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安全地帯五枚目のアルバム、『安全地帯V』の紹介です。
みなさんご存知の通り、このアルバムは曲数36と、とんでもない大型アルバムです。アナログで三枚組(一枚目『Friend』、二枚目『好きさ』、三枚目『Harmony』)、CDで二枚組と、レコードがまだ高かった時代に、中高生泣かせの値段でした。6000円とかでしたね。アナログなら一枚ずつ買うこともできたそうですが、買う人がどれくらいいたんでしょうか。だって、あるならぜんぶ聴きたいじゃないですか……。
「三枚組のアルバムを作ろう!」と玉置さんはおっしゃったそうです(松井さんの『Friend』より)。
「二枚組っていうのはあっても、三枚組を出す人はいないだろうと思って」(志田歩『玉置浩二 幸せになるために生まれてきたんだから』より)
わたくしの手元にあるものですと、ビートルズのホワイトアルバムが二枚組30曲収録で、これが『安全地帯V』に次ぐボリュームです。世の中には三枚組以上のアルバムもあるのかもしれませんが、少なくとも1986年当時にはなかったことでしょう。
さてさて、この『安全地帯V』、三枚組のものとして鑑賞するのが「正しい」という主張をなさる方がいらっしゃいます。カセットやMDにわざわざ三枚組に録音しなおしてお聴きになり、非常に腑に落ちる感触を得られたと聞きます。おお……それは確かにその通りでしょう。なんせ安全地帯は三枚組として出したのですから。CDは録音時間を長くすることができるので(節約のために?ケースが存在しなかったために?)渡りに船とばかりに、あるいはやむを得ず、二枚組にしたのであれば、二枚組として聴くのは安全地帯の意図する聴き方ではないということになります。
しかし、皆さんご存知の通り、一枚目最後の「ほゝえみ」、そして二枚目最後の「To me」、いずれもアルバムの締めくくり感がとても高い名バラードですし、そこに至るまでの曲の組み立てがクライマックス感の高いもので、二枚組として聴き上げる聴き方が本来の聴き方でないようにはとても思われないのです。「ほゝえみ」は、アナログ盤でいえばA面ラストの曲でしかないなんてちょっと信じにくいです。そしてB面が「今夜はYES」で始まると……。まあー、アナログ盤ではひっくり返す作業が必要になるところで、CDを入れ替えるだけなんですが。ちょっと不思議です。これはアナログ盤で聴きこめば当然に体験できることなんですが、針を一度も落とさずにジャケットをために眺めてニヤニヤしているだけでしたので、なかなか想像のつかない感触です。ああ、本気で当時の気分を再現するなら、CD-R六枚に分けて録音すればいいことなんですが(笑)。
では、せっかくですから、三枚組として語ってみたいと思います。
『Friend』
1. 遠くへ:核戦争後の地球、という80年代中盤によくあった世界描写(『北斗の拳』など)なんですが、わざとらしさのない歌・詞のシリアスさが心に沁みます。
2. Miss Miss Kiss:ミディアムテンポの軽快な曲です。「みすみすkiss」という言葉遊びがうれしい安全地帯節です。
3. パーティー:「ふたりで踊ろう」がラジオから流れてくるようなローファイで流れ、続けて歌本編が始まります。バラードと呼ぶべきか悩みますね。ジャンルレスな独特の玉置リズムが前面に出た可愛らしい曲です。
4. ふたりで踊ろう:アップテンポのオシャレなポップスです。これまでのアルバムにはみられない「楽しさ」「ノリ」を前面に出しています。
5. シルエット:これもジャンルレスなバラードライクのささやきソングです。こういう、力一杯歌う感じでない、新しいタイプの表現が魅力です。
6. Friend:シングル曲の、切なさ全開バラードです。玉置さんのプライベートな心情をそのまま表現したとしか思えない、壮大な失恋ソングです。
7. Friend (reprise):ここからB面になります。リプライズ、という言葉どおりの、オルゴールのような音色で前曲の思い出をフラッシュバックさせるインストゥルメンタルです。
8. チギルナイト:「Friend」の物悲しく美しいメロディーが「壊れ」て、カッコいいクリーントーンギターがリズムを刻みます。言葉遊びも絶好調なミディアムテンポのロックナンバーです。
9. こわれるしかない:ズシ、ズシ、ズシーンと重いリズムに載せて玉置さんの悲壮な叫びが効果的に染みる、これもミディアムテンポのロックナンバーです。油断してると前曲とのつなぎ目を聴き逃して「アレ?」となります。
10. 不思議な夜:タイトルが示すかのように、歌詞もアレンジも不思議な曲です。これはすごいですよ。のちに『All I Do』で炸裂する不思議ソングの先駆けと言えるでしょう。
11. 約束:もう、わざととしか思えない歌詞の(笑)、さわやかなミディアムテンポのポップスですね。
12. 想い出につつまれて:一転、スローテンポのバラードです。「シルエット」に似た恍惚系の歌詞が、超高音のボーカルで語られます。
13. 記憶の森:美しいピアノに彩られるバラードです。これだけピアノが前面に出た曲は安全地帯史上例がほとんどありません。
『好きさ』
1. どーだい:アルバムのトップにふさわしい、爽快なギターロックナンバーです。シングル化されていないのにライブを一気に盛り上げるという不思議な曲です。
2. パレードがやってくる:春が待ち遠しくなる曲なんですが、あの春は二度と来ないとわかってしまう寂しい曲でもあります。メロディーの美しさとリズムの軽快さがなんと悲しいことか!
