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玉置浩二『あこがれ』五曲目、「アリア」です。
清水一登さんのピアノ重ね録り、金子飛鳥Groupのストリングスによる演奏で歌われる、シットリ曲だらけのこのアルバム中においても際立つシットリ曲です。
清水さんのピアノは基本エレピで、サビに混じる鋭い音がアコースティックピアノ……だと思うんですが、なにせわたくしの耳ですからあてにはなりません。そして、二番サビ以降にストリングスが入るという、まことにシンプルな編曲です。あ、いや、わたくしがPC上でやればシンプルってだけで、実際には何パートもの人たちが何度も試行錯誤しながらレコーディングしてるんですから、軽々しくシンプルなんて言えるようなものではないんですけども。でもまあ、シンプルですね。で、玉置さんの歌がいっそう凄みをダイレクトに響かせるわけです。
まずこの「アリア」というタイトルですが、わたくしの理解では抒情的な独唱曲をさします。つまり、玉置さんの歌はほとんどぜんぶアリアなわけでして(笑)、わざわざタイトルを「アリア」にしたのはなぜだろうと余計なことを考えさせられます。玉置さんが「アリア」を歌うとこうなるんだぜ!という意味ではおそらくなく、ひとりで歌う、つまり精神的に孤独を抱え、その孤独を歌い上げる……やっぱりいつものことじゃんという気がしなくもないんですが(笑)、この歌の歌詞は明らかに失われた恋人をしのんでいる物語であるだけでなく、バンドが崩壊したあとで、いや、おそらくは崩壊しつつあるなかで収録されたこの歌は、玉置さんだけがひとりそこに立ち、ただ歌うことから始めなければならなかった運命を示唆しているように思えるのです。
……ですから、安全地帯を忘れようとした、崩壊を受け止めて、未練なく前に進もうとした……それでもあきらめず、いつかまたバンドをみんなでできるんだと信じていた……一人で活動を続ける中、ふとスタジオを覗くとそこに安全地帯とスタッフのみんながいるんじゃないか……そんな悲しい幻を無人のスタジオにみてしまう……こんなふうにも聴こえるんです。これは病気です(笑)。ふつうに、失われた恋人を歌う歌だと思いますよ!
この三回ある「忘れようとした」の「ーんわ!すれー」、絶品ですよね。ひらがなで書くとマヌケですが。そして「必ず」と「悲しい」の「かな」も絶品です。どうしてこんな歌い方ができるのか……泣いているってわかるじゃないですか。もちろん泣きながら歌ってなどいないんでしょうけども、そういう心情を表現している、というか、表現しようとしているんじゃなくてそのまま泣いてるんだ!としか聴こえない、ものすごいリアルさです。ここはもっと泣いている感を出して!とかわけのわからない指示を出す音楽インストラクターをひとふしで黙らせるほどの、ほとんど暴力に近いレベルの表現力です。
曲はサビに入りまして、というかもう前後メチャクチャに語ってますんでいまさらなんですが、「あなたはいる」「あなたを見る」「あなたはいる」って、どれも切なすぎます。だっていないんですよ、見えないんです。ですが、いますし、見るんです。日常の風景であった朝陽や夕暮れの街角にあなたがいること、それが浮かんで仕方がないのです。そして金子飛鳥Groupのストリングスが混じり、わたしたちの思惟は日常生活を離れ、「空港」「谷間」「浜辺」へと跳びます。ちょっと旅行に行った空港や谷間、浜辺にもあなたは記憶の中に染みついていて、その光景と不可分のものとなっていて、だからいるし、みえるのです。ですから、どこに行っても行かなくてもあなたはいるのです。この描写だけで、いかに愛が深かったかわかるという、とんでもない仕掛けの詞の世界なのです。イマニュエル・カントの『純粋理性批判』を持ち出すまでもなく、ひとは認識の際にかならず自分のフィルターを通しているわけですから、そのフィルターの仕組み以外のものは認識できないのです。