2022年06月05日
ROOTS
玉置浩二『LOVE SONG BLUE』六曲目「ROOTS」です。
これはいうまでもなく、歌詞だけみるとわけのわからん歌です。それゆえに大傑作です。何が凄いって、リズムと歌の浸透力です。何言ってるのかわからないのに、覚えちゃうんですよ!これはのちの『JUNK LAND』で大成といえる境地にたどり着いたわけなんですけど、『JUNK LAND』にはメッセージ性が強く感じられるのにこの「ROOTS」にはなんのメッセージ性も感じられません。なんだかわかんないけど凄いな!としか言いようのないこのエネルギー!「休む間もなくものすごい勢いで走り続けているが、どこに向かっているのかは誰も分かっていない」とは志田歩さんが『月に濡れたふたり』時代の安全地帯を評したことばですが、この「ROOTS」の玉置さんは、バンドがではなく曲がまさにそんな感じです。エネルギーの無茶苦茶さが何を目指しているのかわからない!わたしたちはアリストテレス以来の目的論にハマりすぎて、もの・ことには、なにか目的がないと落ち着かない、説明をつけたくて仕方ないのかもしれません。このエネルギーは目的などない!あったとしてもそれは神(玉置さん)にしかわかりようがない!今後、今年いっぱい~来年前半くらいはそういうレビューが増えていくことが予想されます。ですから、わたしたちからすれば、500馬力オーバーのスーパーフォーミュラ・ローラFN06くらいのとんでもない車が子どもの送り迎えをやってるような、釈然としないエネルギーを感じてゆくことになるのです。
カツカツと刻まれるリズム、フェードインしてくるキーボードとアコギ、ローファイ加工された玉置さんのカタカナ歌詞の歌……「キヲツケテ」とか、まったく気をつけてほしい気持ちの感じられない不穏な囁きです。なんだこの不均衡!といきなり度肝を抜かれます。「気をつけてくれぐれも」なんてセリフが歌になるという時点でもう驚きですが、こんな胸のざわめく、いかにも事故に遭いそうな音楽にカタカナ歌詞をつけてローファイで囁くなんてありえん!治安の思い切り悪い地区に借金回収に行った帰りかなんかなんじゃないかと思わされます。とても無事に帰れそうにない……。
ドラムのフィルイン、ベース、マラカスのようなパーカッション、そしてのちに湊さんの鋭いドラム、ベース(岡沢さん、なんといういい音!)鈴木さんのギターがドカンと入ってからもあまり事情は変わりません。「野バラや……きれいな花が咲いてた」いやぜんぜんきれいな花って感じじゃないですから!マカロニ刑事を刺す刃がその辺から飛び出してきそうですよ!(「母ちゃん、熱いなぁ……」)「浜辺で愛をかわした」「バナナが大好きだった」と歌詞はめ一杯平和で日常的なんですが、曲だけがとんでもないレベルで不穏です。どうしてくれよう、このアンバランスさ!そして「プロペラ回してブルブルブルブルブルブルブルブル!」のあたりでハタと気がつくのです。あっ!もう歌える!初めて聴いたのに!なぜ?なんだよこれ!全然いい歌だと思わないのに!と。このくらい浸透力が強いのです。
そう、何を隠そうわたくし全然いい歌だと思っておりませんでした。愛の物語を描く歌詞の世界も心をわしづかみにする美麗な旋律もありません。それしか期待してなかった……評価基準がなかったのです。いやもちろん、『太陽』や『カリント工場の煙突の上に』で別の評価軸を育てていたんですけども、それらはいわば従来の応用であって、全く別の評価軸が必要になるなんて、予想もしていなかったのです。ですが、この歌をここまで聞いた時点ですでに心身に叩き込まれていました。五寸釘を頭にガツンと!もうこうなったら玉置さんのノリの虜です。「パラララッパッパパー」です。ノリノリで楽しくて仕方ありません。
「もう傘も用意したのに なかなか雨が降ってこない」って、歌の力で強引に覚えさせられた感がありますが、ガッカリ感が強いですね。世の中には台風が来るとワクワクする人種というのがいるのですが(あちき)、せっかく用意したいろいろなグッズが役立つことなく台風が明後日の方向に進んでいったような感覚です。Singin in the Rain!雨に唄って踊って、最後に緞帳をめくってキャシーが出てくる瞬間を待ちに待って……でも降ってこない……。事情はいろいろでしょうけども、ここでは雨がなんだか楽しいものであるかのような扱いです。
ここで曲は一気にスローになり、「ここへおいで なかよく並んで」というなんだかよくわからない勧誘が歌われます。次いで、「パラララッパッパパー」「進め!」と最高にノリノリなんですが、何をやっているのかはわからない(笑)局面が描かれます。意味や目的なんてなくていい、そんな呪縛はいらない、君と僕、僕と君がずっとふたりで歩んでいけるのなら、それだけで十分だろ?足並み揃えて楽しいじゃんか、それ以上になにがあるっていうのさ!もはや冒頭の「キヲツケテ」は何だったのかさっぱりわかりません。「バナナが大好きだった」少年時代に、君は何をしてたの?なんて、なんで訊いたのかもわかりません。わからなくていいのです。わかろうとするということは、この世界のストーリーを求めるということなのですが、そんなストーリーははじめからなくて、ただ君と僕がいるだけなのです。
ここでブレイク、鈴木さんのやや深めな歪みのすばらしい音色が響き、一気に曲は最後の局面へと進みます。「君に乗りたくなったら」というややきわどい表現もなんのその、ひたすら楽し気なのに気だるそうに、それでいてノリノリというカオスな曲は安全地帯・玉置浩二にありがちな長いアウトロへとなだれ込んでいきます。このアウトロは絶品です。玉置さんのシャウト、楽器陣の鬼気迫る演奏といったら!『JUNK LAND』はほとんど外部ミュージシャンを使わないで作られた世界だったわけですが、この「ROOTS」は一流ミュージシャンたちが渾身の力をこめて作った信じがたい音の津波です。玉置さんがやりたかったことってこれなんじゃないか、それがこの「ROOTS」で実現されていたのを、のちに自分だけでやってみようと思って90年代後半の玉置ソロが作られていったんじゃないか、などと思うわけです。
ところで曲名のROOTSって何のことだろう?と不思議になります。草の根?いやいや自分の音楽ルーツ?それとも……手元のリーダーズ英和辞典にはこうあります。
b.[〈a.〉]ルーツ的な、民族的な〈音楽など〉
音楽ルーツとして玉置さんが自分の中に求めたものが形をとったのがこの曲なんじゃないのか……そういう曲を作りたいという願いをこめて、あるいはそういう曲を作ることができた記念として、この題名を用いたんじゃないか、と思わされるのです。
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