3. 海と少年:サックスがもの悲しげに響くバラードです。個人的には鈴木康博さんの「遥かなる願い」を思い出させるんですが、よく考えたら「海と少年」のほうが発表が先な気がします(笑)。
4. 月の雫:これも「不思議な夜」なみの不思議ソングなんですが、陰鬱な夜の雰囲気の中、サビで一瞬目が覚めるような感覚があります。「隠された孤独」という言葉の鮮烈さにはいまだハッとさせられます。
5. 乱反射:アルバムの中盤でドカッと気分を盛り上げるようなリズムの強い曲です。二枚組でいえば、一枚目のラストに向かって真っ逆さま、という役割を見事に果たす「ガラスのささやき」的な曲でもあります。
6. ほゝえみ:これもわざととしか思えない失恋ソングです。美しすぎるメロディーと歌詞、アレンジが失恋気分をパーフェクトに演出する屈指の名バラードといえるでしょう。
7. 今夜はYES:ホーンセクションによる目の覚めるようなオープニングのキメがカッコいい賑やかな曲です。
8. あのとき…:一転、美しいバラードです。終わった恋を懐かしみつつ、細かいことを悔やむという、いかにも男らしい心情を歌い上げます。
9. まちかど:武沢さんのお兄さんが原曲をお作りになったのでしょうか。どこか原始安全地帯を思わせる美しいバラードです。
10. 好きさ:アニメ『めぞん一刻』に使われた、シングル曲です。切々と、好きさ、好きさと訴える、胸に迫る名曲です。
11. 声にならない:童謡のような可愛らしい曲なのに歌詞は切実という、なんとも切ない曲です。
12. 夕暮れ (Instrumental):武沢さん作曲の、美しい、牧歌的な、ギター曲です。アルバムの最後として考えると、ここまでのB面をしめくくるに似合ったインストゥルメンタルだと思います。「声にならない」の後ろというポジションは渋すぎです。V9巨人でいうと末次の次の黒江です。
『Harmony』
1. 銀色のピストル:長年ライブで演奏され続ける名曲です。女性がこんなこと言われたらキレると思うんですが、玉置さんだと許せちゃうかも(笑)。男の本音に迫る際どい歌です。
2. 涙をとめたまま:スタンダード・ナンバーを思わせるジャズ調のピアノが美しく玉置さんのボーカルをしっとりと聴かせます。夜の酒場で聴きたいですね。「ジャンゴ」とかそういう名前の店で。
3. 今夜ふたりで:「Night, Tonight」とノリのいいサビが、実は曲全体のリフになっていて、忘れられない一曲になっています。ドリフの「ニンニキニキニキ」なみに印象が強いですが、当然ドリフとは違ってかなりロマンチックです。
4. いますぐに恋:ハロー、マイガールと女性の心をやさしく包みますが、いますぐに恋に落ち、そしてすぐに失われそうな刹那の情を楽しむふうの、「ちょっと寄り道」感が、不吉なリズムとギターの音色で表現されています。
5. あのMusicから:かつての音楽仲間たちを偲ぶ曲なのでしょう。安全地帯の歴史と成功、そして失ったものを歌い上げます。
6. Jのブルース:サックスが渋すぎ!玉置さんの切々としたボーカル、巧すぎなブルースギター、安全地帯ってブルースもピカイチですね。
7. 夏の終りのハーモニー:井上陽水さんとのジョイントコンサートのために作られた曲です。シングルとして発売され、ベストにも収められました。
8. 天使のあくび:ガットギターで弾き語りされたかのような、可愛らしい曲です。しかしジャンルが全くわかりません。
9. 燃えつきるまで:一転、不穏なメロディー、リズムのミディアムテンポなロックナンバーです。ここからは一気にアルバム最後まで突っ走ります。
10. 夢になれ:クライマックス感タップリ!なミディアムテンポのロックナンバーです。シングル的でないのは明らかなのに、こんないい曲があるのが安全地帯の底知れなさですね。リズムがクセになります。
