価格:2,427円 |
玉置浩二ソロアルバム第二弾『あこがれ』です。
全曲バラード!安全地帯バラードに飢えていたファンにとっては久しぶりに注ぎまくられる慈愛の雨!もう気のすむまで浴びちゃってください!
……なんですけど、なんというか、ちょっと聴いていくと安全地帯のバラードとはだいぶん趣が違うことに気がつきます。須藤晃さんの詞がかなりの力を持っていることもさることながら、サウンドが安全地帯とは根本から違うのです。なにせ、ふつうのロックバンドの編成で演奏できそうな曲が一曲もありません。シンセ、ストリングス、アコースティックピアノ、ガットギター、ハープ等々、安全地帯ではそもそも演奏できないというか、演奏する筋合いがないといったほうが正確な曲ばかりなのです。『All I Do』の「Only You」「Time」等の路線を発展拡大させたものといえるかもしれません。
すでにWikipediaにも引用されているようなことではあるのですが、『幸せになるために生まれてきたんだから』によると、このアルバムは玉置さんが長年録りためてきたバラードで、仕上がりが遅れているから星さん金子さんが須藤さんを送り込んだ、といういきさつで完成させたものだそうです。長年ってどれくらいなんだろう……何年も経ってたら曲の雰囲気がだいぶ変わってしまうんじゃないかと思いますんでせいぜい『安全地帯V』の後の時期、つまり六から七年くらいじゃないのかな……と思いますが、それにしたってそんな期間を感じさせない見事な統一感あるアルバムとなっています。
松井さんはもうこのころ、一種の「同族嫌悪」に陥っていたそうですから(『幸せになるために生まれてきたんだから』より)、このバラード集に自分の思うクオリティの詞をつけられそうもなくて手を付けられなかったのだとすれば、玉置浩二ソロアルバムを出すべきタイミングに間に合わせるべく須藤さんが起用されたのはよくわかります。ですが、当時のわたしは「須藤晃ってだれ!」です。「ひとりぼっちのエール」で書いた人なんですけど、わたしにとっては突然登場した人です。なにせ尾崎豊よく知りませんでしたし。
余談なんですが、この『あこがれ』リリースの一年近く前に尾崎豊は亡くなっています。毎朝毎朝、ワイドショーは尾崎のことばかりでした。その歌は私の世代の少年たちを熱狂・陶酔させ、多くの少年少女の心を支えていたのでした。わたくしはといえば、なんと「十五の夜」すら知らないありさまで(笑)、へー、尾崎豊ってこういう歌うたうひとだったんだ、と、ワイドショーで知ったのでした。だってハードロック馬鹿なんだもん!そんな馬鹿が想像できることではなかったのですが、尾崎の死によってKlaxonのメンバーはそれぞれの道を歩むことになり、須藤さんもまた心に大きな穴を抱え、そして安全地帯を失った玉置さんと出会うことになったのでした。いいとか悪いとかではなく、人と人とがこのようにして出会ったのです。
ブックレットには、玉置さんの詩がいくつかおさめられ、モノクロの美しい写真たちと見事なコンビネーションで、感動的な芸術性を醸し出しています。そしてなにより玉置さん、なにやら飾り気のない服を着て、髪もセットしたのかしてないのか、自転車などこいで、一気に普段着って感じの玉置さんを思い切り前面に出しています。「精神性を求めた」(『幸せになるために生まれてきたんだから』より)以上、よそ行きの恰好などいらぬ!という潔さが感じられます。
さて、恒例の、一曲ずつの短いご紹介を。
1.「あこがれ」:ピアノとストリングスによる壮大なインストゥルメンタルです。
2.「ロマン」:アツアツの愛を究極ロマンチックに歌い上げます。
3.「砂の街」:軽快なコードストロークのピアノを伴奏に失われた恋を歌います。
4.「終わらない夏」:シンセの伴奏で歌われる…夏で終わらなかった恋ですね、先が思いやられます(笑)。
5.「アリア」:失われた愛をどうしても振り切れない切なさをピアノの伴奏で歌います。
6.「コール」:映画「ナースコール」テーマとなったシングル曲です。スケールはアルバム中随一でしょう。
7.「遠泳」:ピアノとストリングスの伴奏で……説明するのも憚られる生々しさアツアツさです(笑)。
8.「瞳の中の虹」:シンセとガットギターの伴奏による望郷バラードです。
9.「僕は泣いてる」:ピアノとストリングスの伴奏で、男の愛の嘆きが歌われます。
10.「大切な時間」:玉置さん作詞の短い弾き語りと、それに続く「あこがれ」のテーマをさらに厚いストリングスでリプライズさせアルバムを閉じます。
なんか「ピアノ」とか「ストリングス」とか「愛」とか「恋」とかばっかなんですけど!ああ、せめて三十代のときにこのアルバムを紹介しておくべきだった!もちろんあとのカーニバル!書いていてやや気恥ずかしくなること請け合いのアルバムなのですが、もちろんそんなことは事前にわかっておりましたし、ある意味得意技でもありますので(笑)、張り切っていきたいと思います!もちろんこのアルバム初聴時は十代の少年だったわけですから、なんだかずいぶん背伸びをしていたんだなーと思わなくもありません。ですが、わたくしの心にいちばんこのアルバムが響いたのも十代〜二十代前半だったのです。一時期もう、こればっか聴いてました。いま思っても当時のわたくしに似合ってなどおりません。相変わらずギターだのベースだのでヘビメタを練習してスタジオに通う日々でしたが、就寝時にはこの『あこがれ』を聴いてしまうのです。そうやって心のバランスを保っていたのかもしれません。もちろん、このアルバムが似合うようなドラマチック大恋愛をしていてリアルタイムで共感しまくっていたとかそういうことでは全然ありません、このアルバムを聴きながら一人で寝るのです(笑)。
さて、次回から曲を一つずつ語ってまいります。『太陽』を書き上げてしばらく休もうかと思わなくもなかったのですが、それで年単位で休んだ前科がありますから、なるべく休まないでいこうと思う次第であります!
