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安全地帯・玉置浩二の音楽を語るブログ、管理人のトバです。安全地帯・玉置浩二の音楽こそが至高!と信じ続けて四十年くらい経ちました。よくそんなに信じられるものだと、自分でも驚きです。
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2021年08月19日

終わらない夏

あこがれ [ 玉置浩二 ]

価格:2,433円
(2021/8/16 13:07時点)
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玉置浩二『あこがれ』四曲目、「終わらない夏」です。

セミが鳴いています。でも気温はすっかり下がりました。ついこの前まで暑かったのにいまやすっかり夏の終りを感じる季節です。さてこの時期にこの曲のレビューを書けたらいいなあと思っていたタイミングにうまくはまりました。夏とはすなわち恋の季節……この曲では、暦の上では夏は終わっていても、恋のほうが終わらないまま続いてしまったというか、終わらないならハッピーじゃんと思いつつそんなにハッピーじゃない感じで続いてしまった苦しさが歌われます。なんだとこの贅沢な!わたくしなんかこの夏も何もなかったぞ!(何かあったらおじさん困るんですが)。「もうそろそろ終わりにしようか、夏も終わるし」「え?それってどういうこと?」「夏の恋には夏でお別れするのさ。それがルールだろ?」「……」これは、昭和末期〜平成初期にマンガとかドラマとかで行われていたナウなヤングのやりとりですが、実際にこんなことが起こっていたのかどうかはあいにくわかりません。いや、マンガとかドラマのマネをしようとしても気持ちが割り切れず、刺されるか結婚するかを選ぶことになった御仁はそこそこの割合でいらしたのではないでしょうか。あれから四半世紀以上が過ぎ、そうした(元)恋人たちが現在いまどうなっているのかはわたくし寡聞にして知りません。わたくしですか?わたくし、「風雲たけし城」とか「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ」とかをみてゲラゲラ笑っていたお年頃でしたから、もちろんよくわかりません。なんというか、「あすなろ白書」とか「ロングバケーション」とかの平成トレンディー世界に生きようとする人と、「ビートたけしのスポーツ大将」とか「巨泉のクイズダービー」とかの昭和ゴールデン世界にとどまろうとする人が混然一体とまじりあっていて、カオスな時代だったように思います。だから、わたしにとって基本的に「あっち側」の世界の話なんですねー。

さてイントロ、イントロでのポール・エリスさんのシンセサイザー、すごく思い切った音作りに思えます。アタックとかベロシティー設定とかあまり考えなくても、この音ができた時点で勝ち!な凄まじい音色です。シンセサイザーはわたくしも最近さわるようになったんですが、音作りの自由度が高すぎてついついプリセットに頼りがちです。や、これいいですよ、ラクだし。そんなものに頼っているから、30年近く前のこのポール・エリスさんのような音を作れる気はまったくしません。

キラキラキラ……ボワーホワワワーと重ねてきたシンセの音が弱くなり「ホワー」だけになって、玉置さんの「丘の上……」がはじまります。一瞬アグネスか!と思わせる歌詞ですが、そんなほのぼのしたものじゃありませんでした。いや、あれも「涙がこぼれそう」ではあるんですが、玉置さんのほうはそれどころじゃありませんでした。何やら大変な運命に巻き込まれようとしています。大変なっていったって、まあ、色恋沙汰なんですけども。

キラキラ音のアルペジオとともに再度「丘の上……」これは、実際に丘の上にいたのかどうかまではわかりませんが、心象風景としてそうなのでしょう。蝉時雨ばかりが聴こえて、松尾芭蕉の「最上川」のようにひどく静かです。緑の丘に白い歯のコントラストも鮮やかな美しい瞳をもつ女性と恋に落ち、そしてあっさりと想いを遂げます。これは仕組まれています(笑)。傍からみれば明らかなんですが夢中になっていると気がつかないものでして、家で扇風機浴びながらアイス食って「お笑い漫画道場」でゲラゲラ笑っていたほうが平和なんですが、人によってはそうはいかないんですね。どうしてもこういう愛の罠に堕ちてゆく果報者がいるわけです。仕組まれていたとあとから気がついて「僕を汚した」という、一瞬ドキッとするような被害者モードのことばを用いるのです。