11. To me:この大作のラストをしめくくる、圧巻!の大バラードです。「あなたに」と対になったタイトルがいかにもふさわしい名曲ですね。
うーん、こうしてあらためてみると、とてつもないアルバムですね……よくぞこんなアルバムを出せたものです。いくら安全地帯が出したいと思っても、レコード会社がOKを出さないと出せませんが、安全地帯なら売れる!と判断してのことでしょう。当然に売れたわけですが。いかに安全地帯が人気絶頂にあったかがよくわかりますね。
レコード会社の契約は、おそらくですが、何年間に何枚のアルバムを出す、という形になっているものと思われますが、安全地帯はこれで三枚分の契約を履行したということになったのでしょうか。それはなんだかもったいないですので、ぜひ一枚分ということにしていただきたいものです(超絶に遅い期待)。
Amazon.co.jpのカスタマーレビューには、この超弩級アルバムを称えるものが見られるほか、いくらかは捨て曲があるという評価も見られます。うーん、安全地帯に捨て曲ナシ、の路線を貫く当サイトとしては、その評価を覆す使命があります。
松井さんが「それを壊さないと歌詞が作れなくなった」(志田歩『玉置浩二 幸せになるために生まれてきたんだから』より)とおっしゃったように、『安全地帯IV』で完成されたスタイルを期待したリスナーにとっては、期待したものと違う!と感じるところが多かったことでしょう。何しろ、歌詞だけでなく、曲も一度「壊した」と思われるくらいにバラエティ豊かに、しかもジャンルの枠をはるかに超えたものになっているからです。一聴して「いい曲!」と誰もが思えるものは、これまでに聴いたことのある「いい曲」のパターンにどこか近いものになっている可能性があります。安全地帯がこのアルバムにあらん限りの力で詰め込んだ曲たちは、少なくとも日本のロック・ポップス界では前代未聞のものが多く含まれていたでしょうから、少なからぬ数の人にとって「いい曲」パターンにハマらなかったものが含まれていた可能性は大いにあるでしょう。その一方で、「いい曲」と一聴して思えることが多いであろうと思われる曲もまた、数多く含まれていたことも想像に難くありません。そのギャップが、「いい曲」と「捨て曲」の感覚を生み出すのではないでしょうか。
当時まだかなり若かったわたくしは、持っているCDも少なく、ロックやポップスの世界を全然知りませんでした。「いい曲」も「捨て曲」もなく、そういうものとして聴き込み、すべて「いい曲」と感じるに至りました。ですから、「いい曲」のパターンがほとんど自分のなかになかったころに、このアルバムは数多くの「いい曲」パターンを形成してくれたのです。そうした事情で、アーティストたるもの、安全地帯くらいやれて当たり前なのだと思っていました。それは大きな間違いでした。その後90年代に、つまり安全地帯がほとんど休止していた時代の「J-POP」とやらに、心の底から失望したのです。「ベタすぎる」「バタ臭すぎる」わけです。壁にポエム貼った店で頭にタオル巻いたおじさんが偉そうに作っているドロドロヌルヌルのラーメンのような感覚です(笑)。当時ティーンだった人には、こういう感覚を分かってくださる方がいらっしゃるのではないでしょうか。わたくしはヘビメタに心の安らぎを見いだすようになります。言ってみれば、「安全地帯ロス」をヘビメタで癒していたんですね。今わかりました(笑)。
さて次回以降、このアルバムを三つに分けて、いつも通り一曲ずつ語っていきたいと思います。これは頑張らなくては!……とはいえ、何しろ36曲ですから、当サイトの更新ペースでは半年以上はかかると見込まれます。重大な使命ではありますが、のんびり果たしてゆきたいものです。
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弊ブログをお褒めいただき恐縮です。こちらが涙でてきますよ、もう……。どうぞご贔屓に!
