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玉置浩二7thアルバム『GRAND LOVE』です。発売は1998年五月、ファンハウスへの移籍、軽井沢への移住と、完全に心機一転、環境一新、さらに須藤さんと袂を分かち体制まで大改革という、とんでもない変化が起こっていました。聖飢魔IIがこの二年前にやはりソニーからBMGに移籍しており、そのBMGと合併するかしないかくらいの頃だったファンハウスに聖飢魔IIを追うかのように(追ってないと思います)玉置さんは移籍したのでした。聞き及ぶ範囲ではソニーに比べてさまざまな体制が整っていなかったBMGでは、それまで当たり前だったものが未整備で、制作やプロモーションの勝手に大きな変化があったそうです。玉置さんもまた……というか、玉置さんはおそらく望んでそういう環境に飛び込んでいったんじゃないかと思われます。レコーディングは軽井沢のウッドストック・スタジオで玉置・安藤(・矢萩)の二〜三人体制、スタッフはいるにはいても、ほとんど手作りでどんどん録音してしまってゆく玉置さんは、そうしたくてしていたのだと思いますが、むしろ楽しんでいたんじゃないでしょうか。
金子洋平さんが見つけて、玉置さんに紹介した、いまはなきウッドストック・スタジオ、ここを拠点に玉置さんはいくつものアルバムを作り、安全地帯を復活させていきます。98年に『GRAND LOVE』発表、翌月に薬師丸さんとお別れし、そして翌年には安藤さんと結婚しています。まあ、その頃にはさすがにこの人と結婚するんだろうねくらいにはわかっていましたが。その作り上げたサウンドは素朴で美しく、まるで『カリント工場の煙突の上に』まで時計の針を巻き戻したかのようなアコースティックな響きをもっていました。そうか、玉置さん、またギター一本からやり直すんだ……と、強烈なリセット感を感じたものです。その背景に、玉置さんの病気や、東京での音楽生活への不適応、軽井沢への移住などのあったことは予想すらしていませんでした。ただただ、玉置さんの精神に何事か大きな変化が起こっていることのみを感じていたのでした。
では、一曲ずつの紹介を。
1.「願い」アコギとピアノのバラードです。安藤さんとの共同作曲名義で驚きました。
2.「DANCE with MOON」ミディアムテンポの陰鬱系ポップスです。わたくしこのアルバムでこの曲が一番好きかもしれません。
3.「ルーキー」先行シングルで、爽快なアコギロックです。玉置さんから高橋由伸選手への応援歌でした。
4.「HAPPY BIRTHDAY〜愛が生まれた〜」スローテンポの陰鬱バラードです。「ハッピー」なのに陰鬱です(笑)。曲と歌の巧みさに息をのみます。のちにシングルカットされました。
5.「GRAND LOVE」前半はほぼアコギのみの伴奏でしんみりと歌われるこれまた陰鬱ながらにひたすらに穏やかなバラードです。その後ギター、ベース、ピアノのインスト曲が合体してる形でメインテーマが一分ほど奏でられます。
6.「RIVER」けだるいながらに安心感のただようスローテンポのポップスです。
7.「カモン」ミディアムテンポの不思議系ポップスです。このアルバム、だいたい不思議か陰鬱かなんで、そんな言い方ばっかりです。
8.「BELL」シングル「ルーキー」のカップリングです。「ルーキー」に負けない勢いのあるロック曲です。ただし陰鬱です(笑)。
9.「RELAX」またまたミディアムテンポの不思議系ポップスです。
10.「ワルツ」なんと安藤さんのみの作曲クレジット!わたくしひっくり返りました。ひたすら安心しきっている様子のわかるピアノバラードです。
11.「フォトグラフ」アコギのバラード、わたくし最初に気に入ったのはこの曲でした。歌詞が耳にこびりついて離れませんでした。フォトグラフが赤茶けたなんて!いつまでも青空なんて!
