『I Love Youからはじめよう―安全地帯BEST』三曲目、「熱視線」です。
1985年1月リリース、前作「恋の予感」からわずか三か月、アルバム『安全地帯III 抱きしめたい』からは二ヶ月弱です。アルバムからのシングルカットではなく、新曲をリリースしてきました。まあー、アルバムにはシングルカットすべき曲はないように思いますし(いい曲だらけですが、いかんせん渋すぎる)、作戦的には新機軸に移行するのを表明するタイミングとしては絶好だったといえます。
そこから五か月後の6月、次作「悲しみにさよなら」が大ヒット、11月にも「碧い瞳のエリス」もヒット、ヒットしたからというわけではもちろんないんでしょうけど、これにより安全地帯の作風が「熱視線」の基軸からはズレていったように思われます。そうしてこの「熱視線」は、アルバムとアルバムの狭間に取り残されたヒット曲、という位置づけになってしまい、このベストアルバムまで収録されることがなかったわけです。
わたしたちは後からの歴史を見ているわけですからよくわかりますが、この「熱視線」は『安全地帯III』にも『安全地帯IV』にも収録できないように思えます。しいていえば『安全地帯IV』の「こしゃくなTEL」と入れ替えるか、その前後に入れるか……うん、イマイチですね。『安全地帯IV』の完成度を下げるだけのように思われます。これは曲の良しあしとは別のことです。
さて、曲ですが、『安全地帯III』が纏っていた暗さ、シリアスさを打ち破るかのように、明るく、軽快な曲調です。
シンセドラムらしき音色を混ぜたドラムでバシバシとリズムを取り、クリーン気味クランチトーンのギターが細かく短音リフをしばし繰り返したのち一気に曲調を変え、ズムズムと響くベースとドラムに乗せたオーバードライブギターのハモりで、ビープ音のようにわたしたちの胸に警報を与えます。これは危険!前フリなく一気に恋人との距離がゼロになったような切迫感を演出します。
玉置さんのボーカルも最初からトップギアっぽく切迫しています。じわじわと攻めるぜ〜感は微塵もありません。「これっきりなんて決して言わせない……」「これ」って何ですかいきなり!これは曲の前にひと仕事あったわけですが、あまりに速い展開、というかもう展開した後なので、一瞬追いつくのが遅れます。
歌詞が「これっきり」「じれったい」「戻っては」「からっ風」と、すべて促音を同じ位置に用いた言葉を精密にあて、スピード感を演出します。やたら細かい譜割で口数の多い情報量で押し切ろうとするかのような90年代以降のJ-POPとは完全に一線を画すこの職人技!痺れますね〜。
ドコドコッ!……ドコドコッ!……と隙間を大きく空けたベースに、これまた隙間を空け気味のギターが軽快なリズムで舞い、玉置さんのボーカルを浮き立たせます。田中さんのドラムも音色は派手ですが、つとめて無機質に曲を進めてゆく意思を示しているように思われます。
Bメロ、一気にスピードを上げます。いや実際には上がってないんですけど(笑)、リズムを変えてスピードが上がったように聴こえさせるわけです。スッタカスッタカタカタカ!と駆け抜けるドラム、「ボッボッボッボーボッボッ!」と音数を増やすベース、「ピコピコピコピコ〜」と高速下降フレーズを、おそらく矢萩さん武沢さんのお二人が交互に、左右から繰り出すギター、急転直下!と思いきや、一気に上昇フレーズを入れ、まるでスキーのジャンプ台を滑ったかのような感覚に人を誘います。いや、滑ったことないですけど(笑)。そして「ジャッ!ジャッ!ジャッ!」と強烈なキメでK点越えの大ジャンプをかまし、曲はサビになだれ込みます。アレンジとしてはイントロ後半と同じ、スピード感あるスッタカタッタータッタ!スッタカタッタータッタ!という、ダッシュアンドストップをひたすら繰り返す、ハードなトレーニングのような展開になっていてリスナーに息もつかせません。Jリーグ開幕時に誰もが味わった、常に状況が動いていてうっかり目を離すともう点が決まっている、という、CM混じりの野球ナイター中継に慣れ切った観戦様式をぶち壊された感覚に似ています。とにかく油断できないのです。昭和末期、こんなスピード感ある曲はほかに聴いた記憶がありません。次こう来るだろうなーという予定調和によって生まれていたスキを許さない、情け容赦ない展開です。
曲はまたイントロの後半と同じ短い間奏をはさみ、二番に入ります。わたしたちはもう何度も聴いて覚えていますが、初聴ならもう一番なんて覚えていません(笑)。それくらいガクンガクンと頭を揺さぶられています。
サビを終え、曲は間奏に入ります。「キーン……キュワーン〜オオオ〜〜〜〜」というギターの音、アームを使った感じですのでもちろん矢萩さんでしょう、人をやけに不安にさせる効果抜群です。そのままギターソロになだれ込むかと思いきや、何か鍵盤らしき音と「アーア」というコーラスの掛け合い、なんじゃいこれは、身を投げた燃える恋を表現しているのか?熱い視線がつらぬかれた揺れる瞳なのか?とかれなかった乱れ髪なのか?もう心は千々に乱れるばかりです。
