『安全地帯II』六曲目、「…ふたり…」です。
LPではB面の一曲目にあたる曲なんですが、どうしてここで「真夏のマリア」のように景気のいい曲にしなかったのか、少しだけ謎です。
じゃあここを「真夏のマリア」にしたところで、「…ふたり…」は何曲目になるべきでしょうか?
うーーーーん、ないですね。やっぱりここ以外ないのかもしれません。
じゃあ、根本的に入れ替えてみると……A面一曲目はワインレッドにするとして、B面一曲目を「真夜中すぎの恋」、どう考えても「La-La-La」はラストだから、「あなたに」はA面ラストかな……。A面もB面もラストはバラードだから、その直前は勢いのある切なめの曲だ。するとA面は「マスカレード」、B面は「ダンサー」……
なんだ、ごちゃごちゃ考えても、元とあまり変わらないですね(笑)。
そんなわけで、この「…ふたり…」は、置き場所に困る曲ではあるのです。いろいろ考えた末に、「あなたに」の次に置くことにしたのでしょう。しかし、至高のバラード「あなたに」の後続曲として無難な曲、などでは決してありません。かりに「あなたに」がなくとも、それにとって代わるくらいの名曲です。セレッソ大阪でいえば香川君に対する乾君のような立ち位置でしょう。まさにゴールデンコンビです。ワインレッドと真夜中すぎの恋?ああ、あれは東京ヴェルディのフッキとディエゴのようなもので、はじめから役割が違います。「みるものがどこか違う」です。
さてこの曲、ギター二本の複雑なアルペジオのコンビネーションで曲を盛り上げるという、フォーク時代のジャンジャカ弾きのみなさんには、到底真似のできない超絶テクニックを披露しています。
この手法はのちの「風」でも用いられますが、「風」はもうコピーのために聴きとるのが面倒になるほどのレベルに達していまして、コピーするならこの「…ふたり…」に先にトライするのがおすすめです。ほぼ全部八分ですし、二人が同じフレーズを弾いている箇所も多いですから、比較的楽にコピーできるはずです。ただ、ギタリストがコピーに四苦八苦しているようだと、リズム隊はヒマで困ってしまうでしょう。そういう曲です。
「あなたに」がほとんど歌の力だけで成り立つ曲であるとしたら、この曲は、歌の力に加えてギターの力がなければ成り立たない曲といえるでしょう。
安全地帯に限らず、バラードは歌の力が強く出がちで、聴き込みがやや不足気味な方々にも人気がありがちです。このことは、バンドマン的には演奏しててたいして面白くない曲でもあるということです。まあボーカリストには負担が増えるわけですけども。エアロスミスもクライングとかI don't wanna miss a thingとかだとスティーブンばっかり大変なんだけど、観客が聴きたがるから演奏しないわけにいかないなあ……まあ頑張ってよスティーブン、とかいう感じです(笑)。すっかり話がずれましたが、安全地帯は意外に代表曲にバラードが少ない、すくなくともボーカリスト以外がヒマになるバラードは少ないかもしれないですね。「あなたに」「Friend」くらいでしょうか。他バンドに比べて全員の活躍がバンド内で求められる率が高いのかもしれません。
さて華麗なアルペジオ・ショーに載せて、玉置さんの高音ボーカルが冴えます。女性的心理を見透かしたような松井さんの歌詞も見事です、「欲しいと思わせるもの 捜すのがとてもうまい」は、男性にとってはかなりどうでもいいことだと推察されるのですが、男性は女性にしばしばそれを求められて困惑するというシーンがありすぎるわけです(笑)。松井さんは意図的にそれを男女さかさまに書いたのではないでしょうか。男だってこういう心をもっているよ、わかっているよ君の心づかい、という、聴こえないささやきを、玉置さんの歌に忍ばせたのかもしれません。これは破壊力抜群です。
【追記】SaSaさんにお教えいただいたのですが、この詞は男女の恋物語でなく、少年二人の物語だったようなのです!くわしくは、本記事コメントをどうぞ!
安全地帯の歌詞の内容を議論する、などという機会はおそらく一生に一度あるかどうかで、おそらくないまま一生を終えるのでしょうけども(笑)、わたくしはこの歌詞の意味を誰かと話し合ってみたいと願ってきました。しかし、「議論するもんじゃないよ、感じるものだよ」とか言うスットコドッコイはご退場願います、といえるような連中には、とうとう出会えませんでした。議論しようとするわたくしがスットコドッコイなのです。仕方ありません。
圧倒的な「あなたに」の陰に隠れてしまうかと思いきや、負けじと強烈な個性を見せつける、「…ふたり…」はそんな健気な名曲といえるのではないでしょうか。
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BLイメージ……さすがにそれは……いやいや、松井さんのことですから、油断なりません(笑)。まだまだ安全地帯道は長い長い……
ブラッドベリの何かが道を…にインスパイアされた
詞だったとは。
不思議なのはあの話の中の少年たちは、
俺様やんちゃ少年とオタク地味少年の取り合わせで
町にやって来る邪悪なものと対決するていう
サバサバな幼なじみ関係だったので、
松井さんの中でイメージ膨らまされているのかなあ、て、思いました。
まさかのBLイメージ?……イヤイヤ…
安全地帯の演奏だとバリバリのラブソングに
聞こえてしまう私の耳が邪悪なの?
何枚めかのアルバムの、
パレードがやってくる?
あれも恋歌ですが、あっちのほうがブラッドベリ風の
イメージっぽいかもです。
少年シリーズ、たしかにありますね。すぐ思いつくのは「パレードがやってくる」「海と少年」といった『安全地帯V』以降のものですが……『安全地帯III』『安全地帯IV』には該当するものが思いつきませんので、よもや『安全地帯II』にあろうとは……
しかし、松井さんの作詞講座なんてものがあったのですね。ご友人が受講されていたのですね。なんてステキな!
SaSaさんはわたくしの偏見を解放してくださいました。ほんとうにありがとうございます!
さて、『…ふたり…』の詞についてですが、実は以前ちらっと、松井五郎さんがたねあかしをしたことがあります。
それは通信講座の『松井五郎 作詞講座』においてです。
僕の知人が幸運にも受講していましたので、テキストをコピーさせてもらったことがあります。
引用して紹介します。「作品を書く動機」についての項目です。
:以下、松井五郎『BEGIN THE WHITE II TECHNICAL NOTES by GORO MATSUI』(日本音楽センター、発行年不明、14ページ)より引用
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・・・また、偶発的なことばかりを期待していなくても、読書や旅などのように、普通にしていることからでも、何かを感じることはあるはずです。
例えば、かつてレイ・ブラッドベリというSFファンタジー作家の『なにかが道をやってくる』という小説を読んだ時、そのなかに登場するふたりの少年の姿に触発されるものがありました。そこに描かれていた、ちがった個性のふたりの友情の在り方を詞にしたいと思いました。
その思いは、その後に『…ふたり…』という作品になったのです。
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引用ここまで。ということで、「少年同士の友情」を描いたもののようなのです。
安全地帯の路線のなかには「少年シリーズ」があると勝手に思っているのですが、そのはしりといえるかもしれませんね(^_^)