねえ。おかしいな、わたし的には関係あるんですが(笑)。
すみません、いよいよ関係ない話でした(笑)
同じようにいちばん安全地帯好きなわたくしですが、鋼鉄の耳は同じようには開発されてなかった……むう。
なるほど、安全地帯を支えてきた人の変遷があるわけですね。だいぶ理解できてきました。ありがとうございます!
当方、LOVEBITESとか大好きです。というか、普段はそのあたりばかり聴いています。ただ、結局一番好きなのは安全地帯、玉置浩二で、やっぱり 悲しみにさよなら が一番好きというは30数年変わらないです!!
BAnaNA電子ドラムもやってたんですが。デジタルパーカッションバッチバチ叩きますよね。存在感でかい!あのころの玉置さんを音楽面で支えていたのはまぎれもなくBAnaNAだと思います。星さんBAnaNA須藤さん安藤さん……と、いろんな人が支えてきたんですがBAnaNAが安全地帯とほとんど一体になっていてそれを星さんが支えていた時期がいわゆる全盛期(人気のうえでの)だったんだと思います。
なんと! こんな変な書き込みに返答頂きありがとうございます!
トバさんのコメントを拝見して、合点がいきました。意を決して変な書き込みして良かったです!
川島さんというのは、BAnaNAさんですよね。玉置さんの初期のソロ(キ・ツ・イとか)でも、BAnaNAさんは後ろで電子ドラムを立ってたたいたりしてましたよね。悲しみにさよなら、でのBAnaNAさんのアレンジの貢献は相当に大きいのかもしれないですね。
それと、鋼鉄の耳って、意外にアレンジの妙に耳がいく、ところも非常に合点がいきました。私の場合、特にメロディックスピードメタルだと顕著なのですが、ライブはうるさすぎてあまり好きではなく、CDでの絶妙なアレンジを楽しむ派ですね。たぶん少数派ですが。
なんでイントロが二小節なのか、なんで二回半音上昇するのか……こういったことが語られることがなかったのは、あるいは語られていたにしてもわたしたちが知っているほどに有名なエピソードになっていないのかは、どうしても歌謡曲中心のシーンだったからなのでしょう。メタルでいうと『メタル・ジャスティス』のドラムの音が薄っぺらく聴こえるのを最初はラーズがあれがいいと言い張っていたとかあとから後悔してるとか(笑)、ジェイソンの音が異様に小さいのはなぜかとか、往年のメタル好きならみんな知ってるエピソードになっているのとは対照的ですよね。主たるリスナー層がそういうエピソードを求めているか求めていないかによるんだと思います。ですから、結局はわたしたちが推測するしかないんですよね。少なくとも、当時アレンジはかなり川島さんが影響していたことは確かだと思います。あのフワフワした感じは大いに川島さんのシンセによるものだと思います。
わたしも崩した感じの歌はあまり好みでなくてスタジオ盤が好きですね……ライブ会場だと、おおー玉置さんノッてんな!と思いますんでいいですけども……。
私、普段はヘヴィメタルを主に聴いているのですが、結局、安全地帯、玉置浩二、そして悲しみにさよなら、が一番好きです。
それも、最近や一時期の玉置さんが崩して歌われたりするバージョンではなく、レコード(CD)の悲しみにさよなら、が一番好きです。
本当のところ、この曲はどうやって生まれたのかと、そもそもこのアレンジはどうなっているのか、どうやって着想されたのか。
だいたい、2小節のイントロにしようって、どういう現場判断があったのでしょう?
1回転調する曲は多いと思いますが、2回転調させようなって、どうやって思いついたのでしょう? とか、気になって気になってしょうがありません!
浮遊感あふれるアレンジはどうなっているのか、キーボードで音を出しているのか、気になって気になってしょうがないです。
なお、80年代中盤、安全地帯は歌がうまいというよりは、曲が良い、ということで天下をとったように思います。
なので、最近は玉置浩二のボーカリストとしての評価の高まりはうれしいことなのですが、曲の良さ、そして安全地帯のアレンジの凄さも再評価されることを願っています。
ヘンな書き込み失礼しました。