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安全地帯・玉置浩二の音楽を語るブログ、管理人のトバです。安全地帯・玉置浩二の音楽こそが至高!と信じ続けて四十年くらい経ちました。よくそんなに信じられるものだと、自分でも驚きです。
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2021年07月11日

黄昏はまだ遠く


安全地帯VIII 太陽』十曲目、「黄昏はまだ遠く」です。

とうとうこの曲までたどり着きました……短い活動休止期間はあったものの、このアルバムを最後にもう安全地帯はなくなるんじゃないかと思わされた「あの」十年間を控えた『太陽』の、最後の曲です。実際にはこの後シングル「あの頃へ」「ひとりぼっちのエール」がリリースされてますし、アルバムも『アナザー・コレクション』や『ベスト2』のリリースがありましたから、しばらくは安全地帯がなくなったという感覚はなかったんですけど、長い活動休止期間中に、振り返るとあそこが終わりだったんだ……とわたくしが思える地点が、この「黄昏はまだ遠く」なのでした。それほど終わり感が高い曲で、その点ではあの「To me」ですら及ばないんじゃないかと思っております。

その「終わり感」は、おそらく、歌詞に表された様々な感情、たとえば、注ぐあてが見つからないのにまだ燃えたぎる情熱を心身のうちに抱えている感覚、夢や幸福を探し求め迷い続ける感覚、その中で、消えてゆく憧憬、手元には愛だけが残されたからそれをけっして失うまいと思う感覚、こうしたものを、歌う玉置さんだけでなく、メンバー全員が曲にたたきつけたような演奏によって生まれているのだと思います。

ビートルズの「The Long and Winding Road」は、厳密にはビートルズ最後の曲ではありませんが、あの曲に込められた思いがビートルズが終わったことを示していたと信じるわたくし、「黄昏はまだ遠く」は安全地帯の「The Long and Winding Road」だと思っております。なおその後ビートルズは『アビー・ロード』で本当に終わっちゃいますけど、安全地帯は戻ってきましたので、めでたしめでたしです。余談ではありますが、「The Long and Winding Road」にストリングスを付け加えられたとポールが不満だったというのは意外でした。めちゃくちゃ合ってるじゃないですか、ストリングス。『LET IT BE naked』で聴くことのできるストリングスなしバージョンは、わたくしにはどうもしっくりきません。まあ、こういうふうに作りたかったんならポールが不満だったのもわかるんだけどねえ、という感じです。

さて、曲はエレクトリックピアノのソロで、サビのフレーズを奏でるところから始まります。そのまま玉置さんのボーカル、六土さんのベースが入り、そして「ドス!」という田中さんのバスドラから、Bメロにはいるときにスネアが「バシ!」とリバーブたっぷりに響き、ギターのアルペジオで一気に盛り上げ、ストリングスをまじえたサビに入ります。サビはあっさり終わり、二番もだいたい一番と同じ……今度は最初からスネア、途中から薄いストリングスを入れて進みます。二度目のサビはあっさり終わらず二回繰り返し、そのまま間奏に向かいます。

この間奏ですが……わたくしこれ、安全地帯史上最高のギターソロだと思っております。とくに難しいことはしていないのですが、泣けて仕方ありません。「泣きのギターソロ」とはよくいいますけど、これほど泣けるソロは安全地帯史上どころかほかのアーティストまで入れてもお目にかかったことがないかもしれません。ときおりバックに響き渡る「シャリーン……」という武沢トーンも、安全地帯史上最高の悲しい響きです。この二人以外の音は基本的にごくごくシンプルです。「ドッ……ドドッ……ダン!」と響く田中さんのドラム、そのリズムにピッタリと合わせる六土さん、星さんのストリングスもごく薄く、ギターの二人を前に出そうとする意図が感じられます。矢萩さんの、ハーモニクスを入れたまるで嗚咽のようなとぎれとぎれのフレーズが、終盤に向かうにつれ旋律の形を成して最後におそらくディレイによる繰り返しフレーズまで、とてもなめらかとはいえない全体像を構築し整理のつかない感情を見事に表現してゆくのです……これは参ります。どうしてこういうソロを思いつくのでしょうか。もしかしてですが、こういう効果をはじめからねらって何回もアドリブで録り重ねてゆき、後からつなぎ合わせる……いや、それはごく普通の手法といや手法なんですが、安全地帯はフレーズを決定してからパーフェクトになるまでリハをして、ほぼ一発オーケーのレコーディングができるようにしているというわたくしの思い込みがあるものですから、こういう偶然に出来上がったのではないかと思われるソロに出会うと、(わたくしのもつ)安全地帯のイメージが混乱に陥るわけです。そのくらい、このソロはリアルな感情の動きに迫っています。この後玉置さんソロ時代でも矢萩さんはよくソロをお弾きになり、これと似た設計思想だと思われるソロもいくつか思いだされるわけですが、わたくしの思う矢萩さんのソロはどの曲よりも第一にこの「『黄昏はまだ遠く」なのです。逆にいうと、わたくしこのソロをもって矢萩さんのソロのノリというものを同定できるようになった(気がしている)といっても過言ではありません。

