『安全地帯IV』十曲目、「ありふれないで」です。
アルバム紹介の記事で、辛い恋をしていたふたりが、最後に少しだけ前向きになる曲、というような内容のことを書きました。恋のつらさは解決されていないのだけれども、それでも少しだけ前を向いた心情を表現している……前曲「ガラスのささやき」までのクライマックス感が物凄かったために、この明るめながらもやや気だるさが感じられる曲調、前向きっぽく読める歌詞は、「完全なハッピーエンドではないけれども、今後に期待の持てる終わり方」を示唆しているように、わたくしには思われたのです。毎度のことではありますが、曲順に特に意味はなくてランダムに決めました、とかだったら一瞬で崩壊する解釈で恐縮です(笑)。
少なくとも、初恋の甘酸っぱさを表現しているなんて思えない、もちろん、酸いも甘いも知り尽くした男女の恋の歌だとも思えない、このアルバムで「語られてきた(とわたくしが勝手に思っている)」ふたりの恋の歌であると、わたくしは信じたいのです。この曲の終わりに仕掛けられた、一曲目「夢のつづき」のフレーズは、このアルバムが単発の曲をただ十曲収めただけでなく、ひとつの恋物語を構成するように作られたものであるはずだ……と、わたくしは30年も信じてきたのです。単なる思い込みかもしれないのに。ああ、なんだか恋に似た気持ちです。今気づきました(笑)。
さて、アレンジですが……
最初のア・カペラだけで、もう威力抜群ですよね。三声ボーカルで「抱きしめてもいいだろう?」と玉置さんが叫ぶのですから、このアルバムを終えるにふさわしい名曲であることはもう決定的だという印象を与えます。
八分で刻む六土さん、それに応える田中さん、そしてギターは……役割分担がややわかりづらいですが、左チャンネルでアルペジオ主体に弾くのが矢萩さん、右チャンネルでそれに合の手を入れるかのように単音フレーズを弾くのが武沢さん……だと思います。その根拠は、Bメロで右チャンネルから武沢トーンのコードストロークがシャリーンと聴こえるように思われるからなんですが、レコーディングでは実はどちらも武沢さん(もしくは矢萩さん)が弾いていました、というオチももちろんありえます。フレーズはかなりはっきり聴こえるんですが、お二人ともディレイやリバーブをかけて比較的似たトーンで弾いてらっしゃるように思われます。
そのBメロ、リズム隊もリズムを変え、六土さんが八分と四分の組み合わせを弾きます。ギターも掛け合いでなく、比較的速いアルペジオとコードストロークに変わるため、曲が若干スピードアップしたような印象を受けますね、歌詞もここで「自分の思い」をストレートに語るような内容に変わるため、曲が一気に盛り上がります。まさに全パート、計算されつくしたかのように曲の物語を最高潮に持ち上げてゆきます。
「あなたのせいだろう」の箇所は、コードでいうとF#だと思うんですが、この曲はキーがEなので(そう思うだけです)、普通に考えればF#mを使うはずなのです(別に誰が決めたわけではないのですが、セオリー的にはそうなるのが一般的でしょう)。ですから、ここでメジャーコードが入ることによって、なんとなく意外な感じ……、いや、この曲を聴き始めた当時はそんな違和感を感じることはできませんでした。それくらい自然です。あとからコピーしようとして「あれ?」と思った、というだけのことなんですけどね。おそらく、玉置さんは意外な感じを与えようとしてこうしたわけではなく、ごく自然に「こうするとイイよね!」と純粋によいものを創ろうとしていたのでしょう。後のJ−POPアーティストにありがちな小賢しさがまるで感じられません。
そして曲は、「デリカシー」等で聴くことのできる、チャイナ風音色のソロを挟み、トドメと言わんばかりに三声ボーカルのサビを繰り返して終わります。ああー、効いた……いや聴いた……と余韻に浸っているところに、先程少し触れた「夢のつづきreprise」とでも言うべきフレーズが遠くから聴こえてきて、このアルバムを堪能した心を包み、慰めます。これは、冗談ぬきに涙ものです。のちに玉置さんのソロアルバム『あこがれ』にも用いられた手法なんですが、これは効きますね……。思う存分、このアルバムの世界に浸ったという感慨が湧きます。まさに、名演出というべきでしょう。
さて、これでこのアルバムの紹介も終わりになります。次回からは、『プルシアンブルーの肖像』の紹介に入ろうと思っているのですが、ご存知の通り、歌のない曲がいくつか含まれています。これをどうやって文字で紹介するか?本ブログを始める際に想定していた最初の正念場を迎えます(笑)。頑張ってみたいと思います。
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そんなにいっぱい失敗するほどモテモテでもなければ元気でもないですから、ちっとも学ばなくて、リスクをかかえたまま生きていくんですけども……玉置さんが歌ったこの歌が多くの人の心をとらえたのだとすれば、みんな似たような状況なのかもしれませんので、あまり気にしないことにするのが得策かもしれません(笑)。
ありかも…。
て、思いました。
私、ありふれないで は、恋のスタートラインの
タイミングの歌かと思ってました。
人は何回恋をしても、前半は、
こういう楽しげな感じになるかなあ、と、
単純に。
ただこの後が、泥沼になったり、心配したり
苦しんだり。
この曲の後に、最初に戻りどれかになる、
エンドレスループ。
そんなたくさんの恋ができるなんて
羨ましい気もします。