『安全地帯V Friend』二曲目、「Miss Miss Kiss」です。
世紀末風の「遠くへ」から一転、悪女志願の女性と戯れるスケコマシダンディの歌です。一曲目ですっかりシリアスな気分に浸っていた気分を一気に現実世界に戻すかのような、いささか乱暴な曲順だといえなくもありません。
ただ、前記事で書いたことなんですが、80年代中盤は、核ミサイルの恐怖を抱えつつ、バブル経済の予兆のなか享楽的に過ごす時代でもありました。だからどっちが現実でどっちが夢想というわけでもなく、どちらもリアルな感触を持って聞くことがのできた時代でもあったわけです。
まあ、わたくしその頃はまだ核ミサイルの恐怖に肝を冷やして『北斗の拳』を読んでいるようなお年頃でしたから、悪女と戯れるダンディなんて文化は体験してないわけですが。そんなこと言ったら核ミサイルだって飛んでこなかったですねえ。なんだ、どっちもマンガとか映画とかビデオとかの世界じゃないですか(笑)。
さて、この曲、軽快なリズムでギター、ベース、ドラムがメインフレーズを奏で、ホーンセクションがキメで曲を盛り上げるという80年代後期安全地帯の豪華さを象徴するラインナップで始まります。そしてそして、リズムが印象的ですねえ。『惑星』ツアーで演奏されているバージョンを聴くと、リズムが先、メロディーは後、で作られた曲なのではないか?という思いが強くなります。それくらい、リズムの印象が強いのです。
志田歩さんは、「ロマンティックなメロディとアフリカ的なリズムを滑らかに融合させた」と、このころの安全地帯の曲を評しています。玉置さんもそれにこたえて「もともとはリズムから先に曲を作って、メロディはそれにのせてホニョホニョフニャフニャ歌いながら作っていくほうが性に合っている」とおっしゃっています(『玉置浩二 幸せになるために生まれてきたんだから』より)。「アフリカ的」かどうかは、わたくしの見聞ではわかりかねますが、欧米、日本のロック界・歌謡界ではあまり聴かれないものだということは、言えるかもしれません。
そう、リズムが心地よい、という感覚は、これまでの安全地帯の音楽ではあまりなかったように思われます。「カッコいい!」という感覚は存分に味わっていますが、それは「ロック的」にカッコよかっただけなのかもしれません。
私事ですが、わたくしバンドで作曲を担当しておりましたが、リズムのことでドラマーともめることがありました。ドラマーなんですからリズムに造詣が深いのは当たり前なんですが、わたくしはシンプルで「ロック的」なもの以上のものは求めようとしなかったんです。ドラマー的には、もっと工夫したい、もっと心地よくしたい、それが「カッコいい」んだ、と思っていたわけですから、話が合わないのは当然です。ドラマーはわたくしのコンポで多くの変わったリズムをもつ音楽を鳴らし、わたくしのリズム感覚を鍛えようとしました(笑)。変なリズムに一日中さらされたわたくしはすっかり頭にきて、13分の11拍子とかのわけのわからないリズムを織り交ぜた変態的な曲を作り、デモテープのためにリズムマシンをプログラムするドラマーを悩ませるという報復策に打って出たのです。で、いざリズムトラックを完成させられてしまったら、今度はわたくしがギターが弾けなくて悩むという窮地に陥るわけです。アホですね。それでできた曲がよければいいんですが、そうでもなく。不毛とはまさにこのことです。
だから、リズムのことはある意味過去の心の傷になっているんですね。実際、志田さんの、このくだりを読んだとき、ああー、そうかー、なんだかイヤだなあ、とわたくしは拒絶反応を示したのです。ですが、何十年も聴いて骨や肉になっていた安全地帯の曲が、こんなにリズムにこだわったものであると気づかされ、ハッとしたのも事実です。それまでに気づかなかったくらいにわたくしはボンクラでもあるのですが、メロディとリズムの融合が「滑らか」すぎて自然だったということもいえるでしょう。
さて、曲はイントロのアレンジパターンのまま、Aメロに突入します。Aメロ、といってしまって気づくのですが、この曲、明確なBメロがないままサビに入りますね。言ってみれば「ブリッジ」「ヴァース」の関係になっているんです。「罠のしかけ場所 教えて」から直接サビに行かずにもういちどその前の部分を繰り返し、「罠のしかけ場所 教えて」に相当する箇所のないままサビに行きます。だから「キャンドルみたいなBODY〜教えて」がブリッジで、「浮かれた悪女〜だしぬきなさい」がヴァースということになるのでしょう。こんなパターン、ほかに思い出せるでしょうか? パッとは思いつきませんね。曲の構成マニアでないかぎり、パターン別に曲を分類して記憶しているなんてことはないでしょうから、すぐに思いつくことなんてもともとまれなんだとは思うのですが、それにしても珍しい構成の曲だといえそうです。玉置さんはリズムだけでなく、曲の構成でも新しい試みをした、正確には自分のなかにあるものを、リズムにせよ構成にせよ、型にとらわれず形にし始めた、のかもしれませんね。
さてサビなんですが、八分の通常のドラムに、なにかにぎやかなシンバルっぽい音が「シャシャシャシャ……」と入っていますね。これはハイハットの音じゃないでしょう。いってみればタンバリンを膝でたたいたような音なんですが(「冬花」でも同じようなことを書きましたね)……パーカッションでクレジットされているどなたかが叩かれたのでしょうか。何と効果的な!通常のドラムセットの音にこだわらず、効果的な音を躊躇なく入れた、という感じがします。玉置さんか、ほかのメンバーか、川島さんか、星さんか……どなたかが思いついたことを、すぐに試せるだけのスタジオミュージシャンをそろえて実現できるだけの力量を、この当時の安全地帯は備えていたのです。現代だったらパソコンのDAWソフトで一発なんですが、当時は人力ですからね。豪華なもんです。
