『安全地帯 アナザー・コレクション』一曲目、「一度だけ」です。ファーストシングル「萠黄色のスナップ」カップリングです。わたくし的には両A面でもよかったんじゃないかなと思うくらい、AB面のクオリティやキャッチーさが接近しているように思えます。
大平さんの音だと思われるやわらかめに叩いたスネアがツツタンタンタン!と響くところから曲ははじまります。オルガン的な音でメロディー、ギターのカッティングとアオリ、ベースが……のちの六土さんからは考えにくいモコモコした音ですね、大平さんのドラムとのコンビネーションでこういう音色にしたのかもしれません。バンド全体のリズムが軽快ですねえ、もちろん後追いのわたくしが初聴したときに感じた安全地帯らしさは皆無です(笑)。なんじゃこりゃ、安全地帯はこんな「ンチャチャッチャッチャーチャチャ!」とかやるバンドじゃねえよ!いや安全地帯なんですが。というわけで、最初の印象はよろしくありませんでした。よーく聴くうちに、矢萩さんのものと思われる深めに歪んだギターによって入れられるアオリ、Bメロサビ裏に入るストローク、ソロ、武沢さんと思われるキラキラした短音フレーズ、六土さんのズシズシと進むベースなどに安全地帯の要素を感じられるようになってきましてからは、まあこんな安全地帯があってもいいよねくらいには思うようになりました。いまはふつうにいい歌です。
思うに、安全地帯には三種類の源泉があるんだと思われます。それは、玉置さん・武沢さんによるオリジナル安全地帯がもっていたフォーク・ポップス、そして安全地帯に加わった玉置さんのお兄さん、武沢さんのお兄さんがもっていたロック、ハードロック、そして六土さん矢萩さん田中さんの六土開正バンドがもっていたハードロック、ブルース、この三要素がくっついたり離れたりしながら、さまざまな要素を初期安全地帯の中に醸成していたのではないでしょうか。だからこそ、デビュー時は玉置さん武沢さん由来のフォーク・ポップステイストの強い「萠黄色のスナップ」やこの「一度だけ」のような曲で勝負をしようとした、しかしうまくいかなかったために今度は六土開正バンドテイストを強くした「オン・マイ・ウェイ」や「ラスベガス・タイフーン」を試してみた、どっちもうまくいかないので、陽水バックバンド色やそれまでに安全地帯の中で実を結びつつあった新機軸のロック・ポップス色の曲として「ワインレッドの心」や「真夜中すぎの恋」を生み出し大ウケけした……こんな仮説を立てることができると思います。なんのことはない、バンドにはよくあることなんです。しばしば解散の原因になる「音楽性の違い」を楽しんで吸収できるかできないかでバンドの器ってものがわかります。安全地帯は五人が五人とも柔軟でスキルが高く音楽を楽しむことに貪欲であったがために、すぐに「音楽性の違い」でもめて解散してしまう尻の青いそこらのバンドとは違って、大きな大きな器に新しい要素をふんだんに取り入れて自分たちのものとしてゆくことができたのだと思います。もちろんわたしのバンドは音楽性の違いなど完全無視!問答無用でゴリッゴリのデモテープを渡して嫌がられてました(笑)。あっはっは。
さて歌はAメロに入りまして、おそらく武沢さんの、透き通る音で奏でられるリズム、いいですねえ。おそらく矢萩さんがギュルル・ギャーン・ピロロロとアオリを入れるのも安全地帯らしいです。初聴時のわたしは一体どこを聴いていたんだ……玉置さんの歌も伸びやかです。歌詞に「雪解け」とか「川下」とか広さを感じさせる要素がありませんが、これは確かに初期安全地帯のもっていた伸びやかさなのでしょう。とことん、シンプルで、もっというと朴訥な、飾り気のないことばで歌われる愛しさには、一種独特の輝きがあります。でもまあ、こりゃ少なくともドカンとは売れないですねえ。陽水さん松井さんの洗練された世界とはかなり異なります。『ラスベガス・タイフーン』で多くの作詞を担当した松尾さんのような80年代ロック・ポップス系の、そつのない感じとも違います。玉置さんは、もともとの安全地帯がもっていたこの伸びやかで純粋な輝きを愛し、自信を持っていたのだと思います。そうですねえ……のちに安全地帯のファンになった人たちがさかのぼって聴いたときに、ああ、こんな感じも素朴で素敵だねえ、と思う人が一定数はいるだろう、くらいのものでしょうから、まだ売れる前の戦略としてはあまり得策とはいえなかったでしょう。「稲妻〜」「この俺を〜」をと、のちの安全地帯では用いられないことばと、そして玉置さんの張り上げた声、これが安全地帯の原形なんだ……とその魅力を感慨深く味わうことができるのは、安全地帯のディープなファンの特権だといえるでしょう。
歌はまたAメロ、「俺はしゃべるの苦手だけど……」これはドキッとする言葉ですね。「ワインレッドの心」以降、安全地帯の人気絶頂期の玉置さんは化粧をしてTVに出て、超絶美声で歌を披露してから、言葉少なにインタビューに答えていたイメージがあります。しゃべるの苦手……ふと、あの頃の玉置さんの表情がちらついていけません。女性に対して奥手とはけっしていえそうもない実績を誇る玉置さんですが、「君になら」と……心を許す相手がいて、その相手とその都度心を通わせていたんだろうなあ、と思えてしまうのです。「忘れてた力」を再び得て、「目を閉じてついておいで」と相手を導くのです。もちろん玉置さんのことですから将来どうなるのかわかったもんじゃないんですが(笑)、とびっきりの愛と音楽とだけは保障されているという喜びがあるに違いありません。
