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安全地帯・玉置浩二の音楽を語るブログ、管理人のトバです。安全地帯・玉置浩二の音楽こそが至高!と信じ続けて四十年くらい経ちました。よくそんなに信じられるものだと、自分でも驚きです。
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2021年01月11日

微笑みに乾杯


I Love Youからはじめよう―安全地帯BEST』十二曲目、「微笑みに乾杯」です。

活動休止前ラストシングルであり、アルバム『安全地帯VI 月に濡れたふたり』後の新曲でもあるため、ベストアルバム(とベスト的なもの)以外に収録がない曲です。

MIASSツアーのDVDには、楽屋で玉置さんがホニャホニャ英語的な弾き語りをして、Bananaがそれに声を重ねるシーンが収録されています。このようにMIASSツアーの最中に生まれ、ツアーの合間を縫って寝られ、ツアー終了後まもなくレコーディングされたのでしょう。慌ただしく送り出されたこの曲は、あやうく安全地帯ラストシングルになるかもしれない重責を担う運命を背負っていました。まあ、慌ただしくって言ったって、当時の安全地帯の曲はどれだってハードスケジュールの中で慌ただしくリリースされていたんですけども。

その危うくラストシングルになりかけたこの曲、たとえラストシングルだったとしても、それにふさわしい終局感をまとった名バラードになっています。

シャンシャシャンシャシャンシャシャンシャ……となにやら高音の鍵盤で始まったリズムにストリングスが重ねられ、そしてズシーンとしたベース、カツカツというリムを中心としたドラム……これは「Too Late Too Late」で聴くことのできたパターンですが、それに重ねられたホニャホニャとしたシンセで、序盤は曲の大きな部分が占められています。

ギターはかなり控えめ……もちろん、当ブログがこれまで散々に主張してきましたように、安全地帯は出しゃばりなことをせず、ときには出番のまるでないことすらあるくらい、曲の完成度優先でアレンジをし、演奏をするわけですから、ギターがどれだけ控えめであろうとけっして不自然なことではありません。しかし……

わたくしには、これが安全地帯の崩壊を示していたように思われて仕方ありません。もちろん、Bメロで、サビで、そして間奏で、ギタリストのお二人は完璧な仕事をなさいます。完璧に過不足ありません。しかし、それだけなのです……!完全崩壊したバンドなのに一念発起して『アビー・ロード』をレコーディングしたビートルズのように渾身のプレーをなさったのはよくわかります。武沢トーンが「シャーン!」と響き渡り、矢萩さんのギュイーン!も咆哮を上げています。しかしもう、安全地帯IIやIIIあるいはIVのように、ギターこそが主役であってギターがなければ成り立たないサウンドではありません。これはギタリストのお二人の問題ではなく、安全地帯というバンドの生産体制の問題です。玉置さんがそうしたのには違いありませんが、玉置さんだってしたくてそうしたわけでもありません。すべては、世の中が求めたことに全力で応えようとした結果です。応え続けた結果、安全地帯が安全地帯であり続けることが限界に達したというべきでしょう。

渋い出番しかないギタリストとは裏腹に、リズム隊のおふたりは玉置さんの歌を支え続けます。そりゃ、この二人が出番なかったら曲終わりますから当然ですが、このお二人はフル出場で玉置さんを孤軍奮闘にさせまいと踏みこたえるのです。まるで真田幸村を最後まで支える三好清海入道と伊三入道のようです。どうもわたしは豊臣派びいきでいけません、かと思えば幕末は徳川・松平びいきですから、要するに負けるほうが好きなんですね。

あの青い空は、北海道でかつて見た、夢を追った日々を覆う天の青、東京に来てからの恋人との日々、仲間との日々、それらはときにやさしく、ときに悲しい思い出を残した。それももう、間もなく終わるという予感に包まれていま、最後かもしれないレコーディングに臨もうとしている……思い出よりも輝いていたい、だから涙を拭いてきみに微笑むんだ……松井さん、絶対わざとでしょ!(笑)……こんな歌詞……過剰な思わせぶりにわたしがこの後感情移入で二年ばかり苦しんだのはぜんぜんいいとしても、これじゃメンバーがかわいそうじゃないですか……もちろん玉置さんが歌っているんですけども、これは玉置さんだけでなく、メンバー全員の物語なのです。全員が、涙を拭いて明日のために、そしてそれぞれの「きみ」のために微笑むのです。まるで乾杯をするように、全員で、一斉にです。

まださよならが聞こえない「僕」は、もちろん玉置さんであり、メンバーであり、そして松井さん自身なのでしょう。安全地帯はここでいったんお休みになりますが、玉置さんソロをはじめ、松井さんはこの後もメンバーたちとの交流を続けてゆきます。だからさよならなんて変なんですけど、それでも、バンドとしてのさよならはあってしかるべきだったのに、それがなかった……さびしい……いやもちろん、バンドとしてのさよならなんてしてたら、マジでここで終わったかもしれないからあぶないところだったんですけど(笑)、チームの一員であった松井さんからすれば、何ともいえない寂しさを感じさせられる状況だったことでしょう。でも、松井さんは「夢をなくしてはいないから」「歩いてゆこう」と、前を向きます。そして寂しい過去に「もうふりむかない」と決別し、メンバーたちとの未来を信じ、立ち去るのです。

「このまま ずっと ずっと」

これまで伴走してくれた人たちとは、ここでお別れだよ。でもこのままずっと進むと、分かれたはずの道たちも一つ二つと交わることもある、だからふりかえらず、歩いていこう、次にきみが出会う人は、きっと楽しい人だ、きっとやさしい人だ、きっときみの人生を豊かにしてくれる人だ、だからおそれず進むんだ……

これがわたしが、いままでにいちばんつらいお別れ(恋愛以外で)をしなくてはならなかったときに、自然と口に出たことばです。いささか感傷的に過ぎて多分にキザでした。そしてべつにわたしに似合ってもいません(笑)。ですが、この気持ちはいまでもすこしも変わっていないのです。この「微笑みに乾杯」がわたしに、しっかりとお別れの仕方を教えてくれたからかもしれません。

別れの予感とバンド終焉の雰囲気満点の中、フルメンバー+シンセで怒涛の間奏があり、その後、ストリングスと軽いドラムだけをバックに「もう涙ふいて歩いてゆこう」と玉置さんが絶叫します。そしてすぐにドドドド……とフルメンバーに戻って、サビを一回だけ繰り返し、そしてフェイドアウトしていきます。よりによってこの曲でフェイドアウト……いや、いいんですけど。また始まったのを、わたしは知っているから。

単に終わりそうな恋愛の曲、として聴くこともできるこの曲(そして、そう聴くほうがずっと自然な曲)は、バンドの崩壊をリアルタイムで演出した曲だ、とわたくしは信じているわけですが、たぶんわたしのアタマがおかしいだけなんでしょう。いいじゃないですか、世の中ひとりくらいこんな聴き方をして勝手に泣いていても。

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