価格:2385円 |
玉置浩二オリジナルアルバム九枚目『スペード』です。発売は2001年3月、先行シングルはなく「このリズムで」が同時リリースされました。
おそらく、玉置さんのアルバムの中で一番話題になることが少ないアルバムの一つでしょう。そもそも他のアルバムに比してあまり売れてないのですから、聴いた人が(相対的に)少ないのです。まあー、ムリもありません。なにせ話題性ってものがありません。この時期、他人から玉置さんの話を聞いた記憶が全くないのです。当時はわたし自身に余裕が全くなかったからでもあるんですが、もう海外との情報交換もしておりませんでしたし、当時はネット上でアルバムレビューなんてやってる人はほとんどいませんでした。まあ今だってそんなに多くはないんですけども、今は探せば見つかるじゃないですか。当時はそもそもそういう「情報」がほとんどないのです。ないのが当たり前でしたからあんまり気にもしていませんでしたけども。
だいたい、他人の感想なんかアテにするほうが間違っています。他人は自分でないからです。音楽でも小説でも食べ物でも、それが自分の感性にどのようにキャッチされるのかは自分でそれを経験する以外に知る方法がありません。自分にはバニラの味がするソフトクリームを他人が食べると、彼/彼女は自分がチョコを食べたときの味わいを感じているという可能性は当然のようにあって、それはどんな事実とも矛盾しませんが、それを知る方法はお互いに存在しないのです。他人の評判をアテにしてタイパコスパ言っている現代ではそんな話そもそも通じないんだとは思うんですがね。わたくし自分のブログの存在意義を真っ向から否定する危険すら冒して警告しているというのに(笑)。
そうはいいつつ、もちろんこれまでの玉置さんが作った音楽に酔いしれた人というのは膨大な数いらっしゃったわけですし、そうした人たちならば「ある程度まで似た」ような感性を持っている「可能性がある」わけですから、そうした人たち同士の間でなら、まったくアテにならないレビューとばかりもいえないかもしれません。さらにいうと、玉置さんは変化・成長しています。わたしたちも当然に変化・成長しています。このアルバムまでたどり着くような重度の安全地帯・玉置浩二ファンであるのならば、その変化・成長の道のりを決して短くない時間重ね合わせてきたことになるでしょうから、そこに幸せな共感が生まれる可能性も生じることでしょう。それに賭けたいとわたくしは思うのです。
1.「このリズムで」:なんでこんないい曲が話題にならないのと不満になるブルースポップスです。
2.「甘んじて受け入れよう」:玉置さん得意のダイナミックな展開、リズムのロックです。
3.「△(三角)の月」:ジャジーな雰囲気の大人ロックです。
4.「太陽になる時が来たんだ」:わたくし的にはこのアルバムNo.1のアコースティック・バラードです。
5.「夢見る人」:ロッドの「マンドリン・ウィンド」を彷彿とさせるアンプラグドソングです。
6.「アンクルオニオンのテーマ」:導入曲……ですかね、次の「スペード」の。猫の鳴き声です(笑)。
7.「スペード」:渋いブルースロックです。アコギのリフがたまらなく格好いい!