曲はBメロ、サビ二回と進み、フェイドアウトしていきます。ライブバージョンですとイントロのフレーズに戻り、カッコよくキメをいれて終わるんですが、わたしはフェイドアウトを良しとしない人間ですので、もちろんライブバージョンが好きですけども、これは好きずきでしょう。次の「悲しみにさよなら」への序章としてはフェイドアウトがいいような気もしますが、当然この曲リリース時には「悲しにさよなら」はまだなかったわけでして、レコード針が中央でグルグル回っておしまいです。
さて、歌詞ですが……なんという物語の感じられない歌詞!歌の初めから最後まで数分の時間があったのに、事態は一ミリも進行していません、あ、いや、松井さんの歌詞はそういうのばっかりなんですが、この曲は特にその傾向が強いように思います。三回ある「踊ろう……」という玉置さんの魅惑的なビブラートは、きっとすべて同じ「踊ろう」であって、三回踊ったわけじゃないんですね。ワンシーンを三通りの言い方で表現していて、すべて同じ瞬間なのです。
下手な嘘をついて戻っては来ないそぶりで背を向けた彼女をひきとめ、じれったいほどの接吻をし、すべてを失くしてもよいという覚悟で消えそうなひとときの夢をみつつ、踊り、抱きしめ、これっきりだなんて言わせない勢いを保ち、これ以上ない熱い視線で彼女の瞳を射る……とまあ、こんなお話、実時間にすると20秒くらいですかね、それを三通りで表現し四分くらいの歌にしてみました、という趣向なわけです。まるで濃縮還元ジュースみたいな話です。原液は濃いんですね、とにかく。濃すぎて飲めません、飲んだらむせます。まあ、そりゃ、他人の色恋感情なんて、モロに共感しちゃったらむせますよ。それだけこの歌はリアルなんです。
そしてこのイントロ、AメロBメロ、サビ、間奏、これだけコロコロ曲調が変わられると、当時のリスナーはかなり忙しい感覚に襲われたというのは上に書いた通りなんですが、新しい時代のロックを示されたようにさえ思われる、まさに画期的なアレンジでした。詞の濃厚さ、展開の速さ複雑さ、それをなんなくさらっと行う演奏の巧さ、そして、これほど奇抜な曲なのに「恋の予感」と入れ違いにオリコン上位に食い込むキャッチーさ、メロディーのよさ……これはまさに傑作です。傑作すぎて特徴が際立ちすぎ、どのアルバムにも入れられなかった、というのが正当な評価でしょう。なんで「熱視線」どのアルバムにも入ってないの?とは思わなかったですね、当時のわたしも。その孤高の立ち位置が自然すぎました。それにライブアルバムで聴けましたから、そんなに寂しくなかったですよ、当時も。安全地帯がこの曲を大切にしているのは伝わってきましたから。
I Love You からはじめよう/安全地帯BEST [ 安全地帯 ] 価格:2,950円 |
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神宮では一日目と二日目ではこの「熱視線」のドラムが違ったのですね。この当時の田中さんは歴戦のスタジオミュージシャンって風格を漂わせてらっしゃいました。とても若者のバンドマンとは思えません。思えば、ボウイの巻き起こしたバンドブームくらいまでは、バンドってどっちかというと渋めの趣味だった気がするんですよね……。ギターってどんなの買ったらいいの?と学年の悪者たちから相談されるようになっていったんですが、お前らみたいなパープーじゃ絶対置物になるからやめとけ!とは言わずに、馴染みの楽器屋さんに貢献してました(笑)。Fender Japanとか買わせてましたよ。
熱視線は、中学校に入り1つ学年が上の放送部の先輩に熱烈な安全地帯ファンの方がいたみたいで、給食の時間にまるまる安全地帯の日もあれば、ボウイ、アーハや尾崎豊の日もありました。
この熱視線を題材として、おそらくその放送部の先輩は美術のポスターの課題に制作されていた事だけを今も覚えているのですが、どんなポスターだったかは忘れてしまいました(笑)
おそらくですが、確か車か何かのコマーシャルソングだったので(オートラマ?)、レーザー的な線が描かれたポスターだったような?記憶があり、ポスターには大きく「熱視線」と入っていました。
また、私は自慢話ばかりするので嫌われてるとおもいますが、神宮球場に観に行った時に、初日でしたが、この熱視線のイントロのドラムが明らかに田中さんがレコードとは違うおかずの入り方をしたので、私はその当時まだ本格的にはトラムを始めていませんでしたが物凄い興奮したことを覚えています。ライヴなのでアドリブで叩いたのだとおもいますが、客席は大盛り上がりでしたし、どういう風に叩いたかを忘れないようにしよう!と中1の坊主は決心したのでした。失礼をしました。(YouTubeに上がってる神宮球場の熱視線は2番のサビの繰り返しが1回少ない。また、イントロも電子ドラム的な感じの始まり方ですが、あれとも違い、私が観た初日の熱視線のイントロのドラムは、田中さんが飾りじゃないのよ涙はのイントロのように、思い切り数を叩いてました)