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玉置浩二『スペード』十二曲目「メージャーマン」です。「メージャー」って何だろうと思わされますよね。測るアレです。それ「メジャー」じゃないの?と思うんですが……地方によって違うんですかね?わたしも玉置さんと同じ北海道育ちなんですが「メージャー」は聞いたことがありません。ネット上の「実用日本語表現辞典」によるとmajorは「日本人が発音するカタカナ英語では「メージャー」と読むことが一般的である」なんて書かれているんですが、測るほうのメジャーはmajorでなくてmeasureですしねえ。細かいことは気にしないのが吉なんでしょう。
さて曲のほうは、ポコポコとしたパーカッション……ボンゴよりもだいぶ軽い感じの音がメインで、そしてずっとチッチッチッチ……とハイハットにしちゃやけに静かな音が鳴り響いていまして、なんだかルーズなギターにやけにカッコいいベースが合の手を入れる形でサビ以外を伴奏しています。それらに比べたらボーカルは地味といってもいいタイミングとメロディーで、緊張感たっぷりの伴奏と一体になったけっしてメインではない存在感でサビ直前まで淡々とストーリーにならないストーリーを語ります。
ストーリーにならない、というのは言い過ぎかもしれません。これは恋愛において相手を値踏みする緊張感をコミカルに描いた歌詞です。相手をいろいろ子細に測定しようとするんですけど、結局測れずに終わるという悲しき測定男(メージャーマン)の哀しさを歌っているのです。悲哀ではあるけどそれにストーリーがあるわけではないんですね。だって毎回同じですもん。水戸黄門でも「悪者をやっつける」がストーリーとはいわないでしょう。奥州盛岡に差し掛かった一行、狼藉ものに追われた娘を助ける助さん格さん、その夜娘はこの地にはびこる巨大な悪を語ったのであった、内偵に出るお銀に弥七……がストーリーでしょう。まあ、だいたい毎回同じなんですけども(笑)。
さて悲しきメージャーマンは大変な苦労をして相手を測りまくります。相手もただ黙って測られるわけはありませんから、様々な罠やら殻やらで自分を測らせまいとします。ここまで苦労するなら測定値なんてもうどうでもよくなるくらい相手のことを理解できるんじゃないの?と思わなくもないんですが、一番肝心な「愛の距離」は測れないという絶望的な現実を玉置さんは突きつけます。それはもう、肌を重ねてしまうと目盛りが狂いますから測りようがないんだというさんざん味わった悲哀ですから、説得力が違います。
苦労して測っている、いろいろ工夫して測っている、相手も測らせまいといろいろ抵抗してくる、これは一般的には恋愛の醍醐味というか、あの頃が一番楽しかったねーくらいのプロセスだと思われるわけです。そこをAメロBメロで「チャラッチャッチャッチャー(ギター)ボボーンボンボンボーン(ベース)」の不穏な繰り返しですべてまとめてしまい、ドラムがドカッと入ったサビで「そんなのいくら測ったところで一番肝心なところは測れてないよー」と激しく……訴えているんじゃないですね、そういうもんなんだよーと教えてくれているという構成になっています。これはキツいジョークだなあ。いや、これをキツいと感じる世代の人にははじめから聴かせる気がないんじゃないかって思われる渋いアルバム、渋い曲、そして渋い売り上げでしたから、これは同年代かそれに近いオトナに「こういうもんだよねー」と伝える曲なんじゃないかと思います。事実、このアルバム初聴時は20代前半でしたが、なんのことかわからなかった……というより、あまり意味を考えなかったというのが正直なところです。こういう機微は難しかったですし、現代でも難しいんじゃないですかね?拓郎の「人生を語らず」とか陽水の「氷の世界」なみに難しいです。朝になったから起きるんじゃなくて起きるから旅に出るんだとか、指切りすると気持ちがはりつめる、なんて境地を共感できる若者が当時どのくらいいたのでしょうって思えるくらい難解です。難解なのに描かれているのは恋愛の渦中にある男女の距離感だというこの玉置さんらしさ!しびれますねえ。もう四半世紀近く経ってからですけども。ロックです。
さて、ちょいちょい「キュイーン」とか「チャチャ!」と入っていたエレキギターがソロでも入れてくるかなと思っていたら、曲の最後も最後にエレキでなくアコギがソロを担います。エレキはもうちょい役に徹していました。サビで「ピャピャピャー!」と入っているキーボードも同様、ちょい役です。助さん格さんやってしまいなさい!とばかりにもうアコギとベースでほとんどすべてをやってしまいましょう!たまに風車が飛んでくるとか逃げようとしたら黒装束の怪力の男が立ちはだかって鯖折りをキメるくらいで!という気合の入ったご老公一行ぶりです。
さてさて、わたしらはみんな測らんでいいものをどうしても測ってしまう「メージャーマン」であるわけですが、べつに測らんでいいものだから測るのは愚かだよって歌ってるわけじゃないと思うんですね。むしろどんどん測ろうぜってほどでもないとは思いますが。婚活市場で恋愛関係になる前から相手の数値的スペックを異常に気にすることがあまり意味のないことであるのと同様に、恋愛関係になってから明示的数値に現れていないものを測りまくるのも、結果としてあまり意味がないわけです。玉置さんがおっしゃるように、目盛りが狂うんですよ。むしろ狂わないといけないんで、それでいいんですけども。問題は、目盛りが狂ってないと思い込む人や、目盛りが狂うところまで踏み込めない人です。あ、いや、それは人の生き方だからもちろんどうこう申しませんけども、玉置さんの音楽理解的にはそれだと支障があるわけです。それはどうでもいいじゃんって方はもちろんほとんどがこの曲にたどり着く前に回れ右しているでしょうから、余計なお世話ではあるんですが。音楽を理解するために痛い思いするわけじゃないし、むしろそんなことする人のほうが狂ってますしね。だから誰もがいい曲だなって思うような曲ではけっしてなくて、あくまで結果としてある程度痛い思いや歯がゆい思いをした人だけがこの曲の描いているものがわかる、それだけの話だし、それ以上ではありえないんだなあ、なんて思うわけです。
このアルバムも残り一曲となりました。もうこのアルバム半年以上かけている気がしますが、なかなか進みませんねえ。年内にはあと一曲「どうなってもいい」、そして『The Very Best of 安全地帯』から「抱きしめても」「つぶやき」だけやって、『安全地帯IX』に入れたらいいなあと思っていたんですが、この調子じゃムリだなあ。まあ、なるべく頑張っていこうと思う次第であります。やっとこさ安全地帯の話に入れるんですから。いや玉置ソロ嫌いなわけじゃなくて、長かったんで……もう一年以上玉置ソロの記事しか書いていない気がします。アルバム紹介でなく曲で安全地帯の記事を最後に書いたのは……「小さい秋みつけた」を除けば「地平線を見て育ちました」を二年半以上前に書いて以来になりますね。つい最近NHK北海道で「安全地帯ZERO」が流れて、年末に全国で再放送されるようですから、そのタイミングで俊也さんの曲の記事が書ければいいなあ、なんて思ってはおります。
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陽水は天才的にリズムを乗せてきますよね。玉置さんもそうなんですが、アタマの中で1/100秒単位の再計算が絶えず行われてるとしか思えません。
陽水の「氷の世界」は最高ですね。
ライブなんかで、「毎日ふぶきふぶき氷の世界〜」のところを前のめりに歌うところが好きです。
https://youtu.be/lDrtcWkQsMU?si=C5v5MBIHQkrH4Z95