2021年08月14日
砂の街
価格:2,390円 |
玉置浩二『あこがれ』二曲目、「砂の街」です。
あちこちの方向から聴こえるパーカッション(クレジットをみると玉置さんによるもの)、軽快なピアノのコードストロークと口笛ではじまり、前曲「ロマン」の雰囲気から一変、川島さんのシンセベース(コントラバスみたいな音です)でジャズっぽいリズムを心地よく感じられる曲になっています。
軽快で心地よい……と思っていたら、歌がやけに深刻で、聴くとだんだん寂しい気持ちになってきます。そんなこと言ったらこのアルバム全部そうでして、基本ボーカルと歌詞の力で無暗ヤタラにさみしいのです。
歌はAメロ、ささやくように歌われる星空と三日月で、夜空を想起させます。
続けてAメロ、はやくもタイトル「砂の街」の謎を解く「人波の海」という都会を暗示させる言葉が登場します。街ゆく群衆を「人波」と表現する手法はごくごく一般的なのですが、そこでふたりで「砂に溺れ」てゆく感覚というのは新しい角度から都会をとらえた表現であるように思われます。普通に考えればコンクリートジャングルを「砂の街」と言い換えたものでしょう。コンクリートは砂ですから、都会は巨大な砂細工の集合体なのです。そもそもコンクリート「ジャングル」の中を人「波」が行き交うって、森と海が混ざっていて変な表現といや変な表現なのですから、ここは須藤さんの表現こそが正しい!と、いま歌詞を見ていて気付いただけで、玉置さんのササヤキ唱法の説得力に圧倒されていままで全く気付いておりませんでした。
ストリングスが入って、曲はBメロ、このストリングスがもう、砂の街に吹いた風、下手すれば次元を超越させて時間的にも空間的にも恋人を遠くへ連れ去るような旋律で、突然ひとを強烈な寂しさに閉じ込めてきます。玉置さんは囁きから朗々とした歌唱に徐々に切り替え、自分が取り残され消えた恋人を探すという、これまた強烈に寂しい歌を聴かせてくれます。この急転直下な落差が演出する緩急たるや!さっきまですがりあっていたのに!
すぐさま二番に入って、今度会えたら「暖かい街」で暮らしたいなどと、いまは別れたまま会えていない状況を示唆します。濡れた肩をかばう夏とか、マロニエが凍る冬とか、なんだそれ!切なすぎるだろう、いま「ぼく」がいる、三日月を抱いた砂の街というアラビアのロレンスを思わせるような殺風景でドライなロケーションで思いだすには、しっとりしすぎなのです。自分の肩を犠牲にして濡らしながら恋人のほうに傘を傾けて雨や汗で濡れてしまった肩をこれ以上濡らさないように歩いたとか、生命力あふれるマロニエが実を落とし冬を耐える森林を散策したとか……たった二行でどれだけ愛おしかったかがわかる、凄まじい歌詞と歌唱です。それが厚めのストリングスで記憶をよぎったり離れたりと、もう翻弄しまくりなのです。
Bメロ、誓いだと思っていた誓いは、実は風の気まぐれで誓いの形をしていただけだった、また風でほどけるようなものだった……それに気がついて、それ以来ぼくの時間は止まったまま……こりゃ、フラれて逃げられましたね(笑)、簡単にいうと。こういうことは割と起こるのですが、逃げようとする力のほうがそれを留めようとする力よりも圧倒的に強いですから、人はほぼ無力と知りつつも誓いを立てるのでしょう。その誓いさえも一陣の風で無効になる、「ほどけて」しまうような、中途半端な結い方でしかなかったわけです。もう、半田付けでもしておけばよかったのに(笑)。でも、そんなきつい結着は望まなかったふたりでしたから、仕方がないのです。
そしてイントロのフレーズを繰り返し……正確には玉置さんによるボイスパーカッション的な歌ともいえぬ歌が加えられているんですけども、これが言葉にならぬ寂しさもどかしさを表現しているように思えます。そしてトロンボーンのソロが入りましてワンフレーズだけのサビというか大サビというかを挟んで、すぐさまトロンボーンと玉置さんの慟哭シャウト連発の競演で曲は閉じられていきます。失われた恋人を求めていつまでも探すその胸中を示す玉置さんの言葉にならぬ声と、その声が響く夜の街、それは実は砂漠同然の、虚飾に満ちた楼閣なんですけども、それをみつめる砂の星である月の光のような暖かくもどこか冷たい、不思議な透明感あるトロンボーンが響き渡ります。
前曲「ロマン」ですっかり圧倒されていたわたくし、この曲は箸休め程度の小曲かなと最初は受け流す態勢に入っていたんですが、そうはさせてくれないとんでもない歌でした。何だいまの!って感じです。当時のわたくし、こういう一発KO級の切ないソング二連発というのはくらった経験があまりなく、っていまもあんまりないんですが、呆然としたままさらに「終わらない夏」に突入せざるを得ませんでした。寿司でいうとトロ、ヒラメ、アワビと出された感じです。ちょっと待ていまガリ食って茶を飲むから!そうとんでもないネタを連続で出されちゃ舌も追いつかないし第一フトコロが心配でいけねえよ!縁あってススキノの高級寿司店のカウンターに座っておまかせ一人前を食べたときの旨さと肝の冷える思いを思いだします(笑)。
こういう曲がほんとうの意味で沁みるお年頃ではまだまだなかったのですが、そんな気分で街を歩きたくなってしまうお年頃ではありました。いまでも、帰り道に三日月が浮かんでいるとこの曲がアタマに流れてしまい自分がすこし可笑しくなりますね。
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