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安全地帯・玉置浩二の音楽を語るブログ、管理人のトバです。安全地帯・玉置浩二の音楽こそが至高!と信じ続けて四十年くらい経ちました。よくそんなに信じられるものだと、自分でも驚きです。
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2024年12月06日

どうなってもいい

スペード [ 玉置浩二 ]

価格:2385円
(2024/1/20 11:09時点)
感想(0件)


玉置浩二『スペード』十三曲目「どうなってもいい」です。この曲でこのアルバムも終わるのですが、ラストの曲がバラードでなかったアルバムはこれが初?だか非常に珍しかったので、それを話題にしていた方が20年ほど前に安全地帯・玉置浩二サイトをおつくりになっていたことを記憶しています。とりあえず検索しても見当たらないので、もうなくなっちゃったんでしょうねえ……作者さん、あの時代はありがとうございました。まだまだ安全地帯や玉置浩二の音楽を扱うサイトが少なかった(マジで四~五サイトしかなかったと思います。infoseekとかLycossでは検索しても見つけられなかっただけかもしれませんが)時代、そしてSNSもなかった時代に、同好の士がいることを知れたことは、大きな励みでした。

さてこの曲、ロックンロールというのか、オールディーズ的、ホンキートンクのピアノがジャンジャンなっているのが似合うような曲調です。ロッド・スチュアートの『Unplugged...and Seated』は「Having a Party」で終わったわけですが。それを思わせるオーラス感です。ですから、バラードでなくともアルバムを聴き終えた感じはかなり高く、玉置さんが新しい境地、新しい表現の手法に達したことをここでも伺わせるエンディングとなっています。ちなみに「Having a Party」はサム・クックのカバーなんですが、底抜けに明るいパーティーソングです。玉置さんはロッドがお好きでしたし(少なくとも93年ごろはそうおっしゃってました)、このような曲もご存じのことでしょう。

その一方で「どうなってもいい」という一見投げやりな曲名なのですが、そしてこのメロウながらも力強いメロディーと歌、歌をよくよく聴くと自分の生き方、信じるもの、愛せるものを守り抜くという決意の歌、これから想起されるのは覇気のなさや陽気なパーティーソングなどではありません。同じロッドで言えばスティング、ブライアンと一緒に歌った「All for Love」なみの強さです。

こうしたノリの良い曲でのアルバムエンディング手法と、そして大事なものさえ守れればカッコつけなんていらないという心境を強く伝えるメッセージ性とが合体した見事なラストチューンであるといえるでしょう。まあ、ここまで聴きとおせた人はかなり少ないものと思われますが……あの『安全地帯IV』でさえ「悲しみにさよなら」と「碧い瞳のエリス」だけ聴いてあとはしらん、「ありふれないで」?何それ?って人がおそらく無視できない割合でいたでしょうから、この「どうなってもいい」なんて本当に、玉置さんが、え?ヒット曲しか聴かない人が多いって?そんなのどうでもいいよ俺の大事なものさえ守れれば、こうやって音楽を続けることができてさえいればハッピーだよ、といってしまいそうなくらい、たどり着いた人の少ない曲だと考えざるを得ません。

さて、丸く歪んだギター、音の高めなベース、そしてシンプルなキット構成を思わせるドラムに、そしてオルガンを思わせるキーボードで軽快に奏でられる演奏をバックに何度も「どうなってもいい」と明るい声で歌い、この曲は中腹まで突っ走ります。まさにロックンロール、力強く転がっていきます。

うまくいかなくたって君だけがわかればいい、それを僕だけができればもっといい……進んでいるとか遅れているとかどうでもいい、それを僕だけができて、君だけにその価値がわかればいいんだ。これはパーティーソングなどではなく、めちゃくちゃ真摯なラブソングです。

だってどうでもいいじゃないですか他の人なんて。そうして同じ時代に生きて同じ時代に死んでくれるかけがえのない人たちがいてくれさえすれば。若い人はこれからそういう人たちを探すんですからそんな心境に共感してちゃ逆に困るんだろうとは思いますが、このときの玉置さんには見つけて育んできたものがあるのです。音楽的にも本当に好きなことができて、それをわかってくれる大切な人がいて、一緒に音楽をつくっていければ、もうそれ以上なんのために音楽をするのさ、逆に教えてくれよってくらいの心持ちなのでしょう。