そしてソロは終わり、チェロっぽい低音の入るストリングスだけを伴奏にした玉置さんの多声レコーディングによるアカペラから、一気にフル構成のサビを一回だけ繰り返し、曲はアウトロに入っていきます。

このアウトロもハモリのツインギターで泣かせに来ます。間奏と違い、フル構成の伴奏に、歪んだ音でツインギターのハモリです。泣かないわけがありません。レコーディングではソロ担当バッキング担当で分業し、ソロ担当がツインのフレーズを両方レコーディングするという手法があって、そのほうが手間や時間を節約できることが多いのですが、このツインギターは矢萩さん武沢さんがお二人ともお弾きになったのではないかと思います。音で分かるとかそういう玄人っぽい判別をしたわけではなく……ただ、そうなんじゃないかと思ったのです。安全地帯というバンド、矢萩武沢というコンビならば、そういう効率を優先した手法を採るだろうか、効率を優先せざるを得なかった怒涛の『安全地帯V』を乗り越え、一度目の活動休止を経て再開した安全地帯が『夢の都』『太陽』のレコーディングで、そういう手法を採用するとはちょっと思えないのです。これはもう「ちょっと思えない」以上のことではないですし、多くの人にとってはどうでもいいことですので(笑)、わたくし強くそう思います!というだけの記述ですが、書かずにいられないわけなのです。ツインギターのハモリって難しいんですよ、レコーディングでキレイに合わせるのが。でもこの二人ならあっさりできるんじゃないか、と思うんですね。

歌詞に関しては上でもうある程度語っちゃったんですが、すこし書き足しておこうと思います。このとき安全地帯にとっては、バンドが終わるとき、そして「若者」である時期が終わるときが、重なってしまったのです。「黄昏」とは昼間の終りであり一日の終りを強くイメージさせますが、じつは24時まで「一日」はまだ続きます。あくまで、デイタイムの終りにすぎないといえばそうなんですが、それ以降を「晩」と呼びますから、人生でいえば晩年に入る直前ということになります。いや、そりゃまだ遠いでしょう、と思うんですが、これだけの全力疾走でデイタイムを突っ走ってきた安全地帯が終わるのですから、このあと爆睡していつのまにか24時を過ぎていたなんてことになりかねません。現場ではバンドの終りを誰もが感じていたこの時期に、松井さんは「黄昏まではまだまだだよ!」とメンバーに訴えかけたのではないかと思うのです。メンバーたちも、ここでバンドは終わることはわかっていたことでしょう。ですが、同時に「まだまだこれからだ」と気づかされ、自分を奮い立たせることになったのではないかと思います。

そして、若者である時代が終わる寂しさは、なにもメンバーでなくともわかります。これは、わたしたちリスナーに向けて作られた人生の応援歌でもあるのでしょう。わたくし当時の安全地帯リスナーの中ではかなり若輩でしたが、メインリスナー層はやはりメンバーたちとだいたい同時に若者時代の終わりを迎えていたのです。

「憧憬が消える」「信じてたもの」を泣きながら捜す、生きることに痛みを感じるようになる……ああ、こういうとき人は生命保険に入るのでしょう(笑)。生命保険が役に立つときっていうのは、究極死ぬ時ですから自分には役に立たないんです。誰かを残して死ななければならないリスクを受け容れられない立場になったとき、そのリスクを回避できるよう人は自分の命をカタに入れるのです。「めぐり逢うひとのあたたかさ」に感謝し、「愛」が与えてくれる人生の意味を確信しつつも、「終わらない夢」「駈けぬけるあこがれ」のような、もう一つの意味が消えてゆく感覚に苦しめられ、それを追いかけたくなる衝動さえ覚えるのです。ひらたくいえば生命保険は解約して家庭を放棄し、趣味人として生きることを決心する……しまったひらたくいい過ぎた!(笑)もちろん多くの人はそんなことしないんですけども、それでもすこし胸の痛みを覚えながら生きているんだと思うんです……あ、あれ、そんなの、わたくしだけです?しまった、わたくし友人とこういう人生の肝心なことを腹を割って語りながら酒を飲むとかそういう習慣がございませんもので、よくよく考えたら知らないで想像でしゃべっておりました。うーむ、わたくし、もしかしてものすごく寂しい人生を送っているんじゃないかと、我がことながらちょっと心配になってきました(笑)。