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歌詞がなかなか書けなかったことといい、時間をかけて作られた貴重なアルバム、大事に聴こうと思います。
たまたまコメント欄を拝見してたら、歌入れに1年もかけたとのこと。以前志田さんのインタビュー記事を読んだときに、アルバム「スペード」の歌の収録は迷いもなくされているイメージだったので意外や意外です。歌はさらっと入れられたという先入観で「あこがれ」を聴いていたのですが、今はなんだか畏れ多くてさらにじっくり聴いています。
歌入れの際、何に納得されずに1年もかけたのかも知りたくなります。
わたしはバナナとの作品案外好きなんですが、おっしゃるようにあれは安全地帯の作品というより別働隊の成果というべきだと思えます。玉置さんが脱皮するのにはぜひ必要なプロセスなんですが、メンバーからすればしょうがねえなあ浩二は、ハマると周り見えないんだもん、って感じだったんじゃないかと思います。
プロデュースしたバンドのボーカルとデキ婚!なんというか……反則技のようでそうでないのかもしれないギリギリのラインかも!予備校講師と大学に合格した受講生みたいな(笑)。
藤井さんは、桑田さんの初ソロや、布袋さんのギタリズムのイメージがあり、玉置さんのソロにどう絡むのか楽しみでしたが、発売に至らず、残念でした。
安全地帯のサウンドデザインが、玉置さんと川島さんだけでも成立し始めてしまった(でも僕は未だに「夢のポケット」や「微笑みに乾杯」を安全地帯による曲としては捉えられない)のが、藤井さんとの作業で、玉置さんの楽曲が、また違った世界に導かれていったのなら、それは興味も湧いたと思います。
余談ですが、大平さんプロデュースのCECILの1stは素晴らしい作品でしたが、その後、全く活動しなくなった理由が、ボーカルゆきちとのデキ婚だった(との噂)と知った時は、まぁ、ガッカリしました。
すみません。長々とと失礼致しました。
https://rittor-music.jp/column/melodist/24011
こんな記事を見つけまして、金子さんのアシスタントって感じだったようですね。このアルバムで玉置さんはひたすら歌入れを一年くらいしていると、おかげでまた新しいことを知ることができました……うーむ十曲の歌入れに一年!いまなんかアマは歌入れは一曲一日でやってしまって、あとはPC上で切り貼りとかピッチ補正とかシコシコやってるのに……あー玉置さんのレコーディング立ち合いたい!
「あの頃へ」と「ひとりぼっちのエール」は、わたくしも当時18−19歳とかですが、あんまり響かなかったですね。いまでこそいい曲に思えるんですが、『太陽』より明らかにテンションが落ちてるように感じられたのです。若かったし、リアルタイムだったから、敏感に何か(思い込み的なもの)を受信したのかもしれません。
コメント欄で教えていただいてうっすら思いだした『1990』ですが、藤井さんときくと『CAFE JAPAN』がパッと浮かびますし、あのころのシングル「I'm Dandy」とか「キ・ツ・イ」とかの傾向を考えますと、『CAFE JAPAN』みたいなバラエティー豊かなおもちゃ箱的アルバムになっていたんじゃないかなーと思います。実際には、おっしゃるように『太陽』に流用された曲(ズバリ「太陽」だったかも!)もあったでしょうから、仕上がりの印象はなんとも想像つかないですね。とんでもないアルバムだったのは確かでしょう。
ジャケットは、まあ90年代前半って感じしますね。チャゲアスとかB'zとか、TSUTAYAに並んでいるところしか見たことないですが、あの頃の空気感が……Nikon F801とかで撮ったんでしょうね。
今だからこそ、このアルバムの価値、意味、味わいに気がつけますが、19歳くらいでしたから、やはりわからなかったんだろうな。
加えて、藤井丈司さんが制作に参加の「1990」という完成されず発売されなかった幻のソロ2作目が、もし発売されていたら、どうなっていたのかなぁ、という思いもありました。それが発売されず、安全地帯としての活動再開してしまったわけで。「VIII 太陽」の「太陽」に忽然と藤井さんがクレジットされているので、それはソロ楽曲にもなり得たのかな、と、想像を膨らませていた末に、全編バラードのアルバムでしたから、まぁ、なんとも複雑でした。
ジャケットも、当時のCHAGE&ASKAやB'zっぼくて。時代に合わせていたのでしょうか。
ちなみにアルバム「あこがれ」は、既にバンド「ザ・レッズ」解散後の大平太一が、ディレクターにクレジットされていて驚きましたが、特に作用はなかったようで。
このアルバムでの須藤さんの詞はちょっと忘れられないですね。詞が強くて、生活の端々に思い浮かんでしまうほどです。ちょっと聴きすぎたのかもしれません、このアルバムを。
玉置浩二を任せられるのは須藤さんしかいないと白羽の矢が立ったのだろうと思う
キティの多賀さんと同じく文学青年で詩人になりたかったというから
言葉に対しての拘りは半端ではない
あこがれを発表する前に玉置さんにとって重大な事があります
大好きな五木さんに楽曲を3曲提供したアルバム「五木」92年10月発売
「終着駅」、「外灯」、「求婚」 終着駅はシングルカット
「外灯」は愛人が相手の自宅前に車を停めて自殺する衝撃的な内容
吉田拓郎も提供してて「時のせせらぎ」と「孤独な女」も傑作
離婚した石橋貴明にも「時のせせらぎ」を是非聞いてもらいたい