ジェフ・ベックによって見出された現代的ロックシンガー、ツンツン長髪のブロンドにシャープなマスク、派手なステージングにシャウト、まさにロックシンガーのお手本を作り出したロッド・スチュアートも、90年代にはすっかり好きな音楽をできればいいって態度に変わっていました。ロッドは「ありがとうサム、ありがとうオーティス、ありがとうマディ、あなたたちがつくった音楽に感謝します、そしてあなたたちが分け与えてくれた時間に感謝します、そしてその音楽は、時間はこれからも続いていくのです……」(「Muddy, Sam And Otis」1995)と自らのルーツを美しい旋律に乗せて振り返るのです。セクシーに腰をくねらせて「スーパースターはブロンドがお好き」とかやっていたあのロッドが!って感じですが(笑)。誰も言ってないことだと思いますが、わたしはかねがね思っていました。玉置さんとロッドはよく似ていると。ロッドのほうがだいぶ先輩で、その逆にバンドのキャリアは玉置さんのほうが上だとも思いますが、歳の重ね方、音楽の嗜好と向き合い方、そして二人とも若いころは時代のセックスシンボルといってもよい色気がその魅力の決して少なくない割合を占めていたこと、そして抜群のシンガーであり稀代のソングライターである実力をもってそこから脱し、本当に好きな音楽を突き詰める境地に達したこと、本当にそっくりです。

ちなみにロッドのアルバムはカバー曲が多いです。なんならカバー曲だけのアルバムも何枚もあってそれが大ヒットしたくらいです。玉置さんものちにカバーアルバム『群像の星』を出しましたね。ビートルズやストーンズを初期から知っている人ならお分かりと思いますが、昔は誰が誰の曲を歌ってもいいって雰囲気で、オリジナル曲ばかりになったのはここ半世紀くらいのことにすぎません。誰がロッドや玉置さんに向かって「あのさあ、オリジナルやらないと認められないぞ」って説教できるというのでしょう。歌手は歌ってナンボ、いい曲をいい歌手が歌う、それでいいじゃないかって、まさに生きながら教えてくれる人たちなのです。AIの進歩により剛田武「乙女の愛の夢」(ノビタレコード)が冗談じゃなくなってきた現代において、ロッドと玉置さんにはぜひ歌手の実力と生き方ってものをこれからも示していってほしいものだと願わずにいられません(笑)。

さて曲は大サビ?に展開し、玉置さんお得意のエフェクトシンバルと力強いバスドラが響き一気にシリアスな曲想へ。「難しい話は聞き流せるように」……短い、ほんの15秒ほどのパートですが、強烈な印象を残します。難しい話ってのは面白いので、ついついハマってしまう人もいることでしょう。人間、簡単なことほど脳がそれをどうでもいいこととして処理しますので、難しい話のほうが聞き流すのが難しいはずなのです。高校時代に数学の時間を半分以上寝て過ごしたわたくしが言うのもなんですけども(あとで非常に苦労しました。単に自分のキャパを超えたレベルの話も聞き流す癖があったんですねえ。自分のつまらないプライドを守るためだったんだとは思いますが、そんなもんあとから思えばクソ喰らえです)。真実はいつもシンプルなんですが、そこにたどり着くまでに難しい話を通過しないといけないことが往々にしてありますから、人間の成長に必須の過程として難しい話を聞き流せずしばらくこだわってしまうことはもちろんあるでしょう。ですが、玉置さんはすでにさんざん難しい話、困難な局面を乗りこえてきてこの段階に至ってますから、大事なものを守るために、クサらないでいくために、聞き流すよう努めるのです。

そしてまた軽快に「どうなってもいい~」が始まります。古い人間でいい、答えなんかなくていい、平和ならそれでいい……これはけっして投げやりな気持ちではないとはすでに申し上げましたが、この箇所ではすでに「~ない」を超えて非常に前向きです。大サビを境に、未来に進むにあたってあえて細かいことはどうなってもいいという覚悟、決心を示すものであることが示されています。ツイてるかツイてないか?今はそんなことどうでもいい、なるようになってから振り返ってわかるものだ、そんな言葉に意味があるとしてもそれは慰めにすぎない、ただ時の進むままに生きるしかないのだ、だから今は答えなんかなくていい、うかつに涙もろくていい……。