とうとうこの曲まで語ってしまいました……。弊ブログを始めたとき、全曲語るという気持ちではもちろんいたのですが、きっとこの曲まで語ったら満足するんだろうなあ、とはうすうす自分でも思っていたのです。もちろんここでブログをやめるということではなく全曲目指して今後も書き続ける所存ではありますが、それくらい、ここの区切りはわたくしにとって大きいものだったのです。十代の少年だったわたしは、この十年間で二十代後半になり、その間に多くの出会いと別れを繰り返し、大人に染まっていったのです。その間、安全地帯の音楽はつねに人生の教科書であり、支えであったのですから……。なお、約十年の時を経てリリースされた『安全地帯IX』の一曲目「スタートライン」を聴くその瞬間まで、この曲がわたくしにとって安全地帯ラストの曲でありましたから、この曲はいまだにわたくしの時をちょっと止めます。安全地帯が終わる瞬間を何度も何度も味わい、そしてしばし呆然とするのです。完全な後遺症です。この曲はいまだにいちアルバムのラスト曲ではないのです。

次は、アルバムリリースの順番でいえば玉置さんソロの『あこがれ』になります。もちろん「あの頃へ」や「ひとりぼっちのエール」のほうがリリースが早いんですけど、それらが収録されたアルバム『安全地帯ベスト2 〜ひとりぼっちのエール〜』は若干後になりますので、アルバムリリース時優先という弊ブログの方針上、後になります。この方針でいうと、「萠黄色のスナップ」とか「置き手紙」とかが「あの頃へ」「ひとりぼっちのエール」と同じ時期になるという怪奇現象が起こるんですけど(笑)、まあ、それも一興でしょう。

それではまた!

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感想(0件)


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この記事へのコメント
てつさん、こんにちは。この曲を思い出してお聴きになっているのですね。そんなときにご訪問いただけてとても光栄です。そういう思い出の曲の図書館や美術館みたいな場を作りたいなと思っております。そのわりに解説が我ながらお下品なのは脇においておくとしても。

玉置さんのご近所さんなんですね。一気にあの時代の旭川にワープしたような気持ちになりました。ロータリー超えて旭橋を渡っていく方向に祖母の家がありましたもので、思い出すのはそっち方面の風景が主ですけども。でも同じあの時代の旭川ですから、雰囲気は似てると思います。とはいえ、お母様にチケットをもらってというのは、安全地帯や玉置さんの音楽が生まれた場所に極めつけに近かったのですね。とてもうらやましいです。

Posted by トバ at 2023年07月23日 07:44
この曲の解釈を確認したくて、このブログにたどり着きました。自分自身なぜこのタイミングでこの曲を思い出し、リピート期間に入っているのか、確認のために検索していました。スッキリしたというか、安堵したというか、兎に角ありがとうございましたという気持ちです。

一曲一曲の解説、読みやすいブログでファンになりました。

旭川の、しかもかなり近所で生まれ育った者で、コンサートチケットを玉置さんのお母様から直接購入させて頂き、玉置さんの唄に心から癒やされ、勇気をもらい、今まで生きてきました。

これからも楽しみに拝見させて頂きます。
Posted by てつ at 2023年07月22日 23:44
〉りささん
おおこのアルバムをお休みの前にいつも!念のためですけど『太陽』でなくて『あこがれ』のほうですよね。わたくしも一時期やっておりましたが、「終わらない夏」あたりで意識を失うので、誰も聴いていない「コール」とか「僕は泣いてる」とかが朗々と部屋に流れてました。

〉せぼねさん
こんにちは、そうおっしゃってくださるとなんだか救われたような気がいたします。たしかにパストマスターズはパストマスターズとして扱いたいですね。ジュリアンのことにふれた時期にヘイ・ジュードのご紹介はだいぶ後になります、とかになると興ざめですが、そこはうまくごまかすとして(笑)。初期のシングルもいくつかかなり後期に触れることになりますね。
Posted by トバ at 2021年07月15日 18:55
怪奇現象、問題ないのではないでしょうか?
もし、ビートルズの曲について語っていたなら、最後にパストマスターズを取り上げて、初期のシングルに触れるんじゃないですか?
安全地帯、玉置浩二さんのアルバムについて、時系列で触れるブログ、でいいじゃないですか。
これからも楽しませて下さい。安全地帯同様に、唯一無二の存在のブログだと思っています。
Posted by せぼね at 2021年07月15日 02:47
おお!ありがとうございます!!
このアルバム自体お気に入りで
寝る前にいつも聴いてます(*^^*)
まさかあの曲まで解説してもらえるなんて!
たのしみです…!!
Posted by at 2021年07月15日 00:08
おかげさまでここまで書けました!いや、昨年お声がけいただけなければ、わたくしあのまま何年か休んだかもしれませんので、ありがたいことです!

次の『あこがれ』、もちろん一曲目からいきますよ!インストゥルメンタルなんのその!またどうぞ叱咤激励ください!
Posted by トバ at 2021年07月14日 22:17
こんにちは!
このアルバムで解散にならなくてよかったです、ブログも続けてくださるということで安心しました…!

怪奇現象(笑)確かにそうですね笑
次のあこがれも、楽しみにしてます!!
1曲目も解説してくれるんですか?(*^^*)
Posted by りさ at 2021年07月13日 09:12
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