8.「ブナ (Instrumental)」:安藤さんの真骨頂ともいえる(作曲は共作ですが)美しいピアノ曲です。
9.「君だけを」:前曲「ブナ」を歌詞の冒頭に使った、玉置さんらしい陰のあるバラードです。
10.「美味しいジュース」:これまた玉置さんらしいミドルテンポの不思議ソングです。
11.「気分がいいんだ」:ぜんぜん気分良くなさそうな詞なんですが、曲はひたすら楽しいです。
12.「メージャーマン」:前曲につづいて、玉置ソロ初期のような楽しい仕掛けの曲です。
13.「どうなってもいい」:オールドロックのノリで軽快な、でも陰が仄見えるブルースロックです。
このアルバム全般にいえることですが、デレク&ドミノスか?と思われるようなオールドへの接近が見て取れます。逆に言うとこのアルバムが好きな人はきっとクラプトンもお気に召すことでしょう。もう、玉置さんが好きなことをやりまくっている感じがあふれています。くわー渋い!カッコいいなあ!とわたくしなんかは思うのですが、「ワインレッドの心」的なものを求める方にはまったくお勧めできないアルバムだとも言えます。あれからもう20年近くが過ぎ、世紀まで変わってしまったのです。そう、世紀末に安全地帯とソロで突っ走った玉置さんはまったく何事もなかったかのように、1999年七の月を乗りこえ(笑)、軽井沢で好きな音楽三昧をなさっていたのでしょう。まことにうらやましい世紀越えです。わたくしなど、2000年問題でパソコン暴走したらおもしれえなあ、とか思いながら鬱々と迎えた新世紀でした。何かが変わったかといえば全然そんなことはなく、相変わらず今日は昨日の続きだし、明日も今日の続きなのでした。ですがそんな日々が20年ちかくも積み重なると、「ワインレッドの心」も「このリズムで」に変わるくらいの大変化が起こるのです。小学生低学年だったわたしも20代中盤の青年になっていました。
四十代前半に差し掛かっていた玉置さん自身も売れる音楽とそうでない音楽の両方をさんざん経験していますから、売れる努力をすることは当然にできたのでしょうけども、ことこのアルバムではそれをした気配がありません。ひたすらに、自分の感性だけを羅針盤にして作っていったんじゃないかと思えるほどに、むしろ他人を寄せ付けないようにしたんじゃないかってくらい、孤高のアルバムになっています。テレビに出るとか雑誌のインタビューがバンバン来るとかそういう時代はとうに過ぎ去って、まるでそれを避けるかのように玉置さんは進みます。玉置さんが不調だったわけではありません。玉置さんがその気になればバンバン注目を集めることができるというのは、さきの「田園」でものちの安全地帯復活でも明らかであって、これは実証されているわけです。つまり、このアルバムの時点では、売れる気はなかったということになります。だって好きなことできなくなるもん、気が向いたらやるよってくらいでいいに決まってるじゃないですか。
そんなわけで、このアルバムはディープな玉置ワールドに浸りたい人、もしくはオールドロックの愛好者向けということになります。前回の記事でカヴァーデール・ペイジのことを書いたんですが、カヴァーデールは最初ブルースやりたかったんですね。リッチーブラックモアはそれを嫌ってパープルを抜けましたし、それでパープルも立ち行かなくなってしまってホワイトスネイクを作ったわけなんですけども、ブルースじゃ売れないとわかってホワイトスネイクがどんどん派手になっていったんです。アホみたいに売れましたけど、さぞ無念だったでしょう。売れるってどういうことか、カヴァーデールも玉置さんも骨身にしみているわけです。カヴァーデールはそのまま止まれないマグロのように泳ぎ続けていきましたけども、玉置さんはそうでない境地に達することができた、これは奇跡ですし、わたしのようなヘビーな玉置ミュージックジャンキーにとっても、好きなことをやっている玉置さんの作品を楽しむことができるという僥倖に浴することができたという、まことに稀有な時期だったといえるんじゃないかと思われるわけです。
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このリズムでが、たまらなく好きです。
1曲目からラストまで、トバさんがおっしゃる通り、クラプトンの系統でこれはこれで癖になる味わいでした。
しかし、優しい人ですねえ……。優しさが人を救うことはあると思います。
当時、地元で、昔から好きだった娘と再会したんですけど
なんでか、その娘は精神を病んでいまして
なんとか治してあげたい、なんて思っていました。
その娘が、何か、いい(癒されるような)CDを買いたい、みたいな事を言っていたので
地元のツタヤで、このアルバムを真剣に勧めました。
実際に買ったその娘は、聴いてみて…
??? って感じだったと思います(笑)