仕組まれていたとして、そしてそれをあとから知ったとして、気持ちがすっかりダウン、ドン引きモードに入る人があってもいいでしょう。その一方で、べつに出会いは何でもいいや、そのあとどのようなプロセスをたどったか、そこで何を感じたかが全てだ、という割り切る御仁もあってよいでしょう。この歌での玉置さんは、その中間だったと考えられます。

「まだ」と声が大きく響き歌は最初のサビに入ります。ピアノ的な音がアオリに入り(なんていい音だ……生ピアノでない音にこんなに惹かれるとは不覚……)、終わらない夏、すなわち、出会いの美しさと甘さに溺れた夏の後で、その裏に隠された思惑の間で揺れる季節が訪れたわけです。夏には「君が一番美しかった」のですから、いまは一番ではないわけですね、少なくとも。二番でしょうか(笑)。

曲は二番に入りまして、シンセの音が厚くなり、揺れ動く季節は続きます。場面はまた「丘の上」、「甘くかすれた声」が「僕を突き刺」します。これは何を意味するのか?ちょっと考えれば「終わりにしましょ」的な内容ですよね(太陽も凍ってますから)。でも、そのあとの展開がドロドロ感がありますので、ここでかなり粘ってしまったのでしょう。いや、そりゃ粘ると思いますけど、ストーカー的な粘りはぜひ避けたいところです(笑)。そういやこの当時はまだストーカーとか付きまといとか、そういう事例はもちろんかなりあったものと思われますが、とりたてて大問題扱いはされてなかったように思います。テキトーでおおらかな時代だったというべきか、むき出しのサバイバルで怖い時代だったというべきか、なんとも判断に困るところではあるのですが、それが日常でしたのでそういうものだと思って暮らしていました。「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ」の探偵コントでは、しばしば何者かに付きまとわれている女性のボディガードを二人が引き受けて、女性の家に寝泊まりし、二人がスケベ根性を出してすべてがメチャクチャになるという筋書きがあったものですが、まあ、探偵が活躍する領域ですから逆にいうと警察は動かない領域だったわけでして、「怖いよねー」くらいの扱いでした。

サビに入りまして、打楽器系の音がズシン!ズシン!と胸をうちます。叫ばれた「まだ終わらない」ものはここでは「夢」で、「夏」ではありません。その「夢」とは、突如終わりを告げられると「色をなく」すようなもので、しかもその色が愛を彩っていたようで、色がなくなったために愛の形がぼやけてしまうのです。きっと愛の輪郭さえも形どるほどの夢だったのでしょう……気の毒に……「ヤイ、なにを軽口叩いたんだか知らないけど、いや想像はつくけど(笑)、彼は真剣だったんだぞ!」「あら、そう?(しょうがないじゃない、気が変わったんだもの)」、という不毛なクレームとその対応は想像するだに野暮でムダです。ですが一方的にダメージをくらっただけですので、落とし前をつけてもらいたい気持ちはよくわかります。わかりますが、ダメでしょうねえ。

そして間奏……ズシン!……カシ!という音数の少ない打楽器、シンセベースがドーン!ドンドンドーン!と老獪に響き、フワーキュワー(シュワワワとディレイ成分多いリバーブを利かせていますね)という高音部シンセが、これまた音数少なく組み合わされ、言ってみればおそろしくシンプルに、愛の季節とその終りの季節の狭間をさまよう情景を描写します。なんでしょう、わたくし、徹底的に「こっち側」、つまりこういう悲しみとは無縁な世界の人間、車だん吉とかで大笑いしてるだけの平和な人間のつもりなんですが、泣けてきそうです、こんなシンプルなアレンジで……ひとえに玉置さんの作曲能力と須藤さんの物語の強さとポール・エリスさんの手腕によるものなのですが、「こっち側」の人間さえ「あっち側」にトリップさせるんじゃないかってくらい強烈なパワーをもって胸に迫ってきます。ありもしない夏の思い出をムリヤリつなぎ合わせてひとつの悲恋物語を紡ぎだしたくなるほどです。