「ンギャッ!ギャッー」とキメを入れて、歌はサビに入ります。未来も永遠も〜と、繰り返されるメロディーや言葉のない、それでいてキャッチーで覚えやすい、不思議で見事なサビです。驚きますよね。ついつい歌ってしまいます。「今は君〜がすべて〜さ〜」と。繰り返す必然性を感じません。これだけで成立します。一貫の見事な寿司のように、二貫ある寿司はしょせん食べ応えが物足りないのだと思い知らされるようです。
間奏は矢萩さんのものと思われる甘い音色のギターソロで、二番へと曲を導きます。気が早いことにもうアウトロの話をしますと(笑)、この曲、一番最後はフェイドアウトで、またギターソロがあります。このアウトロのギターソロが武沢さんなんじゃないかと思うんですよ。音が間奏のソロと違うように聴こえるのです。ツインギターのハードロックバンドによくある手法で、間奏とアウトロでそれぞれがソロを担当するんです。安全地帯でも「ワインレッドの心」をはじめとする様々な曲でそうなっていますよね。もちろんわたしの耳が節穴で全然違っている可能性が一番高いですが(笑)。
歌は二番、危険なカケについてきてと、まるで安全地帯ブレイク前の不安を示唆するかのようなやや痛い歌詞です。「一度だけ」人生をあずけてくれと、ようやくタイトルの意味が分かる箇所に達しました。確かな明日を約束しないのは誠実でありながら、じつは過酷な選択をさらに過酷にしているという、ちょっと気の毒な状況です。ブレイク前の安全地帯がずっとブレイク前で終わる可能性もあったわけですからそんなこと言われても断るに決まってるじゃんと思わなくもないのですが、ワインレッド以降を知っているわたしたちには、それは乗っとけ!と思える有望株に思えます。もちろんそれは当時には誰にもわかることではなかったのですが……。
ちなみに、陽水のバックバンドをつとめたというのは、わたしらアマのバンドマンからすればすごい経歴です。そのあと鳴かず飛ばずで帰郷したとしても、それでもすげえじゃん!よくそこまで行けたなと思います。もちろん玉置さんやメンバーの希望はそこで終わりじゃないですから、不本意にもほどがあったのだと思いますし、その経験をも音楽の肥やしにする執念をもって自分たちの音楽を作り続けたわけですから、さらにとんでもない気力を要したことと思います。そんなダイヤモンドの巨大原石が、ひとつひとつ不純物を取り除き、カットされシェイプされ輝きを増してゆく様を、わたしたちはこうやってあとから時系列順にみてゆくことができるというわけなのです。ですから、曲の一つひとつ、できるなら音の一つひとつ、ずべて味わうように聴いてゆきたいものです。
さて、曲はもういちどこんどはオルガン的な音でメロディーを奏でた間奏、Aメロ(途中まで)を繰り返し、アウトロのソロをろくに聴けないうちに終わってしまいます。途中で切られたAメロはもちろん時間が足りなくて切られたのではなくわざとここで切ってあるのでしょう。「名前をおしえて」「電話もおしえて」と、この歌の頭にシーンが戻るわけです。まだそこなのかい!人生あずけてとか言ってたのに!ではなく、おそらくは出会いの頃を思い出しながら二人が仲を深めてゆくんだ、という演出なのだと思います。「おしえて」ということばとそれをあてたメロディーの組み合わせが思いのほかキャッチーだったからもう一度くっつけて歌の印象を強くしただけという可能性もぬぐい切れませんが(笑)、ここはストーリーがあるものと思いたいですね。
さて、昭和バナシですが、電話をおしえるというのは、極めて重要な恋のステップでした。だって当時LINEないし。でもLINEとちがってイエデンですから、かければ当然お母さんかお父さんが出ます(笑)。ひとりぐらしだと留守電が再生されます。ですから、いまLINE教えるのとはちょっと位置づけが違うんですね。電話番号をもらえても、次に進めるとは限らないわけです。あっ!いま唐突に思いだしてしまいました!わたくし、嫁さん以外の女性のLINE一つも知らないかも!(笑)。クーポン目当てに登録した公式アカウントがズラリ!ごくわずかな種類の仕事で頻繁なやり取りを要する相手がニ三人!わああ寂しい、だれか、君の名前をおしえて!よかったらLINEもおしえて!いや教えないでいいです!だってLINE嫌いだから(笑)。どうしてもってときだけ電話かければいいじゃんと思いますんで、LINEなどいらないのです。正確にはLINEなど必要ないように生きてゆきたいと思う次第であります。そもそもフリック入力あんま得意でないし(おじさん)。
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ブックオフ、たまにしか行かないですが、安全地帯とか玉置浩二たしかに高くなりましたねえ。それだけ売れるってことなんでしょうから喜ばしいのかもわかりませんけども。
クラシックは、一時東ドイツ系の音源が安く出回りましたよね。あれでもういいやって思ったくらいしか聴きません。この季節、die Forelleとか聴きながらムニエルでも食いたいもんですが。
そこマイナーレーベルのクラシックCDが充実してたのだが
呆れるぐらい品揃えも悪くなり惨憺たる状況に変貌してた
他に何か無いかと探してると記憶に無いCDがある
玉置浩二ベスト・ソングス・フォーユーというCD
キツイ、All i Do、I'm dandy、コールの4曲が収録されてる
オリジナルカラオケ4曲入り定価1,500円也
それ1,980円で売るブックオフしかしブックオフでの安全地帯
玉置ソロ作品の価格は高くなった以前は250円コーナーに
普通に置いてあったのに
CDは1秒間74フレームで3:25:70とか業務用機では表示する
アナザーコレクションは全て00で切っている多分このCDも同様だろう
更に「月に濡れた二人Live」とか唐突に出してきたから
キテイの懐事情は相当厳しい状況だった事が伺える