望もうと望まなかろうと、わたしたちの「今」は否応なく未来になっていきます。「今」とはそういうものだから、ハイデガーが示した刻時性Zeitlichkeit(儚さ)とはそういうことなのです。玉置さんがその類まれなる音楽才能を通して役割自己から脱して本来自己を垣間見た、つまり自己存在の本質に最も迫ったアルバムであるこの『スペード』は、残念なことに当時売れませんでしたし、その後も売れる気配がありません。でも、どうなってもいいんです、きっと。売りたいならこういうアルバムじゃないものを作れるのはわかりきってますし、それをつまらないことだと玉置さんははっきりわかっていたのですから。

一日中、ボブ・ディランをかけてて、ボブ・ディランを聴きながら、詞なんて何言ってんのか英語だから全然分かんない。わ~っとかけてるだけで。何かそうしたらねぇ、志が出て来るんですよね。何でなんだろう。何でボブ・ディランになっちゃったんだろう、急に?何かボブ・ディランの、アンプラグドのライヴとかず~っと聴きながら、良いなぁ良いなぁと思って。それでそうしたらドンドン詞ができてきたんですよね。自分で自分に歌うような感じになってんだなぁ。」(玉置浩二3万字インタヴュー本文より)

ロッドじゃなくてディランですかって思わなくもないんですが(笑)、もう完全に好きな音楽に浸るだけのモードに入っていた、英語はわからないのにボブの言いたいことは分かっていた、そうしているうちに自分の歌詞が生まれてきた……このプロセスのどこにも売る気が関与していないことは明らかです。ですから、なんだこりゃって思った人も多かったことでしょう。仕方ありません。玉置さんがディランを聴くようにはその人は玉置さんを聴かないのです。それはその人の勝手ですから。

そんなわけで、もう四半世紀近くも前に空前絶後というべき存在や人生の内奥へと迫ったこのアルバムは誕生し、現在でも誇り高くそこに在るのです。そしてこの「どうなってもいい」は、誰もが期待したバラードでなかったことによってかえって、このアルバムの最後を飾るにまことにふさわしい力強い前向きなエネルギーを放つ曲であるとわたくしはずっと思っているのです。

さて、このアルバムも終わりました。前回の記事で書いたことですが、次回からはひさしぶりに安全地帯、『THE VERY BEST of 安全地帯』(2001年6月)になります。年内にひとつふたつ……書けるかな?くらいのペースですが、頑張ってまいりたいと思う次第であります。

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posted by toba2016 at 16:47| Comment(3) | TrackBack(0) | スペード
この記事へのコメント
>よしさん
世間ではここ数年玉置さんの評価爆上がりなんですけど、なーんか、いまさらなんですよねえ。一番壮絶だった時には見向きもされてなかったんですから。この『スペード』の頃も再評価なんて話はついぞ聞きませんし……。そういう意味で、ようやく玉置ソロの記事をひと段落出来てほっとしています。再評価というか、世の中に足りてないものを埋める足場を作った気分です。

>ちゃちゃ丸さん
また渋いのを……やっぱりアンプラグドで、次がTears in Heavenですから、その対比に(すっげえいい意味で)ぞっとしましたよね。え?『ジャーニーマン』の頃から?それは失礼しました!これもカバーなんですよね。カバーの話を記事で書きましたから、そのちょっとした符合にニヤリとしちゃいます。

【追記】あっ!Before you accuse me の次はHey Heyでしたね。すっかり存在を忘れていた!(笑)
Posted by トバ at 2024年12月10日 10:21
どうなってもいい! この思想、結構好きです。
とことん行ってやれ!的な発想!
クラプトン「ビフォア・ユー・アキューズ・ミー」ぽいなと当時思っていました。
所さんぽくもあり、力も抜けていて、とにもかくにも、最高です!
Posted by ちゃちゃ丸 at 2024年12月10日 08:39
毎度お見事な考察と評論!ロッドとの対比は以前からおっしゃっていられたように、的を射てると思います。なんか日本人離れしたようなワールドクラスの存在感も、いつも自分に厳しい玉置さんならではの創作活動から醸し出されます。このアルバムの後、安全地帯を復活させるんですが、20年以上前の記憶が朧気に蘇えります。復活と分断を幾度も繰り返しながら、いつも安全地帯を背負っているのも大変そうですが、この当時はまだまだ躰も行くところまで行ける強さを備えていたように思います。
Posted by よし at 2024年12月09日 16:40
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