価格:2,511円 |
『安全地帯V Friend』十三曲目、すなわちラストの曲、「記憶の森」です。
この流麗で美しいピアノをアレンジなさったのはトシヤ・タケザワさん、すなわち武沢豊さんのお兄さんの俊也さんだ、とのクレジットがあります。
メジャーデビューなさる前に、ツインギターでキメまくっていた武沢兄弟の兄、そしてこんな美しいピアノフレーズをお作りになる音楽人、武沢俊也さん、いったいどんな人物なんだ!そしてなぜ安全地帯を離れたのか!謎だ!伝説上の人物だ……このまま詳細を知らず伝説のままにしておくほうが神秘性があってよかろう……なんて思うんですが、ご本人はブログを開設されていたりして、勝手に伝説にしてすみませんでしたああああ!という気分になります。
聖飢魔II創始者のダミアン浜田陛下もわたくしにとってそのような人物でしたが、ご本人がビデオメッセージをDVDに載せたり、「サタン・オールスターズ」で共演したり、はてまたTwitterをおやりになったりと、わりと積極的に魔界からお顔をお出しになるものですから(多分にネタ的ですが)、もうそんな「伝説のメンバー」なんて言って楽しもうとすること自体がナンセンスなのかもしれないですね。勝手にわたくしが楽しがってるだけですし。リンゴ・スターの前任者のドラマーのことも、インターネットを駆使して調べればある程度のことが自宅に居ながらにしてわかってしまうことでしょう。意地でも調べませんが(笑)。
さてこの曲、「タタタタ」「(タタタ)(タタタ)」と、一小節の前半が八分音符×4、後半が八分三連×2のパターンでピアノの高音部が奏でられます。たったこれだけのことなんですが、なんと美しいのでしょう!もっと聴いていたいと思うのですが、たったの四小節で玉置さんが歌い始めてしまいます。ええー、ここはもう一回繰り返しで八小節でしょう?とか思うんですが、その歌がまた美しいため、違和感を表明する間もなく引き込まれてしまいます。
そしてそのままたっぷり16小節も聴かせて、曲は展開します。これまでアルペジオ主体だったピアノがコードストローク主体に切り替わります。おおー、ダイナミック!これまでの儚げなピアノが力強い響きへと変わりますので、大きく曲が展開した!感が大きいです。玉置さんの歌も「ゆめ」「まよ」と、二連発で弱起しますので、リズムが大きく変わった!感が強く感じられます。洋楽ですと、aとかtheとかの冠詞やら接頭辞やらがありますから、イチイチ弱起とか言わなくても弱起ばっかりになりがちなのですが、安全地帯の曲は日本語であるにもかかわらずこのように卓越した松井さんの作詞と、天下一品の歌い手である玉置さんの歌唱とが、見事に日本語ロックの壁をあっさり超えます。あっさりすぎて、本人たちは超えているという自覚すらないでしょう。この曲のこの部分は、それがよくわかる(わたくしがそれを思い出させられた、というのに過ぎませんが)箇所になっています。
曲はまたアルペジオ主体の箇所を繰り返します。そして、あのコードストローク主体の箇所もこのまま繰り返すかと思いきや、大音量のストリングスを従えて、曲は別の展開を見せます。これまでEmを中心にしたコード展開だったものが、Gを中心としたものに切り替わります。うおー!大展開!いや、ありがちといえばありがちな構築法なんですが、曲・アレンジのシリアスさと玉置さんの歌が陳腐さなどみじんも感じさせない迫力をかもし出しているので、聴くほうはただただ圧倒されるしかありません。ユベントスとかACミランがふつうにパスを回しているだけなのに蹴散らされ、なすすべもなく次々とゴールを決められてゆく弱小チームのような気分になります(笑)。
静寂な森を思わせる曲、アレンジ、そして歌詞……歌詞が示唆するのはもちろん「記憶の」森ですから、実際の森林を歌った曲ではないのは間違いないのですが、実際の森林に似合う曲であることもまた、間違いありません。もしこの曲がカラオケにあれば、ロケ地はきっと森林になることでしょう。深い霧が立ち込め、一本一本の木がよく見えないように、「記憶の森」のなかでも、かつての記憶がよく思い出せないわけです。ああ、黒沢監督並みに霧を待って、ロケ隊一週間待機、とかしないと撮れませんね(笑)。
これまでの恋物語は、この記憶の森を通過することによって、いわば「新しい世界・物語」へと章を進めるのです。「わかりはじめた」あなたを伴い、前世界のことは「やさしい声だけ」を胸に秘めるにとどめ、いざ新しい世界へ!実際は何もかも記憶に生々しく残っているにしても、それは忘れたことにするのがマナーってもんでしょうし、第一自分にケジメをつけた気分になれません。年をとると「別にそんなに肩ひじ張らなくてもいいんじゃない?過去が消せるわけじゃないし」とか、いささか無粋なことを考えてしまうのですが(笑)。
まだ若々しいふたりが新しい物語を始めるために、きっと思い切って飛び込んだ「記憶の森」で、この怒涛の三部作はその一部を終えます。次回からは『安全地帯V 好きさ』のご紹介にコマを進めたいと思います。
価格:2,511円 |