玉置浩二『LOVE SONG BLUE』七曲目「最高でしょ?」です。
「さ〜いこ〜うで〜しょ〜」と多重コーラスの玉置さんボーカルに始まり、裏に鬼のギタートリル!クレジットをみますと玉置さん鈴木さんと……山岸潤史さん?全然存じ上げなかったのですが、YouTUBEでちょっと音を聴いただけでとんでもない人だとわかります。よくこんな人連れてきましたね……鈴木さんとのパート分けは全然わかりませんが……音が最高すぎます。しいていえば、一番AメロBメロの裏は鈴木さん、二番になって山岸さんがカッティングで絡んできているんじゃないかな……ぜんぜん自信ありませんが。ストラトキャスターのフロントピックアップでトーンを絞り、チューブスクリーマーを噛ませたフェンダーツインで鳴らせばこんな音になるんじゃないかな……とは思うんですが、自分でやったら絶対違うんです。というかいまやってみました(笑)。やっぱそもそものレベルが違いすぎです。そんなわけでスーパーいい音のギターを楽しむことができます。そして序盤をボムン……ボムムン……とムードたっぷりにリードし続けるベースは美久月千晴さんです。拓郎やみゆき、明菜ちゃん、このころだと柳ジョージさんや久松史奈さんのベースをお弾きになってた方ですね。玄人好きするベースというか……こんなムーディーなベース弾かれたらボーカル食われちゃいますんで、歌によほど自信がないと呼んじゃダメなベーシストです。
さて歌がいきなり始まってまして、ジャジーでムードたっぷりな演奏に玉置さんがSUNDAY〜と憂鬱な週の前半を歌います。ロシア民謡「一週間」はなんでも二日かけて行いますが(月曜日に蒸し風呂を焚いて火曜に入るとか)、玉置さんは日曜から火曜まで三日も悩んでいます。水曜に一念発起して痴情のもつれを解く決心をして仲直りするのです。そうしたら木曜日は最高でしょ!とルンルン気分になって、金曜夜から土曜はウキウキの逢瀬を思い切り楽しみ、そして週が明けまた日曜(いわゆる「サザエさん症候群」の日)、そして憂鬱な月曜がやってくる、だけど週末たっぷり愛し愛されたから月曜から頑張るさ!というストーリーです。
ものすごいのは、水曜のごめんなさいから始まる怒涛の展開、キーボードが入り、ホーンが入り、とみるみる気分が修復されてゆき、ギターの超ゴキゲンなカッティングが入り、ドラムがハイハット連打から16ビート全開のストローク、その間ずっとホアチョさんのパーカッションが血管の沸き立ちを描き出しと、あっというまに気だるいムーディージャズがビッグバンドによるソウル&ファンクの大合奏に変わってゆくこの曲全体の展開です。なんだこりゃ、こんなの初めて聴いたぞ!もちろん初聴のときなんてわけわからんうちに終わりますから(いま思えば恋愛もそうですねえ)、こんなふうに曲全体をことばで説明できるような冷静さがあるわけもなく、何だいまの!よくわかんないけど一気に盛り上がってササっと引いていったぞ!なんだったんだいまのは……と呆然とするだけでした。
「わがままばかりで本当にごめんなさい」って、玉置さんなら本当にいっちゃいそうですけども、わたしたちは日常生活でここまで簡潔な謝罪の言葉を口にすることがあるでしょうか。いろんな状況説明とか心情の変化とかそういう回りくどい枕を置いてから、だから、申し訳なかった!すまない!って切り札のようにゴテゴテと装飾をつけた謝罪の仕方をするのが通例でしょう。だって謝罪って気まずいじゃないですか(笑)。It's Hard to Say I'm Sorry(シカゴ)です。そんなHardさを克服するのに三日しか要しない玉置さんだからこそ、週単位で恋愛超盛り上がりロードに復活できるわけです。
THURSDAYからキュッキュッキュッキュッ!キュキュキュキュ!と気持ちよすぎるスーパートーンのカッティングが「最高でしょ?」「あーいされてーええ!」のリフレインを下支えして、この何ともいえない気分の高まり、うーむ、まるで恋人に逢うため繁華街に向かうタクシーがネオンの中に入ってきたあたりの気分といいますか、地下鉄駅のトイレで鏡に向かって小さなスプレーボトルの香水を振りかけてよし行くぞと階段を登る気分と言いますか、そういった気分の浮き立ち、ざわめきを搔き立てます。わたくしお金がなかったのでバイクで向かってしまい、ゴメン今日は飲めないわ、さ、乗んなよとかいってしばしば「真夜中すぎの恋」PVでヘルメットを投げ返されるお兄ちゃんみたいになってました(笑)。もちろん80年代じゃありませんでしたから恋人はピンボールなんかやってたわけではありませんでしたけども。90年代半ば、街にはカラオケボックス、ファッションビル、そしてドトールがたくさん出来てきていたのを思いだします。吉野家、立ち食いそば、ゲームセンター、カラオケ、ドトール、マック、たまに地下鉄入口、の永遠繰り返しみたいになっていました。斉藤、桑田、槇原、宮本、香田、たまに木田って感じです。こんなもののどこが面白かったのかよく覚えてませんが、LINEのなかった当時、若者たちはひたすら街で逢い、そして街で遊んで飲み喰い、そして遊び、愛の言葉を交わしたのです。だから街もそれに応えるような施設をひたすら繰り返しで用意していてくれたのでしょう。それにしても、いま思うとなんか安いところばかりだな(笑)。元祖デフレ世代ですから。バブル世代とはふところ事情が違っていたわけです。ですから、元祖バブル世代の玉置さんがこの時代にこういう邂逅をなさっているエリアとはおそらく全然違う場所なんですね、時代だけ一緒です。
