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『All I Do』三曲目、「1/2 la moitie」です。
「二分の一、半分」?いきなり意味がよくわかりません。laは定冠詞だと思うので、「1/2 the half」ですかね、英語でいうと。フランス語の定冠詞は格変化が非常にささやかですので、何格なのかわかりませんが……わたくしのわからない熟語か何かかもわかりません。意味をご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひお知らせください。とりあえず定冠詞ですので、不特定のでなく、恋人的な、一つのものだったはずなのに別れてしまった片割れ、自分の方をさらに1/2することで心も体もバラバラ……といった意味でラブソング的にムリヤリ解釈したいと思います。「全然違うよ〜」だったら、あっさりぜんぶ崩壊する解釈ですけども。そもそもほんとうにフランス語かどうかもわからないんで、大いにその可能性はあるわけです(笑)。bleueがフランス語の「青」だ!知ってる知ってる!だからフランス語なんだよーとはしゃぎたいのですが、ヨーロッパの言葉を知悉しているわけではありませんので、非常に慎重な態度をいっぺんは取っておかないと安心できないわけです。簡単にいうと一周回ってインテリぶりたいへたれです。
さて、この曲、二曲目に続いてBAnaNAさんがアレンジを担当していますね。いきなり派手なオーケストレーションで泣かせに来たか……こちとら「Friend」とか「To me」とかで慣れてるんだ……よし(泣く)準備はできたカモン!と身構えていると、玉置さんの「ブ…ルゥ…の〜」とボーカルが始まったと思いきや、ドム、ドムムン…とコントラバスっぽいベース音、シャシャン…シャン…とハイハットらしき音、ボーカルとの掛け合いのようなシンセ音がルーズな曲調をリードしはじめ、あ?あり?何か様子が違う?と気が付かされます。
なにしろサビらしき箇所「どーこにー」のあたりが、ぜんぜん泣かせに来ないのですから、反応に困ることこの上ないです。悲痛な叫びなのに、一回目のサビでは「そ、そんなこと言われても……関係ないし……」という気分になるくらいです。しかし、この曲を楽しめないとこのアルバムにはハマりきれませんし、玉置さんがたまに見せる不思議な魅力に気づかないでスルーしちゃうことになるわけです。これは気合いを入れねば!そして「不思議な夜」で垣間見た、BAnaNA×玉置ワールドに引きずり込まれてゆくのです。
まず「bleueの〜」の低音ボーカルが真ん中から聴こえますよね。そして「鏡の〜」で、右に注意を引かれます。この箇所はボーカルにエコーがかかり、まず右からボーカルが聴こえ、真ん中〜左寄りにすぐエコーが聴こえるという仕掛けになっています。これにより、(同じ顔をした)鏡からも声が聴こえてくる、しかもそれが笑い声であるかのような印象が脳裏に叩き込まれるわけです。それが、かつて同じ部屋にいた恋人が一緒に笑ってくれていた日々を思い出させる、という非常にせつない印象を与えるわけです。
こんな気持ちを、「約束」のような軽快なポップスで表現できるなら、それはもうある程度失恋を消化できた頃なのでしょう。しかし、昨日とか先週とかだと、la moitie(片割れ)を喪失した痛みも生々しく、かなりドロドロした気持ちを抱えたまま朝から霧が出ているような日を迎えてしまったら、それこそ頭の中にこの曲のイントロが流れて一気に気分はスーパーブルー、やっとの思いで紡がれることばは少なく、この曲のようにズトン……ズトトン……と、絞り出されるわけです。そう考えたら、なんかこういう曲調でなければ表現できない一面が、そういう心理的事実が、たしかに心の中にあるはず!という気分にもなれるというものです。サビ「どーこにー」の箇所も、そのまま悲痛な叫びであって、「わかるわかるーそういう気分のときってあるよねー」とはいかないものの、これほどまでに失った恋人?を求めるその切実さに、胸を打たれます。しかし、戸惑いますよね……思うに、安全地帯のこれまでの曲は、誰の胸にもある傷、心の中の宝箱といったようなものを主に表現してきたのに対して、この「1/2 la moitie」はかなり痛い思い、まだ新鮮ほやほやの生々しい傷をえぐるような、そういう痛さを知る人もいるだろう、くらいに共感できる人の幅を制限しているかのように思われるのです。