間奏では、おそらく武沢さんによる、スパニッシュギターっぽい音色のソロが入ります。そのバックには、おそらく川島さんによる不思議シンセが響きます。このアレンジパターン、『オリジナルサウンドトラック プルシアンブルーの肖像』に似ていますね。ほとんど映画本編に使われなかった曲たちですが、この『安全地帯V』で炸裂することになる素地を作ったという意味で、もっと評価されてもよいアルバムでしょう(いまさら感たっぷり)。
歌詞も「みすみすキス」なんて、「恋の呪文はスキトキメキトキス」みたいで面白いですね。Missという若い女性を思わせる当て字も見事です。松井さんの言葉遊びも、語感の似た言葉を並べてその妙を楽しむという枠をはるかに超え、新しい次元に突入したのではないかと思わせる絶好調さです。そして「うかれた悪女のセンスで 心をだしぬきなさい」なんて、さらっと書くあたりも、なんて魅惑的なんでしょうか。完全に誘っています(笑)。
この曲は、『安全地帯IV』までのストイックな音楽制作の経験による蓄積を、怪作『プルシアンブルーの肖像』(映画のことですよ)を経て開花させ、そしてたどり着いた境地「リズム」「メロディー」「アレンジ」そして「歌詞」の新次元での融合を、二曲目という早い段階で知らしめた曲であるといえるでしょう。
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この曲はリズムでずっと覚えてますよね。これだけ長いアルバムなのに、もう一度頭から聴いたらもう覚えてる。安全地帯の曲、この頃からリズムで脳髄に叩き込むタイプのものがかなり混じっていて、これもヒストリーの中で重要な転換点になりますね。田中さんだとこれ見よがしな感じでなくかなり渋めに叩きますから、これも安全地帯の雰囲気づくりにかなり効いていたと思います。田中さんのライドは……もう会場では聴けないかと思うと……
ボウイの「CLOUDY HEART」懐かしいですね。ヘルプでやったことありますけど、序盤渋いコードだなあと思いながら、普段やらない一弦から六弦までフルにストロークするような弦の使い方でジャイーンとやってました。「マスカレード」の最初のソロは、第一音を低いBフラットにするのがENDLESS LIVEの矢萩さん的でよろしいです(笑)。高見沢さん弾けるなら余裕でしょう。
アルバムはホーンセクションが入っていて、従来とは違うアルバムだというのを膨らませる2曲目の役割?とでもいうのでしょうか?野球で言う2番バッターみたいな。3番4番5番でパーティー〜ふたりで踊ろう〜シルエット。そしてフレンド(いま一瞬、口調が以前ミュージックフェア司会をやっていらした恵俊彰さんになりました(笑))
ラストの矢萩さんの被せるギターも格好いいです!
私は、高校の友人バンドでドラムやっていた時には、リーダーはアルフィー大好きな奴でしたが、高見沢俊彦狂で(笑)しかも練習熱心だけど性格はちょっと変わってた(笑)彼が、あのマスカレードのイントロの長いギターソロを弾いた時に大変感動しました。あとは往年の人気バンドのボウイのクラウディーハート。あれも、ラストのエンディングがドラムがライドシンバルに変わるのですが、その曲をコピーした時も安全地帯で培ったリズムで皆を驚かしました(笑)まあ、当時のアマチュアバンドは腐る程いましたから大したことはありません。
リズム談義に花が咲きましたミスミスキスでした。ありがとうございました。
かんたんにいうと、コード進行がよく似ています。というか調が同じです。とっちもホ長調です。さらに、ご指摘の箇所は、「しょうがなああい」の「なああい」と、「だあんす」とが下降フレーズがよく似たリズムと音程の動きをしていますね。
そんなわけで、この二曲の、この箇所が何か似てると気が付かれたのは、まさに音楽的に正しい気づきだと思いますよ。
自分のことを音楽的にド素人とおっしゃる方の中には、耳とリズム感のすぐれた方がけっこうな割合でいらっしゃいますね。うらやましいと思うくらいですよ!
かにあんかけチャーハンがすごく美味しそう。
フジタも渋くてかっこいいし。
そっか、玉置さんの映像みてると、
どっから音のイメージ、持ってくるのかなあ、
って不思議に思います。
歌詞が先にあるわけでもなさそうだし。
ギターとか弾いてて手が滑ってできちゃうのかな。
すごい才能ですよね。
作曲……うーむ、曲が先で詞があとのほうがやりやすいと思うんですが……こればかりは作る人やその界隈によるとしか言いようがありません。わたくしのように、ボーカルなど適当でよろしい!肝心なのはリフだリフ!とか考えている人と、ロマンチックな歌で人の心を鷲づかみする人とでは事情がかなり違うでしょうし……。プロの人たちなら、ウイキペディアとかで調査しまくればある程度の傾向が見えてくるとは思うんですが、アマチュアまで含めるとどうなるかは、なんともわからないです。
一瞬、はい?となっちゃいました。
この曲は、艶男とFoxy ladyのラブアフェアを歌ってるですが、
従来の安全地帯カラーの曲ですよね。
なんだか、迷走してるのかなあ、なんて
思いました。
さすがの猿飛は思い付きませんでしたが、
そう言われてみれば確かに 笑。
とばさんは作曲もされるんですね。
やっぱり、歌をつくる場合って、
玉置さんが、よくやってるみたいに
曲→詞を載せるって作りが一般的なんですか?