このアルバムが初CDでしたか!大当たりですよね、今思えば。このアルバムに匹敵するものは今もって他にない気がします。
私は中学生、高校生の思春期を安全地帯にどっぷり浸かっていました。
人生初めて買ったCDが、このXです。
当時GB(ギターブック)という雑誌があって、アーティスト自らによる曲解説が掲載されていました。
このXについても玉置さん自ら解説していて、その時の記憶がまだ少し残ってますので、適宜好きな曲についてコメントさせてください。
重ね重ね素晴らしいブログです(涙が出ます)。
バブル時代のオーディオもLPも、とんでもない場所食いでしたが、あれほどの愛しさを感じることはもうないと考えると、とても寂しいです。なぜか「ほゝえみ」が聴きたくなってきました(笑)。
ジャケット、歌詞カード、そういや三枚組に合わせて、色が工夫されていましたね。あんなに愛でたのに、忘れていました。どうか私の代わりに思う存分眺めてください!
歌詞カード、「おっ!」どころか「うおーーーっ!!!」でしたよ。シンプルなデザインですが、色が凝ってますね。外側はモノクロと緑系の特色かと思ったのですが、よく見るとモノクロじゃなくてセピア系の特色ですかね。
メンバー皆さんの写真の方はモノクロと明るめのセピアの特色。CDの方の皆さんの写真はバックの色飛ばしてコントラスト付けたのですね。CDと見比べると、構成の変化が面白いです。
大きいのでグラフィックの迫力が凄くて感激です。買って良かった!
しかも、お安く手に入れられて嬉しい♪ 暫くはニタニタと眺めようと思ってます。
ありがとうございました。
カラオケの件、了解です。
LP、驚きの速さでご入手なされたのですね。ジャケットはこれが本来の大きさなのです!邪魔ですけどね(笑)。むかしはレコードラックがあって、そこに差し込んでおいたものですが、今どきそんなのないですしね。カラーボックスを横に倒したらちょうどいいくらいでしょうか。百枚とか入りますから、やっぱり邪魔ですけども。
歌詞カード付きの中古LP、見つけました! ありがとうございました!
カラオケはめったに行かないのですが、友達に頼み込んで付き合って貰うか、このさい大冒険して一人でフラりと入ってみるか…。
行くからには、その動画が有ったらスマホで撮って、ニタニタ眺めたいですからね♪ それならやっぱり一人の方がいいな(笑)。
ふふふ トバさんの影響で変態チックに、いえマニアックになりつつありますねー。
中古もこんな事情なら悪くないかもしれませんね。どう頑張っても新品で安全地帯に印税が入るものはないのですから。何を隠そう、わたくし極貧の頃に60円のハンバーガーで腹を満たし、中古CDを買い込んで心の乾きを癒やしていた時期がございます。いま思うと、もっと栄養のあるものを食べて、新品CDを一枚ずつだけ買っていれば良かったのですが、当時はそうせずにいられなかったのです……。そんなわけで、わたくしに中古CDを買う人をとやかく言う資格などないのでした。
ありがとうございます。その手が有りましたか! 探してみます♪
今まで中古には手を出さなかったのですが、こういう理由なら許して貰えそうです(誰に?笑)
でもって、以前動画サイトで見た玉置さんの撮影風景が、違うかも知れませんが多分このXの歌詞カードの写真の撮影では?と思うのですよ。白のバック紙で髪の長さとスーツに見覚えが有って! 時間が有るときに探しているのですが消されてしまったのかなぁ…その動画を観ていた時は、その価値がまだ分かってなくて(涙)。
かっこいいスーツ着てるのですが、足元はスリッパでした(笑)。
中身がLP盤と同じ三枚組のCDなら即買いするのに〜 うーん、うーん…ちょっと考えます。ありがとうございました!
三枚のジャケット、玉置さんが左向き、正面向き、右向きだったのですが、CDだと左向きがカットされてましたね。わたくし、左向きが欲しくて当時LP三枚組も買ったバカチンですが、さすがにいまさらこの紙ジャケット仕様を買うつもりは……つもりは……うーん(笑)。
紙ジャケット復刻版CDってのは、昔のLP盤と同じデザイン(写真)で、紙のパッケージにCDが入っているのですよね?
でもって、中身のCDは通常盤と同じなんですか?
確かに、上にあるような形で一枚ずつ曲がアサインされてらいたなら、
ああ、ここで一枚の世界の区切りかーって
納得できました。
CDもバラ売りすれば良かったのに…。
このアルバム、聞けば聞くほど、スルメのように
後からじっくり味が出てきて楽しいです。