12.「ぼくらは…」陰鬱さの感じられない人生前向きバラードの曲なんですが、歌詞には無常観が漂っています。このあやういアンバランスさのなかに玉置さんは一種の安心を見いだしたのだとわかります。
安藤さんとの生活で「俺の精神が安定してきた」「そしたら音楽自体も変わった」(『幸せになるために生まれてきたんだから』より)と玉置さんは語ります。たしかに安定しています。ですが、上の短いレビューで何度も申し上げたことですが、曲がいちいちダウナー系なんです。玉置さんはずっと上下の激しい方でそれが魅力でもあったわけですが、このアルバム以降、軽井沢時代はおおむねダウナー系で安定していきます。いや安定しなくていいです!もっと激しく上下してわたしを楽しませてください!と思わなくもないんですが(笑)、それは聴くだけの人間の勝手な望みであって、肝心の玉置さんがもう限界だったのでしょう。なにしろ、安全地帯の「ワインレッドの心」から「じれったい」まで一気に走り抜けてきた三年半と同じく、『カリント工場の煙突の上に』から『JUNK LAND』まで三年半で走り抜けたのですから。
それでも、一聴してよい曲だ!と思わせる曲が多かったので、これは聴き込めば割と早めに全曲いい曲だ!という状態に至れるだろう、という目算の立ったアルバムでした。この当時わたくし思い切り人生の岐路にありまして、このアルバムを何周聴いたかわからないくらいリピートでかけっぱなしにして、気がついたら日が暮れてる、夜が明けてる、という生活を何か月も続けました。さすがにこれは精神がもたない!少し歩こう!と近所のスーパーに出かけ、「だんご三兄弟」の流れるスーパーをボヤっと冷やかして歩き、なんとそのままカゴをもって店を出てしまい、あわてて店内に戻って会計をするというくらい夢うつつだったのです。これはヤバい!と何度も自分をビンタしましたが、気がつくとまたボンヤリ、『GRAND LOVE』の永遠リピートする部屋に何日もこもっていました。あ、いや、べつに引きこもりとかでなくて、在宅ですべきことがあったのでそうしていただけなんですけども、さすがに精神と身体にかなりよろしくない影響がありました。噂にきく締め切り前の漫画家のような生活です。この酷い生活を支えてくれたのがこのアルバム……というか、このアルバムのせいでダウナー系になったのか、なんだかもうわかりませんでした。さすがに飯は食わないといけませんから、テレビのある部屋に少しだけ戻って、衛星放送で絶不調に陥った野茂を見ながらカップ麺とか食ってました。ガンバレ野茂、ガンバレ野茂、おれも頑張るから……ふう、と食事終了、また『GRAND LOVE』の部屋に戻って……ですから「ルーキー」が高橋由伸選手のことだということも知らないままでした。
そしてまんまと早々に「全曲いい曲だ」と思うに至ったのでしたが、こんなに集中的に聴きこんだアルバムは久しぶり、いや初めてだったかもしれません。いまちょっと試しに流してみましたが、音符の一つひとつまで感覚を覚えています。ここまでわかるのはほかに安全地帯II、III、IVくらいのものだと思います。
さてこのアルバム、歌詞カードには軽井沢で撮られたらしき写真がいくつも収められています。玉置さんが森林の中を歩く写真、廃車の上で何やらポーズをとる写真、そして大きく見開きで青空の下冠雪の山をバックに撮られた写真があります。いまですと、ああ、こりゃ軽井沢の別荘地だなとか、こりゃ浅間山だなとかわかるんですが、当時はいったいどこなのかわかりませんでした。クレジットをよく読めば「WOODSTOOK KARUIZAWA STUDIO」と書いてあるんですが、そこまで細かく読んでませんでしたし。なにしろファンハウスに変わったことすらあとから気づいたくらいでしたから。ほとんど前情報なしにこのアルバムを聴き、そのサウンドの変化に驚き、「Satoko Ando」のクレジットを見て腰を抜かし、そのまま永遠リピート期間に入ってしまったので、とにかく外から情報を全く入れないで聴きこむことができたのです。当時は死にそうでしたが(笑)、聴き込み経験値の上がった得難い時間でもあったのでした。
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このアルバムがそんなに大事な意味をもっていたのですね。これは、ちょっと緊張してきました(笑)。とはいえこれまでどのアルバムも誰かにとってそのような意味をもっていたはずで、それにもかかわらずいろいろ書きまくっていたわけですから、怯まずわたくしなりの意味を書かせていただこうかと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
おお!風呂付きアパート!わたくしもこのころ何故か共用風呂トイレの部屋に住んでました。いまどきそんな部屋あるか!と自分でツッコミ入れるような部屋でこの後安全地帯が復活し玉置さんがソロを再開したタイミングのころまで雌伏の時を過ごすことになります。繰り返しになりますが、危険でした。
春待憧流のヨッシーです。(造語)
グランドラブまで来ましたか!
このアルバムは、当時私も都内で頑張って活動(婚活ではなく)していた時期にリンクして、CDショップに立ち寄ると、売っているのを偶然見て即買いしました。
シングルのルーキーが、巨人軍の高橋由伸さんの?何かの飲料のCMソングでした。記憶が乏しくてすみません。
アルバム全体が、既に軽井沢時代の幕開けです。
リードギターもかなり弾かれ、ジャズだったりロックやポップスがふんだんに収録されていて、私は当時、初めて風呂付きアパートにこのアルバムを購入した時期に引っ越しまして、芝浦のホテルでの警備の仕事の夜勤明けに、風呂に入りながらこのアルバムを聴いてました(笑)「ダンスウィズムーン!」