さて、デフレエリアで好きともいわれず素直にもなれず、ただただ安いものを消費するわたしら(非モテ)をよそに、「好きなんだよっていわれたら素直に喜んでみせ」るピュアでエネルギッシュな玉置さんのいるバブルエリアでは、裸になったりキスしたりと「最高でしょ?」なワンシーンが起こっていたわけです。当時はこんな混沌とした時代だったといえます。
「ダイヤモンドの気分」という、硬度100のピカピカ、誰にも負ける気のしない最強・有能感で目も手も顔もみんな輝いて力がどんどん湧いてくる状態で、ゴージャスな車でみたバックミラーにはネオンの街、月の砂漠のように静かなオフィスエリアを抜け、海岸通りの街道へ。あたりは暗いですから夜の果てまでふたりきり(な気分)!こうなったらもう止まりません。「ダイヤモンドの気分〜」からはじまる長大なサビは、さらにここで展開を見せて、終わらないサビを続けます。「亜熱帯」「とまんない」「愛したい」「感じたい」「たまんない」と〜「い」を強引に連呼し「世界はパラダイス!」とブレイクしたかと思いきや、またまた「終わんない(ウィスパー)」「愛したい」「ホーリーナイ(ト)」「世界はパラダイス!」と一気に繰り返します。その間ずっとゴキゲンなカッティングと合いの手、パーカッションのアオリが続きます。テンション高すぎ!
息もつかせず間奏、「最高でしょ」「最高でしょ」とリフレイン、まだテンションを落とさず「マリオネットを〜」とBメロを挟み、気分が最高潮に達したことを示唆させます。そして一気にスローな「最高でしょ」にたどり着きます。ああ、こりゃ、気を失ったな(笑)。気がつくとすでにSUNDAY、でも気分は充実感でいっぱい!MONDAYからはまたお別れ、それぞれのウィークデイを過ごすことになりますが、もう一人じゃないから頑張れる、週末これだけ愛を確かめ合ったんだからという気持ちにもなれるってもんです。毎日こんなことやってたら死にますんで、そのくらいのペースでよろしいのではないでしょうか。
しかしまあ、ものすごいテンションで、全力で一気に六分近くを駆け抜ける大曲です。これは演奏する人にもかなりの緊張を強いる曲です。なにしろ単純な繰り返しがほとんどないのに長いのです。達人たちによるジャズのジャムセッションにも似た緊張感が全体を貫いています。この当時の玉置さんがたどり着いた境地をもっともよく表す曲といえるのではないでしょうか。
さて、以前コメント欄にも書いたことがあるのですが、この当時玉置さんはHEY! HEY! HEY!とミュージックフェアに立て続けに出演し、どっちがどっちだったか記憶は確かではありませんがこの「最高でしょ」を「すごくいい曲ができたんです」といって歌ってらっしゃいます。わたくし脳のアップデートが追いついていませんでしたので「えー、これがすごくいい曲?」と思ったのですが、いま聴くとたしかにとんでもない曲です。どうも『夢の都』あたりから、わたくし玉置さんに引っ張ってもらっていた感覚があります。よさのまだわからない曲を次々に出して、ほら早く追いついてこいとおっしゃってくれていたような……もちろんそんなわけあるかって話なんですけど、一回聴いてこれは!とすぐに思えたのは次の『CAFE JAPAN』からでした。そしてまんまとヒットしましたから、この『LOVE SONG BLUE』までは嚙み合わせの悪さというか、リスナーとのズレがこの時期には生じていたのだと思います。ですが、使い捨てのシングルと違ってアルバムってのは残るものですから、こういうふうにだいぶ後から再評価することができます。この曲はこのアルバムを象徴するものであって、参りました玉置さん、当時はぜんぜんわかりませんでした、引っ張ってくれてありがとうございます!と感謝したくなるくらい凄まじい曲だといえるでしょう。
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これをオーケストラで!さては玉置さんシンフォニックでこれをやろうとしてますね。なんとアレンジャー泣かせな(笑)。そうですねえ、わたくしオーケストラの事情はよくわからないのですが、おっしゃるように楽器たくさんありますから、音の厚みとか音圧とかはバッチリだと思います。たぶんですが、オーケストラの方々はクラシックで腕を磨いてきてますから、こういうファンクな曲だとリズムとかスピードとかがいちいち違っていて、どこを強くするとか弱くするとかそういうノリを出して、かつ、玉置さんの歌を前面に出すコツがつかみづらいんじゃないかな……と思います。演奏者も指揮者も。
わたくし若い人に求められてバックナンバーだのBTSだの髭男だの弾くことあったんですが、それはもう、悲惨です。ノリがわからなすぎる!そんな感じに似てるかもしれません。ヨルシカとかは譜面見た瞬間に断りました(笑)。
演奏が難しい曲なんですね。
指揮者の人が、この曲はオーケストラ(のコンサート)でやるのは難しいとインタビューで答えておられましたが、どんな風に難しいのでしょうか?素人の私としては、色んな楽器が使ってあるからオーケストラにぴったりだなと思ってました(^-^)