そしてサビが二回繰り返されます。「終わらない夏」と「終わらない夢」、どちらもその無念さに心を打たれます。愛の鎖を巻きつける情念の深さと強さ、そして、何も見えなくなり、「愛の運命」に倒れる……具体的に何があったのかを想像して語ると、たぶんメチャクチャな野暮さとヤバさでしょう(笑)。これは、当たり前のように修羅場と、その果ての徹底的な消耗があったのです。しかし、陶酔させる力が最高度の須藤さんの筆力と玉置さんの歌により、なんだかとても美しいことが起こったんじゃないかと思えてくるのですから、これはとんでもない曲だといわなければならないでしょう。

余談ですが、サビの末尾に入れられているピアノの低音アルペジオ、これ、わたくしにこびりついておりまして、編曲の際に気がつくとこのようなフレーズを入れてしまっています。今回この曲をレビューするにあたって聴きなおし、気がつきました。ああ!これだったのか!元ネタ(パクリ元)は!イヤハヤ……若い時代に聴いた音楽はこういうふうに、よく言えば血や肉になっている、悪くいえばパクリのネタ帳になっているものです。最後に「シュワー!」と終わるパターンまで使っていました(笑)。

そして松井さんの信奉者であったわたくし、須藤さんをもともと知りませんでしたので警戒していたわけですが、この曲の歌詞を覚えたい!と強烈に思い、「夏」と「夢」をしばしば間違いながら覚えました。そして須藤さんによる物語世界のトリコになっていったのです。こうやって人はいろいろなものに惹かれながら成長してゆくのでしょう。いまもって歌詞は全然書けませんので、血や肉にはなっておりませんが、もし歌詞を書いていたら松井ネタ須藤ネタをメチャクチャに使いまくったとんでもないパクリ歌詞を書くものと思われます。

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posted by toba2016 at 10:51| Comment(2) | TrackBack(0) | あこがれ
この記事へのコメント
夏で思い出すのはこのアルバムと次のカリント工場ですねえ。2ストローク用オイルのニオイと玉置さんの音楽、錆びた弦に踏み古したKORGのエフェクター、そしてコンビニのドライカレー、缶コーヒー、そんなのばかり身の周りにありました。どれももう売ってないですが、玉置さんの音楽だけはずっとあります。まだまだ終わらない夏ですねえ。

自然体験ツアー面白そうですね。札幌の住宅地だと毎日がそんな感じでしたが(笑)、わたしらの世代ですよね、カブト虫が動かなくなったら電池を替えようとしたとか、トマトが工場でできてると思ってるとか言われてた時代の子どもは。都会は怖いなあ(笑)。
Posted by トバ at 2023年05月22日 08:40
すかさず。

あの夏を追いかけていたら
終わらない夏だったみたいな。

この曲にひょっとして来るのでは?と予想した方が、もしもいましたら絶対安全地帯好きな方に違いありません笑

この曲の夏は、
私個人的な感想になってしまいますが、
小学校の高学年の3年間の夏休み中に、毎年何故かうちの親の教育の一環で、東武トラベルの自然教室の合宿へ兄弟だけで参加させてもらいまして、その時の暑い夏休みの最中に、全くの初対面のほぼ同学年の友達が集まった時の事を、私個人的にこの曲を聴く度によく思い出してました。

お風呂場の窓を開けるとデカい岩があって、その岩にすんごい大きなガマガエルが居たこととか、朝早く毎朝起きてジョギング、ラジオ体操した事とかが、何故か終わらない夏とつながっているのが自分でも不思議です。

このアルバムも既に30年が過ぎてます。

夏が過ぎ、風あざみ(井上陽水 少年時代に乗せて)

以上、夏が来れば思い出すでした。



Posted by よし at 2023年05月21日 23:24
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