玉置浩二『LOVE SONG BLUE』八曲目、「愛してんじゃない」です。
この曲を含むいくつかの曲にピアノに中西さんが参加されてます。安全地帯時代のミュージシャンはほとんど排してこのアルバムは作られているわけですが(星さんは除く)、中西さんは例外的な立ち位置にあるようです。
さて、この曲「愛してんじゃない」を何度も連呼しますね。その割に意味がよくわからないのです。愛しているわけじゃない(愛していない)、ほらやっぱり愛しているじゃない(愛している)、反語、疑問、いずれともいいがたいわけですから、文脈によって決まるわけですが、まわりの言葉をよく読んでも判別がつきません。後ろに「忘れる」がつく場合は「愛していない、だから忘れる」で、後ろに「会いたい」が続く場合は「愛している、だから会いたい」なんじゃないかなー、とは思いますが、そのいずれともつかぬ混乱し整理のつかない感情を吐き出しているというのが一番似つかわしいように思われます。
エレピと、なにやら笛のような……まあ、笛関連のクレジットはないのでシンセだと思いますが、サスペンス劇場の気まずい結末からエンディングロールに向かうときのようなイントロが始まります。まあ、ドロドロの失恋直後を描いた歌のようですから当然ですが。しかし、かつての「1/2 la moitie」とはかなり異なり、曲がポップでロックです。
ドッドドッドドッドドッド……と骨太なリズム、キレッキレのドラム、ボッキボッキのベース、歪んだギターはリズムを合わせつつ小節ごとに気の利いたフレーズを混ぜ、歌に裏メロを入れます。途中からエレピが高音に入り、ホーンセクション(おそらくシンセ)が合いの手を入れます。うーむ見事!歌謡ショーのようなアレンジなんですが、ロック魂満点のズシズシ感でかなりハードに聴こえます。
「もう……会〜わない〜」と玉置さんが思いつめた声で吐き出します。歌う、でなくて吐き出すといったほうがいいくらいの切実な歌声です。玉置さんはいつだって歌で語るのです。もう会わない、何も言わない、絶望的な決心をして街をどこまでも歩き回り、冬の夜の雨に濡れてゆきます。
もしかしてまだ「愛してんじゃない」?いやそれは忘れる、忘れるんだ。やっぱりまだ「愛してるんじゃない」いや、「愛してなんかいない、いないんだ」「愛してなんかいるものか」……でもまだ「愛しているんじゃない」?……「会いたい」んだ!
なんと壮絶な……愛しているんですね、どうにもこうにも。ドッドドッドドッドドッド……と歩みを進めつつ、思考がグルングルンと同じところを行ったりきたり。愛していない、愛している、愛していない、愛している……もう愛しているんだかいないんだかわかりません。でも最後に「会いたい」と叫ぶのですから、それだけは確かなのです。愛憎の念入り混じるとはまさにこんな感じの心境なのでしょう。おそらくは、ひと冬だけの短いお付き合いだったのでしょうけども(だから花火のようにポーンと打ちあがり、シュワワと落ちていったわけです)、深い深い傷跡を残すほどに愛していたのでしょう。
エコーを交えて愛してんじゃない……ア〜アア〜愛してんじゃない……と叫ぶように絞り出すように繰り返すアウトロ、演奏もここで最高潮に達します。ドッドドッド……ドードードードードードーと、歩み続けていた脚がよろめくようにリズムを変え、また歩み始めます。「1/2 la moitie」がシン!と張り詰めた静けさの中に狂気を秘めた失恋ソングだとすれば、「愛してんじゃない」はひたすらにラウドでアクティブな男の彷徨を描く失恋ソングです。『All I Do』時代のおすましさんはもういないのです。体全体から、心全体の波動を表現しつくすような歌詞とアレンジで、新しい時代の玉置浩二ここにあり、を示す新しい失恋ソングであるといえるでしょう。
[枚数限定][限定盤]LOVE SONG BLUE/玉置浩二[Blu-specCD2][紙ジャケット]【返品種別A】 価格:2,481円 |
【このカテゴリーの最新記事】
-
no image
-
no image
-
no image
-
no image
-
no image
玉置さんの絶叫にも似たこの歌は、何か使命感を感じるほどの非難、嗚咽しながらの必死の制止、避止、忌避ですらあるかのような激しさが貫かれてますねえ。よほど禁断の愛であるようです。ハイ忘れる!忘れた!(わけはない)
『ダメ男に復讐する方法』でしたかね、I've been dating for decades!わたし何十年もデートばっかりしてるのよ!というセリフとその絶望的な表情を思い出します。デートばっかりしてる(結婚にむけて頑張ってきた)のに、とんでもない酷い男に入れあげてるということが判明してしまったときの、あの表情たるや……愛してんじゃない!忘れる!
自分に言い聞かせるっていうか。海外の翻訳された本とか読んでたら、奥さんが旦那さんに、「いつまでもそんな呑気なこと言ってんじゃないよ!」みたいなセリフのが時々出てくるので笑…それのバージョンで。
ほんと、どの意味なのかは文脈で考えても分からないですね。そういう、混乱の気持ちを表現したっていうのは、解説を読んで、そうかも、それもあるかもって思いました。奥深いです…
カール・アンダーソン!わたしがラジオ聴いていた時代によく流れていた人です。いい声だなあ、くらいにしか認識できていませんでしたが、リチャードマークスを聴いていたお子ちゃまには早すぎただけかもわかりません。「夏の夜?夢?のかけら」の人ですよね。思わぬところで玉置→松居→カールとコネクションがあるものです。AORはもう流行る気配がないですが、わたしにとってはAORこそが洋楽でした。懐かしいです。
以前白竜キティからレコード出してましたよ
玉置さんのセルフカバーと言えばブルーに泣いてるがあるが
以前その件について驚いたと書いたが説明不足でしたので補足
玉置浩二に匹敵する洋楽の歌手は故カール・アンダーソンしかいないと思う
カール・アンダーソンはフュージョン系の歌物では有名である
松居和は仕事抜きでもカールと私的に交流があった
自身も作曲家の松居が玉置浩二に依頼してるのだから
安全地帯2辺りを聞いて衝撃を受けたのは想像がつく
玉置さんかつて提供曲はぜんぜん歌ってなかったのに、この頃にすでにこういう曲があったとは!それまた新鮮な驚きです。
で、そのうちリリースになるのかな?と思っていたら、マンガ雑誌の広告に、白竜ニューシングル「愛してんじゃない」とあり、ほう、そうきたか、と。
つまり、タイミング的には、アルバムリリースはその後でしたから、玉置さんによるセルフカバー曲、ということになりますね。
女性的というか弱目の抑え気味に唄う白竜さんとは対照的に、情念のシャウトの玉置さん。それで結果的に、演歌のような有線が似合うような匂いが漂ってしまった、そんな感じに思います。