人間という生き物がみんなもつフィルター(というか認識システム)というものがあって、神がいるかどうかはわかりようがない、人間以外の生き物が世界をどのように認識しているかも知りようがない、もっというと世界がフィルターなしだとどのようなものであるのかも知りようがない、等々の、まあ現代でいえば当たり前すぎることをこの本は延々と解説してくれるわけですが、このほかに、個人にこびりついた認識フィルターというものがあるとすれば、そこに「あなた」が「いる」「見る」ようにそのフィルターがチューニングされてしまうということが起こるのかもしれません。あーあるある、わかるーわたしもしばらく息子が独立した後もよくうっかり食事三人分作ってたわ!あと、風呂沸かしたら「お風呂よー」って言っちゃうのよね、二階に誰もいないのに……ってくらい切実に、人はこのフィルターのチューニングによって悲しみを味わいます。わたくしも、かつて住んでいた部屋や、かつてみんなが集まっていたスタジオ、かつて彼女が……やめておきましょう、泣きそうです(笑)。ですが、人はこれから起こるであろう別れの後に、きっとそれに悩まされると知りつつ、自らの認識フィルターを調整しつつ生きるしかないのです……。
人は誰もが、自分だけのフィルターを抱えて日々それをチューニングしながら、ひとり生きていきます。それは玉置さんもそうなのであって、玉置さんのその様子こそが「アリア」なのだろうと、思えるのです。
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野球の世界大会はちょっと楽しみですね。大谷がどんなふうに起用されるのか……この時期に体を作らせるんだから酷だなあとは思わなくもないんですが、せっかくだから快進撃お願いします!と無責任な願いを抱いています。
この曲は……とある海岸に玉置さんが石原さんと通ったレストランがあっただとか、機内で一緒になった石原さんが千歳空港から玉置さんの楽屋に直行したところに居合わせただとか、そういう様子が松井さんの『Friend』に記されているんですが、ふつうに考えればそういう情景なんです。ただ、詞を書いたの松井さんでなくて須藤さんですし、このとき安全地帯もう半分崩壊してたし……と考えると、色々な想像が働いちゃうんですね。病気に近いです、これも玉置さんの歌と須藤さんの詞が強すぎるせいなのでしょう。
『あこがれ』のピアノソロ譜ありましたね。表紙にあこがれのあの字も書いてないやつ。なぜか「貴方と生きたLOVE SONG」とかも入っているやつでしょう。持ってましたよ。というか、いまでも実家のピアノ脇のマガジンラックにさしてあると思います。いいアレンジでしたね。あれ、そんなに手に入りにくいんですか……。ブックオフとかにうっかりポンとありそうな感じするんですが……。また出会えるといいですね。
あいてて良かった?と、昔はCMでやっていて懐かしいです。今日も1日お疲れさまでした。
今日から2023年度1月も後半戦、1回の裏に入りました。プロ野球選手も各自ソロキャンプも終盤戦に入り、レギュラー争いも始まってることと思います。特に今年は野球の世界大会がまた開催され大谷選手も入ってるので夢中になって応援しそうで楽しみです。
話が逸れました。玉置さんあこがれの中のアリアです。トバさんの分析、文力と呼ばせて頂くと、実にいいところを突いてる!と感心しました。
私はこの曲を安全地帯になぞらえて聴いたことが初聴からまる30年たちそうですが一度も無かったので、ああ、やられた、と思いました。
強いて挙げるとすれば、この歌の雰囲気や歌詞から、山崎まさよしさんのワンモアチャンスワンモアタイム、と見ているのにそこにはいない、といった情景が似てると感じてたことくらいです。
あこがれが発売した当時に発売されたあこがれのピアノ譜をしばらくは愛用していたのですが、紛失してしまって、全く今では手に入らないのが凄くかなしいです。忘れようとした、すべてを受け止めて、後ろを振り向かず歩こうと、何度もあれからかなしい幻に出逢い続けてます(笑)
ありがとうございました。