サビらしき叫びから間をまったく置かずに歌は二番に入ります。また右から「bleueの〜」です。「夢を刺」すという珍しいレトリックが用いられていますね。ふつうに考えれば、ふたりで描いていたルンルンの将来構想を破棄するということなんでしょうけども、それを刺すと表現しています。やぶれかぶれになりそうな心をどうにか抑え込んでいるんだけども、どうにも我慢できずに一撃、刃物で切りつけるんじゃなくて、鈍器で砕くのでもなく、刺すんです。原型は残しつつ致命傷を負わせることで、夢への愛おしさと憎しみとを両立させるわけです。
そしてまた悲痛な叫び、今度は「逢いたい」です。リバーブたっぷりに部屋全体に響き渡ったかと思うと、次の「逢いたい」は右チャンネルから、ほとんどリバーブをオフにして生々しく聴かせます。一瞬正気に返ったけどもまだ逢いたいんだと思わせる、なんとも切ない叫びです。リバーブとパンニングでこれだけの演出をするんですから、エンジニアはさぞ苦労したことでしょう。わたくし、これは玉置さん(とBAnaNAさん)が、ソロ活動だからバンドの制約をまったく気にせずに曲を作った結果だと思っております。安全地帯はバンドですからライブの際に立ち位置ってものがありまして、ここまでの演出を求められる曲をレコーディング・演奏すべきか、ちょっと考えてしまうでしょう。もちろん、ライブでも卓で何とかできなくもないですし、そもそもこの曲はベーシストとBAnaNAさえいればできそうではあるんですけども、バンドとしてそういう表現方法をよしとするかは別の話だからです。
「渇きそうで」は、これまた切実です。渇いてしまったらもう元の姿には戻れない……干ししいたけを水で戻してももう元のしいたけには戻らない……アルコール中毒患者に対してスリップ(再飲酒)すると怖いよーと諭すみたいな喩えですが、心の傷だってなかなか深刻なのです。ヨリを戻しても、もうもとのふたりではないんですよね。いろいろ感じたり思ったりするところはあっても、別れを経たカップルは、そうでなかった時代のふたりとでは、何かが違うはずなのです。フランス語だからアベックというべきでしょうか(しつこい)。
さらに「どーこにー」を右チャンネルから繰り返し、堂々巡りのグチャグチャな心情をこれでもかと印象付けます。そして曲は後奏へと続きます。唐突なピアノ、しかもかなり硬質・無機質な音のピアノで、ボーカルラインをなぞり、もう言葉にならない叫びを表現しているかのように響かせます。オクターブで鍵盤をかなり強く叩いたんでしょうか、音が割れているように聴こえるのも、これまた玉置さんの壊れっぷり、ささくれっぷりを思わせます。曲は最後にまた悲しくも美麗なオーケストレーションを入れ、「旧校舎のテーマ」ですかと訊きたくなるような業の深さと強烈な寂しさを感じさせるのです。
うーむ、なんという……「Friend」だって聴くタイミングを間違えたらトラウマ級の破壊力でしたが、この曲は、うっかりどストライクなタイミングに聴いてしまうと、闇の世界に引きずり込まれそうな迫力があります。失恋したばかりの人を癒す気は全くありません。みなさまどうか、この曲を聴くときはタイミングにご注意ください。この曲は凄いですよ!効きますよ!よくない効き方のような気もしますけども!そりゃ人によっては、キリコとかダリの絵を見て失恋の痛みから立ち直るということもあるかもわかりませんので、「個人の感想です」としか言いようがないんですけども。
そんなわけで、壮絶な悲恋ソングでしたというお話だったわけなんですけども、松井さんがじつはこの曲はシャムの双生児をモチーフにしたんだとかつぶやいたらすべて吹っ飛ぶ解釈ですね。当ブログは、玉置&松井コンビなら何でもかんでもラブソングに違いないと根拠なく断定して記事執筆に臨む傾向がありますので、よくよくご注意ください。
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刺身もマグロばっかりずっと食べると飽きてくるから、白身も美味しい、貝も美味しい、大根のツマも美味しい、とやってる感じだと思っていただければと思います。
『安全地帯V』から、こういう曲がポツポツ混ざり始めるんですけど、なんじゃこりゃ、玉置さんネタ切れか才能が枯れたか、とわたくしも思っておりました。でも、そういう曲と一緒にとんでもなくナイスな曲も入っていて泣かせにきますから、ネタも才能も全く切れてないことがわかります。するとこの変な曲は……ワザと作ったのか!むむむ……と、困ったものです。
これ、変わった曲だなーと思って聴いてたんです。正直に言うと、「もっと良い曲作ればいいのに」って。ポップじゃないっていう言葉の意味が合ってるのか分かりませんが、シングルにするような曲じゃないですよね?でもそういう曲こそ解説読んだら面白いです。プロの音楽って感じですね。この曲を楽しめるようなセンスが欲しいです。人それぞれ好みはあるけど、私が好きな曲って、分かりやすいのが多くて(^o^;)